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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第3章 継承戦争
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決着②

「まるで、全てのピースがはまったかのようなこの感じ…まさかここでその境地へと到達出来そうになるとはな!」


シュタインは今までよりも更にはやく鋭い動きを見せる。




「動きが全然違うじゃねぇかよ!本気じゃなかったってか、クソッ!」

「いや本気を出していたさ。だが…フフ、感謝するぞ。お前たちのお陰で更に上を目指せそうだ…!」


つい先ほどまで数的有利を保っていたエリーたちが、今度は逆に押し込まれる。

クローヴィスはそれでも必死に食らいつく。


「まだだ…!ここで死ぬわけにはいかない…そうだろエリー!」


動きが増したシュタインによって徐々に傷を負っていくものの、それでも決して引かず、僅かな可能性があるのならばそれを手繰り寄せる。


(そうだ…クローヴィスはいつもこう…諦めが悪かった)







孤児院に来た頃のエリーは周りから距離を置き、誰ともわかり合おうとしなかった。

それでも諦めずに、どんな暴言を吐かれても、最後まで諦めず遂にはエリーの心を開かせたのがクローヴィスだ。

それに比べて自分はどうだ?勝てないと思ってきたのではないのか?


(僕も、多少は諦めが悪くならないと)


クローヴィスだけではない。ギュンターだって一歩も引かずに戦っている。

その2人に報いることが出来ねば自分は胸を張って、戦ったなんて言えないッ!





「だあああああっ!」


まずは2人と斬り結んでいるシュタインの間に割り込むようにナイフを投擲。


「狙いが甘いぞ!」


確かにナイフはシュタインの横を通り抜け飛んでいく。

だが狙いはそこにある。




「ギュンター!」

「任せろ!」


ギュンターは大剣を自ら手離し、エリーが投擲したナイフを取るとシュタインの背中に向けてナイフで刺突を試みる。


「くっ!?」


シュタインはなんとかそれを弾き返す。そのままナイフは遠くへ飛んでいってしまった。残りのナイフは2本。





「エリー!合わせるぞ!」

「わかった!」


一瞬だけ後ろをむいたシュタインにエリーは右から、クローヴィスは左から同時に斬撃を放つ。

それをシュタインは後ろに下がることで躱すが、そこには大剣を手に取ったギュンターが構えている。



「嵌まったな…シュタイン!」


ギュンターの大剣が確かにシュタインの胴を捉えたかに見えたが、

「その程度…舐めるなァッ!」


全力の魔力放出バーストで阻まれる。


「なっ!?…チイッ!」


付近にいたギュンターは吹き飛ばされるがなんとか体勢を立て直す。

シュタインの強さ、生き延びることへの執念は感服するほどだ。シュタインもクローヴィスとは別方向だが、決して諦めない人物なのだろう。





「ハァ、ハァ…。フッ、これほどの強者たちと剣を交えられるのはやはり嬉しいな。だが、――勝つのは俺だッ!」


その声とともに一瞬でエリーとの距離を縮め、剣を振り降ろす。


「…ッ!!」


まずはシュタインの剣を受け止め、勢いを殺さずそのまま流し、地面に叩き付けようとする。だが


「剣だけが武器では、ないッ!」

両手で持っていた剣から右手を離し、そのままエリーの鳩尾に拳を叩き込む。


「がはっ――」


痛みとともに肺から全ての空気が吐き出される感覚。そのまま殴り飛ばされる。





「エリー!クソッ!」


それを見たクローヴィスとギュンターは激昂し、冷静さを欠いたように攻撃を重ねる。


「…だ、ダメだ。2人とも…ッ」


このままでは2人もやられてしまう。激痛が走る腹を押さえながらも、なんとかして落ち着かせなければと剣を支えに立ち上がる。


「エリー、大丈夫かよ!?」

「大丈夫じゃないよ…正直倒れそう。でも2人とも落ち着いて…ここで冷静さを失ったら…」


腹だけではない、吹き飛ばされた時に全身も打ち付けている。

だがそれでも倒れるわけにはいかない。諦めない、それをシュタインに教えられたのだ。

どんな状況でも諦めず、掴んだチャンスは決してのがさない。

そのシュタインこそ、本当の戦士なのかもしれない。





でも――、

「僕だって…負けるわけにはいかないんだッ!」


先ほど殴り飛ばされた際に手にしていたナイフは失ってしまった。残りは1本、最後の賭けに出るときだ。

仮に最後のナイフで成果を出せなかったとしても、憑依術式リチュアがある。

だが魔族化する危険もある。前回は運良く魔族化しなかったものの、今回は無事とは限らない。2度も同じ奇跡は起こるはずがない。ならば使用はしない方がいいだろう。

それでも使わなければならないのなら、一瞬、本当に一瞬だけだ。一瞬だけなら今のエリーでも詠唱は必要ない。





「これが…最後の攻防だ…。クローヴィス、ギュンター、お願い」


息も絶え絶えになりながら、最後の力を振り絞る。


「……ッ!あぁ…任せろエリー」

「言われるまでもないぜエリー。ま、大丈夫だって安心しろよ」



正直、意識が消えそうだ。それほどまでにシュタインの一撃は重いものだった。

だが疑問が残る。

シュタイン拳に魔力強化を施せるはずだ。もし魔力強化をした拳でエリーの鳩尾に一撃を加えていたのならば、エリーの内蔵は無事ではすまないだろう。そのまま死亡すらありえる。

だがシュタインはそれをしなかった。どういう意図でそうしたのか、気になりはするが聞ける状況ではない。






「シュタインさん。次で決めます…!」

「来い。その一撃、真正面から打ち破ってみせよう!」





「はあああああっ!」



3人同時に走り出す。右をクローヴィス、左をギュンター、中央がエリーという配置だ。


「……込めろ…!せいっ!」


ナイフをシュタインの足下に投げつける。


「むっ…!」


僅かに体を逸らす。当たらないとわかっていても、反射で避けようとしてしまう。

つい先ほどナイフを投げなかったときに避けなかったのはクローヴィスと鍔迫り合いをしていたからだ。だか今はそうではない。


(これで当たる面積が増えたッ!)




「今だッ!"リペレ・トニトルゥイ"!」


ナイフを中心に雷が発生する。

これは憑依術式リチュアの応用とシルヴィアの『影』が憑依術式を応用した魔術であると知り、それを生かせないかと密かに練習した"魔術を物体に込める"魔術だ。

1度込めてさえしまえば後はトリガーとなる魔術の名前を言えばいいだけだいい。

自分のとっておきのとっておきだ。ナイフは魔術の負荷に耐えきれず壊れてしまう。つまりエリーのナイフはこれで使い切ったことになる。




「ガッ…グッ!」


シュタインはいち早く危険を察して下がるもそれなりの範囲に広がった雷を躱しきれず、右腕を雷で焼かれる。

これで右腕は潰した。これで…!


「お願い2人とも!」


次はクローヴィスとギュンターが両側から剣を振り降ろす。


「なっ」

「嘘だろッ!?」


まず左腕の剣でクローヴィスの両剣を防ぎ、動かないはずの右腕でギュンターの大剣を掴んだ。


「まだだ…!俺は…ッ!」


「これで終わりだッ!」


がら空きになったシュタインの胴に剣を突き立てんと振りかぶるが、


「雷よ、光となりて敵を穿てッ!"ライトニング"!」


シュタインの魔術発生させた雷で剣を吹き飛ばされる。


「今度こそッ!」


拳を握り、前に進む。これなら殺さなくていい。行動不能にさえすれば…!




「おおおおおおッ!」


シュタインはなんと、ギュンターから大剣を奪いそのまま右手でエリーに振り降ろす。


拳では間に合わない。だがそれでは―――、しかし―――、


「ああああああッ!!」


周囲の魔力を取り込み制御し結晶化させ武器として顕現させる魔術、憑依術式リチュアを発動。

一瞬だけなら詠唱は必要ない。剣を作り出しシュタインの腹にむけて――、





◆◆◆





……………。



時が止まったかのように思えた。


「…………」


カランという剣が落ちる音が2つ、確かに聞こえた。同時に肉を斬る感覚もあった。

エリーの作り出した剣は、シュタインの腹を貫通していた。

それがどういうことなのか、理解するのに数秒を要した。





「…お前たちの、勝ち…だ」


憑依術式リチュアで作り出した剣が消滅。ドサッと倒れる音とともにシュタインの体が崩れる。


「あ…あ、あぁ」


同時にエリーも崩れる。斬られたというわけではない。

ただ…本当に倒したこととが信じられなかったのだ。




「シュタインさん…!」


気付けば泣いていた。勝ったことによる嬉し涙ではなく、これ程の高潔な人物斬ってしまったという罪悪感からだ。


「フッ、勝者が跪いてどうする…。勝ったんだぞお前たちは。ならば胸を張れ、勝ったことを誇れ」

「ち、違うんです…。なんで!あの時魔力強化を…!」


その言葉はシュタインの手で口を塞がれ続かなかった。


「そこまで、だ。涙を流すな。安心して逝けないだろう。エリー、お前なら大丈夫だ。俺と、同じ地獄に、は…落ちはしない」


吐血しながら、言葉を紡いでいくシュタイン。まだ間に合う、助かる、だから喋らないで欲しい、そんなことは言えなかった。




「最期にひとつ…助言だ。確かにお前はほとんどの人間に体格で劣っているだろう。だがな…エリーの戦闘の組み立て方は…グッ、素晴らしい、もの、だった。あと10年もすれば大成するかもしれん。ならば…その道を極めてみろ…!体格で劣っているならば…それを上回る策略で勝て…ッ!」


戦士として、最期に出来る助言。そのシュタインの言葉ひとつひとつを深く心に刻み込む。


「わかりました…!僕は…あなたを倒したことを誇りに、これからも生きます…!だから…」


涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらそう誓う。


「そうか…。ならよかっ、た…」


シュタインはそのまま瞳を閉じると、動かなくなった。

その顔はどこか…穏やかなものだった。




「うっ…ぐ、ああああああああああっ!」


動かなくなったシュタインを前に、エリーは泣き続けた。



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