訪問者
実を言うと、それから先のことはほとんど覚えていない。
シュタインの亡骸を丁寧に埋葬し、クローヴィスとギュンターに慰められながら歩いていたらマキナと遭遇。ウェンが倒れているのを見てあわや戦闘かと思ったがマキナの説明を受け剣を収め、シュタインの剣をギルドに渡さないといけないのことで剣を回収した…までは覚えている。
気付けば1週間が過ぎていた。
この戦争――――後に継承戦争と呼ばれたこの戦いはオルクス側、つまり王立軍、クロムウェル公爵家が率いる鉄騎隊、有力諸侯の連合軍の勝利として幕を閉じた。
反乱軍の指導者であるビドゥクン・キスリング侯爵は捕縛、現在は裁判にかけられているという。
キスリング側の貴族所有の土地は王家の管轄下に入り、結果的には王家の権力が増大するという皮肉な結末となった。
…はずだった。
オルクスは聖職者、貴族、平民を召集し部会を結成。その末、管理下になった土地は小作人に破格な値段で売却することに決定した。
クローヴィス曰く、「もうこれからは王が絶対的な権力を握る時代ではないさ。まだ私は個人的な軍隊…王立軍を所持してはいるがあと数世代もすれば王立軍なんてものもなくなる。…今回のキスリング侯らの反乱で色々と思い知ったよ。この国はまだ王を必要としているのは確かだ。だが、いつかこの国が身分などない国になることだろう。…さて!その日のために国を守らねばな!」、とオルクスは言っていたとのことだ。
余談ではあるが、鉄騎隊の活躍を見てオルクスは鉄騎隊をニューモデルアーミー、新模範軍としていくらしい。
またマキナによると、今回は内乱とのことでギルドも易々と手は出せなかったらしい。そのため苦肉の策としてマキナとシュタインが送られたが、その内1人を喪う手痛い失敗を犯したとのこと。
ギルドからエリーたちへの報復も心配だったが、『ギルドは絶対的な中立組織』のスタンスを崩さずそのような手段はとらないとのことだ。ギルドという組織が実力主義なところもあるのだろう。
だが、エリーが禁術を使ったことに関しては報告しなければならないとのことだ。
このまま無断で使い続けるようなら、秩序の守護者とギルドの情報機関"レイヴン"に抹消される可能性が高い。
そのためにもギルド、もっと言えば魔術研究所に行けねばならない。つまり、ギルドの本部と魔術研究所があるフィレンツェに戻ることになる。
フィレンツェを出てから1ヶ月くらいしか経過してないが、また戻ることになるとは思ってはいなかった。
これも全て自分が原因だから文句は言えないが…。
そしてエリーたちだが。
シルヴィアは『影』の反動で倒れ、ウェンもまた魔術の反動でこれまた倒れていた。
ウェンは半日ほどで意識を取り戻していたが、シルヴィアは未だに意識が戻らない。
この1週間、暇さえあればシルヴィアの傍らで目覚めるのを待っているが、日に日にシルヴィアはこのまま目覚めないのではないかという不安が募っていく。
自分が倒れたときもシルヴィアが同じような気持ちだったのかと思うと…。
「シルヴィア…」
そっと、シルヴィアに触れる。普段は気恥ずかしくて言えていないが、やっぱり自分はシルヴィアのことが好きだ。それは変わらない。
「だから、起きてよシルヴィア…!」
涙を溢れさせながら懇願する。エリー自身気付かなかったが、シルヴィアにかなり依存していた。命に別状はないとわかっていても、シルヴィアを喪ってしまったら…という考えが脳裏を過る。
シルヴィアの声も仕草もこれから見聞きできないなんて考えられない。
ふと、シルヴィアが目を覚ます。
「んっ…。誰か私のこと呼んだ…?」
よく寝たと瞼を擦って起き上がる。だが目の前のエリーを確認すると
「起きたらてん…エリーが?夢ねこれは…おやすみなさい」
再び横になり、瞼を閉じる。
「夢じゃないよ!よかった…シルヴィア!」
嬉しさのあまり抱き付く。普段ならできないが喜びのあまりそうさせてしまう。
「え、エリー!?うそ…エリーから抱き付くなんて…」
言葉では信じられないといった風情だが、しっかりと抱き返していた。
「よかった。シルヴィアがこのまま起きないんじゃないかって…ぼ、僕は…」
涙混じりになりながらも思ったことをぶつける。
「大丈夫、私は死なないわ。エリーを残して勝手に死なないわよ、そうでしょう?」
「うん。死なないでね…シルヴィア」
よかったと抱き合ったまま頷く。
そして訪問者は突如として訪れる。
「エリー様。昼食の用意が…」
「……あ」
扉を開け、入ってきたシャルルが目にしたのはベッドの上で抱き合ったエリーとシルヴィアの姿だった。
シャルルはエリーとシルヴィアを交互に見比べると楽しそうににっこり笑った。
「申し訳ございません、逢い引きの最中でしたか。お邪魔しましたわ。どうぞごゆっくり…」
それだけ言い残し、扉を閉める。
「待ってシャルルさん!」
急いでベッドから飛び出し、シャルルを制止しようとする。
どころがシルヴィアに手を捕まれる。
「待ってエリー。もう少しゆっくりしましょうよ」
「………。うん、そうだね」
久しぶりにシルヴィアとゆっくり話でもしよう。そのくらいの贅沢くらい許されるはずだ。
結局、この戦いで自分への答えは見つからなかった。すぐに見つかるものでもないし、焦ることはないだろう。
だが自分のせいでシルヴィアたちを傷付くようなことがあれば…その時は――
1時間ほど話し込み、空腹を満たすためにシルヴィアの部屋がある2階から1階に降りるとそこにはシャルルが立っていた。
「お嬢様、エリー様。お2人の時間は終わりですか?」
「なんか失礼ね…。単にお腹が空いただけよ」
気の置けない関係だからこそできるやり取りに思わず微笑んでしまう。
そういえば、シルヴィアはここ1週間寝ていたために何も食べていない。
「シルヴィア、1週間何も食べてないけど胃とか大丈夫?」
「そうですわね。お嬢様は胃に優しいものを食した方がいいかと」
「言われてみればなんか痩せた気がするわ、食べてないとこうなるのね、…あれ、でもエリーって暫く寝てても特に痩せなかったわよね?」
………。
何と答えればいいかわからなかった。確かにそうだしそうこたえればいいのだが。
「エリー?」
「ぁ、うん。食べてもお腹の中に食べ物が入ってる分だけその間は体重増えるけど、いくら食べても元の体重は増えないよ。逆にいくら食べなかったとしても体重は減らない。前一人旅してた時に食べなくても死なないかなと思って絶食したことあるけど、栄養失調で死にかけたから食べなくてもいいってわけじゃないみたい」
代償で成長が止まっているからなのだろう。だがそれでは食べなかったとしても体重が減らない理屈が成り立たないのだが。
「そうなのですか…。ですがエリー様には特に精のつくものを食べてもらわないと困りますわ」
「何でですか?」
シルヴィアこそ精のつくものを食べるべきだと思うのだが。
「えっ。お2人とも、お嬢様の部屋で何してらっしゃいました?」
なんでそんなこと聞くのだろうか。
「話してましたよ?」
「イチャついていたわ」
同じ時間を過ごしていたはずなのにどうしてこうも表現が違うのか。
それはいいとシャルルは一旦それを置いて
「なんで手を出さないんでしょうね…。それよりも昼食にしましょうか。本日は私が腕によりをかけて」
コンコン。
屋敷の扉のドアノッカーの音だ。
「お客様でしょうか?見てきますね」
シャルルが扉を開くとそこには―――、
「久し振り…というわけではないな、エリー。2カ月ぶりくらいか?」
"豪傑"の異名を持ち二振りの大剣を操る剣士にしてエリーとクローヴィスの師匠キニジと今回の戦争にてエリーたちと対立したマキナがそこに立っていた。
「ここがウェンが仕えてる…。おっと失礼。秩序の守護者No.8マキナ・アモーレ」
「同じくNo.9キニジ・パール、ここに推参した。…フッ、堅苦しいのは無しだ。率直に言おう。エリー、お前にギルドと魔術研究所からの用事だ。悪いがフィレンツェに来てもらうぞ」
これが何を意味するのか、わからないエリーではない。
「わかりました。行きます」
何が起こるかはわからない。だが前に進むだけだ。
3章 継承戦争はこれで終了です。
書いてて思いましたが、本来の継承戦争とはニュアンスが少し異なるんですよね。とはいえ書き直せなかったので続行しましたけど。
また裏設定になりますが、魔術の詠唱は口語ではなく魔術用の言語があります。
本編では口語に訳したものを書いています。
4章 秩序と起源を追うもの(仮題)は年明けに投稿できるように頑張ります。




