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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第2章 死神の真実
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復活の双刃

ギュンターは魔族の魔力の放出バーストからシルヴィアを庇い、大きく吹き飛ばされた後背後の大木へ叩きつれられた。


「ギュンター!」


シルヴィアが走りよってくる。


「安心しろ、そこまで大した怪我じゃない。どうせさっきので魔力を使い切ったんだからいてもいなくても大差ないぜ…」


大した怪我じゃないと言ってはいるが額からは血が流れ、左手はおかしな方向へ折れ曲がっている。


「とりあえずシルヴィアははやくエリーたちに加勢しろ。左手の骨折程度ならなんとかなるさ」

「でも…!」

「はやく行け!エリーがどうなっても知らんぞ!」

「くっ…!ごめんギュンター!」


そう言うとシルヴィアは魔族の元へ駆け戻る。




これからは何かあるたびにエリーを引き合いに出すかとさっきの放出バーストでボロボロになった相棒カベナンターを眺めつつ考える。


(さっきの放出バーストの瞬間こいつを構えといて正解だったな。そうじゃなきゃこの程度じゃ済んでないぜ)


何はともあれシルヴィアが無事で良かったと安堵する。



「まったく、無理をしすぎですよギュンター」


魔術を唱え終わったウェンが近寄ってくる。


「あぁん?サボってんじゃねぇぞウェン」


冗談混じりに文句を言い放つ。



「いや、あんな動かれたら魔術で誤射しちゃいそうですからね」


ウェンの視線の先にはさっきとはうって変わって積極的にシルヴィアが攻めている。

エリーもそのあとに続き魔力強化したリベレイターに加えナイフまても魔力強化を施している。


「あの二刀流もキニジさん仕込みなんでしょうか、だったら凄いですね」

「大剣二振りを同時に使えるんだ、あの程度わけないだろうよ」


大きく溜息。


「今回はちょっと疲れたな、休ませてもらうぜ」

「後は任せてください。次にシルヴィアさんに危機が訪れるようであれば…僕が盾になります。それが僕らの使命ですからね」


ウェンはそう言うと詠唱をしつつ魔族に向かっていった。




◆◆◆




ウェンの魔術の爆風で起きた煙を払い、何度目かわからない斬撃を魔族の足に叩き込む。


(流石に二刀流で魔力強化は消費が激しいかな)


ナイフの魔力強化を止め、鞘にしまう。

シルヴィアとギュンターが右鎌を叩き折ったとはいえ依然として魔族は健在だ。


(せめて顔を狙えれば…!)


唯一ゴム質の皮膚に覆われていない顔を攻撃できれば事を有利に運べる。

だがそれには左鎌が邪魔だ。右鎌がない分幾らかは攻めやすいが何せリーチが長い、その上左鎌を広げて凪ぎ払いまでしてくる始末だ。



「やっぱり私が『影』を使うしか…」


まだシルヴィアに『影』を使わせるわけにはいかない。

もしそれでも仕留めきれなかった場合3人にまで戦力が落ちてしまう。


「シルヴィア、まだ手があるんだ。それまで待ってくれない?」

「わかったわ」


手、というよりは可能性といっていい。



「…師匠、頼みがあります」


もしかしたら師匠に辛いことを頼んでしまうかもしれない、だがここでやらねばただただ傷を負うだけだ。


「…何だ」


キニジは短槍を片手に魔族に一撃を与えつつ身を翻しエリーの側に立つ。


「ギュンターの大剣、使えませんか?いや、ギュンターの大剣と師匠が作り出した大剣で戦えませんか?」


無理強いをしてることはわかっている。

キニジにしてみれば大剣を使うのはマリーと再会してからがいいに違いない。




だが師匠キニジ


「いいだろう。マリーと合う前の肩慣らしといこうか」


少し嬉しそうな顔をしている。



「本当にいいんですか?」

「他ならぬ弟子エリーからの頼みだ、無下にはできないさ。それに大剣の腕が鈍っていたらマリーと再開してから恥ずかしいからな」


照れ隠しだろうか、エリーに顔は見せなかった。



エリーも深く聞くことはしなかった。


「じゃあ持ってきます」


エリーはギュンターに駆け寄る。


「ギュンター、この大剣ちょっと借りるけどいいかな?」

「エリーなら、別にいいけどよ、ボロボロだぜ?」

「大丈夫、師匠が直すから」



ギュンターの愛剣カベナンターを手にする。


(っ!重い…)

両手で持つのがやっとといった重さだ。


「ギュンターはこんな重いの振るって戦ってるの…!?」

「当たり前だろ…。使いたかったら筋肉つけろ筋肉」


だとすれば自分は使う予定はないので筋肉はいらないなと考える。

「壊れたらごめんね…!」


エリーはそう言うとキニジの元へ走り出す。








「これを!」



エリーから渡された大剣を握りしめる。


(あぁこの重さ、この長さ、実に懐かしい)


キニジはギュンターの大剣を左手で握りしめる。



「確かにボロボロだな…。だが」


憑依術式リチュアの応用でギュンターの大剣を魔力で覆う。



「そして…!」


さっきまで使っていた短槍を捨て、右手に大剣をイメージする。

あの頃に使っていた相棒の形が目に浮かぶ。

制御された魔力が結晶となり、武器の形を得る。


その右手には当時の相棒そのものが握られている。相棒の形を忘れるものかと不敵な笑みを浮かべる。

このことは何年たっても忘れないだろう。弟子に、そしてその仲間に当時の想いを蘇らせてくれたこの日この時をッ!



「…キニジ・パール、復活の時だ。本気でいかせてもらう…遊びは終わりだッ!」


自然と体が当時の構えをとった。これならいけると強く大地を蹴る。

狙うは左前足。

当然魔族はキニジを狙い左鎌を振り上げる。

だがそれを見はしない。何故なら頼もしい弟子と仲間がいるからだ。


「させない!」

「させませんよ…。切り伏せろ!"ディザスター・ブレード"!」


エリーの剣とウェンの魔術が左鎌を捉える。

ミシッという音をたて左鎌にヒビが入る。


「逃しはしないわ!その左鎌、私がもらったッ!」


シルヴィアが左鎌を斬りつける。左鎌は音もなく両断された。


「今よ!」

「このチャンス、逃しはしない!」


両手に持った大剣二振りを己の力全て振り絞り、叩き付ける。




「!?」


魔族の足は既にそこにはなかった。


「ガァアアァァ!?」


左前足を両断され倒れこむ魔族。



これが最大のチャンスだと全身のバネを使い跳ぶ。狙うはそのゴム質に覆われていない頭部!


「これで終わりだ、安らかに…眠れ!」


確かな手応え。


振り返れば魔族の首はそこにはなく、その魔族が息絶えたことを知らせるかのように音をたて崩れ落ちた。



「や、やりましたよ師匠!」

「あぁ、そうだな」


(これで、彼女マリーに顔向けできるかもな…)


もう自分を縛るものは何もない。だから彼女に会いに行こう。

自分はもう貴方と真正面から向き合えると伝えるために。

どこまでも青い空の下、"豪傑"キニジ・パールは決意する。


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