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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第4章 秩序を壊す者、己を殺す者
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集いし剣

「まずはその腕からだッ!」


決定的な一撃を与えられないのなら、与えるまで斬り続けるまでだ。

それまで諦め悪く何度も何度で斬り続けてみせるッ!




「ガァァアア!!」


魔族が右腕をあげエリーを捉えようと、今度は正確に凪ぎ払う。


「なら、右腕からだッ!」


振り払われた右腕の上に飛び乗り、肘関節まで走る。


「私を無視とは上等ね!」


エリーが右腕に登る間、シルヴィアが魔族の左足を斬りつけ意識をそちらへ逸らす。




不安定な魔族の右関節になんとか辿り着く。

自分が持っていた剣を一旦鞘にしまい、今度は右腕に意識を集中させる。


「――憑依術式リチュア、解放ッ!!」


右手に光が宿り、出てきた剣を握り締める。2本目の剣の創造も成功だ。



「はああああッ!!」


両手の剣を魔族の右関節に突き立てる。


「ガァアアアァァァァッ!?」


確実に効いている、それだけで気力が湧いてくる。だが剣が2本だけでは足りないのはわかっている。


「まだだ…!まだ造れるッ!」


今度は2本同時に造り出す。それも魔族の肘に捩じ込む。

まだ足りない、ならば魔力の続く限り造り続けるだけ。




――造り続けて8本目。


「ガァァァァァァァッ!」


遂に骨まで達したのか、威嚇の咆哮ではない別の叫び声だ。

これなら行けると再び2本造り出す。


「これで10本目ッ!!」


反対側ではシルヴィアが『影』を纏わせた剣で左手を斬っている。そのお陰で魔族はエリーだけでなくシルヴィアにも注意が向き、どっちつかずの状況となっている。



10本目を突き立てると、これまでにない手応えが腕を痺れさせる。


「いける…ッ!」


鞘にしまっておいた剣を抜き魔力強化を全力全開で施し、思いっきり魔族の肘にむけて振り降ろす。

剣は正確に肘を捉え、そして


「ガァアアアァァァァァァァァァ!?」


魔族の右肘から先は両断され、盛大にどす黒い血をぶちまける。




「よし!」


まだ倒せたわけじゃない。油断こそできないが、喜ぶことは許されるはずだ。

これなら…勝てるッ!


返り血を大量に浴びながらも地面に着地し、再び立ち上がろうと足腰に力を入れる。





――だがエリーの足はそれを拒否し、エリーの体は崩れ落ちた。


「う、嘘でしょ…。まだだ…!こんなところで僕はッ!」


足がダメなら手で這ってでも戦ってやろう。まだ…魔族は倒れてなどいないのだからッ!

その手すら、感覚があまりない。


「動け!動けッ!動けよぉ!」


こんなところで倒れた自分はもうどうでもいい。ただ、シルヴィアはエリーを庇って戦い続けるだろう。

彼女だけには死なれたくない。さっき守ると誓ったというのにここで自分が倒れてどうする。





「エリー!」


シルヴィアが顔を真っ青にして近寄ってくる。


「シルヴィアだけでも…逃げて…!」


自分の命などもうないも同然だ、後は殺されるのを待つだけ。だからシルヴィアだけには生き残ってほしい。


「何言ってるのよ。あなたがそうであるように、私もエリーがいない世界なんて嫌だもの。…あなた1人で死なせないわ」

「シル…ヴィア…」


血塗れのエリーの顔にそっと手を添え、魔族の睨み付ける。




「逃げはしないわ。私はエリーと一緒に死んでやるッ!」


エリーを抱き、覚悟を決めた顔で吠える。


魔族は鈍重な足取りで2人に近付き、残った右手を振り上げ、それを振り下ろした。

やけにゆっくりと見えたそれはエリーとシルヴィアを捉えた。












「…俺の仲間に手を出すとはいい根性してるじゃねぇか、クソッタレ」


――はずの豪腕は何者かによって防がれた。



「"ディザスター」

「"アウロラ」

「「ブレード"ッ!」」


禍々しい光を放つ巨大な剣と極光を放つ巨大な剣が魔族の体を捉えると


憑依術式・限定解放リチュア・リミットドライヴッ!!」


蒼い閃光が2人の側を一瞬で駆け、魔族の左手を斬り落とす。




「ガァアアアァァァァッ!?」


右腕の肘から下だけでなく、左手を失った魔族は動揺しているのか一歩、また一歩と後ろに下がっていく。



「な、なんで皆が…?」


ギュンター、ウェン、キニジ、マキナ。もう見れないと思っていた仲間がそこに立っていた。


「学院の生徒がな、エリーとシルヴィアが2人で戦ってるって教えてくれたんだよ。確か名前は…アナスタシアって言ったっけな。元々北区の町の外に魔族が出てることは知ってたけどよ、あの子が場所を教えてくれなければ2人とも救えなかった。あぁ、感謝してる…本当にな」


ギュンターはそれだけ言うと、魔族に向かって走っていく。



「マキナさん、治癒を」

「わかってるっての!"アスクレピオス"!」


マキナは蛇が巻き付いている意匠がある杖を取り出すと、エリーに翳す。


「外傷は…なし。これ返り血か。…!? 何よこれ、体の中ボロボロじゃない!アンタ何やったのよ!」


この杖から発せられる魔力はキニジのあの二振りの大剣や、シュタインの剣と似ている。

後から聞いた話では"聖杖アスクレピオス"と呼ばれるもので、キニジの"魔剣クラウソラス"と"魔剣クレイヴ・ソリッシュ"、シュタインが持っていた剣――"魔剣ダーインスレイヴ"と近しいものらしい。




「ちょっと憑依術式リチュアを使ったくらいです…」


嘘は言ってはいない。


「はぁ!?ちょっとでそんなんで体がボロボロになるわけないでしょうが!…何本作った?」

「………10本です」


無理をしているのはわかっている。だがあそこで使わなければ、右腕を切断できなかったかもしれない。




「じゅ、10本!?ばっかじゃないの!アンタ魔族にでも成りたいわけ!?てかそれでよく魔族化しなかったわね、運がいいわよアンタ」


確かにシュタインの時も自分は魔族化しなかった。2度も奇跡は起こらないと思っていたが、そうでもなかったのだろうか。

だがこれ以上運に頼るわけにはいかない。やはりキニジに教わりつつ地道に鍛練を積むのが一番だ。



「とりあえず、ある程度はあたしの"アスクレピオス"で治せる。歩けるくらいにはなるはずよ。ただ2度とこんな無茶はしないこと。アンタが魔族化したら、苦しいのはウェンたちなんだから」


同じことをウェンにも言われた。ウェンとマキナはここ2週間は研究室に籠って一緒に魔術の研究に勤しんでいたとのこともあるし、実はかなり仲がいいのかもしれない。



何にせよ、自分が悪いことには変わらない。


「そう…だね、ごめんなさいマキナさん」

「わかればよろしい。今度からは無理なく使うのよ」


"聖杖アスクレピオス"が光輝く。するとエリーの体に徐々に力がみなぎり、足はちゃんと地面を踏みしめられるほどまで回復いていく。



「これが治癒魔術ってものかしら。はじめて見たわ…」

「そうね。ただ治癒魔術はそれ相応のリスクがあるのよ。開いた傷を速効で直すのよ?体への負担が大きいに決まってるじゃない」


だとすれば今のエリーは相当の負担がかかっていることになる。もしかして遂に自分はギルドに消されるのではないだろうか。




「あぁ、安心して。"アスクレピオス"はその負担とかを何故か知らないけどチャラにできるから。ま、あたしとして理屈がどうこうより、その実用面を見るんだけどさ。さてと、後はあたしたちに任せて2人は見てなさい」


それだけ言うとマキナは立ち上がり、魔族と戦っているギュンターたちへの元へと足早に駆け出していった。


「…ありがとう、みんな」





◆◆◆





その後、魔族は無事に倒された。

4人の実力もあるが、エリーとシルヴィアが奮闘してくれたお陰だとギュンターは言っていた。


キニジが駆けつけたときに使った憑依術式・限定解放リチュア・リミットドライヴは言わばキニジの奥の手らしく、エリーのピンチとあって迷いなく使ってくれたことを嬉しく思った。

さらにその上に憑依術式・完全解放リチュア・フルドライヴなるものがあるらしいが、30秒しか持たない、魔力を使い果たしてしまう、とまず使わないらしい。


師匠が自分を思って奥の手を使ってくれたことに感動して思わず涙を流しかけたが、キニジよる今回の憑依術式リチュアついての説教が始まってしまったため流すことはできなかった。


キニジだけではなくウェンにもそのことで叱られ、ギュンターには無理をしたことで怒られ、レベッカとマリーには無理したこともそうだが服を血塗れにしてしまったことで説教を食らってしまった。

全部自分を思ってのことだ、だから文句は言わないが少しは優しくして欲しかった…。


ではシルヴィアだが、「惚れ直したわ!」と以前にも増して一緒に居たがるようになった。

別にそれはいいし問題ないのだが、その惚れ直したとの理由がわからない。どちらかと言えばエリー自身も…。

だがもうシルヴィアが幸せそうならそれでいいと思う。



そして魔術学院だが。

エリーとシルヴィアが体を張って生徒を助けたと評判になり、教諭たちからは持て囃される、生徒からは憧れの目線で見られる、と慣れない経験に動揺し続けている。



あと何故か男子生徒に告白された。勿論断ったが、流石に男と明かすことはできず「他に好きな人がいるんです」と言ってしまった。

それからは『あの』エリーちゃんの愛しの人は誰だッ!?と学院内で話題になり、女子生徒からは尋問される日々が1ヶ月ほど続いた、

まさかシルヴィアとは口が裂けても言えないため、学院外の人だと言葉を濁している。


それを他人事のようにニヤニヤしながら見ていたシルヴィアとレベッカにいつか仕返ししてやろうと密かに決意している。






そして、学院での生活を始めて2ヶ月が過ぎた。


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