プロローグ
目覚めるたびに憂鬱になる。
未だ薄れぬ『現実』の記憶と今現在の自身の状態の齟齬に。
三十路を過ぎて定職につかず、実家に寄生してだらだらと日々を浪費していた人間の屑。
それが俺の、目を背けたくなるような、逃げ出したいくらいに惨めな『現実』だった。
そこから抜け出そうともがいた『つもり』になって、そう・・・必死なつもりで実は流されるままにダラダラと時間を浪費していただけの屑野郎、それが俺だった。
寝ても覚めても憂鬱で、無気力で、毎日のように実家の爺様に罵倒され、ガキのように不貞腐れたり逆切れし、自身の屑っぷりに心底ウンザリしてさらに無気力になる悪循環。
大きな不幸があったわけでもなく、むしろ恵まれてすらいたはずなのに何故か出来上がったのは動く生ゴミだった。
ハッ、『何故か』だと?
何故?何故何故なぜナゼ!?
馬鹿じゃないのか、何が何故かだ笑わせる。
そんなのは俺が意志薄弱な根性なしのクソゴミだったからに決まってんだろうが!
そりゃあ俺にも色々とあったさ。
人と比べて幸だ不幸だとか言うつもりはねえが、色々と俺なりに紆余曲折あった人生だったさ。
こんなことがあったから仕方がないと言い訳できる材料もあるだろう。
この程度の事で甘えんなよボケがと言われる材料もあるだろう。
でもそんなのはなんか違えだろうが、人と比べての幸だの不幸だのの大小如何に関わらず、それに直面した時の選択を、それをした責任は最終的に俺個人が負うものだ。 他人が、周りの環境が云々ってのは外野が言って当人を慰めるもんであって自分で言うようなのは見苦しいにも程があるだろうよ。
そう、そう強く思っていたにも関わらず、結局なんだかんだで他人と環境に流されてずるずると逃げを打ち続けた惨めな生き物、それが俺だ。
自虐と自嘲を自分の中で積み重ねて、勝手に自己完結と自己嫌悪で無気力になり、傍から見ればただただ周りのせいにして現実から逃げ回るだけの人間の屑。
そのくせ人から自覚している所を指摘されると激するケツの穴の小さいゴミ屑。
ああ、あの日もそうだった。
早朝から、俺の部屋の戸を蹴破らんばかりの勢いで入ってきた、肩を怒らせ目を血走らせた爺様。
何時もの事だ、歳のせいで物忘れも酷い。
毎日毎日同じ事を、俺にとって厳しい罵倒を、罵声を、いや激励なのかもしれない、いい歳こいて情けない孫への怒りと情がもう超高齢といっていいその体を突き動かしているんだろう。
そう思うと、怒りが、自己嫌悪が、情けなさが、惨めさが、色々な想いが渦巻いて俺の口から飛び出しそうになる。
ああ、わかってるんだ、そりゃあ言いたくもなるさ、申し訳ないと思っているさ、でも、いや、そこまで悪し様に、違う、クソ、馬鹿にしやがって、それは違うだろう! いや、こんなザマならそりゃ言いたくも、っざげんな!いや、落ち着け、我ま――――。
そこから先は覚えていない。
気がつけば、俺はこの世界に産まれ落ちていた。