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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第2章 死神の真実
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約束

憑依術式リチュア

聞いたことすらない単語にエリーたちが首を傾げるなか、ウェンだけが普通とは違う反応をしていた。


「憑依術式!?なんで禁術を、あなたが…」


間違いなく彼は動揺している。


「どうやら知っているのはお前だけのようだな、ウェン・ホーエツォレルン」


仕方あるまいと死神キニジ・パールは静かに語り出す。





「憑依術式…。簡単に言ってしまえば、周囲の魔力を取り込み結晶化させ武具として扱う。それだけだ」


だが問題はそこではないとウェンが続ける。


「当たり前のことですが、生物の魔物化は『自分のものではない魔力』の影響を強く受けること。そして憑依術式は『周囲の魔力を取り込む』必要があります。つまり、取り込んだ魔力の影響を強く受けなければならない。これでもうわかりますね?」


「魔物化…いや魔族化するってこと?」

「…そういうことです」


ウェンはなおも続ける。


「だからこそ憑依術式は禁術の烙印を押されているんです。使えば間違いなく魔族化する。本来であれば魔物や魔族を討つために使われる魔術で魔族化など洒落になりませんからね」



「いや違うな」


水を刺したのはキニジだ。


「少し説明に間違いがある。『自分のものではない魔力』と言ったが、あれの正確な説明は『自分が制御できていない魔力』だ」


エリー自身、禁術を使っているがよくわからない。




「つまり、制御さえできれば自分のものではなくとも魔族化しないということかしら?」


シルヴィアの質問にエリーははっとする。

つまり憑依術式を使っておきながらキニジが魔族化しなかった理由とは…


「それに憑依術式を使えば間違いなく魔族化するのも誤認だ。本来の憑依術式は『取り込んだ魔力を己の魔力で制御し、結晶化させ己の武具として扱う』こと。魔族化したのはその規格外の強さに憧れ魔力の制御も出来ないまま使用した愚か者だろう」


だが、とキニジは口元を緩める。




「俺自身も完璧に使いこなせているとは言い難い。ほんの少しずつ俺も魔族化が進んでいる。それに普段は武器のみを結晶化させているからな、鎧を含めた魔力の結晶化ーー完全解放フルドライヴは30秒ほどしか持たん」


人のことを言えないなと微かに笑う。



「師匠でもそれくらいしか出来ないんですか?」


師匠キニジのことだからもっと出来るのだろうと思っていたエリーにとって軽い衝撃だった。


「結局は制御できるのは自身の魔力によるさ、俺は魔力が多いとは言えないからな。どう頑張っても短時間しか持たない。だが魔族化すれば長時間完全解放できるかもな」


軽い冗談のつもりだった。




だがエリーは目の色を変える。


「それだけは許しませんよ師匠。あなたには先生との約束があるんです。自分の目的を果たしたら孤児院に帰ってくる、孤児院から発つ日先生とそう言い交わしたじゃないですか」


どうやら今は冗談は通じないらしい。




少し空気を読むべきかとキニジは自分を戒める。


「その話をもう少し詳しく」


シルヴィアは年頃の女子らしく目を輝かせ話を聞き出そうとする、が。


「その話は後で聞こうなシルヴィア」


ギュンターに止められる。



「その約束というのも憑依術式と関係があるがな」


シルヴィアが「ならば聞くしかないわね」と言っているが無視。

キニジ自身が憑依術式に手を出した理由の説明をしなければならないことは確かだ。




「5年前、ちょうどエリーとここにはいないがクローヴィスという子どもに少し剣の稽古をつけていた時の話だ。あの日俺とその2人が郊外に出て簡単な実戦でもしようとしていた。ちょうどその場にはエリーが見に来てと誘ったいたマリーもいた」


エリーは何かを思い出したのか、唇を噛み締める。


「その時突然魔族が現れた。エリーとクローヴィスはなすすべもなく吹き飛ばされ気絶。大した怪我が無かったのが不幸中の幸いだろう。だがマリーは」


キニジは突然言葉を詰まらせる。


「どうかしたか?」

「いや…なんでもない」


何かを振り払うかのように続ける。



「マリーは気絶した2人を魔族から庇い腹部に大きな裂傷を負ったんだ。正直頭が真っ白になったよ。自分のせいで子どもに大きくないとはいえ怪我を負わせ、さらに戦う力もない女性マリーを死なせてしまったと。ーー実際は死んでいなかったがな」


「師匠あれは…!」


エリーが何かを言おうとするがすぐに口を閉じる。

今ここで何を言っても、死神キニジ・パールの懺悔の邪魔にしかならないと悟ったからだ。


「ただその時俺は武器を持ってはいなかった。たかが訓練だと、魔族なんて出るわけないとたかをくくっていた。…全て俺の責任だ。だから俺があの場でとれた行動はひとつしかなかった」

「それが憑依術式だと?」

「あぁそうだ」


死神の懺悔はまだ続く。


「ぶっつけ本番だった。とある事情で憑依術式のやり方を知っていた俺は躊躇いもせず憑依術式を使ったーーー完全解放でな。結果を言ってしまえば魔族を殺し、マリーと2人を助けることができた。だが完全解放を時間を無視して使った代償は大きかった。俺の魔族化の大半はその時によるものだ。勿論今でも使う度に魔族化するが微々たるもので大して影響はない。あの日以降マリーをと接するのが辛くなったんだ。自分のせいで傷付けてしまったからな。そんなある日のことだ」


今でも覚えている。

『キニジさん。私に怪我を負わせてしまったことに責任を感じる必要はないのですよ。私はあの事に後悔はありません。それに…キニジさんが守ってくれるって信じていましたから』

それでも彼女は笑顔で自分を赦してくれた。



「…その時俺は決めた。いつか必ず彼女に真正面から向かい合えるようになると。だから俺は二振りの大剣を捨て、自分を1から見つめ直すために旅に出た。目的を果たすというのもそういうことだ。そして今でも憑依術式を使う理由はあの日の悔恨を忘れないため、必ず彼女との約束を守るという意思表示だ」


だからその日がくるまでは"死神"の名を甘んじて受け止めよう。


長い沈黙。

その沈黙を破ったのはシルヴィアだ。


「そういうことなら、なおさらあなたを死なせるわけにはいかないわ」


ギュンターも続く。


「あぁ、ただ1人のためにそこまで出来る人間が悪い奴なわけがねぇ」


ウェンは笑みを携えながら

「どうしても、絶対に、守りたい人がいる。だからこそ自分自身を追い込める、冷酷になれる。僕はそんなあなたを尊敬します」


そしてエリーは


「僕の師匠が悪い人なわけがないです。僕ははじめから信じていましたよ師匠。さっさとあの魔族を倒して先生の素に戻りましょう。今の師匠ならきっと先生と真正面から向き合える」


自分の気持ちを伝え、各々の武器を構える。


「あぁそうだな、約束を果たさねばな」


彼女マリーとの約束を果たす。

憑依術式で武器を作り出し、死神は駆け出した。


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