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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第5章 彼と彼女の物語
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幾星霜の戦いの果て

強い。

剣術の腕だけならば、キニジやエヴァンジェ、テラに劣っているだろう。

だがそれ以上に、自分を殺すという執念だけは今まで戦ってきた者全てを越えている。


その点では、間違いなく最強の敵だ。

それもそうだろう。自分もシルヴィアが救えるというのなら、何をするかわかったものではない。





「………」


シルヴィアは今にも泣き出しそうな顔で、祈るように見ていた。

死ぬつもりはない。だが、死なない約束はできない。



「どうした!?剣が鈍っているぞッ!」


容赦のない一撃をなんとか凌ぐ。

自分はブロードソードとナイフの二刀流、デイヴァはブロードソードのみの一刀流。

持っている本数も違う上に、戦い方はかなり乱暴だ。

戦争を乗り越えた故の戦い方ということだろう。越えた場数の差が顕著に表れているとするならばここだ。

だが自分が負けているとは思わない。


今までだって自分より強い人間とは何度だって戦ってきた。それを支えてきたのはこれまでに出会ってきた人々から教わり、習得し、応用してきたものだ。





これは――ギュンターの動きッ!


「ッ!」


これは――ウェンとマキナから教わった魔術ッ!


「術式陣!?厄介な!」

これは――キニジから学んだ動きッ!


「甘い!」


クローヴィスの、シュタインの、ガルドの、イヴァンとリアンの、テラの、他にも出会ってきた人々から、学んだ動きッ!


「その程度ッ!」


デイヴァは全てを受けきる、しかし無傷ではない。これまでの繋がりが、自分デイヴァという自分を打ち破る礎となるのだ。



無駄ではなかった。

今まで過ごしてきた日々は無駄ではなかった。

死神と罵られ、自分の無力さに絶望にする日もあった。少しずつ成長していることを実感した日もあった。辛い日も楽しい日も全てがこの旅にあった。


これまでの全ての出来事は決して無駄ではなかったッ!


ここにいる自分は1人で立っているのではない。

出会い別れ殺し合い死別し喜び合い悲しみあったこと全てがエリー・バウチャーを立たせている。


ここに至る全てが、今の自分を作ってきた軌跡だッ!






「――だからこそ、負けられない。自分にだけは負けられないんだ。今まで出会ってきた人全てに証明してみせるッ!」

「悪いな。僕だって負けるわけにはいかない…!譲れないものがあるのは僕だって同じだッ!」


それはお互い同じだ。デイヴァも積み重ねてきた繋がりがあるのだろう。

例え記憶が風化し薄れたとしても、その体が、心が覚えている。


左手に意識を集中させる。――シルヴィアのお陰で会得した憑依術式リチュア

まだ完璧とは言い難い。だが今なら、どこまでも迫ることができる。


デイヴァがシルヴィアを想う気持ちは本当だ。何せ自分なのだから。だからこそ、気持ちだけは負けるわけにはいかなかった。


だが、奇跡は信じていない。そんなものにはすがらない。今手に携えるのは、奇跡ではなく、軌跡。

これを乗り越えるのならば、"エリー・バウチャー"が辿った軌跡の剣だ。




「解放ッ!そしてこれが――シルヴィアのッ!」

「だからどうしたッ!そんなもの…無駄だッ!」


防がれてしまった。それと同時に何かにヒビが入る音も聴こえた。しかし折れはしない。ここまで辿った道はそんな脆いものではない。



「いい加減諦めろ!」


力を込めた蹴りを腹に食らい床を転がる。鈍い痛みが響いてくる。


「嫌だ…!僕はまだ…!」


それでも歯を食い縛り立ち上がる。諦めることは簡単だ。しかしそうしたら、シルヴィアを裏切ることになる。


それだけは…嫌なのだ。




「…お前が行く道はシルヴィアを殺す道なんだぞ!?いいのかそれでッ!」

「違う!それを乗り越えるんだッ!」

「似たような過程を辿って…できるわけが…ない…!」


痛いのはエリーのはずなのに、デイヴァはそれ以上の痛みが走ったかのように顔をしかめる。


――恐らくデイヴァはただエリーを殺すだけではなく、その立ち上がる気力も奪って殺すつもりなのだろう。

未来が変えられないと"信じてしまっている"から、エリーを殺すことしか考えていない。

確かにデイヴァの生きた時代通りに進んでいれば、そうなのかもしれない。だが今この時代は、デイヴァが希望を繋いだ時代だ。


過去を変えられたのなら、未来もきっと変えられるはず。

シルヴィアや仲間たちが死なない未来が、きっと作れる。






「デイヴァ。君はまだ、僕がシルヴィアを殺すと信じてるの?」

「当たり前だ」

「いや、違うよ。デイヴァが過去を変えてくれたお陰で今のこの平和な世界がある。過去を変えられたのに、未来を変えられない道理はないでしょ?」


仮に自分が同じように狂気に囚われるかもしれない。

しかしそれでも、それを乗り越えられる。それができる仲間たちだと"信じている"。

自分が道を外したならば、それを戻してくれる人たちが自分にはいる。

他力本願だと笑われるかもしれない。

しかしそれはエリーの、最大級の信頼の証だ。殴ってでもそれを止めてくれる仲間がいる、だからこそ自分は恐れることなく未来を探せる。





「だから――!」


エリーとデイヴァの剣が打ち合い、宙を舞った。

互いの剣は元の主人の手ではなく、鏡合わせの主人の手に収まる。


エリーが人と魔族の混血――半魔半人ネフィリムだとするならば、デイヴァは運命から解き放とうとした者――リベレイターということだろうか。




「うるさいッ!僕は――!」

「ああああああっ!」


持ち主を変えた剣は激しくぶつかり――、お互いに砕け散った。


「なにっ!?」


驚くデイヴァを尻目に拳に力を込める。憑依術式リチュアを行使する時間はない。ならばこの体を武器にして戦うまでの話だ。


「遅いッ!」


デイヴァもまた拳を握りしめ、殴りかかる。互いの拳が互いの顔目掛け突き抜ける。


「ッ――!」

「ぐっ!?」


互いの顔が同時に殴られる。ちょうど互いの腕が交差し、カウンターになったのだ。





「はぁ…はぁ…」


ふらつく足でなんとか踏ん張る。魔力は先程の術式陣を展開した時と憑依術式リチュアを行使した際に使いきってしまった。

おまけに剣は折れてしまっている。殴り合いの経験はゼロに近い。

だが引くわけにはいかないのだ。



「うおおおおおおッ!」

「はああああああッ!」


意識も朦朧とするなか、それでも拳を振り続ける。もはやエリーの敵はデイヴァではなく、折れようとする自分の心そのものだ。

だからこそ負けはしない。


以前の自分なら露知らず、今の自分なら、エリー・バウチャーならば諦めることは絶対にない。





(――見えた!)


一瞬だけできた隙。逃しはしない。


「終わりだァッ!」


残った力を振り絞り、デイヴァの顎を突き上げる。


「がは――」


確かに聞こえた苦悶の声。そのままデイヴァは壁にもたれ掛かるように倒れ、エリーもそれを見ると力が抜けたかのように膝から崩れた。









嘘のような静寂。

天井から射した光はちょうどデイヴァを照らしている。



「――本当に未来を変えられるとでも?」


デイヴァ自身も光を纏っているようにも見える。いや、実際に光を発しているのだ。

――そう、テラが死んだ時と同じように。



「変えてみせるよ。絶対に、シルヴィアが死ぬようなことにはさせない」

「そうか。もう死ぬ『人間』がとやかく言うことではない…かな」


致命傷を負ったわけではない。しかしデイヴァは光の粒子と溶けていく。




「魔族は"不老"であっても、"不滅"じゃない。――とっくに限界なんて過ぎてたんだよ」

「つまりあなたは…」

「完璧な魔族化をしたのなら、特に何をしなくても魔力は自然と回復していく。だけど僕はもう――そんなことはない。普通の『人間』と同じように、ある程度の休息が必要だった。それも数ヶ月単位の睡眠が」


つまりデイヴァは限界を迎えてもなお、シルヴィアを救おうと戦い続けていたのだ。



「それに、この体は気を抜けばすぐに魔力が霧散し消滅してもおかしくない。それを強引に魔力で抑えてた」


確かデイヴァは魔力がもう残っていないともとれることを言っていた。つまりそれは、ここでエリーを殺せたとしてもデイヴァはどのみち死ぬということだ。



「…"オラクル"は何か言わなかったのかしら?」

「僕がそもそも言ってない。だからエヴァンジェは僕の転移魔術でギルドに強襲をする策を取ったんだ」


もしデイヴァがそうであると言ったなら、エヴァンジェは正面からの戦闘を強いられ、さらに魔物を使った作戦も展開できない。




「どうせ自分を殺せたなら、生きている意味も無かったしいいんだ。…まぁ、結果は達成できなかったけど」


どこか自虐気味に力なく笑う。


「でも、僕は救われたよシルヴィア。その、シルヴィアが大好きだと言ってくれて――嬉しかったんだ」


前のシルヴィアから最期まで聞けなかった言葉。それを数百年後にようやく聞くことができたというのは、救われたと思えるほど嬉しかったのだろう。




「それに忘れてた。こうやって未来を変えようと戦う『人間』を僕は見たんだったな…。一度できたならもう一度できるはず、なのかな」


少し遠い目をする。もしかしたら、初代ギルドマスター、ソーマ・アリーヤのことかもしれない。



「エリー・バウチャー」


デイヴァは再び、生気が戻ったようにエリーを睨み付ける。


「もしお前が本当に、この運命から解き放うと戦うなら、絶対に諦めるな。シルヴィアを本当に好きならそれだけは失うな」


そんなことわかっている。

デイヴァが数百年とシルヴィアを想い続けたのだ、エリーだって想い続けることができる。





そう言うとデイヴァは目を瞑り天を仰ぐ。


既にデイヴァの体の半分は光へと還り、逃れられないものが迫ってきている。


「そうだ、シルヴィア」


今日の予定は?とでも続きそうな平穏そのものの呼び掛け。

だからこそ、シルヴィアは泣いていた。


「笑ってくれないかな。せめて笑って見送って欲しいんだ」

「…! えぇ、わかったわ…」



シルヴィアは涙を拭い一瞬だけ上を向くと、どんなものでも置き換えられないような眩しい笑顔で言った。


「ありがとう"エリー"。あなたのことを、私の身が滅びてもなお――愛し続けるわ!」




デイヴァはそれを見ると静かに涙を溢した。


「シルヴィア…あぁ、僕はこの笑顔に恋い焦がれてたんだ。本当に、救われた。悔いはないよ。――ありがとう」


デイヴァは、光の粒となって、デイヴァとシルヴィアが出会った日とは対照的な――快晴の大空に昇った。









終わったのだ。


いやむしろ、これは始まりにすぎない。

エリー・バウチャーの運命を乗り越える戦いは始まったはがりだ。



「シルヴィア、ありがとう」


何か言うべきだとは思うが、言葉が見つからない。だからせめて、感謝だけは伝えたかった。


「いいのよ。むしろ礼を言うなら私の方。それに更に決意は固まったわ。デイヴァが得られなかった分も、私はエリーを愛し続けるってね」


その言葉が、単純に嬉しかった。



決して、デイヴァというエリー・バウチャーの人生を無駄にしてはいけない。

そうだ、デイヴァの命も背負って自分は生きていく。

そして運命を乗り越えたら、声を大にしてデイヴァに言ってやろう。


――「ちゃんと未来も変えられた!」と。




「帰ろう、シルヴィア」

「えぇ。私たちの帰る場所へ」


確かな明日を信じ、一歩を踏み出した。

その先に広がる未来を掴むために。










――だが、その運命は容易く牙を向けた。


「シルヴィア、危ないッ!」


いち早く危険を察知したエリーは、シルヴィアを突き飛ばした。

そのちょうど真上の天井が崩れ、落下したのだ。


「エリー!大丈夫!?」

「シルヴィアは!?」


エリーのお陰でシルヴィアは無事だ。恐らくエリーもなんとか瓦礫を避けられたのだろう。


「多分最初の爆発で建物に相当ダメージが入ったんだ。いつ崩れてもおかしくない。シルヴィアは早く逃げて!」

「エリーも!」

「僕もなんとかする!シルヴィアは先に逃げるんだッ!」


しかしエリーを置いてはいけない。

こうなれば『影』でこの瓦礫をどかすしかない。




「いた…シルヴィア!大丈夫!?はやく逃げるわよ!」


マキナだ。後ろにはメディアとリディアがいる。何があったかは知らないが、和解したということだろうか。



「でもエリーがまだ…!そうだマキナ!あなたの魔術でこの瓦礫を…!」

「マキナさん!シルヴィアを連れて逃げてッ!僕はなんとか脱出するから!はやくッ!」


瓦礫の向こうからエリーの必死な叫びが聞こえる。シルヴィアを死なせたくない一心なのだ。

だからこそ、ここで優先すべきは――


「シルヴィア、ごめん」


シルヴィアの首筋に手刀を当て気絶させた。


「エ…リー」




「ありがとうマキナさん。逃げて!」

「くっ…!絶対に死なないこと!そうじゃなくちゃシルヴィアが…!」


いつ崩壊してもおかしくはない。ここで足を止めては全員死ぬかもしれないのだ。


「わかってます!必ず…絶対に…またシルヴィアとッ!」

「その言葉覚えときなさいよ!…行くわよッ!」


マキナは覚悟を決め、メディアとリディアを連れて去っていく。

これでシルヴィアは大丈夫だ。








残るはエリーだけ。

どうにかしなくてはと周囲を見渡すと、川に直接繋がっているという水路があったことを思い出した。

実はエリーは泳げない。しかしここで躊躇っていては、いずれここは崩壊し轢死するしかない。


答えは2つに1つ。この水路に飛び込むしかない。


(どうか生きてますように――!)


エリーは覚悟を決め、水路に飛び込んだ。








◆◆◆







――――某所。


彼女は、最新の戦士として選ばれ今頃はその任命式のはずだった。しかし"オラクル"による騒動でそれは中止、任命式は延期になってしまった。


別にそれは後からできるから文句はない。

気になることがあるとすれば、その町にいる人々だが、ギルドはそれなりに上手くやってくれたことだろう。



そして彼女はいつものように、海沿いを歩いていた。


「ついていないな、私も」


彼女は、聞けば誰もが驚く家の出身だ。だからこそその名に恥じないようにこれまで研鑽を積み重ねてきた。

その努力が実ったというのに、その矢先に事件があったのだ。文句のひとつくらい言わせてほしい。




「……?」


砂浜に妙なものを見つけた。

物扱いは良くないだろう。どこからどう見たって人だと自分を戒める。


(女の子…!?)


どこからどう見たって少女だ。まだ十代半ばといったところだろうか。そんな少女がなぜこの砂浜で倒れているのか。



「大丈夫か!?」


良かった、息はある。

とりあえず介抱しなければならない。少女を背負い、仮初めの自宅に駆け出す。




そしてその少女はこう口にした。


「シル…ヴィア…」


第一部、"カミとヒトのエイエン"はこれにて終了です。

エリー・バウチャーの戦いはある意味ここからが本番と言えます。



第二部、"魔剣"編。タイトルは"ツルギヲウガツモノ"。

シルヴィア、この話に出てきた"彼女"、後は影が薄かったクローヴィス。

構想ではこの3人がメインで別々に話が進んで行きそうです。

後はエリーが完璧にヒロインポジションになってました。


第二部はなるべくはやく投稿します。

質問があれば答えるつもりです。

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