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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第3章 継承戦争
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父と子

「な、なんでクローヴィスがここに!?」

「こっちの台詞だエリー!俺は今ある人の護衛やってんだ」


やはりベンチで寝ていた人物―――クローヴィスは誰かの護衛を任されていたようだった。


「そういうお前はどうなんだエリー」


3年半前と比べゴツくなった指をエリーにむける。


「僕もクローヴィスと同じだよ。シルヴィアの護衛をやってる」


シルヴィアの方をちらりと見、胸を張って答える。




へぇそうかいとクローヴィスはエリーの全身をまじまじと見つめて感慨深げに呟いた。


「なんかエリー…変わってないけど変わったな」

「へ?」

「いやなんかさ、見た目は3年半前と変わらんけど雰囲気っての?変わったなって」


顎に手をあてうんうん頷くクローヴィス。

確かにギルドメンバーとして旅に出る前の自分と、今の自分では違うのははっきりとわかる。

変えてくれたのは今までに出会ってきた全ての人であり、その出会いがなければ今の自分はないだろう。





「はじめまして、シルヴィアよ。あなたがクローヴィスね。エリーからちょくちょく話を聞いていたわ」


シルヴィアが人の良さそうな顔をして挨拶をする。


「こちらこそエリーが世話になってます」


以外にもクローヴィスは丁寧に対応する。


「そんでエリーはその人の護衛だっけ?」

「まぁそういうことになってるかな」


久しぶりの親友との再会だ。心踊らない訳がない。

話したいことは山積みだが、今はそんな時間がないのが残念だ。




シルヴィアは護衛という言葉が気に食わなかったのか、唇を尖らせる。


「形式上は護衛だけど、本当は違うわ」

「本当は?」


興味深かそうにクローヴィスが尋ねるとシルヴィアは誇らしげに


「嫁…じゃないわ間違えた。夫よ夫」


かつ躊躇いもせずに堂々と言い放った。



「えっちょっシルヴィア!?」


信じられないといった表情のクローヴィスは、慌てるエリーの肩を掴みそのまま激しく揺らす。


「駆け抜けとは卑怯だぞエリー!クッソ、こんな美人さんを嫁に貰いやがって…!羨ましいぜ畜生ッ!」


頭が前後に揺られ、吐き気を伴ってきたがここはグッと堪え


「落ち着いてよクローヴィス!ぼ、僕はまだシルヴィアと…そ、その、け、結婚してなんか…」


頬を赤らめ、もごもごさせながら喋る。

クローヴィスはその様子に飽きれてやれやれといった様子だ。



「はぁ…。あーその」

「好きに呼んでくれて結構よ」

「見てわかる通りエリーは優柔不断っての?そういう面があるからあんたからリードしてって欲しいな」


そんなことないよ!とエリーが言っているがクローヴィスはあえて無視した。




クローヴィスはシルヴィアの耳元に口を近付ける。


「エリーは昔から押しに弱いからここぞというときにやるといいぜ、…多分イケる」


それを聞いたシルヴィアに感銘を受けたかのような衝撃が走る。


「そうね、その手があったわ!ありがとう!」

「いやいや礼には及ばないって。久しぶりにエリーに会ったら明るくなってたんだ、多分あんたたちのお陰だろ?礼を言うなら俺の方だぜ」




再会した親友の成長が喜ばしいと、嬉しそうに笑うクローヴィス。

シルヴィアはレベッカも同じ事を言っていたことを思い出す。


「レベッカも同じ事を言っていたわ。エリーがよく笑うようになってくれて嬉しいって」

「なんだ、孤児院のことも知ってるのか」

「ええ、この間まで1ヶ月くらいお世話になっていたわ」


レベッカは最近はクローヴィスですら孤児院に帰ってこなくなくて心配していると言っていた。

どうやらクローヴィスには孤児院に帰られない事情があるようだ。



「最近は帰れてないからさ、孤児院のことが気になってるんだよ。なぁエリー、先生とかレベッカとか元気だったか?」

「みんな元気だよ。でもなんで帰れてないの?」

「今日の会議にも関係あるんだけどさ、実は俺…」


その時、別の声がクローヴィスを遮った。






「あ、そこにいたのかいクローヴィス君」


声の主はクローヴィスを見つけると走りよってくる。


「なんだオルクスさんか。てか会議中じゃなかった?」

「どうせ決まりきっている会議なんて私がいてもいなくても同じさ。どのみち私がやるのだから」


オルクスと呼ばれた色男は呆れたように手を広げるとエリーを見つめると、その瞳が光ったように見えた。



「そこの君」

「は、はい」


オルクスは前髪をかきあげ、キザに笑いながらエリーの顎を掴みとる。


「まさに庭園に現れた華…か。どうだい?私の寵愛を受けてみないかい?」


そのまま甘ったるい声で耳元にそう囁いた。


「ひゃあっ!?」


突然の事態にエリーは慌て、シルヴィアは驚きと怒りと呆れを込めた目で見るなか、クローヴィスは冷静に残酷な事実を伝えた。


「あー、オルクスさん。そいつ男」





その瞬間、オルクスの時が止まった。

オルクスは顔を真っ青にさせながら声を震わせ、エリーを指差す。


「う、嘘だと言ってよクローヴィス君!だってこんな可憐なんだぞ、男の訳がないだろう!?」


シルヴィアは唸るオルクスを冷たい目で見棄てる。


「何してるのよ殿下…。でもエリーは男よ、後エリーは私のものなので」


オルクスは目に光らせるものを見せながらシルヴィアを見て少しだけ活力を取り戻す。


「だ、誰かと思えばシルヴィア君か。ふむ、6年でここまで成長してくれるとは。フッ、私の見立ては間違えてはいなかったな」

「セクハラで訴えますよ殿下」


普段からエリーにセクハラをしている人物とは思えない発言だ。

シルヴィアも人のこと言えないよねと喉まで言葉が出かけたが、ここは抑える。



クローヴィスはこの光景に慣れているのか眉ひとつ動かさずに続ける。


「…とまぁこの人の護衛をやっててな。女好きで酒好きのろくでなしだけど、悪い人じゃないぜ」


雇い主に言う言葉じゃないだろう!?とオルクスが後ろで喚くが、無視した。



「殿下ってシルヴィア言ってたよね…殿下!?」

「オルクス=スチュアート。前王、ウォルター=スチュアートの息子よ」

「そういうことだ。とはいえ変に気を使わなくていいぞエリー君。父と比べて私は明らかに劣っているからな。変に敬われると心苦しいのさ」

「劣っている…?」

「あぁ、劣っているとも。少し、話そうか」



オルクスは少し表情に影を落とす。


「私の父は優秀でね…いや、完璧と言った方がいいのかもしれないな。全て1人でやってしまえたんだ。確かに父の代でこの国は大きく発展した。後の世まで名君として歴史に名を残すだろう」


そう、優秀過ぎたのだ。

もはや完璧ともいえる才能をもった前王は優秀過ぎたがために、周りを頼ることを忘れてしまっていた。

臣下は程度の差こそあれ、王に仕えることを誇りに思い、支えたいと思っている。だがその王が自分たちを頼らなかったとすれば…。



「名君だ、確かに名君だった。完璧なほどに。でも臣下の気持ちは前王から離れていった。臣下の気持ちが離れていけばいくほど父上…前王は孤独になっていった」


最期は人知れず1人のまま執務室で死んでいた。


「結局は死ぬまで誰も頼らなかったということさ。死んで残ったのは大きく発展したこの国と、不肖の息子だけ。他人との絆などありはしなかった」


前王が死去してから発見まで数時間を要したとの話だ。それほどまでに前王は人を近付けなかったのだろう。




「一度、城から抜け出した…いや家出か…をしたことがある。その当時の私は前王ちちうえが完璧過ぎたが故に、自分もそうしなくてはいけないと妙な使命感を感じていてね。その重圧に耐えきれず、逃げ出してしまったんだ。でも」


身分を偽り、町に出るとそこには支えあって生きる人々がいた。


「それを見て私は思ったよ、別に1人で全てやらなくてもいいのだと。単純なことだけどね」




「そう…なんですか」

「私が父上に勝っている点があるとすればそこだろう。私は他人を頼ることができる。君だってそうだろう?」


他人を頼り、信用することができるのが自身の武器だと語るオルクス。

エリーも同じだ。



「はい、僕も…シルヴィアたちを頼って、信頼しています」


そうかとオルクスは固い表情を崩し、エリーに明るく笑いかけた。


「そうか、ならばよし!……くっ、男では無ければ本気で落とすところなんだがな、実に惜しい。シルヴィア君のものだと言うのならまぁそれもいいさ。…ん?もしかしてシルヴィア君を落とせば2人とも? この際性別は些細な問題なのでは…?」

「それはないので安心してください殿下。あと変な方向に片足を突っ込まないように」


冷静にシルヴィアに突っ込まれるオルクス。

しかしオルクスは「なぜ、男なんだ…。どうしてこうなった…!」と頭を抱えていたが、「まぁいいか」と頭を上げて宮殿の方を見た。




「オルクスさん……あ、いや殿下、話してくれてありがとうございました」


クローヴィスの言葉通り、いい人だと確認するエリー。


「礼はいいよエリー君。さてと私は一度戻る。クローヴィス君、ちょっと来てもらえるかな」

「了解っと。んじゃエリー、また後でな!」

2人はそのまま宮殿へと消えていった。、


「じゃあ僕たちも戻ろうか」

「ええ、そうね。そろそろ準備もしないといけないと思うし」


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