師より受け継ぎ力
閑話にすると言いましたが話が纏まらなかったので本編を進めることにします。
モンペリエでの話はいい感じに纏まり次第、投稿します。
「それでは、死んでもらいましょう」
キスリングが合図を送ると周囲の傭兵がが一斉に剣に手をかける。
「なるほどな…!こいつら全員キスリング侯の私兵だったか…!」
護衛を伴わせることが出来たため、武器をもった人間が彷徨いていても誰も違和感を感じなかった。
まさかこういう形でそれを後悔することになるとは。
「どうするオルクスさん?さっさと逃げた方がいいんじゃないっすか?とりあえず俺は傭兵としての責務を果たすんで」
クローヴィスは周囲を見渡すと、
「パッと見50人ちょっとってことか。そこまで多くないのが幸いだぜ」
両剣を構え直し、獰猛に笑う。
「…シルヴィア。ここは僕が引き受けるから、他の貴族の人たちを連れて逃げて」
現状この場で戦えるのはキスリング側の人間ではない傭兵と、エリー、クローヴィス、ギュンター、ウェンだけだ。
それでも20人に満たない。ギュンターとウェンのどちらかはシルヴィアたちを護衛して貰わなければならない。
ギュンターはウェンを一瞥すると
「おいウェン。シルヴィアたち貴族の護衛頼むわ」
「わかりました…。でもいいんですか?」
「下らねぇこと聞くなよ。この中で一番時間稼ぎできるのがお前ってだけだ。…貴族を全員お連れしたら、魔術で入り口塞げ」
その言葉に顔色を変えたのはシルヴィアだ。
「なっ、じゃあどうやってギュンターたちは逃げるのよ!」
「いいから黙って聞け。おいそこらの味方!」
殺伐とした空間にギュンターの声が響く。
「命が惜しいやつは貴族と一緒に逃げろ。別に責めやしない。生きて帰れる保証はねぇからな。だがそれでも命を張れる馬鹿がいるなら、俺と一緒に戦って欲しい!」
例え誰もいなくても、戦い抜く。そう決意がこもった言葉だった。
エリーの答えははじめから決まっている。
「僕も戦うよ。はじめからそのつもりだったし」
クローヴィスもエリーの隣に立ち
「俺もオルクスさんの護衛として、戦う覚悟は出来ているぜ。てか最初ならそのつもりだったし」
少しおどけてみせる。
結局、残ったのは半数ほどの8人。
本音を言ってしまえばもっと少ないと思っていた。
「さてと、ウェンが道を塞いでくれたし。後はやるだけだな」
ギュンター自身も大剣を構え、臨戦態勢をとる。
「お話は終わったかね。なら、死ね」
キスリングの声と同時にキスリング側の傭兵が息を合わせたかのように襲い掛かってくる。
「この統率……傭兵じゃなくて私兵かよクソがっ!」
さっそく1人を斬り伏せ、悪態をつくギュンター。
「クローヴィス!ギュンター!援護お願い!」
「任せとけエリー!」
クローヴィスが両剣を巧みに操り、敵の陣形を突き崩す。
(ウェンがいない今、魔術を使えるのは僕だけだ。今こそウェンから教わった魔術を使う時…!)
すぅっと息を吸い、息を整える。
「術式陣展開!」
左手を翳すと、黒色の魔方陣が空中に浮かび上がる。
それを5つ作り出す。自分ではこれが限界だが今はこれで十分だ。
「掃射!」
術式陣から魔力で作られた弾丸―――魔弾が発射される。
直径30cmほどのそれは的確に敵兵を捕らえるとそのまま爆ぜた。
「ひゅう!やるじゃんかエリー!」
前方からクローヴィスの賛美の声が聞こえる。
「………」
これを教えてくれたウェンは術式陣をエリーの数倍は展開させることができるだけでなく、魔弾を連射できるらしい。
ただこの魔術の使用目的が『対人魔術』のため、『魔術は魔物、魔族を討つのに使用されるべき』という信条をもつウェンは使いたがらない。
(本当は人には使いたくなかったけど…、ここは贅沢言ってられる場合じゃない。どんな手を使ってでも逃げる時間を稼がなきゃ…!)
剣を握る手に自然と力が籠る。
クローヴィスやギュンター、名も知らない傭兵たちが奮闘しているものの、まだまだ敵は多い。
「2人とも!僕も前に出る!」
とりあえずはと目の前にいた敵兵に狙いを定め素早く詠唱を済ませる。
「雷よ、地を這い穿て!"リペレ・トニトゥルイ"!」
足元に雷を発生させ、地面を通す形で敵兵に当てる。
「がっ…ぐっ!?」
感電し、動きが止まったところを剣で薙ぐ。ドレスが鮮血で染まり、エリーの"リベレイター"も白銀に輝いているはずが、血を吸ってどす黒いものになっていた。
(まずは1人…!)
敵を倒し、安堵した隙を敵は見逃さなかった。
「安心する暇があるのか…!?」
「ッ!甘いッ!」
振り下ろされた剣を受け止め、勢いを殺さず流す。
そのままガードがなくなった上半身に剣を叩き付ける。
2人を倒し、辺りを確認する。
クローヴィスとギュンターは健在だ。
だがこちら側の傭兵は半分ほどの数になってしまった。
(多勢に無勢かな…。どうする…)
再び術式陣を展開し一斉掃射することも考えたが、如何せん魔力の消費が激しい。
エリーの魔力ではそう何度も連発できるものではない。
(やっぱりウェンの魔力量は桁違いってことかな)
魔術師としてはウェンには勝てないだろう。もはや嫉妬を通り越して羨望に近い感情がある。
だがそれでも戦い抜くと決めた矢先に
「うわああああああ!」
エリーの左側から上がる叫び声。
「なんだ!?」
即座にギュンターが向き直る。
土石と共に舞い上がった煙の中からでてきたのはシュタインだ
。
「…訓練しか積んでいない雑兵に任せるからこうなる。最初から俺が出れば良かったものを」
悪態をつきながらも、周りの味方を凪ぎ払う。
一度だ。
たった一度の斬撃で3人倒された。
「やはりこの実力は…!」
「この実力。師匠と同レベルの―――!」
「キニジと同レベルってことはこいつは…!」
シュタインはキニジという単語に反応したのか微かに口を緩めた。
「あの男を知っているのか。ならば話ははやいな。俺は秩序の守護者No.10、シュタイン・ベルガー。…悪く思うなよ、貴様らもギルドメンバーなら戦場で死ぬ覚悟は出来ているはずだ」
いい敵を見つけた、そんな表情だ。
「どうするエリー。師匠と同レベルなら俺に勝ち目はないんだが」
「真正面から戦ったら、ね。何のために僕らは師匠から剣を習ったの?『その場にある全てと自分がとれる全ての手段を使え』って習ってきたじゃないか」
血で染まったドレスを見ながら答える。
これは後でシルヴィアに謝らないといけない。スカートも破っているし土下座でもしなければ許してくれそうにない。
だから絶対に――生きて帰る。
「2人とも。援護お願い。ちょっと詠唱に時間がかかりそう」
「あいよ、任せとけ」
「ああ。背中は任せろ」
クローヴィスもギュンターも頼りになる返事を返してくれた。
これで安心して使える。
――――。
自分にとっての魔術の師匠がウェンだとしたら、剣の師匠は当然キニジだ。
キニジは単に自分に剣を教えてくれただけじゃなかった。戦場における覚悟、そして最低限の礼節。およそ戦士としての心得は教えてくれたと思う。
そして再会して教えられたものがまたひとつ。
ただキニジは言っていた。
『確かにそれは強力だ。しかし確実にお前の人生に影を堕とす。だがそれでも手にしたいというのなら…教えよう』
「――廻り、巡れ。我が手に写るは再生也」
左手がほのかに輝き出す。
『宿すは我が身を糧としたモノだ。無傷で使いこなせると思うな。高すぎる性能には対価があるのは当然のことだ』
「――抉り、穿て。我が手に宿るは終焉也』
右手か闇に染まる。
『後は全てイメージだ。自分の中にこれといったものをイメージしろ。俺の場合はこの背負った相棒だ』
自身の脳内に剣と普段使っているナイフを思い浮かべる。
「今ひとつとなり、我が身を喰らいて具現せよ!」
輝きを増した左手と闇が濃くなった右手を重ね合わせる。
『それこそが…』
「これこそが!僕の新たな剣―――憑依術式、解放!」
――その瞬間、エリーの体を光が包んだ。




