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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第3章 継承戦争
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決戦①

「………」


前線から少し離れた場所で、エリーとクローヴィスは戦況を見極めていた。


「どうする?クローヴィス」


例の2人は鉄騎隊の精鋭が誘導してくれているそうだが、相手が相手だ。不安にもなる。


「…この戦いは俺たちだけで戦ってるわけじゃない、血を流すのも俺たちだけじゃない。だったら信じて待つ」

「…ん、そうだね。ごめんクローヴィス、ちょっと緊張してた」


自慢ではないが、これほどまでに大規模な戦闘は初めてだ。

本音を言えば…戦争になんて参加したくなかった。




「…やりたくないのならやらなくていいんだぜエリー」


そうだ。やりたくないのならやらなくていい。そもそも流されているだけじゃないのか。


(―――でも)


「大丈夫だよクローヴィス。やりたくないことと、できないことは…違う。多分、この戦いは僕が本当の意味で死神じぶんを乗り越える答えが得られそうな気がするんだ」


そうだ。これは決めたことだ。

決めたのなら迷わない、振り向かない、後悔しない、そう"決めた"のは自分だ。

イヴァンの、リアンの、ガルドの、様々の人の命を背負い走り抜く。それがこの手で殺めてきた人たちへの贖罪だと信じて。




「ちょっと前に、僕のせいで死んだ2人のお墓参りに行ったんだ。その2人の知り合いに酷いこと言われたりもしたけどさ、過去は取り戻せないでしょ?過去を見続けるのは簡単だけど、それを乗り越えて未来まえを見据えるのは難しい。だったらこのつるぎは前に進むために振るうって"決めたんだ"。だから…僕は大丈夫だよクローヴィス」


そう言うと笑ってみせる。


「なんだ、乗り越えてるじゃん。…良かったよ、もう昔の、弱々しいエリーはいないんだな。よし!じゃあみんな待ってるし行こうぜエリー!」


嬉しさと一抹の寂しさを感じながらもクローヴィスはエリーの手を引っ張る。

まだ孤児院にいたころを思いだし、少しだけ懐かしい気持ちになった。




◆◆◆




「犠牲は出ましたが、なんとか誘導に成功しました。後は僕らの仕事です」

「そうか、犠牲を無駄にしないためにも絶対に勝たねぇとな」

「勝つわよ、ぜったいに」


エリー、シルヴィア、ギュンター、ウェン、クローヴィスがそれぞれの武器を抜く。


「勝てるよ、僕らなら。……行こう」

「わかりました、背中は任せてください」


ここでシュタインとマキナを倒せば戦局はこちらに傾く。

だから絶対に、成功させなければならない。絶対にだ。


「よし、じゃあ一気に行くぞッ!」


ギュンターを先頭に駆け抜ける。








「……ッ!」


異変を逸早く感じたのはウェンだった。

右から飛来してきた魔術に対し素早く術式陣を展開させ魔弾を掃射、撃墜する。


「早速来ましたか…皆さんは作戦通りシュタインを!」

「任せたわよウェン!」


そう言うと後ろを振り返ることなく進むシルヴィアたち。

信頼の証だと嬉しく思う。





「…随分と信頼されてるのね、アンタ」

「あなたを止められるが僕しかいませんからね、マキナさん」


煙を払い、杖を真っ直ぐマキナに向ける。

が、それに驚いたのはマキナだった。


「ウェン・ホーエツォレルン!?なんでアンタがここにいるのよ!」

「僕はクロムウェル家に仕えているだけの話です。それよりいいんですか、魔術を唱えなくて。僕は既に準備は整っていますよ」


杖を振り、背後に無数の術式陣を展開する。その数はエリーの十数倍といったところだろう。


「相変わらず化け物染みた魔力量…!やってられない!」


マキナは悪態をつきながらも同じように術式陣を展開する。




「今回は出し惜しみなしです。派手にやりましょうか!」


その声とともに一斉掃射、その全てがマキナ狙いのものだ。


「くっ…撃墜なさい!」


それに対しマキナも一斉掃射、その全てを相殺さそる。

ウェンとマキナの魔術の腕も実質的な魔力量もほぼ同等、ならば勝敗を決するのは気力だ。




「…闇を欺き、光を汚す災厄の剣!斬り伏せろ"ディザスター・ブレード"!」

「…天を貫き、地を割る天明の剣!斬り伏せろ"アウロラ・ブレード"!」


お互いに魔術で巨大な券を作り出し、それを打ち付ける。

起こる爆発と閃光、やはり相殺されたようだ。




これではダメだと次なる魔術の詠唱を始める。


「…今こそゼロを越え、凍てつく無限の境地へいざなえ!"アイシクル=アンリミテッド・インバイト"!」


ウェンの周囲からマキナに向かって地面が凍てつきその端から徐々に氷柱を出現させる。

普段であれば使わない三句節の大魔術だ。基本は"ディザスター・ブレード"のような二句節までの魔術しか"使わない"。三句節の魔術を使えば範囲が広すぎてシルヴィアたちを間違いなく巻き込んでしまう。




「…蒼焔の宴、狂乱の園、星をも燃え付かせる黙示録の釜よ開け!"ヘルフレイム=アポカリプス・エデン"!」


ウェンと同じようにマキナは蒼い炎を呼び出し、ウェンの魔術を迎え撃つ。


「くっ…!?」

「あぁ!?」


お互いの魔術が対消滅、爆発しウェンとマキナ2人とも吹き飛ばされる。

吹き飛ばされ、地面で強く体を打つが立ち上がる。ここで自分が倒れるわけにはいかない。

痛む体に鞭を打ち、次の魔術を唱え始めた。






◆◆◆





後方の爆発音に後ろ髪を引かれる思いをしながらもそれでも前に進む。

ここで振り返ったらウェンを信じていないことになる。そんなことは嫌だからだ。


「いたわ!シュタインよ!」


シュタインは剣を抜き、ただ佇んでいた。

まるでエリーたちを待ち構えていたかのように。




「遅かったな…待ちくたびれたぞ」


シュタインはそう言うと無言で剣を抜き放った。


「言葉など不要ってことかしら?上等!元より言葉を交わすつもりなどなどないわ!」


シルヴィアは剣を抜くのを見て、エリーも覚悟を決めて剣を抜く。

シュタインは以前戦った時とは比べ物にならないくらいの覇気を発していた。




「ようやく本気ってことかよ。おもしれぇ、それでこそ秩序の守護者ギルド・ガーディアン様だなッ!」


ギュンターには強者と戦えることを純粋に喜んでいるような―――そんな表情をしていた。


「幼馴染みの連携、ってやつを見せてやろうぜエリー」


クローヴィスはいつも通り軽い態度だがその横顔は、緊張が色濃く出ている。



「よし、行こうか!」


右手の剣と左手のナイフを強く握り締め足を大きく踏み出す。


「さぁ、こい!お前たちの力、このシュタインに示してみせろ!」


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