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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第3章 継承戦争
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決着①

――――今でも、あの時のことは覚えている。



『まさかウェンがあそこまて魔術を使えるなんて。知らなかったわよ』


『僕もびっくりです。多少は使える程度の認識だったんですけどね』


『ギルドの連中も驚いてたな。ウェンの魔力量がどうのこうの…。あいつら妙に切羽詰まってたがなんか心当たりでもあるか?』


『ありませんよ。そもそも…。…どちら様ですか?』


『ウェン・ホーエツォレルンさんですね。私は魔術研究所、第1研究室"アリーヤ"の者です。ギルドからあなたに来ていただくようにとの指示です。同行を』


『急に来てなんなんだ?別にギルドの用事ってなら構わねぇけどさ、俺らは同行出来ねぇの?』


『申し訳ありませんが出来ません。ウェンさんにしか用事はないとのことですので』


『そういうことならわかったわ。ウェン、ちゃんと帰ってくるのよ?』


『子どもじゃないんですから…。まぁ、すぐに戻ってきますよ』




◆◆◆




ウェンとマキナが戦いはじめてから10分。

お互い全力の魔術行使のため、魔力の限界も近い。

桁外れの魔力量を持つウェンと魔力の使い方に関しては天才のマキナでさえ、既に三句節の魔術を唱えられるほどの魔力はない。


「いい加減諦めなさいよ!この!」


マキナの魔術を自分の魔術で打ち消し


「生憎、性格と諦めの悪さには自信があるんですよ!」


半分本当の、半分嘘だ。


性格の悪さについては自負しているが、本当はすぐに諦めてしまうのが自分だ。こうでも言って奮い立たせないと心が折れそうになる。

だがここで自分が折れるわけにはいかない。

そうでなくては、自分を信じて振り返ることなく進んでいった友に示しがつかない。




「……"アイシクル・バースト"!」


マキナの頭上に氷塊を作り出し落下させ、内側から爆破する。


「くっ…外しましたか!」


魔力の限界も近いが、出し惜しみして負けることだけは避けなければならない。



「…宙を裂く」

「ウェン・ホーエツォレルン!」


マキナの突然の呼び掛けに思わず詠唱を中断してしまう。


「なんですか…」

「お互い、手負いだし、痛み分けってことで手を打たない?」


正直これに乗っかりたいのか本音だ。


「仮にそうしたところで…あなたはどうするんですか?」


自分と戦うのはやめても、他の兵への攻撃はやめないことだってあり得る。

自分が戦うことをやめたせいで他の人が傷付くのは嫌なのだ。




「あたし?疲れたし、魔力もうないし、報酬がいいからやる気にはなったけど雇い主気に入らないし、退くわ。ま、それよりも」

「なんですか?」

「やっぱり理解できないわね。アンタほどの魔力なら秩序の守護者ギルド・ガーディアンになれとの勧告くらいきてるんじゃないの?」


一瞬、何と答えればいいかわからなかった。

マキナの言った通り、秩序の守護者ギルド・ガーディアンになれとの勧告はきている。



「…きてますよ。言っておきますけどねマキナさん」


杖をマキナに向ける。これはマキナだけじゃない、ギルドというものに対するウェン自身の言葉だ。


「僕が生涯仕えるのはクロムウェル家…シルヴィアさんだけです。以前の僕なら首を縦に振っていたかもしれませんが、今の僕は違います。こんな僕を信じてくれる主人シルヴィアがいる、友がいる。僕に背中を預けてくれる仲間より大切なものはないんですよ。だから秩序の守護者ギルド・ガーディアンには入らない。…最も、あの時突っぱねた時点で入る気などさらさらありませんけどね。まあそれでも"タスク"の一員になることは強制されましたが」


それだけ言い終えると


「もう戦わないのなら、僕はもう杖を降ろします。僕はこれからシルヴィアさんたちの援護もしないといけなので」


マキナに背にシルヴィアたちの方向に足を向ける。




「待ちなさい!やっぱり気が変わった!アンタはここでぶん殴る!」


ウェンにむかって容赦なく魔術で槍を創造、投げつける。

それをなんとか避け


「…!戦わないんじゃないんですか!?」


文句のひとつくらい許されるはずだ。口ではそうは言いつつも術式陣を展開、いつでも掃射できるように待機させる。



「気に入らないのよ!誰もが羨む地位を手に入れられるのにそれを捨てるなんて傲慢さが!あたしは望んでこの地位を手にいれた、魔術師として認められたというこの地位を!それを主従や仲間なんてものを枷として『思い込んで』、それを後腐れなく捨てたと考える愚か者がッ!」


流石にこの発言にはウェンにですら怒りを覚えた。

主従や仲間"なんてもの"?それは自分だけじゃない、シルヴィアたちに対する冒涜でもある。

愚か者はそういう関係の意義を知らないマキナ自身だ。





「…僕も気が変わりました。あなたはここで倒します。本気で僕を怒らせた人なんてほとんどいませんよ、覚悟してくださいNo.8。どちらが本当の愚か者か…その身でわからせてあげますよッ!術式陣再展開!…掃射!」


今待機させている術式陣を解除、倍の数の術式陣をもう一度展開させマキナの辺り一帯を凪ぎ払う。

当然ながら魔力の消費は大きい。冷静になればまずしない行動だろう。だが今は冷静さを捨てるべき時だ。



マキナも躊躇なく魔術を唱える。


「…宇宙てんに舞うは星々、降り注ぐはその欠片。我が力に呼び引かれ、全てを破壊する暴力となれ!"メテオ・ストライク"!」


巨大な岩をウェンの遥か上空に召喚、魔力で勢いをつけウェンを押し潰さんと発射する。


「…ッ!?我が箱庭にてえるは災厄の園!その棘を以てして、貫け、穿て、突き通せッ!"カラミティ・ソーン"!」


対してウェンは自分を中心に地面からどす黒い棘を召喚、それを打ち上げ巨岩を削いでいく。

だがこれではまだ足りない。


「…闇を欺き、光を穢す災厄の剣!斬り伏せろ"ディザスター・ブレード"!」


魔力で巨大な剣を作り出し、巨岩に叩きつける。

"ディザスター・ブレード"が巨岩に接触すると爆発、周辺が炎を包まれる。








「…やれて…ないわね」


この程度でウェンが死ぬはずないと、マキナは信心に近いものがあった。

予想通り、炎を中より洗われたウェアは徐々にマキナの方に近付きながら静かに詠唱をしていた。



「…この身は剣。拓くは友への道。我が道を捧げる誓いを手に、我が手に宿れ災厄の剣!この決意を以てして、全ての困難を切り開く誓いの剣と化せッ!"ディザスター・ブレイヴ"!!」



ウェンの身体能力では考えられない速度でマキナとの距離を詰める。

手には"ディザスター・ブレード"を振りやすい大きさにしたものが二振り握られている。



「はやい!?」


マキナも一流の魔術師であり戦士だ。術式陣を複数展開し、あえて正確に狙いをつけず、近寄れないように乱射させる。

だがウェンはその尽くを切り払い、マキナに肉薄する。


「アンタ…!それは…ッ!?」


初撃を首の皮1枚で避け、体勢を崩す。




ウェンはそれを追撃することなく


「…"ディザスター・ブレイヴ"。体中に魔力を流し、身体能力を強引に強化。同時に剣を作成し、斬りつける魔術です。まぁ、身体能力を強化したと言っても僕では剣の達人には敵いませんよ」


ウェンはマキナの首筋に剣を当てる。




ですがあなたなら違う・・・・・・・・・・。魔術師であるが故に近接戦闘は想定していない。基本的に魔術師は前に出る人がいてこそ輝きますからね、複数人と組むことがほとんどです」


だが今は、この瞬間だけは違う。

1対1。周りに邪魔をするものは誰もいない。


「同じ魔術師だからと油断したあなたの負けですよマキナ・アモーレ。その油断をずっと待っていた。この瞬間のためだけに魔力を浪費した。こうやって確実に近付けるその時を!」


正直、勝てる見込みは少なかっただろう。あのまま魔術の撃ち合いを続けていたら先に魔力が切れたのはウェンの方だ。魔力量はほぼ同じでも、基本守勢での立ち回りを演じていたウェンは1つの魔術に対し2つの魔術といったこともあった。


だがそれでも、自分らしくないが、諦め悪く立ち回ったからチャンスが巡ってきた。それを掴まないほど自分は愚かではない。





マキナは首筋に刃を当てられた状態で


「…見事。あたしの完敗だよ。んでどうするの?あたしを殺すの?」


どこか余裕を感じられる態度だ。



ウェンは魔力で作り出した剣を消した。


「殺しませんよ。僕の心情はですね『魔術とは魔に堕ちたモノに使うべし』…それが本来の魔術の在り方でしょう?」


脱力したかのように座り込む。


「もうひとつ言えば、こんな戦いで秩序の守護者ギルド・ガーディアンが2人も死んではギルドの損失が大きすぎますし」

「…へぇ、あいつらが勝てるって思ってるんだ」

「思ってるんじゃない、信じているんですよ。僕を信じてくれた人たちを信じないとか、足をむけて寝られませんからね」

最後だけ茶化して話す。



マキナはそれを聞いて笑っていた。"タスク"であまり感情を見せなかった彼女が、笑っているのを今ウェンは初めて見たのだ。


「使い方間違ってない?それ。まあいいわ。あたしはもう戦う気力も魔力もないしここにいる。アンタはどうすんの?」

「僕…ですか?あっちの援護をしたいんですけどね。無理をし過ぎました。"ディザスター・ブレイヴ"の反動がここまで大きいとは思ってません…で…し」


強引に身体能力を強化したため、その反動で体への負担が馬鹿にできないくらいかかっている。それを押してもなお、勝たねばならなかった。




「えっ、ちょっと、ウェン!しっかりしなさいよ!」


薄れ行く意識の中、ウェンが思っていたのはただシルヴィアたちへの心配だった。


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