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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第3章 継承戦争
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決戦②

「言われなくても示してみせるさ!」


まず距離を詰めたのはクローヴィスだ。遅れてエリーもクローヴィスに続く。



「悪いけど、キレイに戦うつもりはないからな!」


まず両剣の片方の剣で地面を抉り上げる、勿論狙いはシュタインの目だ。すぐさまもう一方の剣でシュタインの首筋目掛け振り降ろす。


「その程度…!」


眼前に迫った石を避け、手に持った剣でクローヴィスの両剣を防ぐ。




これを狙っていたエリーはシュタインの脇腹を凪ぐように剣を振る。


「…ッ!」


ギリギリのところで体勢をずらすことでシュタインは避けるが、そこにエリーは持っていたナイフを手の力だけで投げつける。

当たっても掠り傷程度の場所だ、別に避けなくてもシュタインはどうってことはないだろう。

だがそれは1対1の状況の場合だ。

今投げたナイフは掠れるにせよ、外れるにせよ、クローヴィスが取りやすい位置であることに違いはない。

そのナイフをクローヴィスが掴み、シュタインの腹部に突き立てることは可能のはずだ。



ならばどうするか。


「くっ」


そうだ、シュタインには下がるしか選択肢がなくなる。

だがこの状況も全てエリーとクローヴィスが仕組んだことだ。


「待ってたぜシュタイン…!」

「その首、貰うわッ!」


後ろに回っていたシルヴィアとギュンターの剣がそれぞれ首と腹を狙い完璧なタイミングで斬りつける。

並の戦士なら間違いなく避けられないこの連携。だが相手は秩序の守護者ギルド・ガーディアンこの連携でも倒れはしない。




「あまり舐めてもらっては困る…なッ!」


並々ならぬ鍛練の賜物だろう。強引に体をシルヴィアとギュンターの方向に向けるとまたもや己の剣で弾く。


(やっぱりこの人…凄い。数的不利をものともしない…)


これが本気になったシュタインの実力ということだろう。

こうなればシュタインに小賢しい連携はもう通用しないだろう。

ならば後は…


「真正面からぶつかるだけだ!」


残るナイフはクローヴィスがキャッチした分を含めて3本。出し惜しみはしないが、無駄使いは避けなければならない。




「どうした?今の連携は中々のものだった。少しばかり焦ったぞ」


皮肉などではない、心からの賛辞だ。その言葉にすら余裕があるのは常人ではできない鍛練とそれからくる自信だろう。

ウェンの話ではシュタインは決して天才ではなく、並々ならぬ努力と研鑽の積み重ねで秩序の守護者ギルド・ガーディアンとしての地位を得たと言っていた。

それ故にその力に絶対の自信と秩序の守護者ギルド・ガーディアンとしての誇りを持っていると。


だからこそ聞きたいことがある。




「…あなたに聞きたいことがあります。なぜあなた程の人がキスリング側の戦士として戦っているんですか?」


それほどの高潔な戦士ならなぜ反乱をおこし、スチュアートを混乱に陥れたキスリング側の肩を持つのか気になって仕方なかった。



シュタインはしばし口を閉ざし、ゆっくりと言葉を綴った。


「…確かエリーといったな。覚えておけ、ギルドというのは決して『正義』じゃない。いくら秩序の守護者ギルド・ガーディアンといえども正義に殉じる者など片手の指で足りる。所詮、ギルドなんてものは便利屋に過ぎん。だからその中でどんな答えを見つけるかは自分自身だ。俺はただ…裕福になりなかっただけだ。話は終わりだ。構えろ、手加減はしない」


一切の無駄なく構える。これ以上語ることはしないという意思表示だ。




「…行こう。ここで彼を倒す」


そう自分に言い聞かせる。

シュタインの言葉に偽りはないだろう。だからこそ真正面からシュタインに立ち向かう。




「エリー、どうする?」

「もう搦め手を使うのはやめる。真正面から叩くッ!」


剣とナイフに魔力強化を施す。


「いいねえ、俺もその方がしっくりくるぜ」

「ええそうね。私も…」



ここまで言いかけてシルヴィアは言葉を失った。

背後でおきる爆発音。ウェンのいる方向ではない。


あれは―――、


「あそこにはお父様とシャルルが…!」


今まさに飛びかかろうとしていたシルヴィアは驚きのあまり無防備に背を向けてしまう。

エリーとギュンターは慌ててシルヴィアのカバーに入ったが、シュタインは背後を向けたシルヴィアを斬りつけることはしなかった。




「斬りかからねぇのか、意外だな」


ギュンターは口ではそう言いつつも油断を一切見せずに構えている。


「淑女を後ろから斬るほど腐ってはいない。それより早く行け、家族くらい大切にしろ」


最後の言葉に籠った感情が何だったのかはなんとなくだがエリーにも理解できた。



「…ありがとう。でも同情はしないわ、あなたはここで倒されるのよ」

「感謝する。…じゃあ戦いの続きといこうじゃねぇか」


相手がどんなに高潔な戦士でも、どんな聖人でも、戦場で相対すれば殺し合わねばならない。そうでなければこちらが死ぬ。

戦場というのはこういう所だと、エリーはまじまじと見せつけられた。同時にそれがどんなに哀しいことかも。

だったら…こんな戦争ものさっさと終わらせる。




シルヴィアが走り去ったのを見届けてから、シュタインは獰猛かつ楽しげな笑みを浮かべた。


「あの時と同じ3人か。リターンマッチだ、あの時は殺されかけたが今回はそんな油断はしない」

「今度こそ、あなたを倒します。殺さずにとか甘いことは考えない、本気であなたを殺しにいきます。シュタイン・ベルガー!」


エリーとシュタインが同時に地面を蹴る。

お互いの体がお互いの剣の間合いに入ると同時に剣を打ち付ける。



「クローヴィス!ギュンター!」

「了解!」


右からはクローヴィスの両剣、左からはギュンターの大剣ツヴァイヘンダーがシュタインの体を襲う。

それをシュタインは魔力の放出バーストでいなし、3人から距離をとったところでエリーの詠唱が完了する。



「…闇を断ち、光を蹂躙する災厄の剣!斬り伏せろ"ディザスター・ブレード"ッ!」


ウェンから教わった魔術を叩き付ける。ウェアのと比べると剣の大きさも魔力もいささか足りない。

だがシュタインがそうであったように、エリーも鍛練や研鑽の量は積み重ねてきた。その結晶がこれだ、馬鹿になどさせないッ!




「二句節の魔術か!?だか…甘い!」


シュタインは"ディザスター・ブレード"を難なく避け、今度はシュタイン自身が詠唱を始めようとする、だが


「余所見は勘弁願うぜ!」

「詠唱する時間なんて与えねぇよ!」


その隙は与えないとクローヴィスとギュンターが休みなく剣撃を浴びせる。シュタインも堪らないと詠唱を中断し、2人の応戦せざるを得ない状況だ。




(今なら…捉えられる!)


「もっと効率よく魔力を…!術式陣フィールド展開!」


シュタインの周囲に8個の術式陣を展開する。前回は5個が限界だったが、ここ数日の猛練習でなんとか8個まで展開可能になった。


「全方向からの魔弾と2人の剣撃なら…多少なりとも当たるはずだ!食らえッ!」


2人の斬撃と重なるタイミングでエリーも術式陣から魔弾を発射。クローヴィスとギュンターに当たってもおかしくはないが、2人が避けてくれると信じての攻撃だ。




「ぐっ!?…ハァッ!」


魔弾の1つがシュタインの体に直撃する、他の魔弾と2人の斬撃は全て避けたようだ。

そしてそのまま放出バースト、一瞬の隙すら与えようとはしない。


「いいぜエリー!そのまま頼む!」


放出バーストの衝撃で後方に下がりながらもクローヴィスはエリーに賛辞の声を贈る。

ギュンターも無言ではあるが、頼りにしていることはわかる。

ならばその期待に応えるまでだ。




「上手くなったな…!だがそれだけでは倒れんッ!」


魔弾の直撃した腹部に火傷を負ってはいるがそんなものは傷にならないと全く動きが衰えず戦い続ける。…いや、衰えるどころか動きがますます良くなっている。


(この人…動きがどんどん良くなってる!?)


「まさかこんなところで自分が成長するとはな!感謝するぞ!」


この土壇場で成長し、更に高みを目指すというのだろうか。これが、これそこがあるひとつの頂に手が届きかけている男の底力とでも言えるのか。


だが負けられない。

エリーは剣を握る拳に力を込めた。


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