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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第4章 秩序を壊す者、己を殺す者
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学院での生活

それから2週間が過ぎた。


エリーたちが在籍するクラス――4組に謎の美少女が3人入ってきたと一時期学院で話題にはなったが、2週間も過ぎれば普段通りの日常が戻ってくる。


…と隣の席の女子生徒が言っていた。


ちなみに男と明かすタイミングを逃してしまったため、今でもエリーは女子生徒の制服を着て登校している。バレる気配が一切ないのが恐ろしいところだ。

スカートも最初は暖かくなってきたとはいえ、脚が寒く感じていた。しかし今はもう慣れてしまった。それが悲しくてしたかない。



最初にこの格好のままエリーが帰って来たときにはマリー、キニジ、ギュンター、ウェンの全員から正気を疑われた、ついでに「お前もう19歳なのに大丈夫か!?」とまで言われた。大丈夫です。

19歳になったところで年齢詐欺が3から4になっただけ――つまり"代償ペナルティ"で体の成長が停まった日から4年近くということになる。



エリーの"代償ペナルティ"は体の成長の停止ではないとルカ副室長は語っていたが、そうではないのならどういう理屈なのだろうか。また条件付きだが似たものもあるとも言っていた。


今さらどのような原因であろうとこの"代償"に後悔はしないし、『体格で劣るならそれを上回る策略で打ち破れ』とシュタインの最期の言葉もある。

この手をシュタインの血で濡らした以上、シュタインの命も背負っていくと決めたことにはかわらない。


シュタインと戦場で出会わず、他の場所で出会っていたのなら…きっとシュタインとはエリーたちは友好な関係を築けただろう。


(今は余裕寂々に語ってるけど…あの時に僕は死んでもおかしくはなかった)


シュタインがエリーに一撃を食らわしたあの時に拳に魔力を込めていれば、エリーは間違いなく死んでいただろう。


慈悲、だろうか。キニジはそのことを『才ある若者の芽を摘みたくなかったのか、それとも…』とだけしか言わなかった。

結局エリーは何もわからなかったのだ、シュタインのことを。


フィレンツェに帰る直前、クローヴィスに会えたのでそのことを聞いてみた。


「悪いこととは言わない。だけどさ、エリーは出会った人に情をかけすぎてるんじゃないかな。…もう1度言うけど悪いことじゃないよ?でもそれでいつか足を掬われるかもしれないじゃん?…幼馴染みとして、不安になるわけよ」


心から心配してくれるその言葉は嬉しい。でもこの悪癖とでも呼べるものは変わらないと思う。

それが優しさなのか甘えなのかはわからない。でも自分は出会いは何かしらの縁があるとその人物に入れ込んでしまう。






ここまで思考を巡らせて、かなり内容がずれてしまったことに気付き小さく笑ってしまう。


「……術というのは、理論だけでいえば全て再現が可能だ。魔力さえ足りていれば時を戻せたり、空間転移、別次元への干渉などの大魔術の行使も可能だと魔術研究所は結論を出している」


そういえばウェンとマキナはエリーたちが学院にいる間は第2研究室"タスク"に籠って研究に専念する、と言っていた。

ギュンターはキニジとともにいつも通りGMギルドメンバーの仕事をこなしている。

キニジは他にも孤児院の手伝いをマリーに強制されているが、キニジもマリーも楽しそうなのでいいだろう。



「……は問題だ。魔術と魔法の違いはなんだ?そうだな…バウチャー、答えられるか?おい、バウチャー!」

「ちょっとエリー!指されてるよ!」


後ろからレベッカに制服を引っ張られ、意識が浮上する。どうやらうとうとしていたらしい。


(魔術と魔法の違い?知らないよ…)


とはいえ黙っているわけにはいかない。ここは恥ずかしいが素直に知らないと答えるしかないと立ち上がる。




「え、えっと…わかりません」

こればかりは仕方ないと自分を慰める。知らないものは知らないのだ。


「そうか。答えは単純、同じだ。『魔法』という名は今はこのように研究が進んでいなかった頃の呼び名だ。研究されて学問として成立してからは『魔術』と呼ばれるようになった」


随分とあっさりしているリットンに驚きながらも、席に座る。



「大丈夫ですよエリーさん、私もわかりませんでしたから」


優しく声をかけてくれたのは隣の席の女子生徒こと、アナスタシア。金髪の美人と学院では有名だ。


ちなみにシルヴィアもアナスタシアき負けず劣らずの美人と噂になり、3人の中では一番有名なのだがエリーとしてはあまり面白くない。因みに右からシルヴィア、レベッカ、エリーという順番で有名なっている。ほぼシルヴィアとレベッカに差はないのだが。



先日このことの愚痴を溢してしまったとき


「ねぇねぇなんで?なんで私が有名になると困るかしら?ねぇなんでなんで」


とやたら嬉しそうに問い詰められたので、それからはその話題に関しては口を噤んでいる。


レベッカもレベッカで持ち前の明るさで人気は高い。この間アタックして見事撃沈した強者がいるとまで聞いた。

シルヴィアやアナスタシアの場合は雰囲気の問題もあるのだろうが、恐れ多くて告白できないらしい。




では、エリーの場合だが。

元より会話が得意ではないため、シルヴィアとレベッカ以外の話相手は多くない。アナスタシアなどの数名の女子生徒及び男子生徒と軽く話すくらいだ。

一時とはいえせっかく学院に入学したのだから、せめてもこのクラスの生徒とは仲良くなりたいとは思う。

だがあまり他人との距離感なるものがわからない。シルヴィアたちの場合はこちらが距離をとってもそれを詰めてくるタイプだったため、今までそれを実感したことはなかった。

剣や魔術の鍛練も重要だが、人との付き合い方も練習しなくてはならないと固く誓う。






この後は(建前は)魔術師コース志願のエリーとシルヴィアは魔力の効率的な使い方の訓練、研究者コース志願のレベッカは魔力伝導率がどうのと専門的な単語が出てきたと頭を抱えていた。



「明日は魔術師コース組は、実技テストとなっているのは知っているな?」


はじめて聞いた。後ろを見ればシルヴィアも「私知らないのだけど」と言いたげだ。


「実技テストと言ってもどうせ簡単だろ?…と思っている諸君のために今回の相手は『魔族』になった」




「魔族!?」


思わず、大声を出してしまった。

だが魔族はたかが実技テストごときで相手にさせる存在ではない。この学院の教員は生徒を殺したいのだろうか。


「どうしたバウチャー」


思わず立ち上がって捲し立てる。


「お言葉ですがリットン教諭。実技テストごときのために生徒の命を危険に晒すのは…」


自分とシルヴィアは魔族との戦闘経験がある。それでも確実に勝てるほど魔族は甘い存在ではない。




「ハハハ、冗談だよ。真に受けないでくれバウチャー。"だが実技テストごとき"という言葉はいただけないな。確かにお前やクロムウェルは実戦経験ならここの面子を上回っているだろう、だからこそ初心に返るというのもいいぞ?相手は比較的弱い部類の魔物だ、それならここの面子でも倒せる」


そういうことなら安心した。人のことは言えないが、自分の力が足りずに死んだり死なれたりするのは辛いものがあるからだ。

とりあえずそういうことなら安心したと席に座る。だがエリーは意図しなかったとはいえ、エリーの言葉に反応する者は多い。



「エリーさんってもしかしてGMギルドメンバーなんですか?」


アナスタシアのこの疑問もごく自然なものだろう。


「もしかしなくても、そうかな」


隠していたつもりはないが、別に打ち明けるつもりもなかった。自慢できるものではないのもある。



「凄いんですね!シルヴィアさんもそうなんでしょう?」


だからこのアナスタシアの反応には違和感を感じる。


周りの生徒も「俺らと歳そんなに変わらないのにすげぇな」とやたら持ち上げている。正直そこまで持ち上げられると気持ち悪い。

シルヴィアもその持ち上げを気持ち悪く感じたのだろう。


「それほどのものじゃないわ。ただ目先の問題を解決してるだけよ」


珍しく不機嫌に吐き捨てる。




一瞬、クラスの空気が凍り付く。シルヴィアがここまで感情を拝して言うとは誰も思っていなかったのだろう。


「はいはい。では明日の朝各々の動きやすい格好をして集合だ、では終わりにしよう」


リットンの声だけ、教室に響いた。





◆◆◆




その夜、エリーは最近の日課である憑依術式リチュアの訓練に励んでいた。

最初は1人でやっていたが、キニジ見つかってからは彼も協力的に教えてくれている。どうやらルカ副室長の「中途半端に教えた」という言葉にむきになったようだ。


「――はぁッ!」


最近は詠唱なしでも10秒ほどなら維持できるようになった。なら使い捨てるように連続で作り出せないのかと思うが、魔力量の問題と作り出すごとにある程度集中しなければならないため、そう上手くはいかない



「なかなかいいんじゃないのかエリー、だが今日はここまでだ。明日に備えておけ」


キニジは憑依術式リチュアを完全に習得するのに2年かかったという。キニジでさえ2年かかったのだ、エリーはそれ以上かかるだろう。

だから焦ることはないのはわかっているが、一刻も早く使いこなしたいという欲求もある。



それに以前は倒れる寸前まで鍛練を続けていたが、キニジが見てくれるようになってからは無理をするなと釘を刺されている。キニジが本気で怒ったことを考えると本当に危険なことだったのだろう。

キニジ曰くいきなり使いこなそうとするのではなく、地道に慣らしていくしか道はないそうだ。



「師匠、また明日もよろしくお願いします」

「……弟子の成長を見るのは楽しいな。ん、あぁ、いくらでも訓練はつけてやるぞエリー」


そう言って優しく笑うキニジは、さながら父親のようだった。






早朝。

学院はフィレンツェの北区に位置するため、南区にある孤児院からは歩くとそれなりに時間がかかる。

実に2週間ぶりになる戦闘服を着込み、鞘を腰に固定し、ナイフ3本のうち2本を左、1本を右と両脚のふとももにあるナイフホルダーに入れる。

これで準備完了だ。


「――よし」


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