神意と福音
「似ているからこそ……。時間です、転移を」
「貴様何を」
言っているんだ? と言葉は続かなかった。
エヴァンジェの後ろの空間が突如とて歪み、どこかわからない場所が見えた。
その時、一瞬だけだがフードを被った人物が見え。その目が紅く光っているのが脳裏に焼き付く。
「転移魔法!?」
ウェンが驚愕の声をあげるなかテラはシルヴィアとウェンを見ると余裕をもって言った。
「そこの2人、なかなかいい腕だった。また手合わせ願おう」
再び会うときが楽しみだと言葉を残す。
そのままエヴァンジェとテラはその空間に足を踏み入れ、キニジの短槍が届く前に姿を消した。
「…逃がしたか」
「せめて私がもう1人を倒せていたのなら」
シルヴィアは悔しそうに呟くと孤児院を見る。
燃え方を見るに他の民家に引火しないよううまくやっているようだ。無駄な殺傷はしない、というのは本当のことだろう。
「ガッ…グ…、エヴァン…ジェは…逃げた…か」
エリーが倒したはずのケイネスが声を上げる。魔族化したことにより普通の人間なら致命傷となる傷を負ってもすぐには死なないようだ。
「まだ生きてたんだ…ちゃんと殺さないと…」
エリーは再び剣を抜くと今度は確実に殺めるため、ケイネスの首に狙いを定め剣を振るった。
「…!」
エリーの剣が弾かれ近くの道に刺さる。
エリーは止めたのは誰だと周りを見回す。
その剣を止めたのは他でもないキニジだった。
「どうして止めるんですか師匠。僕は師匠に言われた通りに躊躇わず殺そうとしただけですよ!」
エリーの言葉にキニジは一瞬言葉を失い、エリーを悲しげな目で見る。
「………。そいつから情報を聞き出さねばならん。エリー、お前はウェンと共に火事を止めてくれ」
必死に魔術で消火しているウェンを指差し手伝うよに指示を出す。
「わかりました。でも師匠。今回こそ僕はちゃんと躊躇わず、迷いもなくできましたよ。ガルドの時は迷っちゃいましたけど…今度はちゃんと」
「わかったエリー。とりあえずウェンの手伝いをしてくれ」
エリーを見るに堪えなかったのか視線を逸らすキニジ。
キニジはケイネスの元に近付く。
「ケイネス。貴様が知っている今の"オラクル"のこと全てを話してもらおうか」
「裏切り者に話す通りはないな"死神"…!そしてここで捕まるつもりもない…!」
ケイネスはそう言うと術式を唱え始める。
「まずい!シルヴィア下がれ!」
キニジの言葉通りに慌てて下がると、ケイネスは自身ごと爆発させた。
少しでも遅れていたら爆発に巻き込まれていただろう。
「ありがとう、助かったわ」
シルヴィアは礼を言うとケイネスがいた石畳から目を反らす。
「自身ごと証拠隠滅ね…。考えたものだけどそれをするのは遅すぎたわ」
ウェンもなんとか消火終えこちらにやってくる。
「オラクルにエヴァンジェ。まるで宗教団体ですね。彼らの態度もまさにそのような感じでしたし」
「俺が知っている"オラクル"はあんな宗教団体ではなかったのだがな。それに"デイヴァ"という人物、まるで神のように崇められているようだが奴はいったいなんなんだ」
それを聞いたシルヴィアはキニジを見つめる。
「ある程度、あれらについて知っているようね。これからのことも考えて教えて欲しいのだけど…」
「"オラクル"に関しては知っているとこは全て教えよう。もっとも6年前の情報だがな。それに」
キニジはエリーを見るとすぐに顔を逸らす。
エリーの顔はこちらからは見えない。どんな表情をしているかは想像もつかない。
「エリーのことについても話しておきたい。だがそれは今目の前にある問題を解決してからになるがいいか?」
子どもたちを預ける場所、マリーとレベッカの宿泊先等すぐにでもやるべきことは多い。
「わかったわ。時間はあるもの、そこまで急ぐ必要もないわ。ウェンもそうでしょう?」
「えぇ、僕も文句はありませんよ。ギュンターも交えて話をしなければならないでしょうし」
纏まった話は落ち着いたらということでその日は孤児院の子どもの一時的な預けられる場所、マリーとレベッカの宿泊先決めに手を取られてしまった。
その翌日、エリーを除いたシルヴィアたちはキニジの口からある事実を告げられた。
それはシルヴィアをひとつの決意を与えるには十分だっただろう。
"エリーを救う"。