記憶
3章スタートです。
長い、夢を見ていた。
自分ではないどこかの誰かの、悲劇となった人生を。
◆◆◆
『姫様。お元気そうでなによりです』
『わざわざ姫様が出向いてくださるとは…。至上の喜びでございます』
――そう畏まるでない。
『ひめさまー!げんきー?』
『こ、こら!姫様になんて言葉遣いを』
――ははっ、よいではないか。子どもは元気なのが一番じゃ。うむ、妾は元気じゃ、この通り!
『ぼくもげんきー!』
――そうかそうか。それはよかった。
『……姫様がこうやって町や村を訪れ、不満を直接聞いてくれるようになってから我々の生活は楽なものになりました。なんと感謝すればいいか…』
――民の幸せを願うのも王族の義務よ。妾が愛するこの国と民を守ることこそ、妾の務めじゃ。
『最近、隣国でこの国に攻め入ろうとする動きがあると他の国境沿いの村の者から聞きました。もしもの際はご自分の安全を優先してください、姫様』
――そうか。情報感謝するぞ。じゃが、妾の身を守るかどうかは約束できかねないのぅ。
『姫様はこの国の希望です。どうか無理はなさらないでください…!』
――わかった。そこまで言われればそうしよう。戦争など起こらないのが一番よいのじゃがな……。
◆◆◆
『大君、ご報告いたします! 東の国がこの国に対し宣戦布告を…!』
『やはり来たか…。しかたあるまい。すぐに会議を開くぞ、民を守るのだ!』
『はっ!』
『……××よ。お前は会議にでるな』
――なぜですか、父上ッ!
『お前が会議に出れば間違いなく、前線に出ると言うだろう。……そうはさせぬ。お前は希望だ。希望を失うわけにはいかない』
――民を守らせてくれぬのですかッ!? 妾は国と民を守ることが使命だと言ってくれたのは、父上! あなたではありませんかッ!
『お前は生き延びることが戦いなのだッ! ……東の国は大国だ、まともにやりあえばまず勝てん。最悪の場合、お前には東の国に行ってもらわねばならなくなる。そのためにも、生きてもらわねば困るのだ』
――くっ……わかりました、父上。
◆◆◆
『……既に国境沿いの町村は彼奴らの手中にあります。我が国の民は生き残ってはいないと…。くッ!』
――国境沿いとなればあの村もか!?
『……恐らくは。我らが送った軍も全滅しております、正確な情報は掴めません』
――くぅ! もう許せぬ…! 父上の言い付けなど聞いておられるかッ! 妾が直接手を下してくれるわッ!
『なりませんッ! 確かに姫様の■ならば、敵軍を凪ぎ払うことも可能でしょう。しかしそれで姫様に何かがあれば』
――関係ないわッ!民が殺され、国土が侵されるのを黙って見れおれとそなたは言うのかッ!?
『それは…卑怯です姫様。我々も国と民を守りたい一心です。そのためなら命を投げ出す覚悟はあります! ですが、国の希望であり、巫女であるあなたが死ねば我が国は一気に崩れますッ! 命を捨てるのはまず我々だ、あなたではないッ!』
――……わかったわ。そなたの想いに免じて、妾は待つとしよう。じゃが、状況がさらに悪化すれば妾も出る。
『はっ!』
◆◆◆
――みな、いなくなってしもうた。父上も、将軍も、妾を必死に止めてくれたあの兵士も。みな、死んでしまった……。
『……ひめさま』
――残ったのはこの城と戦えぬものばかり。……妾は最期まで我慢したからな。もう文句を言うでないぞ。
『姫様、どこへ…』
――少しばかり敵と戯れてくるだけじゃ。……安心せい、みなは妾が絶対に守る。約束じゃ。
『なりません姫様…!』
――止めるな。妾の■ならば百の兵を葬るくらい容易いこと。そこで枕を高くしてまっておるがよい。
◆◆◆
『…おい、なんだあれ』
『随分と豪華なもん着てるじゃねぇか。この国の姫様か? たしかすげぇ美人だって聞いたが……』
『おうマジで美人だぜありゃ! 姫様に間違いねぇよ!』
――万にも満たぬ兵か。妾も舐められたものじゃな。
『貴様がこの国の姫君の××か。なにようだ』
――そなたが、この軍を纏める将軍じゃな?
『あぁ、そうだ』
――そうか、なら話ははやい。……死ぬがよい。
『なにを……ぐあっ!?』
『将軍がやられたぞーッ!』
『あの姫様なにやりやがった!?』
『わかんねぇ! だがあいつの後ろからへんな黒いものが…! うわああああっ!』
――かかってくるがよい、東の国の者よ。この××が! 全員! 相手してくれるわッ!
◆◆◆
『姫様! ご無事でしたか!』
――当然じゃ。ちと汚れたがの。
『敵軍は…?』
――将軍を殺し、指揮系統を潰せばなんとかなると踏んだが……副将軍あたりかの、それが優秀で思いの外倒せなかったわ。せいぜい3割じゃな。しかし、少し■を使いすぎたの、休憩させてくれ。
『しばらくは攻めてこないはずです。今はおやすみください、姫様…!』
◆◆◆
――和平、じゃと?
『はい。早朝、東の国の使者が来て和平を結びたいと』
――と言っても、対等ではあるまい。少し損害は出せたが、戦争の結果としてはこちらの惨敗じゃ。そんな相手と対等の和平を結ぶはずがない。
『その通りでございます。東の国の要求は、姫様自身です』
――ほう、妾をか。
『姫様さえ出せば最終的には軍を引くと。さらにこの国の復興にまで力を貸すとものことです。復興後しばらくは軍を置くそうですが』
――事実上の保護国化か。妾さえ犠牲になれば、国と民が救われるとのならば……妾は喜んでこの身を差し出そう。
『姫様!』
――止めるでないぞ。散っていった兵たちのためにも、妾にはこの国を平和にする義務がある。さらばじゃ、元気でいるのじゃぞ。
◆◆◆
『こちらの申し出に乗って頂き感謝します。××様』
――ふん、そうしなければならない状況をつくっておいてよく言うわ。
『それは否定できませんね。しかし我々も想定外の被害が出ています。我々もこれ以上の被害は出したくないのが本音です』
――そうか。それで妾をどうするつもりじゃ? 欲望のまま妾を嬲るか? それとも首を落とすか? もしくは家畜の餌にでもするか?
『どれも違います。我々が注目したのはあなたの■。あなたを使えば、我々は更なる高みを目指せるッ! 』
――ほう。妾の■に興味があるか。
『■の力、予てより興味をもっておりました。その力、我々の最高傑作として、新生させてもらいますッ! 老いることのない、剣としてッ!』
◆◆◆
「…………」
どこともしれない空間の中、エリーは佇んでいた。雲が晴れ、青空が広がったかと思えば、次の瞬間には空がない周囲が真っ白の空間になることもある。
"センチュリオン"に体を乗っ取られてどのくらい時間が経過しただろうか。
1日か、1ヶ月か、1年か、100年か。
もはや時間という概念を失ってしまったのではないかとさえ思ってしまう。
「"センチュリオン"の記憶、また見ちゃったな…」
時々、"センチュリオン"が自分の記憶を覗いてるくる。
なぜわかるのかと言うと"センチュリオン"の…彼女が自分の記憶を見る度に彼女の記憶も流れ込んでくるからだ。
「"魔剣センチュリオン"。きっと元は人だったんだ」
国と民のために身を差し出した何処かの国の姫。
それが彼女――"魔剣センチュリオン"だ。
「人造魔剣……人が造っただけなのかと思ったら人も造り出すのに使ってたなんて…」
間違っても許される行いではない。
人をモノにすることなど、絶対にだ。
魔族化ならまだ、自分の意志を伝えることができるかもしれない。
しかし剣となれば自分の意志が伝えられない。
彼女が他人のために力を使うことを嫌っていたのも、魔剣として人に扱われ続けたからなのかもしれない。
「僕はどうすればいい…シルヴィア…」
だがもうエリーに自由はない。
"センチュリオン"に想いを伝えることも、シルヴィアを一目見ることすら叶わない。
奇跡が起きれば…と考えたが、それはないだろう。
そもそも自分は奇跡という言葉が嫌いだ。そんなこと起こり得ないし、起こりもしない奇跡を待つ人間も好きではない。
「考えるの…疲れちゃったな…」
今は、もう、眠ろう。
もう自分にできることなんて何もないのだから。
エリーは、ひっそりと瞳を閉じた。




