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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第2章 変わらぬ想い
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帰る場所


少し、時間を戻す。



ギュンターはただ1人、町の外で魔物討伐を敢行していた。


シルヴィアは動かない、ウェンとマキナは研究で忙しい、メディアとリディアはギルドに捕らわれている、キニジは右腕を失い戦える状況ではない。


特にやることもなし、ただ何もしないのは性に合わないと、とりあえず1人で魔物討伐に汗を流している。





今日も魔物討伐を終え、報告を済ませようとギルドの支部に入り受付嬢に声をかけた時だった。


「ギュンターさん、報告が2つほど。まずはギルドから会わせたい人がいるそうです」

「会わせたい人?」


自慢ではないが、それなりに知り合いは多い。時折依頼を一緒にこなしたりするくらいである。しかしギルドが直々に会わせたいと言うほどの人間はいないだろう。



思考に没頭てしているギュンターの後ろから、最近聞き慣れた声がした。


「はい。わたくしです」

「…リディア?」

「その幽霊でも見た、ような表情はなんですか?正真正銘、リディア・ロンバルディアに間違いありませんよ」


まさかリディアだとは考えていなかったため、数秒ほど思考が停止していた。

それにリディアとその姉のメディアは、"オラクル"事変の関係者としてギルドに捕らわれていたのではないのか。




「お前捕まってたんじゃないのか」

「それも今日にて終わりです。…まぁ、お姉様のお陰でなんですけど」

「どういうことだ?」


昨日まではメディアと共にギルドに捕らえられていたのは確かだ。

マキナが毎日面会に行っていたのと、ギュンターがそれに無理矢理連れていかれていたから間違いない。




「…メディアお姉様は、本日付で第4研究室"ケミスト"から第2研究室"タスク"へと異動されました。監視付きの開放という形ですけどね。その際、わたくしも一緒に開放して欲しいと頼んでくれたと"タスク"の室長が言っていました」


一瞬、目が遠くなるリディア。

それはさておき、メディアが監視付きで開放されたとの話だが、その監視員は十中八九マキナだろう。

彼女はギルドの方針に基本的に従っているとのことで、ギルドからの信頼も厚い。この姉妹の面会も担当していたころから、選ばれない理由がない。




「なるほどね、まぁいいんじゃねぇの。…というかリディア、お前ギルドメンバーじゃないだろ。後なんで俺なんだ」


今の話を聞くにメディアと共にマキナの元へ送られると考えていた。

仮にそうでなくとも、何故自分がという疑問が生まれる。



リディアはギュンターの疑問に少し呆れた様子を見せると、 口を開いた。


「ギルドメンバーになら、管理下に置くために強制的に加入させられました。それにお考えになってください。元オラクルで、ギルドメンバーになった直後のわたくしが、もうひとつのギルドの中枢とも言える魔術研究所に入れますか?」

「あぁ、確かに…」


それもそうだ。

メディアは"オラクル"として秘密裏に活動する以前から、"ケミスト"の一員だったと聞いている。裏切ったとはいえ、ギルドも彼女に対する信用は残っているかもしれない。

だがリディアはギルドとは何ら関係がない。だからこそギルドの信用も0どころか、マイナスのはずだ。

ならば、ギルドがリディアを魔術研究所に入れるわけがない。




「納得できましたか?続いて、なぜ貴方が選ばれないかですが…単純です。わたくしたちと面識があり、"オラクル"事変で戦果を上げ、それなりにギルドに対して従順なのが貴方だっただけです」


要はその条件を満たしていれば誰でもよかったということだ。

この条件を満たしているのはマキナの他にウェンもいるが、ウェンはマキナと同じく魔術研究所の職員だ。



「となると、残ったのは俺だけ、か。俺はギルドに忠義を尽くすつもりはないんだがなぁ」


あくまでギュンターが自分自身の考え方に則って行動していただけだ。それがたまたまギルドのそれと似ていただけのことであり、ギルドにの犬に成るつもりはない。


「忠義を尽くすのは、クロムウェル家…シルヴィア=クロムウェルだけということですか?」

「………さぁな。とりあえず、行こうぜ」


立ち話をしていても仕方ない。恐らくウェンとマキナ、それにメディアも今日は孤児院に帰ってきているはずだ。







「あ、お待ち下さい。まだ伝えていないことがあります」


リディアを連れて帰ろうとしたところをギルドの受付嬢に呼び止められた。


「そういやそうだったな、忘れてた。それでもうひとつの報告ってのは?」


これ以上厄介事を増やされるのは勘弁だが、話を聞かないわけにはいかない。




だが、受付嬢の言葉はギュンターの思惑を、いい意味で裏切った。


「兼ねてから捜索を頼まれていた、エリー・バウチャーさんのことですが。…無事でしたよ。現在はここから東にある町にて、秩序の守護者ギルド・ガーディアンとともに行動中です。この町まで、あと1週間ほどではないでしょうか?」



本日2度目の衝撃が、ギュンターの体を駆け抜けた。

――エリーが生きている。

行方不明になってから9日。心の片隅では自分も諦めそうになっていた。

だが生きている。その事実は変わらない。


それにこのことを誰もが喜ぶが、誰よりも喜ぶのはシルヴィアだ。1秒でも速く彼女に知らせなければならない。






「…うちのお嬢様に伝えねぇとな。あいつが一番気を揉んでいた。よし、リディア、ちょっと急ぐぞ!」


受付嬢に礼を言い、リディアとともに孤児院へ急ぐ。


「なんだかんだ言って、シルヴィアのことが好きなんですね」


呆れとはまた別の声。後ろを振り替えると、なんとも言えない表情をしたリディアがギュンターに引率される形で歩いていた。


「嫌いだったら、一緒に旅に出たりしねぇよ」

「…そう、ですか。そういう関係って羨ましいです」

「そうか?」


シルヴィアは物心ついた時からの付き合いだ。好きとか嫌いとか、性別とか、そんなものよりも、大事な関係だと考えている。

それはウェンも同じことだ。ウェンが来たことで、三人兄妹になったような気分だった。

純粋に楽しかった日々だった。…いや、今でも楽しい。そう言い切れる。

それにエリーが仲間に加わり、弟か妹ができたように思えた。




「妹離れってやつかな」

「何がです?」

「いや、こっちの話だ」


今のシルヴィアにはエリーがいる。恋を知らなかったシルヴィアがエリーと出会い、それを知った。嬉しくないはずがない。願わくばそのまま成就して欲しいものだ。

…とはいえ恋を知らないのは、ギュンターも同じことなのだが。それはそれだ。





「ま、俺も考えるべき時期になったってこった」

「それはわたくしたちも同じです。カルディアお姉様を喪い、メディアお姉様共々ギルドに捕らわれた。捕らわれたことに恨みはありません。責任は自分にありますから」


足を止めるリディア。その表情は暗く険しいものだ。



「ですが、お姉様をこの手にかけたことは後悔の念が残っています。魔族化したのだから、殺す以外の選択がないことも承知しています。…夢に見るんです。カルディアお姉様がわたくしに復讐を果たす夢を…」


やはり、と言うべきだろう。

気丈に振る舞ってたいたが…いや、"いたからこそ"肉親を手にかけた罪がリディアのその肩にのし掛かっていたのだ。




「なぁ、リディア」


こういう時、何て言葉をかけたらいいのかわからない。

だが、不得手でも、励ましたい気持ちが伝われば十分だ。


「…俺はさ、この旅が終わったら鉄騎隊に従軍することになってる。戦いが起きれば人を殺すことになる、もしかしたら俺が死ぬかもしれない。でもそれが当然だと、普通のことなんだと思ってた」





旅を始めて間もないころの話だ。

とある依頼で他のギルドメンバーと対峙したギュンターたちは、話し合いでも解決せず最終的には剣を交えることになってしまった。

結果としてはギュンターたちの勝利で終わった。だが、シルヴィアは泣いていた。

聞けば、自分の手で人の人生を絶ってしまったことがたまらなく恐ろしかったらしい。


『これからは俺が全てやる。シルヴィアは後ろで見ていればいい』

できないならやらなくていい。ならできる自分がやればいいだけのこと。

なのにシルヴィアはそれ以降も刃を交えることを選んだ。

誰かを殺める度に傷つきながら、だ。


長い付き合いだが、それだけは理解できなかった。

だが今になってそれが理解できた。






「…"慣れすぎた"んだろうな。殺し殺されによ。確かに慣れることも重要だ。戦場で敵は待ってくれない、一瞬の躊躇いが死に繋がる。だけどシルヴィアは、あえてその躊躇いを思い出させようとしたんだ…」

「何が言いたいのですか?自分だけで納得していても、わたくしは理解できませんよ」


リディアにそう言われて、それもそうだと小さく笑う。

何にせよ、シルヴィアの気遣いとそれを気付かせてくれたリディアには礼を言わなければならない。


「俺は軍人だ。戦うことが仕事なのはあってる。だけど無感情で戦うんじゃなくて、人らしい感情を持って戦う。シルヴィアのその伝えたかったことを教えてくれたのはリディア、お前だ。礼を言うぜ。だからこそ、リディアお前はそれでいい」

「…つまり?」

「躊躇うなとも、慣れろとも、その逆のことも言わねぇ。ただし、その抱いた感情は捨てるな。肉親を斬ったことだけじゃない、人を殺した罪の意識もある。それはきっと、リディアのためになるはずだ。だから…あぁもうめんどくせぇ!困ったら俺に相談しろ!俺だけじゃねぇ、俺の仲間だって乗ってくれるはずだ!…リディアはもう、俺たちの仲間なんだからよ」


ただの殺人機械ではなく、人として人を殺す。

要は今のリディアのままでいいということだ。口下手な上に話が長くなるとは我ながら嫌になる。



リディアは数秒の沈黙の後、何が面白いのか笑いだした。


「ふっ、ふふ。可笑しいですねギュンターは。ですが嬉しいです、こう励まされたのははじめてです。素直に感謝しましょう」

「おかしいのはお互い様だろ。…少なくとも俺は常識人を自称しているんだけどな」


朱に交われば赤くなるとはこのことだろう。この旅で、自分は様々なものに感化されたのかもしれない。しかし自分は失わない、"力を持たない人を守る盾"となる。その想いだけは今も昔も変わりはしない。







「よし、帰るか。俺たちが世話になってる孤児院があるんだ。今諸事情で部屋が空いてるからな、多分リディアの部屋もあるはずだぜ」

「では、そうします。メディアお姉様もいるんでしょうか…?」

「いるだろ、ウェンとマキナが監視役ならあいつらと一緒にいるはずだし」

「ならお世話になりましょう」


メディアがいると知った途端に即答である。本当に姉が好きなんだなと苦笑する。

それも彼女の持ち味のひとつかもしれない。




孤児院に帰りシルヴィアたちにエリーの生存を伝えると、全員が喜んでいた。

中でもシルヴィアは涙を流し、同じく涙を浮かべていたレベッカに慰められるほどだった。


彼女の本当に嬉しそうな笑顔を見れただけでも十分だろう。



やはり、自分の帰る場所は仲間たちの待つ場所だ。

ギュンターはそう確信を得て、エリー生存の一報に沸く仲間たちに混ざっていった。

今回も遅れて本当に申し訳ないです。

…ち、違うんだからね、火のない灰になってたとかそういうわけじゃないんだからね!


遅れた理由のひとつとしては、第一部の1から3話を0から書き直し、0話となる話も投稿したからです。

ついでに第一部の名称もカミとヒトのモノガタリとさせていただきました。


また変更点としてはメディアとリディアの一人称とリディアの話し方です。

シルヴィア、ギュンター、ウェンの三馬鹿はぶれにくいんですけど、新キャラはどうも違ってくるので、思いきって書きやすい形にしました。


次話から、物語の歯車はその勢いを増していきます。

具体的には言いませんが、決定的な別れとなります。



最後に一言。


AC6まだですか?

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