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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第1章 染められし心、狂いだした運命
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魔剣センチュリオン

最近更新が遅くてすみません…。

グリードとの話から二日後。スサの町から出たエリーとアリシアはフィレンツェまであと数日というところまで迫っていた。


新たに造った剣、"アングレカム"はエリーの戦い方に合わせて造られたためまるで自分の腕のように扱いやすい。

魔術のみで戦うのも新鮮で楽しくはあったが、やはり自分は前で戦うのが合っている。





「バウチャー、次の任務がきた」

「どんな任務?」


初めての任務は失敗に終わり、アリシアとしてもこれ以上のミスは重ねたくないらしい。

エリーもそれに関わっている身だ。失敗の責任は自分にもある。

アリシアがいいと言うのならエリーも手伝うつもりだ。




「先日と同じ"魔剣"の回収任務。また、グリードと戦うかもしれないな」

「そうだね。でもこの間のように簡単にはやられない」

「当たり前だ。頼りにしてるぞ、バウチャー」


この十日ばかりの特訓でエリーもアリシアも腕を上げたはずだ。

どこまでグリードに通じるようになったか…見てみたのだ。


「それで、その"魔剣"の名前は?」


エリーの問いにアリシアはギルドから手渡された紙を見る。



「…"魔剣センチュリオン"。前回の"トリシューラ"や私の"ブリューナク"などとは違い、人が造ったと言われいる"人造魔剣"だ」


"魔剣センチュリオン"。

デイヴァの、エリー・バウチャーの、幾星霜に及ぶ戦いの原因となった心を蝕む魔剣。



その前にひとつ気になることがある。


「"センチュリオン"はどんなのなの?」

「"レイヴン"が今はなき第7研究室の資料を調べたところ、"魔剣"に対抗するために造られた"魔剣"があると判明した。それが"魔剣センチュリオン"。『数多のつるぎを従え、魔が宿りしつるぎを穿つ魔剣もの』…だそうだ」


第7研究室"オラクル"は神話や民間伝承から魔術の研究を進める機関だ。その神話や民間伝承から"魔剣"の言い伝えを知ることもあったと考えられる。

だが、"オラクル"の資料にも心を蝕むという記述はなかったようだ。



("魔剣センチュリオン"で僕が狂わされる可能性はある。それこそ、運命に乗っ取った結果だ。極端な話僕がそれに行かなければその可能性はないと思う…けど)


だがそれで、アリシアの身に何かかあったとすれば。


間違いなく、エリーは一生後悔し続けるだろう。

確かに後悔はしないと決めた。だがそれはその物事に健明に取り組んだ結果、そうなってしまったらという話だ。

自分が何もせず、アリシアに何かあったら悔やんでも悔やみきれない。後悔しか残らないだろう。


ならば答えはひとつだ。






「アリシア、僕も一緒に行っていいかな?」


心のどこかでは、アリシアに断ってほしいと思う自分がいる。だが。


「私からお願いしたいくらいた。今回も頼むよ、バウチャー」


わかっていることだ。彼女は自分の同行を許可するだろう。アリシアは何も悪くない、全ては自己責任だ。


それにまだ狂うと決まったわけではない。自分デイヴァの戦いを無駄にはしないためにも、ここが正念場だ。





「それで…どこにあるの?」


とある町の中枢にあるなど、人が多いところは避けたい。

万が一、というものかある。



「例によって遺跡。…といっても既に"レイヴン"がある程度場を押さえたそうだ。前回のように奪わせない、ということだろう。でも、グリードか来たら"レイヴン"が敵うわけがない」


グリード自身も"レイヴン"程度では相手にならないといった意味のことを言っていた。

正式名称"情報管理執行機関レイヴン"。"レイヴン"は決して戦闘目的の機関ではなく、監視や偵察などに特化した人材が多い。

秩序の守護者ギルド・ガーディアンがギルドの剣なら、"レイヴン"はギルドの目と耳だ。元より明確に役割が別れている。



「ただの"魔剣"なら鴉が出張ることもなかっただろう。しかし今回の相手は人造魔剣だ」

「ただの"魔剣"と人造魔剣、何が違うの?」


ただ造られた意味や時代が特定されているから、別名が与えられているわけではないのだろうか。


「人造魔剣ではないもの、ここは界造魔剣とでも仮称しよう。人造魔剣と界造魔剣の違いは理由などが特定されているからの他に、最も重要なひとつの理由がある」


無言で先を促す。もしかしたら、"センチュリオン"に打ち勝つヒントがあるかもしれない。


「"適合"。人造魔剣の担い手はその"魔剣"に認められることで、真の力を引き出せるらしい」


つまり、デイヴァは"魔剣センチュリオン"に認められず狂気に囚われたということなのだろうか。





「…ここまで全部ギルドからの言葉。私は、敢えて聞かないことにする」

「何を?」

「バウチャーは、"センチュリオン"と因縁があるのだろう?それがどんなことなのか気になるのは確かだが、言いたくないことはわかっている。この間話してくれたこと以外にも隠し事があるはずだ」


確かに話してないこと、話せないことはある。

自分が人間と魔族の混血であることは告白したが、デイヴァのことなどは伝えていない。

彼女を信用していないわけではなく、そう易々と口にできることではないからだ。特にデイヴァの件は任務の前にする話にしては重すぎる。




「そうしてくれると助かるかな。でも、いつか必ず話すから」

「ああ」


覚悟はできた。この任務が終わったら、アリシアに全てを話そう。



「よし、アリシア行こう!」

「雪辱は果たしてこそ意味がある。今度こそ、奴らに"魔剣"は渡さないッ!」


当たり前だ。それに"センチュリオン"に狂わせられたりはしない。


決意とももに遺跡へと足を進めた。






◆◆◆





そして、そこで見たものは。


「そんな…」

「全滅…だと…ッ!」


無惨にも殺された"レイヴン"の死体が転がっていた。

アリシアと確認したものの、生存者は誰一人としていない。

恐らくは一刀のもとに殺されたのだと推測できる。こんなことができる人間は少ない。



「グリードが…?」


やはり、と言うべきか、グリードも傭兵だ。邪魔者は排除するのは当然のことだ。

むしろエリーとアリシアが殺されなかったことが幸運なのだ。




「と、とりあえず遺跡の内部へ行くぞ。まだ間に合うかもしれない」


"レイヴン"たちはまだ殺されてからそこまで時間は経過していない。

それならまだ間に合うだろう。


「急ごうアリシア!」

「わかっているッ!」






遺跡の内部は既に"レイヴン"が押さえたとのことで、魔物1体すらいない。

あるとすればエリーとアリシアの足音と、殺されたであろう"レイヴン"の遺体のみだ。

また、その遺体のせいて血なまぐさい。


はっきり言って気持ちが悪い。しかし今はそんなことを言っている場合ではない。"魔剣センチュリオン"の奪還のため、足を進めるしかないのだ。




そして、先日見たものと同じような大きい石でできた扉の前に立つ。


「恐らく、中には既にグリードがいる」


アリシアと扉をゆっくり開ける。奇襲に備え、前後の警戒も忘れない。

グリードがその様な手段をとらないことはわかっているが、相手がグリード1人だけだとは限らない。


そして扉を開けた先に待っていたものは。




「ようこそ。秩序の守護者ギルド・ガーディアン、そして"オラクル"事変の英雄よ」


グリードを含めた3人の男だった。

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