この身を捨てても
「憑依術式…だとッ!?」
信じられないといった表情でエリーを睨むシュタイン。
「そうだ…。師匠に比べればはるかに劣るけど…それでも、あなたを足止めするには十分だ」
そもそも憑依術式を使ったことがはじめてなのだ。
キニジとか違い詠唱をしなければならず、その上憑依術式で次々と武器を具現させるのは現状不可能と言える。その上、慣れていないため体に対する負荷も大きい。
つまり未熟な状態でぶっつけ本番をしたということだ。
「なっエリーなんでお前がそれを!」
ギュンターも驚きの声をあげる。
憑依術式の危険性はエリーもわかっているんじゃないかとその目が訴えている。
「ちょっと師匠に駄々をこねて教えてもらった。…僕はこれ以上身体的成長は望めない。だったらそうじゃない方向に全力を尽くす」
「そのための禁術だと」
「うん。時間がない、攻めよう」
憑依術式で作り出した剣と予めもっていた剣を構える。
(長時間の使用は魔族化に繋がる。それでも僕はッ!)
距離を詰めシュタインに斬りかかる。
「ちいっ!」
シュタインはすぐさまそれを弾くと、エリーの胴体を剣で貫かんとする。
「そうはさせるか!」
間一髪クローヴィスが防ぎシュタインに隙を作る。
「その首、貰った!」
がら空きの首を狙い、ギュンターが大剣を振り下ろす。
「あまり舐めてもらっては困るな。――放出!」
シュタインは魔力を放出、衝撃波を発生させ3人を吹き飛ばす。
3人はなんなく着地し、体勢を整える。
「放出まで使いやがったか。隙がねぇな」
どう攻める?と目で投げ掛けてくるギュンター。
「あまり時間がないから、僕には短期決戦しか選択肢がないんだよね…ごめん」
気にすんなとクローヴィスとギュンターは言いきった。
「おけ、じゃあ俺が前に出るかなっと」
クローヴィスは足に力を込め、一気にシュタインとの距離を縮める。
「せいあっ!」
両剣の特性を最大限に活用し、右に左と休みなく斬撃を浴びせる。だがシュタインも剣を巧みに操り全て防ぎきる。
「やるな…だが!」
シュタインはコンマ1秒にも満たない隙を見逃さずクローヴィスの両剣を弾きあげる。
「なに!?」
「まずは1人…!」
迫る剣。避けられないとクローヴィスはダメかと覚悟するが
「わりぃな。それはさせねぇよ!」
――ギュンターが魔力強化を乗せた全力の一撃を叩き付ける。
「ぐぅっ!?」
反動で両者の剣が跳ね返る。この隙を逃しはしない。
「今だ、エリー!ぶちかませぇ!」
この瞬間を待ち、術式陣を展開していたエリーは
「外さない…!掃射!」
憑依術式も使っているため、3つしか展開出来なかったが1人を狙うならこれで十分だ。
「チイッ!」
魔弾は全てシュタインに直撃し、派手に爆発する。
「まだだ!油断するなよ!」
両剣を取り戻したクローヴィスが爆発で起きた煙を睨みつつ言う。
この程度で倒せないことはわかっている。
自前の剣と憑依術式で作り出した剣を固く握り締め煙が晴れるのを待つ。
そして、自分の体が既に限界であることもわかっていた。
「面白い…これほど胸踊る相手は久し振りだ…!」
煙の中から出てきたシュタインには傷は見られず、軽い火傷を負っている程度だった。
「ほぼ無傷だと?おいおい、秩序の守護者はどいつも化け物だなおい!」
「でも負けるわけにはいかない…ごはっ」
急に咳き込むと血が混じっていた。
「おいエリー大丈夫かよ!」
「まだ大丈夫。まだ僕は戦える…!」
シュタインはそれを見て薄く笑い
「子どもがよく扱えたものだと思っていたが…違ったな。ひとつ忠告してやろう、そのままでは魔族化するぞ」
「そんなこと知ってるッ!魔族化しなくてもこれは確実に僕の命を削ってる!それでも僕は!」
シュタインはそれを聞いて驚いたのか
「…これは失礼した。ちゃんとした1人の戦士だったか。…フッ、ならば尚更面白い!」
剣を構え、今度はシュタインから突っ込んでくる。
「俺が防ぐッ!」
ギュンターがシュタインの剣を受け止め、つばぜり合いの形になる。
「エリー、合わせるぞ!」
「わかった!」
クローヴィスと息を合わせ、シュタインに同時に左右から斬りかかる。
「その手は通用せんッ!」
シュタインは剣から手を離し自由の身になると、飛び上がり2人の攻撃を避ける。
「おおおおおおっ!散れぇ!」
魔力強化の応用だろうか、拳に魔力を込め床に叩き付ける。
「うわっ!」
近かったエリーとクローヴィスは叩きつけられた際に弾けた床の破片を食らう。
なんとか手で守りはしたものの、額からは血が流れており腕もまた同じだ。
「この程度の傷!」
剣を回収したシュタインが間髪いれず放った斬撃をなんとか避け、左手の剣で喉元を狙い突く。
「くっ!」
シュタインはそう呻くと剣を上から拳で叩き落とす。
(まだだ、右腕の剣で!)
片手は剣を握っており、もう片方はまだ勢いを殺せていない。
「たあっ!」
喉元は狙えなかったが、胴を斬り払う。
「ぐっ!?」
が、浅い。致命傷にはならないだろう。しかし確かに聞こえた苦悶の声にエリーは希望を見出だす。
「存外やるな。だがお前は時間切れのようだ」
「なに…ッ!?」
シュタインの攻撃を避け、なんとか距離をとる。それと同時に体から力が抜けていく。咳き込めば血の味がした。
「くっ…憑依術式の限界か…!」
これ以上維持するようなら、魔族化する危険度が跳ね上がる。
(どうする…武器を消す?でもそうしたら…!)
今の一撃だって憑依術式で作り出した剣あっての一撃だ。これを消せば勝ち筋がひとつ消える。
「考える必要もないや。僕は…!」
魔族化してでもシュタインに食らい付く!
「おいエリー、大丈夫なんだろうな!」
ギュンターが激しく剣を交えながらこちらを心配してくれる。
「大丈夫、絶対に人として生きて帰ってみせる!」
覚悟を決め、剣を構え直す。
「まだ来るか!」
ギュンターとクローヴィスの斬撃の雨を放出による衝撃波で抜け、エリーに肉薄したシュタインは首を落とさんと剣を大きく振りかぶる。
「なぜ魔族化しない…!!」
シュタインはそう言うとエリー目掛け斬りつけようとしたが
「その隙は見逃さねぇよ!」
なんとか立て直したギュンターがシュタインの剣に再び魔力強化を乗せた剣を叩きつける。
「貰った―――!」
シュタインの腹に剣を突こうとしたその時。
「…! エリー下がれ!」
止めを刺さんとするエリーをクローヴィスが蹴り飛ばし、クローヴィスとギュンターはシュタインから距離を詰めとる。
その直後、エリーたちがいた辺りを爆炎が包む。
「誰だ!」
クローヴィスとギュンターが辺りを警戒するなかエリーは
(そんな…意識が…。こんなところで…!)
憑依術式の反動で意識が朦朧とするなか、それでも剣をとろうともがく。
「シュタイン、下がんなよ。あんた負けかけてたのよ」
まだ若い、少女のようなよく響く声。
「くっ…。ここは素直に従おう」
シュタインはそう言い残し、声の主の方向へ飛び去った。
「誰だお前は…!」
ギュンターの殺気が籠った言葉を意にも介さず、声の主の少女は姿を表す。
「秩序の守護者No.8、マキナ・アモーレ。それだけ、じゃあね」
マキナと名乗った少女はそれだけ言い残すと、魔術で煙を立ち上げ姿を消した。
残ったのはエリーたち3人と死体のみ。
「まだ秩序の守護者が居やがったのか…。しかもあの女…マキナとか言ってたか。…ありゃ魔術師だな、俺の苦手なタイプじゃねえか」
緊張が解けたのか、軽い口調で話すギュンター。
「そう…だね…」
それを最後に、エリーは倒れこむ。
「お、おいエリーしっかりしろ!」
薄れ行く意識の中、エリーは自身の名を呼ぶクローヴィスとギュンターの声だけが聞こえていた。




