交錯
エリーの行方がわからなくなった。
確かエリーはたまたま合流した|秩序の守護者(ギルド・ガーディアンーとともに、この町を目指しているのてはなかったのか。
この情報は嘘だったのか、無いとは思うが秩序の守護者とエリーか交戦し死んでしまったのではないだろうか。
そんな疑惑の数々がシルヴィアの脳内を駆け抜けていく。
「ウェン、どういうことか説明して!」
声を荒げてウェンに詰め寄る。ここでウェンに当たるのは筋違いだというのに、そうしなければどうにかなりそうだった。
「落ち着いてくださいシルヴィアさん! 僕だって焦る気持ちは同じです」
「……ごめんなさい」
俯く。死んでないかもと知って、生きていて尚且つ自分たちの元へと向かっていると知って、希望を抱いたところにこれだ。
「……落ち着きましたかシルヴィア。なぜ、そうなったのですか?」
「皆さんが戻ってきてから話そうと思います。"タスク"に行っていた僕たち4人とシルヴィアさんたち3人はわかっていますが、ギュンターとリディアさんがまだいません。――事態は急を要します。できれば無駄な時間は使いたくない」
せめて、町を出る装備を整えておいてくださいと言うウェン。
ここぞと言うときにも冷静さを失わないのは彼の美点だ。
「エリー、なんでこんなことに…!」
レベッカもあまりにも酷な事実に参っている様子だ。
マリーも視線を傾けている。
――今は、全員が集まるのを待つしかない。
◆◆◆
「揃いましたね。説明します」
数時間後、全員が集まったのを確認し、ウェンは静かに説明し出した。
既に内容を知っているマキナ、メディア、キニジの3人はシルヴィアから見ても辛そうで仕方ない。
「まず、なぜエリーさんが姿を消したのか? なぜだと思いますか」
「…さぁな。そもそもその一緒に行動してたって秩序の守護者は信用できるのかよ? そいつに不意を突かれたってこもなくはねぇだろ」
ウェンは無言で首を振った。
「秩序の守護者No.18、アリシア・アリーヤ。それがエリーさんと行動を共にしていた人の名です。察した方もいるかと思いますが、彼女は初代ギルドマスター、ソーマ・アリーヤの子孫です」
だからといって信用に値するとは限らない。
「その人がアリーヤの家系だとしても、エリーの失踪とは関係ないでしょう?」
「関係ありませんよ。しかしその人物の素性ははっきりさせておくべき、そうではありませんか?」
ウェンの言葉に思わず押される。
さきほどからウェンは普段とはどこが違う。
いや、マキナにメディアを含めた魔術師がだ。
「先日マキナさんたちは"魔剣"の回収任務に向かいましたよね。エリーさんとアリシア・アリーヤもまた"魔剣"回収任務を受けていました」
「……だが、まだフィレンツェにて任命式すらやっていない人物にいきなりそんな任務を渡すのはありえないことだ。"オラクル"事変のようなことがあってもまずありえない。トップが死亡した今であってもな」
ウェンの説明を補完する形でキニジが続ける。
……随分とキナ臭い話だ。何か裏があるのは明白だろう。
「ここからが本題です。覚悟して聞いてください。その任務の対象は――」
ウェンは躊躇うように言葉を飲みかけるも、それを振り払うかのように首を振った。
「――"魔剣センチュリオン"、です」
――この時に感じた衝撃は、きっと忘れることはないだろう。
「"センチュリオン"……あぁ、そんな……」
膝から崩れ落ちる。
"魔剣センチュリオン"、その単語が如何なる意味を持つのか。
ここにいる全員がそれをわかっていた。
「デイヴァの…エリーの戦いは無駄だったっていうの…!」
シルヴィアを殺さないように、救うために戦ってきたデイヴァの行動が全くの無駄に終わったとでもいうのか。
「…ウェン。そのアリシア・アリーヤは今なにしてるんだ」
「フィレンツェに向かっています。はやければ明日の昼にでも到着するはずです」
そうか…とだけ言うとギュンターは黙りこむ。
「まだ伝えておかねばならないことがあります。アリシア氏曰くそのエリーさんと向かった任務では"魔剣"を付け狙う組織がいたそうです」
「狙うって先日の任務の時みたいな?」
ルーシーのことを思い出す。彼女は組織に属していると言っていた。
エリーたちの前に現れた組織と、シルヴィアたちの前に現れた組織。繋がりがないわけではないだろう。
「恐らくは。その組織との戦闘中にエリーさんたちは"魔剣センチュリオン"によって追い込まれ、その窮地を"センチュリオン"で切り抜けたとのことです」
「……その時"センチュリオン"を握ったのはエリーよ。アリシアからの報告を聞いただけだから当時の状況はよくわかんないわ。ただ、まるで別人のようだったみたい」
エリーだって"魔剣センチュリオン"の恐ろしさはわかっているはずだ。いや――一番理解している。
「つまりエリーは、その窮地を脱するために"センチュリオン"を握ったってこと?」
「憶測だけど、そうなるよ。エリーちゃんは自分がそうなるのを理解してたけど、アリシアって子を守るために握ったんだと思う」
めずらしくメディアが補足してくれた。
「………そうね」
どこまでも――――どこまでも、お人好しだ。
シルヴィアも人のことは言えないが、エリーもエリーで向こう見ずで、後先考えないで、人助けをしてしまった。
エリーは恐らく、"そうすれば確実にのんとかできる"と踏んだからそうしたのだろう。
なら恨むべきはアリシア・アリーヤではない。
「明日、アリシアさんがここに来るのよね。……会うわ、私。大丈夫、アリシアさんに危害は加えない」
エリーが命がけで保った人間を傷つけては、エリーに見せる顔がない。
それにエリーがそこまでして守ったたいうことは、彼女はきっといい人なのだろう。
ならば尚更傷つけるわけにはいかない。
「レベッカさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ショックなのは確かだけど、俯いてるだけじゃなにもできない。だから、今はエリーを探すことを考えないと」
ウェンの問いかけに力強く答えるレベッカ。
レベッカも成長しているのだ。
"オラクル"事変は、決して褒められるべきものではない。
だがそれがあったからこそ、成長したのだ。
「方針は決まったな。すまない、右腕を失ってさえいなければ俺も捜索に加わることができるのだが……」
「そのためにあたしたちが動いてるんでしょーが。今、キニジがすべきことは休むことなんだっての」
キニジの言葉から、半分魔族化した顔から、エリーを探しだしたいという想いが嫌と言うほど伝わった。
キニジはあの決戦で右腕を失って以降、日常にも不便を感じている。
二刀流になる過程で自然と両方の手を遜色なく動かせているようになったが、元の利き手は右だ。
慣れてきてはいるようだが、それでもやはり…ということなのだろう。
「まだ完成には程遠いけど…その、必ず成功させます。だから…エリーちゃんの捜索は…わ、わたしたちに任せて、キニジさんは…待っていてください」
「そうですよキニジさん。この子たちを信じて待つことも、戦いなのです」
「…ならば、信じて待とう」
だが本当に難航した際には、片腕だけでも戦場に舞い戻るような、そんな気がした。
それがキニジという人間の美点なのだろう。
そんな最中、マキナは思い出したかのようにリディアに話しかけた。
「そうだリディア」
「はいなんでしょう」
「商人としてのアンタの腕を見込んでお願いするわ。ある物を調達して欲しいんだけど。理由とかはギルドから言うなって言われてるから、教えらんないんたけど…」
マキナ自身申し訳ないのか、少し声が小さい。
「わかりましたわ。マキナを信頼して今は深く聞かないことにします。こちらが本分ですからね、期待以上の物を約束しますわ」
「…ありがと。あたしたちも頑張らないと…!」
頬を手のひらでぺちぺちと叩き、気合いを入れるマキナ。
マキナたちが何をやっているかの大方の予想はついたが、間に合うとは思えない。
「とりあえず今は待ちましょう。明日、アリシアさんが着くまではね」
全員、無言で頷く。
今はただエリーとアリシアを信じて待つしかない。
◆◆◆
――翌日。
孤児院に全員が集合し、シルヴィアたちはアリシアを待っていた。
アリシアはひとまずギルド本部に報告してからとのこで、ギルド本部で待つことも考えたが、長話になることも考え孤児院で聞こうという結論に達したからだ。
「…………」
会話らしい会話もなく、はや数時間。
沈黙もそろそろ耐え難くなってくる。
「ねぇ、エリーが帰ってきたら、何かパーティでもしない…かしら…」
後半に連れて声が小さくなっていく。
辛気臭い雰囲気は好きではないが、かといってここで元気に振る舞えるほど自分は明るい人間ではない。
「しようよ。絶対」
絶対連れ戻す、の意味合いも込めているであろうレベッカの声。
その時扉が叩かれた。
「誰ですか?」
マリーがまず出ていく。次いでシルヴィアたちも玄関の近くに行く。
アリシアだという期待が高まる。
マリーが扉を開けると、紅髪の少女がそこにいた。背中には槍がある。
聞かされていたアリシアの特徴と一緒だ。
ただその表情は悔恨で埋め尽くされていた。
「秩序の守護者No.18、アリシア・アリーヤ。……貴方たちが、エリーの仲間なのか?」
凛々しい顔立ちとは全く異なる弱々しい声音で、彼女はシルヴィアたちに自己紹介をした。
彼女を見て確信する。
責めるべきは彼女ではなく、その敵対した組織と、"魔剣センチュリオン""なのだと。
世界観豆知識
『アルカディア戦争』
300年ほど前に終結した、レムリア共和国とザナドゥ帝国という当時の大国同士による30年に渡る戦争。
ほぼ互角の国力の二国の戦争は泥沼化していたが、ギルドの前身たる傭兵同業組合"ネスト"によって終結へと導かれた。
そのネストのリーダー、ソーマ・アリーヤはそのままギルドの初代ギルドマスターとなるも、ギルド設立後数日で消息を絶っている。




