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本日も日も昇らぬ時間から、王都を駆ける一陣の風―――。
『五星新聞』配達員、アンディークンダヨー。
今日も気力を籠めてペダルを踏む足に力を入れて前進だァァッ!
よし、この区画は終了、次だ転進。
ヒュゥ、流れるような変幻自在のコーナリングゥ、目的地に着いたら舞う様なポスティングゥ、そして唸れ車輪、振り返らずに全速前進DA!
ヒャア、跳べ、叫べ、問答無用で次へ走れ!
Oh、空を見ろボーイ仄かに明るくなってきたぜ時間がないぜ。
最短ルートは見えているか、気力は揺ぎ無いか、労働意欲は胸に燃えているかァ!?
よろしい、ならば俯かずためらわずに顔を上げて、前進だァァァッ!気合だァァァッ!
ふう、最近テンションが頻繁におかしくなるな、タイムアタック的な楽しみを見出すのは良いが無理矢理テンション上げすぎだろ。
まあコレも配達範囲を調子に乗って広げまくった俺が悪いんだが。
最後の方なんてヘイあの太陽が王都をシャインで照らしきる前に終わらせるネー、ダッシュ、ダッシュ、アンディダッシュよ!とかアホか。
加速しすぎてチェーンが外れてアンディクラッシュしてしまったわ。
自転車から投げ出され、朝日をバックに宙を舞う俺、某パンサーのポーズをとってのダイナミック着地かましたりなんかして。
そんで差し込んできた日差しに、うぉっまぶしとか言いつつ逆行は勝利!とかほざいてみたり。
配達は終わってたから昇ってきた太陽に向かって今日も私の勝ちだ!三年間無傷の勝利!とか言って中指なんぞ立ててみたりしたところで我に返った。
何処のトリ頭だ俺は。
さて、色々あって新聞配達を始めて早くも三年程の月日が経ったわけですが、いやあ月日が流れるのは早いですね。
で、三年ほど経っても相変わらずワタクシは学園に行っておりませぬ。
先日に11歳になり、小学部五年生になったわけです。
不登校のままに、不登校のままに!
いやあ、この三年ほどの間に色々ありましたわー。
自転車の使用で格段に配達ペースが上がって、調子に乗ってどんどん範囲を広げていったら馬鹿みたいに広範囲になったりとか。
そのお陰でお給金が普通に家賃支払っても生活できるレベル、まあアンドレイおじさんの別邸住まいで必要ないが、になったりとか。
自転車での王都散策で相変わらずお捻りが飛んできてたり、と言うか散策範囲の増加にも伴い日に日に増えて結局配達範囲を増やした俺の給金よりも多いと言うオチが。
王都東部の平日昼間の風物詩的な、なんか名物的なものになってしまったらしい。
走っているアイツの自転車の籠に、お捻りを投げ入れることに成功するとその日一日良い事があるよ的な。
そんなこんなでイース先生に無理矢理そのお捻りの一部を、額が増えるごとに割合を増やしてたら既に八割ぐらいになってるんだが、それを押し付けたり。
減ることなく、それどころかいつの間にか更に増えた不登校児、現在23名となったその子らが現在も別邸に一緒に住んでいたり。
その別邸がいつの間にか周りに土地を買い足して増築されてデカく、敷地もかなり広くなってしまっていたり。
アンドレイおじさん何やってんのと思ったら、呆れ顔で増築の許可は出したが資金の大半は君が先生に渡したお金だよとか言われて顔が引き攣ったり。
なんか子供達が自分もバイトしたいとか言い出して俺に新聞配達を紹介しろって言ってきたり。
でも俺の配ってるコレは明らかに反体制的なイデオロギーの臭いが漂うちょっとアレな代物なんで、どうにかはぐらかしておじさんと先生にそこら辺の世話をブン投げたり。
俺が楽しそうに二輪自転車を乗り回してるから、乗ってみたいという何人かに乗り方を仕込んだが未だ物になってなかったり。
もう少し、もう少しで身体強化以外の魔法を未使用でも乗り回せそうな感じ『らしい』が。
いや、らしいって何だという話だが俺は魔法発動見えないんで、以前も言ったがわかり易く火とか水とか出ないと見えないんで、ガスは目視できないけど火がつけば見えるよ的な感じで。
なんか最早私塾みたいになってるよなあ、と現状を見てぼやく先生の背中が煤けて見えたり。
そういやサボってたがいい加減俺も勉強させられそうでちとダルイなとか思い始めていたり。
歴史とか地理とかの勉強らしいが、なんか今更いいんじゃないかと思ったり、でも歴史とか『前世』でも好きだったし興味があるようなそうでもないような。
なんか前は楽しみにしてたような気がするんだが、日々の暮らしの中ですっかり彼方へとすっ飛んでいきましたよ。
正直な話、歴史は好きだったが年表は全く覚えられない駄目な奴だったんで、勉強としての歴史は得意じゃないんだよねえ。
なんか自分で本でも読んである程度知識入れようかと思ったら、何故か歴史関係総じて対象年齢の制限が掛かってるし。
なんか12歳以下の子供には売れないだの、図書館でも閲覧禁止だの、歴史の授業がそのぐらいの年齢から始まるのと何か関係あんのかねえ。
地理?ああ地理ねえ、『前世』から地理という教科が嫌いなんだよねえ。
地理が出てきてから社会科の成績が下がってトラウマががが。
そういや、うちの別邸住まいの不登校のくせに社会科見学とか遠足の行事だけ参加しに行く奴が何人かいたなあ。
寮の居場所云々とか学校内の人間関係がどうたらとか言うのと全く関係なく不登校の奴ってのも居るのねえ、とか思ったり。
いや、普通に学校行かずに家業手伝いやら丁稚奉公な奴やらほんとに何もしてない奴も居るんだからいてもおかしくないか。
そりゃそうと久々の勉強かあ、なんか数年間勉学から遠ざかってると本気でかったるいな、寝ないように気をつけねば。
そんな事を思っていた時期が私にもありました。
現在、俺はイース先生による歴史の授業を聞きながら軽く戦慄しております。
授業を受け始めて数ヶ月経ったのだが、異世界の世界史パネエ、と。
なんか子供向けにやさしめに簡潔に語ってるが、それだけになんかめっちゃ乱高下が激しいと言うか、なんと言うか。
唐突なアクセル全開と急ブレーキ多用というか、トライアンドエラーならぬトライアンドクラッシュというか、チキンレースでそのまま転落しては這い上がってる的なと言うか。
しかも、なんかその節目節目にふと散見されるどっかで聞いたことのありすぎる格言だの思想だのが俺に冷や汗をかかせるんですが。
眠くはならないが、なんか頭痛くなる話が多いぞこの授業。
『前世』の歴史もこんな感じだったか?えっと大陸って俺の『前世』でお隣のそれじゃねえよな?とか米神を押さえながら授業を受けることになる俺だった。
まず歴史の授業は最初に、唐突に大陸全土を支配していた古代王朝の話から始まる。
それ以前の記録はほぼ無いらしい、というかこの古代王朝自体の記録も大分散逸しているらしい。
なんだろうね、謎の崩壊を遂げた幻の古代文明的な奴なのか、と思っていたんだが。
別に謎の崩壊でもなんでもなかった。
なんでも、その古代王朝は王侯貴族が絶対的な権力で大陸全土を治めるガッチガチの階級社会だったらしい。
圧倒的大多数の奴隷階級とそれを使役する王侯貴族による単純明快な、子供向けの説明だからそう聞えるだけかも知らんが、とにかく間に何か別階級が多数あって緩やかに段階的に差が付くのではなく極端なほぼ二極によって構成された社会だったらしい。
一体そこに至るまでに何があったのかは知らんがとにかくそうなっていた王朝であったが、いきなり崩壊したらしい。
突然の奴隷階級の一斉蜂起による反乱、というか大反乱で、一発で。
なんでも、それまで完璧に統治されていたらしい、かなり理不尽で残酷な所もあったがそれを含めて完全に統治され家畜のように生きていた奴隷階級がいきなり反乱を起こしたらしい。
始まりがどこかすら記録が残っていないらしいそれは、突然発生して一気に全土へと燃え広がったらしい。
んで、驚くほど短期間であっさりと王朝を転覆させて、それに伴い支配階級だった王侯貴族を勢いに任せて根絶やしにしたらしい、冗談抜きで一人も残さず。
で、驚くほどの短い期間で、びっくりするほどあっさりその巨大王朝を転覆させた圧倒的多数の奴隷階級の者達。
めでたく支配階級を根絶やしにして自由を手に入れた彼らは、その後めでたく幸せに自滅したらしい。
いきなり意味がわからんと思ったんだが、なんでも突然『自由』だの『平等』だのを叫んで蜂起した彼らだったらしいのだが、その混乱で破壊されつくし散逸した中で残った文献によると当人達はその言葉が今までより楽になる程度の認識で、後の世の人間が知っているそれらの言葉と意味が通じない、というよりどう言った経緯で『そんな言葉を知ったのか、作り出したのか』疑問符が付くレベルでその『自由』と『平等』という言葉に統一的な見解がなかったらしい。
共通するのはただ今より楽になれる、今しているつらい仕事をしなくても良くなる、怖い奴らを倒せば楽になる、飯が腹いっぱい食える、的なものだったらしい。
というか、まともに文献として残ってない以前に、文献を記すだけの知識がある人間がその階級の連中に殆ど存在してなかったようだ。
多分最初に反乱起こした奴らは理解してたんだろうけど、驚くほどの勢いで全土に広がった反乱に比べて、思想の啓蒙が全く追いつかないままにサックリ王朝を滅ぼしてしまい、支配階級兼知識階級の奴らを漏れなくブチ殺してしまったが為にどうしようもなくなったものと思われる。
いや、馬鹿なんじゃねえのコレ、いや実際馬鹿しかいなかったとした思えないアレっぷりだが。
つか、これ俺の意訳であって先生の話だと、昔の王様達は怖い人で~とか、みんなに酷いことを~とか、そこで王様達を倒しましたがそのあとどうすればいいかわからなくなった、とかだよ。
王様達を倒したけれど皆は何もわかりません、字も読めない、書けない、食べ物を作る人、道具を作る人はいますがそれを何処に運べばいいのかわかりません、道具を作る人は食べ物の作り方がわかりません、食べ物を作る人は道具の作り方がわかりません、とかこれヤバイだろ。
それにびょうどうはじゆうは今までしていた辛い事をしなくていいんだから食べ物も道具も作りたくありません、とか頭が痛いぞコレ。
まあ、ここら辺は先生の想像による補足みたいなもんだとは思うんだが。
実際どういう経緯だったのか未だによくわかってないらしいし。
ただ、自分らで統治機構をぶち壊して末法の世に突入したのは間違いないだろうとの事。
苦痛と共に道具や食い物、役割を与えていた統治者をぶち殺して機能不全に陥った後に、与えられなければ奪うことになったらしい。
家畜に飼い主に噛み付くことを覚えさせて食い殺させたが、そのあとの糧を得る方法を知らないから野生化すら出来ずに共食いが始まったみたいな認識でいいんだろうか。
大体、いきなり唐突に自由だの平等だのといった言葉が出てきたんだが、古代文明のオーパーツじゃなくてこの言葉がオーパーツみたいなもんだろコレ。
これ最初に反乱起こした奴らはどんなミッシングリンクを経てその思想に目覚め、挙句蜂起したんだか。
せめて中途半端に成功するなりしてれば、むしろ失敗した方がよかったんだろうなコレ。
いきなり初手で盤面引っくり返って当人達もさぞや驚いたことだろうよ、そいつらの記録すら残ってないらしいが。
いや、案外失われた文献とやらには以前にそういう思想だの反乱だのがあったのかもしらんが。
まあとにかくあっさりと大崩壊した王朝、文献も殆ど混乱で失われて、それ以前の記録とか含めてサッパリらしい。
つか、これ文明のリセットだろどう考えても。
ちなみに、この大反乱は最初の切欠や中核を成したのが『火』属性に強い適正を持った奴らだったらしい事から『燎原の火』って呼ばれてるらしい、なんだそのどこかで聞いた事のある言葉は。
して、次がいきなり狩猟文化だのの話になったぞ、順番おかしくないか?
いや、別におかしくは無いのか・・・?
『前世』でもオーパーツがどうたらとか現代科学で計れないやつはあるわけだし、そう言った意味でも失われた古代文明ってやつか。
そっからは魔法がある分だけ色々と違ったところもあったが、わりかし俺としても違和感無い感じの経緯で文明の発達とかが語られていった。
つか、魔法の歴史も王朝の大崩壊のせいでどういった発展だったか始まりが抜け落ちてるが。
狩猟文化の時点で既に普通に魔法使ってるみたいだし。
まあ、とにかくそっからはわりとああなるほどね、と言えなくもない流れで暫くは歴史の授業が続いていったわけだ。
途中までは。




