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03

 まどろんだ意識、全身を覆う気だるさに自身の呻き声が耳をくすぐる。

 だっっっるい。

 このままもう一度まどろみの中に身を委ねんと寝床に顔を擦り付け―――。


 


 頬にへばりつくべちょりとした感触に顔をしかめて顔を背ける。

 薄っすらと開けた視界に先程まで頬が当たっていただろう場所にある湿り気、涎のあとを見ながら頬に残る不快感を拭うように寝床に顔を擦り付ける。

 ああ、だっっるい。

 ぐずるように顔を布地に擦り付けながら瞼を―――。





 のそり、と体を起こす。

 ダルイ。

 重い瞼が上がりきらず開店前のシャッターの如き不良なる視界に部屋の壁が映る。

 窓から差し込む薄い光と何某かのさえずりが、爽やかなそれが俺というフィルターを通すことにより汚染され爽やかならざる気分を演出する現在、多分朝。

 うつ伏せの状態から体を起こした、崩れた腕立て伏せのような姿勢からべしゃり、と寝床に墜落する。

 だるい。

 芋虫のようにケツを浮かせてぐにゃりと体を起こす。

 そこから体を動かすのがだるい。

 現在の体勢はあれだ、どこぞの砂漠で昼は何本、夜は何本、夕は何本、それは・・・一枚足りなあぁぁぁい!とかいう怪談の妖怪、あれ?なんか色々違うってか妖怪じゃなくて神獣だったか?

 とにかくそのアレのポーズよ、アレだよアレアレ、察してプリーズ。

 姿勢はそのままで抜けきらない気だるさを吠えるように大きく欠伸を一つ。

 ふぅおぉん、俺はまるでどこぞの谷に墜落した古代人型兵器のようだ、この倦怠感を薙ぎ払いたいが目覚めるのが早すぎて腐り落ちま―――。


 その後、ぼーっとしている所に母親に朝食ができたと声を掛けられるまで寝床から抜け出せぬまま時間を過ごした。

 二度寝、三度寝、どころではないわ、意志薄弱すぎるだろう。





 そこから普通に両親と朝食を囲み、勤めに出る父親を見送ったあと母親に見送られて家を出る。

 歩いているうちに子供達が寄ってきて気がついたら昨日と同じ場所で同じように過ごす。

 適当に相手しながら時間を過ごし、昼飯を食いに一度解散して飯を食ったら再び集合。

 そしてまた適当に相手して過ごすうちに日が暮れる。

 また明日、と言い合って家に帰り風呂に入って両親と話しながら飯を食い、片づけを手伝ったりしてみたりしたら喜ばれたりしながら過ごし、部屋に戻ってダラダラして寝る。

 そして目が覚めて二度寝、三度寝をしてダラダラしながら起床して、朝飯食って遊びに出て、昼飯食って再び遊んで、暗くなったら帰りましょー。

 お家に帰ったらお風呂に入ってご飯を食べて、あったかい寝床で眠ってまた明日。

 起きて、食って、遊んで、食って、また遊ぶ、家に帰って風呂に入って飯食って、眠りについたらまた明日。

 ダラダラ起きて、一日過ごしてまた明日、また明日、また明日、毎日がエブリデイ。

 さあ、今日も新しい朝が来た。

 今日も元気だ飯が旨い、さて今日は何して遊ぼうか―――。






 って、違えよ。


 なに変な順応しちゃってんのよ馬鹿か。

 いや、順応したっていうか流されてんだろまたしても状況に、っていや流されるのと順応するのの線引きは中々に難しいものが、って違えよそう言う話じゃねえよ。

 何普通に毎日をエンジョイしちゃってんのよ、何が毎日がエブリデイだよ馬鹿なの?

 毎日が日曜日ですか?このままどこか遠くにいっちゃいますか?死ねよ。

 普通に童心に返ってガキ共と遊びまわってしまったわどういう事よ。

 いや普通にあいつら俺の言うこと聞くしなんか色々仕込んで遊びまわってしまったわ!

 主に秘密基地とか作って!秘密基地とか作って!!割と本格的な奴をガチで!!

 だってあいつらってば俺は使えないけど、全然これっぽっちも使えないけど、普通に魔法使えるんだもの、得手不得手あるけど、大した規模じゃないけど、なんか手から火が出たり水でたり土動かしたり木を操ったりなんか金属っぽいもの作ったりできるんだもの!

 以前、三十路前のいい歳こいた連中で集まって、実はあんま乗り気じゃなかったけどガチめにダンボールハウスとか作っちゃった俺だもの。

 あんときゃ板金屋の馬鹿がパテなんぞ持ち込んでダンボールハウスが別の何かになってたが、そして最終的には処分に困って、馬鹿の一人が火をつけて燃やしはじめて、そしたら遠くにサイレンが聞こえだして焦って残骸を川に蹴り落として逃げたが。

 燃えながら川をドンブラコする残骸見て爆笑する火付けの下手人を、そのあと別に作ったダンボールハウスに叩き込んでロケット花火三段打ちを叩き込んで皆でムカ着火ファイヤー延暦寺したが。

 いや、それはいいとして、兎に角、そんなことできるなら作るでしょうよ秘密基地!

 そんなノリで近所の山に行って秘密基地を建造し、ふと以前ガキの頃に遊んだ防空壕の事を思い出してそこを拠点に色々試しながら穴を掘った。

 崩れたりするのが怖いんで少し掘っては土壁をなんか鉱物的な何かに変質させたり、水が流れ込まないように工夫したり、木の根を動かして壁の芯にしてみたりと色々試しながら作っていたらなんか思いのほかご立派な感じになってしまったり。

 そして気がついたらなんか悪乗りが過ぎて凄い事に・・・これは、あれだ、もう秘密基地というかアジト、そうAJITOですよヒャッフゥ!

 みたいな事やってて今更に正気に戻ったわけだ、どうすんのよコレ、というか何やってんのよ俺。

 現状把握は何処に消えたー、いやある意味では実に把握してるけどねコレ。

 現実を受け入れて仕切りなおすんじゃあなかったんですかーやだー、いやある意味では前向きに生きてるっていうのかしらコレ?

 ぐぬぬ、なんかもうこのノリで日々エンジョイしちゃっていいんじゃないか的な気分になってしまうんだがどうしよう。

 いや、日々色々観察しながら現状に対する考察はある程度はしてるんだけどね、うん。

 まあ、子供の視点から見えるものなんてそう多くないからわかんないことの方が多いんだが。

 とりあえず、何故か俺を中心に子供達が集まるようになったり存在感が云々とかの話はもうよくわかんねえから保留、深く考えるのに疲れたというかさっぱり理由がわからん。

 つか、それよりもあれですよ、今俺がこうして生きているこの『世界』の事ですよ。

 いや、世界っつーか国っつーか、現状わかるのは今住んでる『村』の事ぐらいなんですがね。

 現在地、『村』、名前は聞くの忘れたってか皆も村としか言わぬ。

 人口、これなりに多いんじゃねえの?よくわからんってか村って単位が大体人口どのくらいの集落を指す単位なんだろうね、そもそもその村の単位が俺の知るそれと同じだとは思えんし不明。

 文化、文明の水準、良くわからんが普通に湯を張る風呂があるって良く考えたら重要じゃねーかこれ?

 薪風呂とかではなくなんか魔力で動くっぽい湯沸し装置的なものがあるし、他にも魔力で動く家電的なものが普通に散見される。

 で、その動力ってか魔力の供給源はどうやら村中央に『炉』なるものがあってそこから全体へと供給されているとのこと。

 『炉』は『魔石』を動力に魔力を発生させる装置らしく、村全体でそれの購入やら管理運営は行っているらしい。

 直接見てみたかったが、どうやら大人でもそれ専門の技師的な人間以外は立ち入らないようなので断念。

 こっそり見に行こうにも謎の『存在感』とやらがお仕事してくださって目立つらしい俺には隠密行動は不可能である。

 まあ、とにかく、既に電力的なものがあって家電がある時点で魔法とかあるくせになんかファンタジー要素が薄い感じがしてならない。

 魔法がほぼ誰でも使えるんならあんま色々なもん発展しないんじゃね?とか思ったんだが、色んな人に聞いてみた所、大体の答えが「疲れるし、それだったら『道具』使ったほうが楽」という返事だった。

 例えるならあれか、近所のコンビニに歩いていけば10分でつくけど、疲れるし車あるなら車で行くよね、的なノリだった。

 HPとMPが別枠じゃなくて両方一緒くたに体力表示で、魔法使うのに体力使っちゃうみたいな理解でいいんだろうかコレは、使えない俺にはサッパリわからん。

 つか、こっちでも『道具』っていうのね、てっきり魔具、とか魔道具とかでも言うのかと思ったんだがそうでもないらしい。

 いや、正式名称はもしかすると魔なんちゃら~とかいうのかも知らんが、魔法だの魔力だのの使用の有無に関わらず皆一様に道具は『道具』という認識のようで。  

 とにかく、便利なほうを、使い出がいい方を使うということらしい。

 『他動』『自動』『手動』とか言われて首を傾げたが、どうも『魔石』だの『炉』から『ライン』で引っ張ってきた魔力で動かすのが『他動』、自前の魔力で動かすのが『自動』、魔力で動かさずに自分の力で動かすのが『手動』という分類らしい。

 なんかそっから『他動』はともかく『自動』ってのは個々人で使える属性の魔力量に偏りが合って調整がややこしいから云々、出力の画一化された『他動』がメインで云々、とか小難しい話をする人も居たが、相手も深くは理解していないでカタログに書いてある内容を丸暗記して喋っているかのような感じだったのでどうにもよくわからん。

 つか、ガキ相手にそんな小難しい話をするな、そもそもそこまで求めてねえよ。

 とにもかくにも、魔法とかあるくせに妙に文明レベル高めな気がせんでもないファンタジー仕事しろよ、的な世界っぽいなあというのが俺の所感であった。

 そも、この村自体がかなりの田舎らしいとの話なんだが、なんせ『村』だし。

 いやしかし、これ俺の記憶にある『前世』の辺鄙な田舎レベルの水準な気がするんですが都会とやらはどうなってんだろね。

 いや、『前世』で辺鄙な田舎とかに住んだ記憶無いからそこらへん良くわからないんだけどさ。

 まあそんな事より、ファンタジーですよ、大人見てると殆ど魔法使わないし息してないんですけどファンタジー。

 いや、普通に家でアレ取ってー、とかのノリで物が浮いたりする事とかあるけど、気軽にちょっと跳ぶ感覚でふわっと宙に浮いたりする奴がいたりするけど、居るけどね。

 なんかこうアレよ、火よ!ドカーン!!水よ!バシャーン!!土よ!ズシャーン!!砕け!キャシャーン!!的なノリはないのかと。

 最初は自分が使えないこと含めてふざけんなよファンタジーとか思ったが、今は違った意味でふざけんなよファンタジー、夢がないぞ夢が。

 まあ、普通に火と水とか風とかぶっ放す大人が闊歩する社会とか嫌過ぎるが。

 その点でいうと子供はやっぱりフリーダムである。

 普通にテンション上がれば火をぶっ放すし、なんか精々爆竹投げつけたレベルの火力だが、この場合ロケット花火か?

 テンション上がらなくても水とかブッパするし、精々庭先にあるホースから勢い良く水をぶちまけるレベルだが。

 なんか癇癪起こして土とか鉱物的な何かをぶっ飛ばして来るし、まあ土とか石とかむやみやたらに投げつけるガキとかいるよね。

 なんか特に理由もなく風を起こして色々巻き上げたり飛ばしたりするし、主に巻き上がるのはスカートなのはご愛嬌なのか、とりあえず綺麗なオネーチャンを狙えよお前ら、ガキのはわざわざ捲らずともパンモロじゃねえか基本。



 あ、あれ?なんかひょっとしてファンタジー大した事無い・・・?





  

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