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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第2章 変わらぬ想い
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手を取り合った者

「ん…」


見慣れた研究室の一角で、マキナは目を覚ました。


確か昨晩はウェンとともに、例の物についてある程度の結論を出したはずだ。

第2研究室"タスク"と第4研究室"ケミスト"。この2つの研究室が協力しなければ、例の物は完成しないだろう。



周囲を見渡すとウェンの姿が見当たらない。

記憶では昨晩はマキナの横で別のことをやりながら、例の物について話あっていたのだが。

それに自分の体には毛布がかけられている。恐らくはウェンがかけてくれたのだろう。



コツコツと物静かな研究室に響く足音。そちらを振り向くとウェンの姿があった。


「おはようございます、マキナさん。起きていたんですね。コーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」


目の下にくまを作りながら、なんてことはないようにマキナに笑いかける。



「紅茶で。…いや、別にアンタがやることでもないでしょ」

「そうですか?こういうことが得意というか、癖というか、忘れられがちですが一応は執事ですからね。自然とやってしまうんですよ」


喋りながらも慣れた手つきで紅茶を入れていく。

瞬く間に終わらせたウェンはカップにこれまた手慣れた手つきで紅茶を注ぐ。



「どうぞマキナさん」


カップを渡される。紅茶の良い香りが鼻を通る。香りは合格と、紅茶を口に含む。


「…おいしい」


悔しいが、自分が入れる紅茶よりも格段においしい。公爵家で執事として勤めているだけに流石だ。



「良かったです。自信がないわけではありませんが、シルヴィアさん以外に飲む人があまりいませんからね…」


彼女以外には舌が合わないのではないかと不安だったと語る。




「大丈夫、おいしいわ。あたしが保証する」

「マキナさんがそう言ってくれるなら安心できますよ」

「…自分で言うのも何だけど、あたしが嘘ついてるとは思わないの?」


止めておけばいいのに、無駄なことまで口走ってしまう。お陰で自分の偏屈な部分が出てしまった。

どうもウェンを前にすると一言多くなってしまう。

そんなマキナの悩みを知るわけがないウェンは不思議そうにマキナを眺めていた。


「嘘、ですか?マキナさんは嘘をつく人ではありませんから。むしろ思ったことを素直に口にしますよね」


むっ、と一瞬反論したくなったが、言われてみればその通りだ。

思ったことをずけずけと躊躇いなく言ってしまって、トラブルになったことも少なくない。"タスク"に来た当初もそのせいで周囲と距離が離れてしまっていた。



「僕はマキナさんのそういう所、嫌いじゃありませんよ。言いたいことを言い合える関係というのは貴重ですからね」

「ふーん…。シルヴィアなりギュンターはそうなの?」


ウェンとシルヴィア、ギュンターは子どものころからの付き合い、有り体に言えば幼馴染みだと聞いている。

自分がいた環境では「幼馴染み」という単語は存在するはずがない環境だった。

だからこそウェンたちのそういう関係が、少しばかり羨ましい。



「そうですね、基本的には遠慮無しで言い合ってます。ですがそれはあくまで、『シルヴィアさんの友人』という立場でのこと。『シルヴィア様の従者』という立場ならばそのようなことはないです」


貴族の世界とはかけ離れた世界で育ったマキナにとってはその辺りの事情はよくわからない。

だが、公の場では『従者』として振る舞うことが求められているのはわかる。




「疲れない?そんなめんどくさいことして」


自然と溢れた言葉だった。恐らくは『シルヴィアさんの友人』としてのウェンが本来のウェンなのだろう。

場面で異なる自分を演じるというのは、マキナにとっては苦痛でしかない。


…あるいは、自分のこういう所が、「言いたいことを言っている」ということか。



「慣れましたから。でも、マキナさんはやっぱり思ったことを素直に言うんですね。世辞を言わないので、逆に話易いです」


からかっているのか、面白そうに笑うウェン。遊ばれているようで自分は面白くない。


「だいたいなんであたしに相談すんのよ…」

「マキナさんが切り出したんですが…」

「ーーーッ!!」


そういえばそうだった。あまりの恥ずかしさに耳まで真っ赤に染まる。

どうしてウェンと話すとこうなってしまうのだろう。失敗ばかりか積もってしまう。




「マキナさんどうしたんですか?具合でも悪いんですか?」


マキナの心中を察することはないウェンは、心配そうにマキナを見つめている。


「な、なんでもない!あたしはいつも通りよ!それに、ウェンこそ寝てないんでしょ」

「えぇ、徹夜です。つい夢中になってまして」


ウェンが寝るのを惜しむほどのことに興味はある。昨晩の朧気な記憶でも、ウェンは何かに夢中になっていた。

例の物の話を同時にしていたが、どちらに重きを置いていたかは火を見るより明らかだ。

マキナとしてはそれが面白くないのだが。





なら寝ろと言う前に、研究室の扉が開いた。


「あ…」

「あらぁ、ウェンちゃんにマキナちゃん。朝早くからご苦労座ぁ」


朝早くから野太い声に似合わない話し言葉が響く。


曲者揃いの"タスク"上級研究員の中でも、群を抜いて"ぶっとんだ"人物。

"歯車が欠けている集団"、"変人の集まり"などと揶揄される、第2研究室"タスク"の室長。レオナルドその人だった。



「お、おはようございます室長…」


朝から濃いものを見たと眉をひそめるも、"彼"に挨拶は忘れない。

隣のウェンは眉ひとつ動かさず、レオナルドに挨拶を交わす。


「一々挨拶する必要はないのよ?マキナちゃんはアタシの子どもみたいなものなんだから、特にね」


言葉こそ女性のものだが、それを綴る声はただのオッサンのものだ。


とはいえ、彼こそがギルドに見いだされたマキナを預り、ストリートチルドレンだったマキナが人並みの生活が出来るようにしてくれた恩人だ。

そのキャラクターこそ常人のそれとは違うが、その思慮深さや慈愛の心は人として見習うべきものである。

だからこそ、彼の生き方は否定しない。むしろ偏見を意に介せず、自分の生き様を貫く姿勢は尊敬に値する。




「レオナルド室長。件の物ですが」

「わかってるわよウェンちゃん。既に"ケミスト"に話は通してる。お陰で一番乗りかと思ったのに2人に先を越されちゃったわ」


一番乗りどころか、昨日からずっとここにいる。


「code:A。アレの開発には時間がかかりそうね。"タスク"と"ケミスト"が方向性こそ違ったけど、同じものを作ろうとして作れなかったもの。でも"オラクル"事変を皮切りに、互いの研究室の研鑽のためと他の研究室に求められれば情報を開示することが決められたわ。…表向きは互いの研鑽のため。真の目的は二度と"オラクル"のような存在を生み出さないため。周知の事実みたいなものだし、誰も文句言わないけど」


隠す気もないところがまた、魔術研究所らしいというところか。

重要なのはそこではなく、情報を開示することが義務づけられたことだ。



「つまり、情報開示のお陰で"ケミスト"の技術が渡り、あれが作りやすくなったってこと?」

「違うわ。"タスク"が保有する技術と"ケミスト"が保有する技術は別物よ。それこそ一朝一夕では会得できないわ。だからアタシは研究室単独での作成は不可能と判断した」


確かに言われてみればそうだ。

"タスク"の研究は攻撃魔術やそれを転じた兵器の開発が主となる。

それに対して"ケミスト"は日常で使われるであろう魔術、また魔力結晶などの生活を豊かにする物の開発が主軸となっている。



「結論から言えば、"ケミスト"とのcode:Aの合作。ベクトルこそ違えど目指している物は同じだったわ。なら、協力しない理由がないわよ?」


レオナルドもレオナルドで、マキナとウェンと同じ解答を導きだしていたようだ。

最も、マキナとウェンは大雑把に考えていたがレオナルドはそれを踏まえた上でさらにその上を行っている。

流石は"タスク"の室長だと舌を巻く。




「だから、"ケミスト"から1人連れてきたわ。2人とも面識があるんじゃないかしら」


レオナルドは今までの真面目な声から一転、緊張をほどいた声で喋る。


「入っていいわよ、メディアちゃん」

「え?」


面識があって尚且つ"ケミスト"の職員でメディアという人物など1人しかいない。



そして扉を開けた人物はマキナの予想そのものだった。


「…えっと、今日からしばらく、その…"タスク"でお世話になります。メディア・ロンバルディア、です。マキナちゃん、ウェン君、よろしくね」


"オラクル"事変でギルドに捉えられ、マキナが取り調べを行っていた、メディアがマキナの目の前に立っていた。


あまりタイトルと内容が噛み合ってなかったので前から変えたかったのですが、第二部も1章が終わって調度いいと思ったのでタイトルを変えてみました。

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