死神の素顔
それから1週間。
死神との連携にも慣れ、お互いの癖も理解しはじめていた。
特にエリーとの連携がよくできている。
「今日もよろしく頼む」
死神もある程度ではあるが態度が軟化し、出会った当初のような威圧感はあまり感じなくなってきたといえる。
だがそんな中エリーにはひとつの疑問が浮かんでいた。
"自分はこの人物と会ったことがあるのではないか?"
そんなことはないと自分自身で否定してもこの疑問は無くならない。
もしその可能性があるとすれば…。
クローヴィスは…ない。当たり前だがギュンターとウェンは有り得ない。だとすれば心当りがあるのは…ガルドだろうか?
(いやそれはない。ガルドは、僕自身が殺したんだ)
ガルドを殺したことに後悔はない。お互い本気で戦ったのだ、後悔を残していては相手を侮辱する行為だ。
だがエリーはガルドの敵を討ちたいと思っていた。
殺した本人が敵討ちとはおかしな話だと思う。人によっては責任転嫁だと言われるかもしれない。逃げたいだけと言われるかもしれない。
別にそれでも構わない。これはただの自己満足だ。
この一連の原因となった依頼主に直接会い、真意を聞く。これがガルドに対する弔いであり、敵討ちだ。
今はただ死神と依頼を共にしガルド側の依頼主を探すのみだが、いつか必ず見つけ出す。そう心に決める。
だから今は目の前の魔族に集中せねばならない。
「これが今回の魔族だ。かなり手強い相手だ、気をつけろ」
その魔族はここ1週間で戦った魔族の中で一番人型に近い。
だが紫色の皮膚に覆われ、体調が4mほどあることや、足が4本になっていることに加えて、腕がカマキリのような鎌に形状を変えていることから、半年前に戦った魔族ほど強力ではないと予想できる。
「4脚に加え鎌…か。どう攻めようかしら」
シルヴィアは余裕の態度を崩さない。
普段はどうとも感じてはいなかったが、エリーには今は頼もしく感じた。
「見た目通りの強さなら苦労はしない。だが既に複数のGMが返り討ちにあっている。その話によると魔力を放出するそうだ。まだ魔術を使った魔族は確認されてはないが、可能性としては魔力を放出する魔族がこれから増えていくことも否定できない」
恐るべき話だ。
魔族は発生の過程で大量の魔力を取り込む。その魔族が今は魔力の放出のみにしても、その大量の魔力ならば強力ではあることは間違いない。
そして魔術も使用するとなれば…魔族の危険度は更に跳ね上がるだろう。
ウェンが口を開く。
「とはいえ僕は魔術は使えないと予想しています」
「そうなのか?」
えぇ、とギュンターに答える。
「魔術というのは魔力を詠唱によって強力に、なおかつ効率よく放出するための術式です。そのためにはどうしても術式を詠唱する必要がある。魔族が詠唱できるなら話は別ですが」
裏を返せば詠唱しなくても魔力を放出できるということだ。
「だがこういう予想もできないか?」
死神だ。
「魔力の影響を受けてもなお正気を保ち、限りなく人の姿に近い魔族がいる、これはありえなくはないだろう?」
「ありがとう。今の言葉で色々と納得がいったわ」
シルヴィアが確信を得た表情をしている。
「あなた…いや死神。それこそ、あなたが限りなく人に近い魔族ではなくて?」
死神は黙っている。
「最初はただの勘違いと思っていたわ。でも魔族と戦闘中のあなたは、何というか悲しそうだったもの」
なおも続ける。
「それにあなたが魔族に止めを刺す瞬間、『安らかに眠れ』と言っていたわ。その後は聞こえなかったけど少なくても私はこう推理をしたわ。当て付けと言われるかもしれないけどね」
死神の顔は仮面に覆われており表情は読めない。だが何かを期待
しているような、楽しんでいるような、そんな感じだ。
沈黙。
数時間にも感じるような長い沈黙の後。
死神はまるで嬉しそうに笑いだした。
「はははっ、見事な推理だシルヴィア=クロムウェル。だがその推理は半分外れている」
死神は仮面に手をかけるとその仮面を外した。
エリーはその瞬間自分の体に衝撃が走るのを感じた。
「なっ、なんであなたが…!」
エリーはこの人物を知っているどころではない。この人物は…!
「久し振りだな、エリー。あの頃とあまり変わってなくて驚いたよ」
自分とクローヴィスの師匠にして、大恩人。
「キニジ・パールだ。覚えるかどうかは好きにしてくれ」
だが衝撃はここでは終わらない。
そのキニジの顔は半分ほど魔族化していた。
「キニジさん、どうして魔族化を…」
半分正解というのは完全な魔族化ではなく、"一部"魔族化していたということだろう。
「エリー、知り合いなの?」
情況を飲み込めないシルヴィアは少しおどおどしている。
「この人は僕が孤児院にいたとき、たまたま宿を求めてやってきたんだ。そしてキニジさんからGMの存在、そして剣を教わった」
ウェンは唖然としていたが、ギュンターは対照的に声を荒げる。
「もしかしてあのキニジ・パールか!?"両手で大剣を操る豪傑"は剣士なら誰もが知っている有名人だぞ!?」
エリー自身はそんなことを知らず、キニジ自身も何も話さなかったため初耳である。
「だからこそ、剣士の端くれとして聞きたいことがある」
ギュンターはまっすぐキニジの方に顔を向ける。
「なぜ魔族化したんだ?そして大剣を捨てた理由を教えて欲しい」
これ以上ないくらい真正面からの問いだった。
「あぁ話そう。なぜ死神と呼ばれるようになったか、そして魔族化する原因となった憑依術式について…な」
死神は今ゆっくりとその口を開き、己の過去を話始める。