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 さて、何時までも牛の話が始まらないんですがナニコレ。

 え、ここからですかそうですか、どうせまた例の何代か前の村長の話なんでしょ。

 この人だけでどんだけエピソードあんのよ。

 ああ、はい、次ようやく牛の話になるわけね、どうせまたアレな話なんでしょうけど聞きますとも。

 

 えー、馬を失ってから何年経ったか、村長も村人達もすっかりその事を忘れ『馬車馬=村長』みたいな認識になってしまっていた。

 そんなある日、恒例の行商を終えて村に戻っていた村長は食事をしながらふと思った。

 そういえば、いつの間にか毎食自分の食事に入っている、というか自分の食事にしか入っていないこの肉は何の肉じゃろうか、と。

 この妙に歯ごたえのある肉、何時の日からか行商の行き帰りで消費する食料の大半が恐らくコレを加工した物になっていたが。

 なにやら年々歯応えが増して、気がついたら顎が随分と丈夫になったような気がする。

 先日、町で食べた牛のステーキがまるで砂糖菓子のように感じて、旨かったが物足りなさを感じてしまった。

 いつの間にかこの噛んでも噛んでも噛み切れぬ、まるで靴底のようなこの肉の食感に慣らされてしまっている。

 いくら噛んでも残り、口の中で何時までも溶けないこの肉!

 町への行きに口に入れてくちゃくちゃと噛み続け、帰りにも同じくもそもそくちゃくちゃと長年食い続けたこの肉。

 はて、この肉って一体何の肉じゃろか?

 実に今更ながらそんな事を思った村長はカミさんに尋ねた。

 するとカミさんは、呆れたように言った。

 『牛』の肉でしょうと、今更何を言っているのかと。

 それを聞いた村長は驚いた。

 えっ、これわしの知る牛のそれと違うんじゃけど、と。

 翌日、村長は自分が食していたという『牛』が居ると教えられた場所へと赴いた。

 村では各所で牛を飼っていて、基本外延部が多かったが、その『牛』とやらが居るのは村の中心部、『炉』の周辺であった。

 そう言えば町との行商ばかりで長いこと『炉』やそれに関連する諸々を技師一家に任せきりにして、ここにも随分と足を運んでいなかったと考えながら歩みを進める。

 

 ヴゥゥヴォモォォォォッォオン


 『炉』の駆動音だろうか、腹に響く重低音が響いてきた。

 

 ヴゥモォ゛ォォォォォォォン


 はて、駆動音が近づいて来ている様な、というより既に視界に映る『炉』のある方とは少し違うところから聞こえてくるな、と思って音のした方を見た村長は固まった。


 ヴモ゛ォォォォォォォォォォォオン


 なんかそこには黒くて、ゴツくて、四足歩行の何かが居た。

 なんじゃあれ、と暫く固まったままそれを見ていた村長に後ろから声が掛けられた。

 錆付いたかのような動きで振り返ると、そこには『炉』の技師、三人の男のうちの一人が立っていた。

 久々に見るその男は村長の知るそれより随分と老けた姿だった。

 相手も自分に対してそう思ったのだろう、お互いに老けたな、お前さんこそ、と言い合って笑った。

 して、ここに足を運ぶなんて珍しいが、と言って先程まで村長が見ていた方に目をやると技師は納得したように言った。

 ああ、『牛』を見に来たのか、と。

 村長は再び固まった。

 そして、ゆっくりと先程まで視線を向けていた方角へと顔を動かす。


 ヴモォォォォォォ゛ォォォォォォッォォォゥ


 ゴツくて黒いナニカが見えた。

 再び技師に振り返り口を開く、牛?と。

 技師は言う、他に何に見えるんだ、と。

 再び顔を戻す。


 ヴォゥ、ヴオ゛ォォォン


 やはり村長の知らない生き物しか居なかった。

 震える声で呟く。

 なんか、わしの知る牛と違うんじゃけど、と。

 技師は何言ってんだ、と呆れ顔になり、続て言った。

 いつもお前さんが食ってる奴だろう、と。

 再び固まる村長、震える声でそうじゃったっけか?と呟く。

 技師の男、何言ってんだまだボケるような歳でもねえだろ、と笑う。

 村長、つられて笑い出す。

 い、いやあ参ったのう、ははは、全くしっかりしてくれよ、はははは、と互いに笑い合う。

 暫く男二人の笑いが辺りにこだまするが、村長の笑いが徐々に震えを帯、それに伴って体も小刻みに震えだす。

 そして、突然身を翻した村長は技師に別れも告げずに村の外延部へと駆け出した。

 唖然とする技師をその場に残して村長は駆けた。

 村の外延部、他の者が飼っているであろう牛が居る場所へ。

 

 辿り着いたそこには、牛が居た。

 村長も良く知る牛だった。

 少なからずあんな町で伝え聞いた迷宮だのダンジョンだの魔境だので遭遇するとか言うモンスターやら魔獣やらと見まごう奴は居なかった。

 村長はそれを見ると無言で次へと向かった。

 次の場所も牛が居た。

 次の次の場所も村長の知る牛、その次の次の次も、次の次の次の次も―――。

 そして村長は『炉』のある村の中心部へと、技師の男と話した場所まで戻ってきた。

 

 ヴゥモォ゛ォォォォォォォン


 技師の男は既におらず、そこには黒い、ゴツい、デカイ、それが変わらずに居た。

 それを前に項垂れる村長は震える声で呟く。


 「誰じゃ―――」


 項垂れていた顔を跳ね上げ叫ぶ。


 「―――この『牛』を造ったのは誰じゃーーーーー!!」

 

 最早育てたとかいう表現ですらない、造った、創った、そうとしか形容できぬ異形に村長は絶叫した。


 後日、村長の必死の調べで事の経緯が明らかに。

 まず事の発端は『炉』のインフラ整備がある程度済み、村の皆がその利便性に慣れたある時分の事。

 どうも最近、一部の牛の肉が固くなったような、味もなんだか他と比べるとちょっと変な気が。

 そんな声が各所から聞こえだし、毎度の事ながら村長が不在だったので他の皆で原因を調査することに。

 すると、どうも問題のある牛は『炉』の周辺で放し飼いにしているものであることが判明。

 『炉』が出来てから、騒音を理由に周辺にある家は他所へと移動したために開いた土地に何もないし勿体無いとの事で放っていたのだが、それが良くなかったらしい。

 具体的に何が悪いかは不明だが、村の外縁で飼っている牛はなんの問題もないし場所が問題なのだろうと結論付けた。

 で、そこでの飼育を辞めるかと言う話になったが、そうするとその牛をどうしたものかという話になる。

 他の牛と混ぜて育ててそこから産まれた仔が似たような肉質になっては困る。

 かといって食べもしないのに意味もなく殺すのも忍びない。

 外に放つのも野生化して周りの環境に変な影響が出るのではとも思うし、そうでなくても野垂れ死にされてもなんだか後味が悪い。

 ならば積極的に交配させずに緩やかに減らしていけばいいかとも思ったが、ある程度間引かないと減らないやも知れぬ。

 当時はまだ去勢するという選択肢はなかったのか、あったが考えもしなかったのかは不明だがそういう結論に纏まりかけた。

 まあ、味には目をつぶって少しずつ皆で食していくか、と考えていると村長のカミさんがぽつりと呟く。


 家の宿六に喰わせるかねえ、と。


 皆が思った。


 それだ、と。


 そこから行商に出る村長の食料に様々に加工した『牛』の肉を入れるようになった。

 特に文句も言わなかったので徐々に量を増やし、遂には殆どがそれになった。

 『牛』の数は村長が食す分のみ間引いていたので特段減らず、かといって増える事もなく時が過ぎていった。

 そして暫くの年数が経ち、年々その『牛』の肉が益々固さを増して捌きにくくなっていったが、村長は別段文句も言わずにその肉を積み込み、相も変わらず町へと行き来していた。

 更に年数が経ち、『牛』は元気な状態では穏便に屠殺が敵わない固さになっていた。

 若い個体では電撃を喰らわせても、頭を強打しても中々に気絶せず、よって年老いたり弱ったものを優先的に間引くようになった。

 そんなこんなで更に年数が経ち、もう何処からどう見ても他の牛とは別物になった『牛』になっていた。

 長年に渡ってその『牛』を見ていた村人達は、他と比べて違うものの、年数かけて変化を見て来たせいかその劇的な変化にイマイチこうピンと来ずに、既にそれはそれでそういう牛、という認識になっていた。

 そうして更に幾ばくかの年月が過ぎたある日、行商から戻ってきた村長が例の『牛』の肉と思しきものを旨そうに食べているのを見た村人の一人が呟いた。

 あれって旨いんだろうか、と。

 既に村長専用食肉と化してから、誰もが久しくあの『牛』を食べていない。

 ひょっとしたらいつの間にか美味しくなってるんじゃあなかろうか。

 そんな事を思うも、流石に一人でアレを喰うのはなんか怖い。

 そう思ったが、気になったその村人は他のものにも声を掛けてみることにした。

 結果、かなりの人数が集まっての試食会と相成った。

 ちなみに、村長のカミさんからは止めておけと言われたが好奇心には勝てなかった。

 そして始まった試食会、参加者はその肉を口に入れた後、口を揃えてこう言った。


 この牛は出来損ないだ、食べられないよ、と。

  

 そんなもん長年食わされてたのかと愕然とする村長だったが、でも言うほど不味いかコレ、と首を傾げた。

 そんな呟きに村長が聞き取りを行っていた村人達が一斉に目を逸らした。

 文句を一切言わないから普通に食わせていたが、実際に自分達で味を知った後に当人がこんな事を言ってるのを見ると、流石に悪いことをしたと思わないでもない。

 だが、あの靴底のようなとても噛み切れない固さのアレを普通に食うとは、と呆れるやら、流石村長と思うやら、複雑だった。

 調べているうちに興奮も収まったのか、あれはあれで愛嬌があるような気も、まあわしだけが楽しめる味ということで、とか呟くのを聞いて一同なんともいえない半笑いになった。

 まあ、むしろ長年見てきたのであの『牛』の容貌には別になんの違和感も持っていなかった村人達としては、村長がそれで納得するならそれでいいかということに。

 というより、どうせ村長だからこうなるだろうと見越していた、というのもあるだろうが。

 実に嫌な信頼感であった。

 で、自身の口に入るようになった経緯はわかったのだが、結局何が原因であんな変容を遂げたのかがイマイチはっきりしないことに村長は調査を継続することにした。

 一石一朝でわかるとも思えないがとりあえず誰もが『炉』の近辺に放し飼いにしている、程度の認識しかないので生態の調査から始めようと考えた。

 翌朝、早速牛の様子を見るべく村の中心部へと向かった村長。

 本当は近場、『炉』のある建物が住居になっている技師一家の所に泊まり込んでずっと観察するかとも考えた。

 しかし、村唯一のというかこれから前にも先にもきっと現れないであろう、多夫多妻一家などという特殊な家庭環境の家に泊まるのはちょっと、というかかなり気が引けた。

 自分のカミさん一人にすら頭が上がらぬのに、他人のカミさん10名と一つ屋根の下など、想像しただけで震える。

 もし自分の家に、自分が三人に増えて、カミさんが10名になったと想―――いや、やめよう。

 頭を振りながら村の中心部『炉』の建屋が見える所までやってくる。

 先日久々に近くまで来たが、遠くから見ても年々大きくなっていくのがわかったが、こうして近づくと本当に随分と巨大になったものだ。

 先日は『牛』の変容に驚愕して、こちらの事なぞすっかり忘れていたが、『牛』の変容と同じぐらいこの建屋も変容が著しい。

 そんな事を思いながら『牛』の姿を探して建屋の外周を回っていると、腹に響く重低音が耳に入る。

 音というか鳴き声だが、その方角へ足を向けると『牛』の群れの姿が。

 先日は数頭しか見なかったがそれでも威圧感があったのに、群れると更になんというか圧巻であった。

 ちょっと近づくのに躊躇しながらも、恐る恐る様子を見ながら距離をつめる。

 『牛』達は何かを囲んでこちらに背、というか尻を向けている。

 囲んでいる場所にはこんもりと何かが山になっている。

 何かを確認しようにも、ちょっと近づくのが躊躇われる。

 遠巻きに観察していると、どうもその山になっている何かを啄ばんでいるようで、あれは餌かなにかだろうかと予想をつける。

 しかし、放牧しているとの話で餌を与えているという話も聞かなかったので、適当にそこら辺に生えている草を食べていると思ったのだが違うのか。

 そう考えながらそれを眺めていた。

 暫くすると牛達は去って行ったのでその小山に歩み寄ったのだが、どう見ても飼料には見えなかった。

 というより、これは『炉』の魔石燃料の使用後に残る、いわゆる燃え滓では?

 何故そんなものを啄ばんでるんだと考えていると、荷車を曳いた若者、確か技師のところの確か七番目ぐらいの倅だった様な、がやって来た。

 そして、村長の目の前の山に向かって荷車の中身を捨てて去っていった。

 挨拶も無かったが、どうやら随分と眠そうな顔をしていたので早番もしくは夜番明けだろうか、まだ日も昇りきらない時間であるし。

 そんな事を思いながら、捨てていった中身を確認すると、やはり燃料の燃え滓と思しき物だった。

 牛ってそんなもん喰う生き物だったか?と思いながら村長は『牛』達が去っていったほうへ向かうことにした。

 向かった先では『牛』達が普通にそこら辺に生えている草を啄ばんでいた。

 コレが普通だよなと、やはり先程のは自分の見間違いか何かだったのかと思いながらその様子を眺める。

 そこからは普通に村長が知る牛の過ごし方だった。

 まあ、動作は同じでも力強さが段違いではあったが。

 暫く眺めているうちについウトウトとしてしまい、気がついたら『牛』達は何処かに行っていた。

 日は真上に昇っていたので昼時かと考え、昼食を取ろうとその場を移動した。

 途中、先程燃え滓を捨てていた場所を通ると、またそこに『牛』が群がっていた。

 勇気を出して今度は先程より近づいて覗き込んだところ、やっぱりもしゃもしゃとそれを啄ばむ、というより貪っていた。

 暫く見ていると食べ終わったのか『牛』達は去っていった。

 山を見ると、朝方に追加されて増えた分がその前に見たぐらいの量に戻っているように思えた。

 その後、昼食を摂って戻った村長は日が暮れれて眠りに付くまで観察を続けた。

 その後も午前中と同じく『牛』達は草を啄ばみながら移動し、時々こちらに寄ってきたりもした。

 普通に過ごしていると思っていたが、よく考えると全く寝ていない気がする。

 普通の牛はもっとそこら中に寝転がるものだと思ったのだが、ずっと動いている。

 そして日が暮れる前に再び燃え滓の山に集い、また追加で捨てていったのだろう増えているそれを貪った。

 そして日が暮れても暫く動き続け、何故か立ったまま動かなくなった。

 恐る恐る近づくと立ったまま寝ていた。

 その日はそのまま帰宅し、翌日から何日か観察を続けたが特に変化無く毎日が過ぎた。

 後日、村の皆に聞いてみたが、普通の牛とはやはり大分違った生態だった。

 特に、魔石燃料の残り滓など絶対に食わそうなどと思わないし、そもそもそれが存在するのは『炉』の周辺だけで、それも一箇所に纏めて定期的に村の外の決まった場所へと捨てに行くのだから他の牛が口にしようがない。

 技師一家に尋ねると、あの山がある場所に同じ時間に集積してから月に一度捨てに行くらしい。

 年々燃え滓の量は少しずつだが増えてるのに、捨てる量が最初期とあまり変化していない事に今更ながら気がついたとの事だった。

 どう考えても変容の原因はこれだった。

 一石一朝では解決すまいと思っていたら、なんか驚くほどあっさり原因が発覚した。

 発覚はしたが、村長はそれ以上調べることは無かった。

 数日間の退屈な観察作業ですっかり飽きてしまっていた。

 最初の驚愕もなんだかその間に覚めて、それに伴いまあ驚いたけどそう言うこともあるのか、で済ませた。

 というより、これ以上この問題に時間を割いたら仕事をサボったと見なされカミさんに裂かれるのではないかという恐怖に震えた。

 そして、その『牛』を食う唯一の人間がそうして調べるのをやめたので、その問題はそのまま村長の孫がそれに興味を持つまで放置されたのだった。

  




 ・・・そこまで話を聞いて頭を抱えた。

 もう突っ込むのに疲れたと思っていたんだが、またしても湧き上がる衝動に突き動かされるかのように、内心で叫んだ。

 いや、なんか、そんな気はしてたんだが、してたんだがね。

 

 ミュータントだ!ミュータント化してるよ!

 

 目の前のコイツら明らかに普通じゃないとは思ってたが、コレ明らかにケミカル的な何かを摂取して化けちゃってるよ!?

 そしてそれを摂取した何代か前のその村長もこれ影響受けてるだろ明らかに!

 おかしいと思ったんだよ、いくら魔法がある世界とはいえ人力で馬が曳くような荷車曳いて行き来してた道程を、馬使ってたときより短縮するとか。

 普通に考えて化け物じゃねーか!

 もうそれ村長じゃない別のナニカだろSONTHOUだよ。

 つか、村長お前、もっと気にしろよ自分が食ってるもんだぞ。

 って逆に自分しか食ってないから気にしなかったのかっていややっぱり気にしろよ。

 つか、この目の前のミュータントブルズは、そのうち二足歩行して人語を喋り忍術とか使ったりしないだろうな。

 つーか、後半のインパクトに流されたが普通にダンジョンだとか魔境だとかいう単語が出てきたがあんのかよ。

 でも、どっちかってーと村のほうがよっぽど魔境な気がしてきたわどういう事だ。

 ああ、くそ、普通なところ探すほうが難しいぞ、良くぞこんなことに気がつかずに今まで村で生きてこれたな俺。

 くっそ、ファンタジー仕事しないどころかSFみたいになってんじゃねえか。

 サイエンスフィクションじゃなくてサイエンスファンタジーですかクソッタレ!

 これで町に行ったらスチームパンクだったりしたら発狂するぞクソが!

 ああ、なんかフラグっぽいからやめよう。

 つーか、『牛』の話が長い、未だに牛車の話になってないじゃないかもうなんでもいいからさっさと話せよチクショォォオ!!





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