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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第3章 継承戦争
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閑話・レベッカの聖なる夜

話の流れをガン無視しての投稿ですが、レベッカの話を書きたかったので…。

時系列は2章終了~3章開始までの1ヶ月の間です。

全焼してしまった孤児院の建て直しをしていたある寒い日のことである。

「ねね、今日って何の日か知ってる?」

釘を打ち終え少し休憩をしていたエリーにレベッカが急に顔を近付けてくる。内心驚きつつもエリーはそれを隠した。

「今日?平日じゃないの?」

本気で今日が何の日かがわからない。そういえば今日は雪が降りそうな空模様だ。なるほど、今日は初雪の日か。


「ちっがーう!!ある聖人の誕生日でしょうが!…もしかしてエリー、本当にわからなかったの?」

「そうだけど…」

そういえば孤児院にいた頃は毎年この時期になるとパーティーを催していた。

確かにあれは楽しかった。

「毎年やってたのになんで覚えてないかなぁ。私は悲しいよエリー君」

「ご、ごめん。3年半くらい帰ってなかったから忘れてて」

もう平謝りするしかない。レベッカが機嫌を損ねたらひたすら謝るしか方法ははないのだ。


「それで今日の作業はここでやめてさ、パーティーの準備しようよ!」

「レベッカがそう言うならいいけど、先生とかは?」

「エリー以外の皆にはもう了承をとったよ。年少組のために演劇するからよろしくね、エリー」

最後に演劇をやったのはいつだろうか。少なくとも5年くらいはやっていない。どんな話をやるのか楽しみでもある。

「ちなみに脚本は私だッ!」

…もう不安しかない。レベッカ作の脚本ではなく、エリー自身の身の安全的な意味で。

「それじゃ舞台に行こう行こう!」

右手を上げいつも以上にはしゃぎながらエリーを引っ張るレベッカ。

(レベッカが楽しそうだしいいかな)

たまには思いっきりはしゃぐのも悪くない。





「さて…題名は『真冬の森のエリー姫』。配役も既に決まってるよ!」

やっぱり自分の身の安全なんてなかった。

「えっと、あらすじはね、『むかしむかし、あるところにガラスの靴を履いたエリー姫という正直着飾って見世物にして金稼ぎたいレベルの可憐な姫様がいました』」

「ちょっと待ってレベッカ。姫の役僕なの?レベッカかシルヴィアのどっちかじゃなくて?」

その問いにレベッカとシルヴィアはきょとんとし

「だって私もレベッカも他にやる役があるもの。だったら適材はエリーしかいないじゃない」

「えぇ…」


姫役、つまり女装させられるということだ。

前にメイド服を着せられたあの日以降、あのカフェでは謎の美少女『エリーきゅん』として人気になってしまった。それはもう再三あのカフェから働かないかと誘いが来るくらいには。

他にもゴスロリを着せられたが衆人環境でなかったのが幸いだろう。あんな姿で外に出るのは死んでも嫌だ。


「続きねー。『ある日エリー姫は魔女シルヴィアに騙され毒林檎を食べてしまい深い眠りについてしまいました。そこにトナカイのギュンターとウェンを連れた隣国の王子レベッカが現れました』」

そんなこと聞いていないとギュンター驚くが

「えぇっ!?俺とウェンも出るのかよ!?しかもトナカイ役って…」

「でも魔女シルヴィアの響きは納得できますね。適役でしょう」

「なんかぴったりだよな。はっはっはっは!ごふっ!?」

ウェンと2人、声を高くして笑うがその直後シルヴィアが投擲した木材が頭部を直撃、そのまま2人とも倒れる。

「ふ、ふたりともー!」

「惜しい2人を亡くしたわ…誰がこんな酷いことを…ッ!」

「………」

もう突っ込まない…。


「ラストは『眠り続けるエリー姫を見たレベッカ王子は正直このまま放置して見ていたいけど起こさないと話が進まないので仕方なくエリー姫を起こすためにキスをしました』」

なんでレベッカは無駄な言葉を挟むのだろうか。

「『すると予定調和でエリー姫が目覚め、「あぁ貴方が私を起こしてくださったのですね」とにっこり笑って言いました。2人は末永く仲良くくらしましたとさめでたしめでたし』…ふっ」

わかりやすいドヤ顔をして語り終えるレベッカ。

(…やっぱり脚本もダメだと思う)

それに色々混ざりすぎている気がする。

「ちなみに王子役はじゃんけんで決めたわ。レベッカが勝って王子役、私は負けて魔女役。マリーさんはナレーションだそうよ」

どうやら退路なんてものは最初から無かったようだ。


「エリーが魔女役ってのも考えたんだけどさー、エリーってば魔女って感じじゃないじゃん?」

そもそも魔"女"はできないだろう。それは姫も同じことだが。

「魔女っ子って感じよね。ん…魔女っ子?」

シルヴィアもレベッカは2人揃って何かを考えると

「「魔法少女!」」

完璧なタイミングで同時に叫んだ。その余りにも物騒な響きにエリーは絶句するとともに身が縮むほどの恐怖を感じる。

「魔法少女まじかる☆えりーは後で考えましょう。さあそこの野郎2人起きなさい!練習よ!」

名前まで決められてしまった…。やると決めたらやるのがこの2人だ。エリーに出来ることはせめてマトモな衣装を作ってくれることを祈るのみである。

その後は主にレベッカの指導のもと、各々の演技の練習となった。

唯一喜ぶべきことは台詞があまり多くなかったことだろう。





「子どもたちも待ってる。んじゃいきましょーか!」

「ええ、派手に魅せるわ!」


『むかしむかしあるところにガラスの靴を履いたエリー姫という正直きかざ……可憐な姫様がいました』

マリーの配慮によってどうして書いたかわからない文章は回避できた。ありがたい限りである。


『そんなある日、エリー姫の元に魔女シルヴィアが訪れました』


「姫様…家の林檎の木が今年は豊作でして、私1人では食べきれないので姫様もどうぞお食べください」

「ありがとうございますシルヴィアさん。私も林檎大好きなんですよ」


『魔女シルヴィアはこうしてエリー姫に毒林檎を食べさせることに成功し、エリー姫は深い深い眠りについてしまいました』

子どもたちから声が上がる。それが悲歎なのか嘲笑の声なのかは考えたくない。


その後は順調に進んでいきいよいよ佳境に入り、"エリー姫"が眼を覚ます場面となった。



最後のキスシーンとなり互いの息がかかるくらいの距離にまで顔を近付けるとレベッカはひっそりと

(実はさ、別に本当にしなくてもいいんだけど)

(うん)

(やっぱりここはこうしないとね!)

どういうことだとわからずにいると


「…んっ!」

唇を塞がれる。キスされたというのを理解するのに数秒を要した。

「きゃあー!」

孤児院の子どもの中でも年長組の少女たちはロマンスシーンに歓喜の声を上げる。

エリーは驚きと恥ずかしさで顔を赤くしながら

「あぁ、貴方が私を起こしてくださったのですね。ありがとう、私の王子様」

いらぬことまで口走ってしまった…。これは間違いなく寝る前に枕に頭をうずめて足をバタバタさせるタイプのアレだ。

見れば(トナカイ姿の)ギュンターとウェンは笑いそうなのを必死で堪えているし、シルヴィアは何故か知らないが悶絶している。

レベッカもレベッカでエリーに負けないくらい顔が真っ赤になってしまっている。


『め、めでたしめでたし』

マリーの冷静を装った声だけが救いだった。…あぁ、死にたい。





「なんか…疲れた…」

夜も更け、エリーは宿泊している宿屋のカウンター付近にある椅子に腰かけていた。

どうしてもレベッカにキスされたことと「ありがとう、私の王子様」が頭から抜けない。前者はいいとして後者はあんなことを言ってしまった自分が殴りたくなる。


「あっエリー、なんでこんなとこにいるの」

眠れないのか、レベッカもまたやってきて当然のように隣に座った。

普段ならどうってことはない。が、数時間前にあんなことがあると妙に意識してしまう。

「…ありがとね、エリー」

唐突にレベッカは切り出した。

「地味だけど、またエリーやクローヴィスと聖夜過ごしたいって、あの日からずっと、ずっっと思ってたんだよ私。今日はクローヴィスいないけどね」

そう言うとエリーに体を預ける。エリーも拒否することなく、それを受け入れた。

「…本当にエリーが帰ってきてくれて、無事でいてくれて良かった。それにシルヴィアたち頼もしい仲間もいて…お姉さんは嬉しいよ?」

「僕よりひとつ年下の癖に…」

「えーでもエリーってば体は15歳のままじゃんかー。この年齢詐欺めっ」

否定できない…。

「でも歳とらないって羨ましいよ?先生も私が物心ついたときから容姿変わってないし、案外エリーと同じ…"代償ペナルティ"だったっけ、で案外エリーと同じように歳をとらなくなっちゃったのかもね」

本当にマリーという人物には謎が多い。だがそんなことは関係ないだろう。

マリーがエリーたちに母親のような慈悲をもって接してくれたこと、エリーたちがマリーを本当の母親のように慕ったこと、この事実だけは何があっても変わらない。それは確かだ。


「それにシルヴィア凄かったね。お酒に弱いことは知ってたけど、まさかあそこまで…」

「うん。僕だけじゃなくてレベッカにまで抱きついてたね…」

相変わらずシルヴィアは酒に弱いのに過度に飲んではエリー(とレベッカ)に絡んでくる。いい加減学習して欲しい。


ふと窓を見ると雪が降り始めていた。

「ん?なんか雪降ってない?」

「ほんとだ。外出て見てみようよ!」

レベッカに連れられ外に出る。流石に寒い。

「今日この日に雪が降ってくれたんだ…嬉しい。エリーはどう思う?」

「…雪かきめんどくさいなーって」

「なんでそんなこと言うのかな!もう!」

頬を膨らませて怒るレベッカ。でもどこか楽しそうだ。



「また…来年の今ごろも同じように過ごせるよね」

誰に語りかけた訳でもない、独り言。ただその言葉には純粋な願いがあった。

「僕はまたフィレンツェを離れちゃうけど、戻ってくるよ。孤児院ここに。…多分」

「自信無さげに言わないでよー。私だけじゃなくて先生だってエリーのことを心配してるんだから」

3年半も孤児院に連絡すらしなかったのは完全にエリーの落ち度だ。だからこれからはそれを埋め合わせをしていきたいと考えている。


「やっぱり寒いねー。戻ろっかエリー」

戻る前に言っておきたいことがある。

「レベッカ」

「何かな」

なんだかんだで昔からレベッカには世話になりっぱなしだ。今日のことだって口には出さないがエリーのためでもあるのだろう。

「…ありがとう。そしてこれからもよろしくね、私の王子様」

小っ恥ずかしさを抑えて、満面の笑みでそう伝えた。

「……!あぁもう!人がせっかくクールに締めようと想ったのに!エリーのばーかばーか!」

演劇の時と同じように顔を真っ赤になりながらも

「でも…嬉しい。…どういたしまして、私のお姫様」

冷静になって考えれば逆なのだが、このときの2人がそれを気付くはずもなく。

「戻ろっかエリー。中から見ようよ」

「うん、そうだね」

今日という日を忘れはしないとレベッカは深く心に刻んだ。

例えこの想いが実らなかったとしても、エリーがいてくれればそれでいい。そう思えたのだ。






「う、うーん飲み過ぎた…。みずぅ、水をちょうだい…」

夜中に唐突に眼を覚ました私は酔いを和らげようと水を求めてさ迷っていた。

エリーたちはいい加減学習しろと言うけど、飲まなきゃ酒に強くなれないじゃない。

最終的な目標はエリーをでっろでろに泥酔させてる横で何事もないかのように澄ましていることなのだけど…険しい道になりそうね。

あれ、でもエリーって体の成長は15歳で止まってるのよね。実年齢が20歳になっても、体的には飲めないっことかしら…。


そんな重要だけどどうでもいいことを酔った頭で考えていると、エリーであろう人物の人影を確認。後ろから抱きつきましょう、そうしましょう。

そういえば今日も私が酔っぱらったときにエリーだけじゃなくてレベッカにも抱きついてた気が…。でもレベッカになら抱きついても問題ないわ。


「エリーー、あら?」

エリーとレベッカが座ったまま寄り添うように、頼りあうように寝息をたてていた。

2人の幸せそうな表情に私も思わず頬を緩めたのだった。


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