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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第5章 彼と彼女の物語
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戦える歓びを

金属音と爆発音を背中で聞きながら、ただひたすらに急ぐ。

道中、剣についた血なのか、血痕がぽつぽつと存在していた。そのお陰でエヴァンジェたちの追跡がしやすい。


エヴァンジェとテラの狙いは間違いなくギルドマスターの命だ。

彼らの野望を成就させてはいけない、何としてでも食い止める必要がある。




唐突にキニジは口を開いた。


「2人とも。頼みがある」

「エヴァンジェと1対1で戦わせてくれ、ですよね?」


わかっていたことだ。エヴァンジェというキニジの最大の敵に、邪魔者などという存在はいてほしくないだろう。

それはエリーでいうデイヴァであるし、それなりに理解はしている。

自分がそうであるのだ、師匠のキニジがそうでないはずがない。



「あぁ、ありがとう。エリー、お前も…決着をつけてこい。自分自身にな」


もちろん、そのつもりだ。








走ること1、2分。前方に見えた人影にエリーたちは足を止めた。



「エヴァンジェ…!」

「遅かったですね…。目的なら既に果たしましたよ、私がね」


エヴァンジェの足下に人が倒れている。


「ギルドマスター…!?」

「えぇ。既に我々の目的は果たしました。後は…」


ギルドマスターを蹴り飛ばし、血塗られている騎士剣を鞘から抜く。




「キニジ・パールとの決着だけだ」

「そうか…。エリー、シルヴィア。お前たちは先に行け。まだテラがいるはずだ」

「…わかりました。シルヴィア、行こう」


心配はある。だがキニジなら勝てると信じるしかない。


シルヴィアと共に再び仲間に背を向け走り出した。





◆◆◆





「……さて。これて邪魔は入りませんね」

「ギルドマスターが殺された時点でこちらの負けも同じだ。それでも戦うか?」


"オラクル"の目的はギルドと魔術研究所への復讐。

その片方のいずれかが達せられたならば、それはもうギルドの敗北と言っていい。

とはいえこのまま"オラクル"を逃がすことはしない。

キニジ自身はギルドによって作られる秩序などあまり興味はない。だが、それでも"オラクル"のやったことは戦争だ。



「つれないこと言わないでくださいよ。我々がやったことは言わば"悪"。罪があるのなら罰を与えられるべき存在です。そしてあなた方は"悪"の対照たる"正義"。ならばその"悪"に鉄槌を下すべきでしょう」


口ではエヴァンジェはこう言っているが本心では違うのだろう。

でなければ――こうも笑っていられるはずがない。




「随分とわかりやすい建前だなエヴァンジェ。結局のところ貴様は――俺と戦いたいだけだろう?」


そうだ、このエヴァンジェの笑みは歓びだ。"戦える歓び"、それをわからないほど自分は鈍ってなどいない。

エヴァンジェは"オラクル"である以前に、ただの戦士なのだ。

生き死にと同じだ。それは他人に決められることなどない、戦士に刻まれた本能。


強敵と剣を交えること。


エヴァンジェは今、自分の前にひとりの戦士として立っている。

それ以上でも、それ以下でもない。





「わかっちゃいますか。これは私闘です。"オラクル"の人間でもない、悪を背負った人間が、キニジ・パールという巨峰に挑むッ!それだけのことッ!」

「それでこそ、貴様らしいッ!…こうして本気で戦うのは最初で最期だな、エヴァンジェ」


第7研究室の頃からエヴァンジェと戦うことはあった。

だがそれはあくまで訓練のようなもので、本気で戦うことはなかった。

数ヶ月前にも戦ったが、あれはお互いに本気で戦ったとはいえないだろう。


だからこれが――正真正銘本気の殺し合い。

キニジ・パールという人間が、友として、強敵として、心の底から剣を交えたいと切望していた、死闘だ。




「来るがいい、キニジ・パール。私を、"秩序"と"正義"を以て斬り伏せてみせろッ!」

「少し違うなエヴァンジェ。ギルドなど関係ない、ひとりの戦士として貴様を倒すッ!」



覚悟はとうの昔にしてある。

後は剣を振りかざすだけのこと。



「今この瞬間は――ッ!」


「――力こそが全てだッ!!」






◆◆◆






「あのときの娘とエリー・バウチャーか。…エヴァンジェとキニジは既に戦っているのだろう?ならば我らも戦うだけだ」


足を進めた先には魔族化した男、テラがいた。

手の一部が刃のように変化いるその様は、『身剣一体』という言葉が相応しい。



「深い事情は問わないわ。私たちはあなたここでを倒す。この戦争で倒れた同志ギルドメンバーのためにもね」

「そうしてくれると助かる。所詮俺は成就させるべき願いはないからな」


だとすればこのテラという男は何のために戦っているのだろうか。ギルドへの復讐が目的ではないのなら、何が彼を掻き立てるのか。





「どういうこと…?」

「聞きたいか、エリー。俺にはただ――通すべき情があっただけだ。保身より大事な、友という情がな」


この男はいずれ滅ぶ道だろうとも、それを行く覚悟を備えていた。

それだけの情がある人間を、ただの倒すべき敵とは認識できない。


尊敬し、それでも乗り越える壁。

だから倒す。故に倒す。


テラが友情をとったように、自分もまた仲間たちへの想いをとる

ギルドのためではない。大好きな仲間たちと、またこの町で笑えるように。


――答えなど、最初から決まっているのだ。





「悪いですけど…ここで死ぬわけにはいかない。自分デイヴァと決着が残ってる。だから倒します、あなたを」

「ええ、あなたには――ここで果ててもらうわ」


隣にシルヴィアがいる。それだけで心強い。

この武人ともいえる『人間』を、打ち倒す。




覚悟を携え、剣を抜く。


「――行きます」

「…フッ、その気迫、変わらんな。――こい、若者よ!このテラを乗り越え、新たなる時代の風を吹かせてみろッ!」


エリーとシルヴィア、それに相対したテラはお互いに向かって大きく一歩を踏み出した。

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