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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第2章 死神の真実
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暴走術式

「待っていました。"死神"の仲間たちよ」


紳士服を着たその男はエリーたちを見ると一礼した。




「こ、子どもたちは!?」


レベッカは燃え盛る孤児院に入ろうとする。


「落ち着いてレベッカ!危険だよ!」

それでもなおレベッカはエリーの制止を振り切り我が身を省みず孤児院に入ろうとする。

だがそれを止めたのは紳士服の男だった。


「大丈夫です。子どもたちは保護しております。我々も無駄な殺傷は控えたいのでね」


紳士服の男は仲間であろう男に一声かけるとその後ろから子どもたちが表れる。


「うわああああん!お姉ちゃん怖かったよおおおお!」

「よかった…!でももう大丈夫だからね…」


レベッカは安堵の表情を浮かべると

「あなたたちは何者なの…。なんで孤児院をこんな風に…!」

紳士服の男はニヤリと笑うと

「おっとこれは失礼、ならば名乗らねばなりませんね」




「我らは"オラクル"!我らが主たる"デイヴァ"のため、我が身を魔へと堕とそうとも戦い続ける者なり!」


高らかに宣言した、芝居がかっているがその威圧感はそうとうのものだろう。


「そして2つ目の質問にお答えしましょう。簡単に言ってしまえばかなたたちの知り合いである"死神"を誘き寄せるためですよ」


「師匠を?」


"オラクル"に"デイヴァ"。他にも気になる言葉があったが今はこの男が言ったキニジを誘き寄せるというのが一番の問題だ。

この紳士服の男の言葉通りならばこの男は間違いなく…!



「あの男がやたら肩入れしていたこの孤児院を壊せば…奴は間違いなくやってくる。我らの狙いは"死神キニジ・パール"のみ、奴を仕留めれば我らはここから去りましょう」


キニジを殺させるのを黙って見ているわけがない、それに孤児院いえを壊されたツケを払ってもらわねばならない。

ウェンも同じ考えに至ったのだろう。


「狙いはキニジさんの首ですか…!首は取らせませんし孤児院をこうした責任もとって貰わないといけませんから、逃がしはしませんよ…!」

「…そうですか。無駄な争いは避けたかったのですが仕方ありませんね」


とはいえ戦うとはいってもエリーたちの剣は全て孤児院に置いてきている。

その孤児院が燃やされたとあっては…。


「あなたたちの武器は私の個人的な判断で回収しました。つるぎとは己の半身であり、命を預けるもの。そう易々と失っていいものではありませんからね。本来ならば事が済んでからお返ししようとしていましたが予定が早まりました」


そう言うと紳士服の男はエリーたちの武器が入っている袋を取り出すと両者の距離のちょうど半分の位置に置く。


「さぁどうぞ、御取りください」




エリーたちは自分の武器をそれぞれとると紳士服の男に向き直る。

シルヴィアはギュンターとレベッカの方を見る。


「ギュンター、レベッカ。子どもたちと集まってきた野次馬の避難をお願い。エリー、ウェン。準備はいいかしら?」

「いつでも。こいつは僕が…殺す」

「エリーさん言葉遣いが乱暴ですよ。お気持ちはわかりますけどね…」


両者にらみ合い、今にも剣が交えそうなその時。



「その必要はない」


どこからかそんな頼もしい声が聞こえると、紳士服の男がいた地面が弾けとぶ。

何事かとその弾けとんだ場所を見る、


――そこには巨大な大剣に乗ったキニジの姿があった。



「俺のいない間に随分と好き勝手してくれたようだな…。地獄に堕ちる覚悟はできたか?エヴァンジェよ」


紳士服の男、エヴァンジェは大剣を避けていたのか少し下がっている。



「ようやく現れてくれましたかキニジ・パール! 探すのに苦労しましたが…大人しく死ぬ気になりましか?」

「まさか。むしろ貴様の首を貰いにきた」

「くっ、くくく。本当に面白いなキニジ・パール!なおさらその首を欲しくなったよ!」


もう言葉は不要とキニジは乗っていた大剣から降りる。

そのまま大剣を消滅させ、新しく短槍を作り出す。


「せっかちですねぇ。昔と何ら変わらない…」

「お喋りが過ぎるな、こちらから行くぞ!」


言い終わると同時に地面を蹴り、エヴァンジェに肉薄する。


憑依術式リチュアが自分のものだけだと思わないでもらいましょうか!」


エヴァンジェはキニジと同じように何もないところからレイピアを作り出す。

そのままキニジの攻撃を避け、喉に狙いを定め突く。



「甘いな」


僅かに体を反らし避け、短槍で斬り上げる。


「…ッ!」


同じくエヴァンジェは体を反らして避けるが、そこにはキニジの蹴りが迫ってきている。


(蹴りごとき…!)


蹴りを腕で防ごうと構える。

だがキニジの狙いはそこにあった。

脚から武器を作り出し、腕ごとエヴァンジェの体を引き裂こうとしていたのだ。



「なっ…!」


急いで避けようとするが間に合わず肩を激しく斬りつけられる。

たまらずエヴァンジェは後退し、肩を抑えつつも笑う。


「流石、といいましょうか。これで本気ではないのだから恐ろしいものだ。真正面からの戦いだと私では勝ち目がありませんね」


憑依術式で作り出したレイピアを霧散させるエヴァンジェ。

彼は仲間の1人に声をかけ、自分の隣に立たせる。


「あの人…強い」


本人は勝ち目がないと言っているが、エヴァンジェは『キニジ・パールに搦め手を使わせた』のである。

今までキニジと共に戦ってきて彼があのような搦め手を使ったことは1度もない。そんなことをせずとも勝てたからだ。

だがエヴァンジェはキニジに搦め手を使わせた。

恐らく自分がエヴァンジェと戦ってもそれこそ勝ち目がないとエリーは感じていた。




エヴァンジェは男に憐れみの目線を一瞬見せると

「ケイネスよ、デイヴァのため魔に堕ちる覚悟はありますか?」

死ぬ覚悟はあるか?と問う。


「この身は既に主のもの。魔に堕ちようとも主に対する信心は残ります」




エヴァンジェは「ならばよろしい」と言うと男の肩に触れると静かに呟いた。


「…暴走術式バーサーク、発動」


その瞬間、男の魔力が膨張した。


「こ、これはまさか…!」


魔術師であるウェンはこの異変を誰よりもはやく察した。


「ま、魔族化…!?」

「そうです…!刮目あれ!これこそ憑依術式と対なる禁術!」


エヴァンジェの言葉と同時に魔族化した男は魔力の渦ともに、生誕の叫び声を上げた。




「ァアア…アアアアァァァァッ!」


右腕からは多数の刃。

左腕からは盾と思わしき物がある。

まるで騎士のようだ。

そして何より驚くべきは


デイヴァよ、我が祈り、我が叫び、ここに示さん…!」

もはや人型の魔族と言えるものではない。


「なんで…人として魔族化を…!」


その男は人の形を保ちつつ、魔族を果たしていた。


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