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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第2章 死神の真実
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己の意志で

4脚の魔族を倒してもシルヴィアは喜ぶことなくただただ俯いていた。


「…シルヴィア」


理由はわかっている、ギュンターのことだろう。



「ねぇ…エリー」


相変わらずシルヴィアの表情は暗いままだ。


「どうしたの?」

「ううん、やっぱりなんでもないわ」


シルヴィアはそう言うと口を閉ざす。


(シルヴィア…)





フィレンツェまでの帰りの道はまるで依頼に失敗したかのような暗さで包まれていた。

いつもならシルヴィアやギュンターが軽口を言い合いそれにエリーとウェンがつっこむという図式が成立していた。


だが今日は。

シルヴィアは口を閉ざし、ギュンターは怪我と疲労により眠ってしまっている。

せっかく師匠が復活したのにもったいないと言いたいところだが、とても言えるような空気ではない。

このムードのまま孤児院に帰りたくはないと、どうにか策を考えるものの妙案は浮かぶはずもなく。



「さて、ギルドの報告をしなければならないが俺とエリーで構わないか?」


フィレンツェのギルド南支部前まで来てしまった。

肝心なところで使えない頭だと自分に失望する。


「いえ…私もいいかしら?」


シルヴィアも同行を申し出る。


「…そうか。ならウェンよ、ギュンターの頼めるか?」

「最初から僕が運んでいましたから問題ないですよ」


見ればウェンがギュンターを担いでいた。

今の今までそれに気付かなかったとは自分もシルヴィアのことで頭が一杯だったとエリーは苦笑する。



「それでは先に孤児院に戻っていますね」


軽々とギュンターを担ぎ、孤児院の方へ歩いていく。

ギュンターを軽々と担いでいるのならウェンもあぁ見えて鍛えているのかもしれない。


(あれ、もしかして僕って一番筋力無いんじゃ)


自分が必死になって運んだシルヴィアを2人は楽々と運べ、恐らくシルヴィアと体重が同程度である自分をシルヴィアはお姫さまだっこで運んだらしい。


(…はは、まさか)


頭に浮かんだ嫌な予想を振り払う。


(そんなことよりシルヴィアの心配しないと…)


だがシルヴィアに声をかけることも出来ないまま支部の中へ歩みを進める。




「ねぇ、エリー。話があるの」


キニジが報告を済ませているなか、シルヴィアから話を切り出される。


「わかった。ちょっと場所を変えようか」


正直ここでは話し辛い。



エリーとシルヴィアが南支部から出ると


「2人も終わったぞ…む。…先に帰るか」


キニジは軽く溜息をつくと孤児院への道を歩きだす。






南支部から徒歩数分、エリーとシルヴィアは近くのベンチに腰かけていた。


「エリー、単刀直入に聞くわ。私って必要だと思う? みんなの邪魔になってたりしない?」




答えは1つしかない。


「必要だよ。僕には、絶対に」


自分にできることをする、それだけだ。

シルヴィアは自分の新しい人生を与えてくれた恩人で、自分が心の底から好きだと言える人だ。




「この半年間、シルヴィアは僕のことをずっと支えてくれた。それにシルヴィア覚えてる? これと同じベンチで半年前、シルヴィアが僕に道を示してくれたんだよ」


ベンチを慈しむかの様に撫でる。


「あの夜、あのベンチで、満点の夜空の下、シルヴィアが言ってくれたことが僕を救ってくれた。だから今度は僕の番だ。シルヴィアは邪魔じゃない、必要な人だ。少なくとも僕やギュンター、ウェンにとっては間違いないよ」


だからそんなことを言わないでとエリーの精一杯の願いを込めた言葉をシルヴィア届ける。



「ありがとうエリー。でもね…」


泣いていた。


「今回の依頼でギュンターが私を庇ってくれたじゃない?別に今回だけの話だけではないのだけど、私が何かしらのピンチになればギュンターやウェンが文字通り盾として体を張って守るのよ…。その度に私は『また守られた』って…」


シルヴィアの護衛としてギュンターとウェンが一緒に旅していることは知っている。


だからシルヴィアを庇うことは当然であり、シルヴィアも当たり前の事として受け入れていると思っていた。

だが違ったのだ。



「私がGMとして旅に出るとさえ言わなかったらギュンターもウェンも旅に出ることなく、あの様に傷付くことはなかった! 全ては私の我が儘のせいで2人とも行きたくない旅に…! 私の『剣』として『盾』としての生き方を強いてしまったわ。私は…私はどうすれば…」


シルヴィアの自白に言葉を挟むことはできなかった。

普段は底抜けに明るいシルヴィアがこれ程の悩みを抱えているとは知らなかった。知ろうともしなかった。


(僕は…結局シルヴィアのことを何も…)




その時である。エリーとシルヴィアを見慣れた影が包んだ。


「くだらねぇことで悩んでんじゃねぇぞシルヴィア」

「シルヴィアさんはただ前を向いていればいいんです」


ギュンターとウェンだ。その隣にはキニジもいる。


「な、なに聞いてるのよ…盗聴魔…」

「たった1回でかよ…」


シルヴィアは目に涙を滲ませ、恥ずかしいのか顔を赤くしてしまっている。



「キニジさんがシルヴィアさんとエリーさんが話しているから茶化しに行こう、と」

「俺に責任を押し付けるのはやめてくれないか」


気付けば笑っていた。


「フフッ、馬鹿みたい…」

「そうだね…」

「本当、馬鹿みたい…」


涙を拭き、笑顔を見せるシルヴィアはいつになく魅力的に見えた。




ギュンターはいつになく優しい口調で語りかける。


「なぁシルヴィア。俺とウェンはお前の父親に言われたから同行したってのも本当のことだ。だがな、言われなくても俺らは着いていったと思うぜ。俺らは俺らの意志でシルヴィアと旅をするって決めたんだ」


ウェンも口を開く。


「僕はシルヴィアさんに仕える執事として育てられましたからね。その主人が行くとなれば誰に言われるまでもなく僕はお供しますよ。それに『剣』だの『盾』だのまどろっこしいことなんてどうでもいい! 僕は『剣』でも『盾』でもなくシルヴィアさんの友人でもあり執事でもあるんです。その主人ゆうじんがピンチとあれば、そこには下らない理念思想は関係ありません。自然と体が動くんですよ」


ま、そういうこったとギュンターも続ける。


「俺の場合は戦士として世界を見て回りたかったってのもあるけどな。それ以外はウェンとほぼ同じだわ」


2人とも照れくさいのか顔をそむけている。

ギュンターもウェンも素直ではない、なんだかんだでシルヴィアが心配だったから同行したのだろう、彼女を守ったのも義務などではなく、彼女ゆうじんを想っての行動のはずだ。




「本当に2人とも馬鹿ね…」

「あぁ馬鹿だぜ、それも救いようのないくらいの馬鹿だ」

「だからこそ僕たちは本心からシルヴィアさんとの旅を楽しめるんですよ」


その言葉には嘘偽りはないと断言できる。

物心ついた時から一緒にいたこの3人には嘘や偽りなどは必要ない。


「私もこんな馬鹿どもの事で悩んでいたなんてね、同じくらいの馬鹿ね…」

「そうだよバーカバーカ」

「なんですって!」


沈黙。


「フフッ」

「はははっ」


3人は笑っていた。




「なんか色々と解放された気分だわ、ありがとう。2人が好きでやっているのならこれならは存分にこきつかってあげるわ」

「おっとそれは出来ない相談だぜシルヴィア。執事ウェンはともかく俺はお前と主従関係はないからな。徹底抗戦も辞さないぜ」

「真正面から叩き潰してあげるわよ。子どものころ私との喧嘩は私の全戦全勝だったこと覚えているかしら?」

「お前それはウェンを味方につけてたからだろ!」

「いい歳してそんな子どもの様な喧嘩はやめてくださいね」

「あぁん?なんならお前を最初の標的にしてもいいんだぜ?」

「へぇ、やるなら僕も本気ですよ。2度とそんな口をきけないよう返り討ちにしてあげますよ…!」


まるで兄弟喧嘩のようだ。


「シルヴィアもギュンターもウェンも、まるで家族みたいだね」


エリーはしみじみと呟く。

孤児院にいたころの自分とレベッカとクローヴィスもあのような関係を築いていた。


孤児院も自分が帰る場所なんだと確信する。



「エリーも家族みたいなもんだぜ?よくできたいも…弟みたいな」

「むしろ私はエリーと物理的に家族になりた」

「長くなりそうなのでそこまでです」


エリー的に気になる発言が2つあったが気にしないことにした。


「とりあえず孤児院に戻ろう?師匠も帰りたくてうずうずしてるだろうし」


悪戯気味にキニジに矛先を向ける。




「俺は別に…」


シルヴィアも意図を察したのか


「そうね、帰りましょうか。そういえばギュンター」

「なんだ?」

「左腕大丈夫?」

「強引に戻した。応急処置みたいなもんだからちゃんとした処置を後からしないといけないがな」

「なら良かったわ…本当に。それじゃあ行きましょうか」




歩きはじめて数分。


「エリー」


シルヴィアは急にエリーに顔を近付けると


「…ありがとう」


耳元でそう囁いた。

驚きと恥ずかしさで顔が赤くなるがわかる。



それらを紛らすために慌てて話し出す。


「また悩んだら僕に相談することも考えてね」

「そうね、じゃあさっそくそうさせてもらうわ」


シルヴィアは少し考え込むと一言。


「エリー、子どもは何人欲しい?」

「今することじゃないと思うよ……」

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