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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第3章 継承戦争
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布告

「シルヴィア…綺麗…」


はじめて見るシルヴィアのドレス姿に息を飲む。

普段はストレートにしている銀髪を今回は纏め上げ、花を型どった髪飾りを着用。ドレスは大胆にも背中を露出したものを着こなし、いつもの動きやすい靴ではなく深紅のハイヒールを履いている。

エリーはただでさえシルヴィアよりも背が低いのに更に差をつけられてしまった。


「フフッ、見とれていいのよ?」


エリーに綺麗と言われたのが嬉しいのか、頬を赤らめるシルヴィア。実際、エリー自身もシルヴィアに釘付けになっている。

やはり黙ってさえいれば、誰もが見惚れる美人なのは確かだ。

…黙ってさえいればだが。



「さてと私の準備は終わり。次はエリーね」

「本当に僕も着るの?」


実はメイド服以外にもとある賭けに負け、ゴスロリも着せられている。ただあの時見せたのはシルヴィアとレベッカだけだったが。

だから今更ドレスくらい…と思っていたが、やっぱり人前に出るとなると抵抗感がある。



「大丈夫よエリーは可愛いんだから、保証するわ」



それとも…とシルヴィアは


「やっぱりやりたくないかしら?なら強制はできないわね…」


ものすごく悲しそうな顔をした。



涙混じりにそんな表情をされてしまうと、断れなくなってしまう。


「うん、やるよシルヴィア。僕が悪かったよ…」


これが尻にひかれるということだろうか…。

それも仕方ないとエリーはシルヴィアに手伝って貰いつつ着替え始めた。






なんとかドレスを着たエリーはシルヴィアと共にパーティー会場へと到着していた。


「疑問なんだけど、なんで王位を会議で決めるの?」

「そうか…エリーは知らないものね。昔はね、王様をやってもあまり利益が上がらなかったのよ。だから毎回様々な貴族から王様を決めてた。まぁ、今はそれほどではないわ。でも1回やってしまうと、『前回もあんたの家がやってくれたから今回も頼むわ』ってなってしまうでしょう?」


そのことには覚えがある。孤児院での当番のことだ。


「孤児院でもそうだったなぁ…最終的には料理当番全部僕ばっかだったし」


シルヴィアは驚いたかのように目を見開く。


「えっエリーって料理できるの?」

「そりゃ出来るよ…僕がギルドメンバーになって孤児院を出るまでは先生と僕が料理作ってたし。…もしかしてシルヴィアって料理できな」


シルヴィア慌ててはエリーの言葉を遮る。


「そ、そんなことは今はどうでもいいでしょう?話を戻すわよ?それで今のスチュアート家が王位につき続けた結果、今の王朝が出来たということね。会議はその名残でもう王位を他の貴族から出すことはないでしょうけど、別段止める理由もないからなんとなく続けてる、みたいな感じね」

「出来ないんだね、料理」


私生活のだらしなさから、もしかしたらとは思っていたものの、予想通りシルヴィアは料理が出来ないようだ。


「出来ないって決め付けないでくれるかしらエリー!私だって料理くらい」




「はい、お嬢様は料理できませんよ」


いつの間にか隣に立っていたシャルルに「出来ない」とキッパリ告げられる。


「ちょっとシャルル!私は料理出来ないわけじゃ」

「ですがお嬢様。わたくしに料理を習った時に、尽く食材を葬っていらしましたよね?」


…出来ないどころか、料理させてはいけないタイプの人間だったらしい。

というか食材を葬るとはどういうことだろうか。



「そうよ…出来ないわよ…」


バレてしまったと形を落とすシルヴィア。


「気にしなくていいよシルヴィア。料理くらい僕が作るから…」

「あらあらまあまあ。エリー様もなかなか情熱的ですわ。そんなことよりも」


シャルルはエリーの全身を舐めるように見回し、呆れた目をして一言告げた。


「なぜドレスを着ているのですか?」


純粋に、ただ思ったことなのだろう。



「私がそうしたかったから」

「理由になっていませんよお嬢様…。ですがエリー様にドレスを着せたい気持ちはこのシャルル、わかります」


エリー的にはわかって欲しくない。

それに心なしか周りからの視線も感じる。とりあえずこの場から逃げることを考える。


(あそこにいるのは…クローヴィス?)


「シルヴィア、ちょっとクローヴィスのところに行ってくるね」

「えぇ、行ってらっしゃい」


目線を振り払うかのようにエリーはクローヴィスの元へ急いだ。





◆◆◆






「貴族のパーティーは何時ても慣れないんだよなー」


当のクローヴィスはただ用もなく、会場を歩いていた。

オルクスの護衛でパーティーは何度か参加したものの、庶民の自分にはどうにもこの空気は合わない。

やはり自分にはこういうところは似合わないと、結論を出す。



「おーいクローヴィスー!」


後ろからエリーの声がする。シルヴィアと一緒にいるのではないかと振り返ると


「おうエリー、なん…だ…」


思わず言葉を失ってしまう。

そこには予想していなかったエリーの姿があった。



シルヴィアとは対称的に普段はポニテにしている髪を今はストレートにし、シルヴィアの趣味なのかフリフリの飾りがついたドレスを着ている。ハイヒールはエリー曰く「足が痛い」と履かなかっため、普段の靴より上等な靴をセレクト。護衛という立場でもあるため一応腰に剣はつけているがその格好と合間って、『姫騎士』といった風情だ。



「…………」

「どうしたの?」


無邪気にエリーは首を傾げているが、「なんでもないっす」とスルーする訳にはいかない。


「あ、うん。いやさ、エリーがそうしたいたら俺は何も言わないよ?でも、幼馴染みとして一言言わせてくれ」

「うん」


少しの沈黙の後、


「女装趣味はまずくないか?」


正直に、偽りなく、思ったことを口に出した。

今度はエリーはしばし絶句する。


「別にこれ、僕がやりたかった訳じゃないんだけど…」


聞くと、シルヴィアに言いくるめられこのドレスを着たらしい。

確かに押しに弱いとは言ったが、まさかこういった形で見せられるとは思いもしなかった。

更にシルヴィアとレベッカにメイド服やらゴスロリを着せられたこともあるとのことだ。


悔しいが、ドレスで着飾ったエリーは文句なしにかわいい。

オルクスが出会い頭に声をかけるのも頷ける。



「正直、ゴスロリ姿のエリーは見たかったけどそれはいいや。でもわざわざドレス着てくるとはなぁ…」


自分はいつも通りの戦闘服なのにと呆れ気味に笑う。


その時である。








「ふざけないでッ!」


毎日聞いている声……シルヴィアのものだろうか、それも怒りを含んだ声だ。


「な、何をするつもりだ!?」

「お止めくださいお嬢様!」


見るとシルヴィアに剣を突き立てられた貴族の男が、シルヴィアと口論を交わしていた。





◆◆◆





数分前のこと。


エリーがクローヴィスの所に向かった直後、シャルルとシルヴィアの元にギュンターとウェンが来ていた。


「わりぃな、遅れたわ」

「別にいいわよ。私は私でエリーの着せ替…コホン、着替えで忙しかったもの」


それを聞いたウェンはこめかみ辺りに指を当て、眉間に皺をよせる。


「もう何も言いませんが、エリーさんはいいと言ったんですよね?」


ウェンもウェンでシルヴィアの自由奔放ぶりに悩まされていたのだろう、もはや慣れている。

ギュンターも苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべている。

傍観者として眺めているシャルルは、この3人の仲良しっぷりに笑みが絶えない。



「当たり前じゃない…それにね」


シルヴィアの言葉は別の言葉に遮られた。




「ふん、誰かと思えばクロムウェル公の娘じゃないか」

「あなたですか、キスリング侯爵」


そこにはシルヴィアたちにとっての因縁の相手がいた。

6年前、まだ14歳であったシルヴィアに心ない言葉を投げ掛けた人物、ビドゥクン・キスリング侯爵。

シャルルとしてはキスリングをシルヴィアの視界に入れたくないが、流石にそれは過保護すぎると慎む。


「あれからギルドメンバーになんぞになって傭兵の真似事をしているという話を聞いたぞ。公爵家の名前を自ら貶めるとは、流石と言うべきかな?」

「えぇ、大変貴重な経験でしたわ。屋敷に籠っているだけの誰かとは違って、ね」


にこやかに言うシルヴィアに、キスリングは舌打ちをすると


「聞けば、平民を護衛としてつけたというではないか。余程平民に毒されたと見える。平民なんぞを自らの側近に置くとはな。得たいの知れぬ者をメイドとして雇う人間の考えることはわからんな」

「な、なんですって…!」


シルヴィアの拳が怒りで震えているのがわかる。

シルヴィアに平民や周りの人物を侮蔑した言葉は禁句に近い。沸点が低すぎるとは思うが、それも仕方ないだろう。


(あぁ、この方はお嬢様に殺されても文句は言えませんわ)



「ふざけないでッ!私への侮蔑なら甘んじて受けとるわ!だけど…私の大切な人たちを卑下すると言うのならッ!」


シルヴィアはギュンターから強引に剣を奪うと、キスリングの首筋に剣を突き立てる。


「どういうつもりだ貴様…!」


腰が引けながらも吠えるキスリング。



「言ったわよ?私の大切な人たちを侮蔑すると言うのなら、その代償は命を以て払ってもらうと」


そこまでは言ってないのは黙っていようと心で思うシャルル。



「そこまでにして貰おうかな?ご両人」


パンパンと手を叩き、現れたのはオルクス。



「喧嘩両成敗だ2人とも。今回は見逃すが、今後は一切このようなことがないように」

「すまないなオルクス殿下。シルヴィアには後でキツく言っておく」


シルヴィアから剣を取り戻し、鞘に戻すギュンター。

オルクスは鉄騎隊で剣を習っていた過去があり、それ以来ギュンターとは親交があるとの話だ。



「ですが陛下。先に剣を抜いたのはこの」

「それまでにしておけキスリング伯。何があったかは私も見ている。喧嘩を吹っ掛けたのは貴殿ではないのか?それ以上言うのであれば品格を落とすぞ」


普段の明るい雰囲気とはうって変わり、感情を一切込めず言い放す。

キスリングはそれを聞いて黙ると、あからさまに不機嫌な表情を見せその場からは去っていった。





「ふぅ。諸君、すまないな!調度いいからここで宣言したいと思う!」


オルクスは一転して明るい表情を見せる。


「この度、新たに王位を継承したオルクス=スチュアートだ。みなはわかっていると思うが、私は父上の様な優秀な人間ではない。剣術も勉学も父上には敵わなかった。だがそれでもひとつだけ父上に勝っていると確信しているものがある!」


オルクスは大きく手を広げ声高らかに言い放った。


「私は優秀ではないが故に、みなの力を借りることを知った!父上は優秀だ、だがその一点は優秀であったからこそ知り得なかったこと!だからこそ私は胸を張って言いたい!いや言わせてくれ!」



オルクスの幼少時代を知っている貴族は感極まったのか、涙さえ流している者もちらほら見受けられる。


みなの力を、借して欲しい。私と共にこの国をさらに豊かにしていって欲しい。…これ以上言葉を飾ることに意味はない、私から言いたいことは終わりだ」


オルクスは背を向けると、会場から立ち去ろうとする。



その瞬間、キスリングが見せた嘲笑をシャルルは見逃さなかった。



キスリングの背後にいたギルドメンバーと思わしき人物が跳ぶ。

そのまま剣を抜き、オルクス目掛け振り下ろす。


「やはり、か。…クローヴィス君」

「了解」


クローヴィスはオルクスの前に躍り出ると、その人物の剣を受け止める。


「ほう…やるな」


その男はは少し嬉しそうに笑うと、クローヴィスから距離を取る。



「シルヴィアごめん!」


何事かと思いエリーに視線を向けるとエリーはドレスのスカートを膝上まで切り、身動きをし易くしていた。


「クローヴィス!加勢するよ!」


そのまま謎の人物に後ろから斬りかかる。

それにクローヴィスも合わせて同時に攻撃を仕掛ける。




「なるほど…若いな、そして才能もある。だがそれだけでは勝てんよ」


クローヴィスの両剣を剣で受け止め、エリーのブロードソードを指先で掴む。


「なっ!?」


そのままクローヴィス目掛け、エリーを投げ飛ばす。


「ぐっ!」

「きゃあっ!」


エリーとクローヴィスはお互いにぶつかり合い、転がる。


「強い…!」


エリーとクローヴィスは立ち上がり、武器を握り直す。


「俺も手伝うぜ、それでも骨が折れそうだけどな」

「僕も手伝いますよ」


ギュンターは剣を構え、ウェンは詠唱を始める。




「面白い…久し振りに愉しめそうだ…!」

「そこまでだ引け、シュタイン」


キスリングの声で男―――シュタインはすぐに跳び去る。




「調度いい、ここで明かそう」


キスリングの近くに数人の貴族が集まる。





「―――我らはこれよりスチュアートに、この国に戦争を仕掛ける。この国を支配するのは、オルクスではなく、私たちだ」



一区切りつけるために、今回は長めです。

次回はアズハル孤児院組の紹介でもしたいと思います。

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