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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第1章 因縁の決着
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告白

その夜、エリーは自分が世話になっている宿屋へ戻っていた。


「勢いでしばらく組むことになっちゃったけど大丈夫かな…」

他人と組むこと自体は初めてではない、1度だけ他人と組んだ経験はある。3年も旅をしていて1度もないというのがおかしな話だ。


だが、そのただ1度の経験は悪い意味で忘れられないものとなった。

あれの責任は全て自分にある。もうあの様な想いをしたくない。

それに、また自分のせいでシルヴィアたちが死ぬのだけは嫌なのだ。





「シルヴィアさん…か」


彼女を見た瞬間に、得体の知れない何かが自分の体中を駆け抜けた。

しかしそれがなんなのか、わからない。


ただ今の自分にできるのは彼女たちを傷つけないこと。



――2年前の惨劇は、繰り返されてはいけない。



「ダメだ暗いこと考えてちゃ…。とりあえず今日は明日に備えてはやめに寝ないと」


物事を悪い方向に考えすぎてしまうのは悪い癖だ。

それに明日は2年ぶりに他人と組むことになる。体調を整える必要がある。





「…寝るかな」


ベッドに入ると数分で意識が水面に浮かんだように浮き沈みしていく。

疲れたのかなと考えつつ、沈み行く意識に身を委ねようとした瞬間だった。



コンコンと、エリーの部屋の扉が叩かれた。


「夜分遅く悪いわね。シルヴィアよ」

「シルヴィアさん…?」


こんなところに何の用かと躊躇いなく扉を開ける。

扉を開けると当然のとこだが、数刻前に見たシルヴィアが立っていた。


部屋に招くと、近くの椅子をシルヴィアに勧める。

自分はベッドに座る。


「重ねてごめんなさい。どうしても話たかったのよ」

「僕と?」


話したいのは自分の方だ。と言っても、何を話したらいいかわからないのだが。



「そういえば、何で僕の部屋を?」

「エリーが教えてくれたじゃない…」


そういえばそうだった。ギルド支部前にて分かれる際に、万が一寝坊した時のことを考え宿屋の場所を教えていた。



少しばかりの気恥ずかしさを振り切って、話を続ける。


「それで話したかっていうのは?」


夜分遅く来たのはシルヴィアもわかっている。それを押してもなお、話したいことがあるのはそれ相応の重要なことなのだろう。


「そうね…色々聞きたいことがあるんだけど…んー」


妙に歯切れが悪い。


「言いたいことがあるのなら、何でも言っていいですよ?」


時間が時間とはいえ、折角ここまで来てもらったのだ。無下にはできない。





「わかったわ。こうなったら、はっきりと言いましょう」


シルヴィアは何かを決意したかのように、真っ直ぐエリーを見つめる。


「え、えっと」


真っ直ぐ見つめられると恥ずかしさのあまり目を反らしたくなる。

だがシルヴィアのためにそれはできない。多少恥ずかしかろうが仕方ない。




エリーの内心の葛藤を知ってか知らずか、シルヴィアも恥ずかしさに顔を真っ赤にしている。

が、息を吸い込むと凛と張った声で思いの丈を吐き出した。


「私は…エリーを見た途端に心に雷が走ったのよ。えっと、簡単に言えば一目惚れしたわ!こんな気持ちになるのは初めてなの…だからどうすればいいかわからなくって」


まさかこんな内容とは思いもしなかった。例えば自分の容姿のこととかを聞かれるのではないかと。…冷静に考えればそれは明日にでも聞けばいい。


自分の容姿がどんなものかはわかっている。

もしかしたら彼女の考えている自分ではないのかもしれない。それを騙したままなのも忍びない。



「あのシルヴィアさん。僕、これでも一応男ですよ?こんな容姿ですけど」


男と見られたことなど片手の指で足りるが、非常に大事なことだ。


だがシルヴィアは一味違った。


「やっぱりね。そうだと思ったわ」

「…え?」


何を言っているか理解できない。


「いやだから、男なのはなんとなくわかってたわよ?」

「え、あ、そうなんですか…」


喜んでいいのか悲しんでいいのなわからないところではある。本来は両手を上げて喜ぶべきではあるのだが。


それに自分が男ではなかったらどうするつもりだったのだろうか。


「あの、参考までに聞いておきたいんですけど…。もし僕が男じゃなかったらどうするつもりだったんですか?」

「最初からオトコのコだと思ってたからそれは考えてなかったけど…。うーん、構わず行っちゃってたかも」

「えぇ…」


先程からとんでもない答えしか返ってこない。もしかしたらシルヴィアは自分の想像したような人物ではないのかもしれない。





「それでさっきの…こ、告白の返事を。…いえ、唐突に行って勝手に言ったのはこちらだもの、すぐに答えなくていいわ」


彼女としては、勇気を振り絞っての行動だったのだろう。

それを無視することはできない。


「シルヴィアさん」

「な、なにかしら…」


怯えたようにこちらへと視線を投げ掛けてくる。



「その、僕は…好きとか、そういうの、よくわからないです。そんなこと考えたこともなくて…。でも…! 多分嬉しいんだと思います。だから…今は答えられるまで待ってくれませんか? ――好きだと言われて、嫌な気持ちはしませんでしたから…」



今の自分にできる、最大限の説明。

好意やそんなものは気にかける余裕は、あの日からずっと存在しなかった。自分にあるのは復讐の言葉だけだった。


――これからも、そうなのだろう。




「ほ、本当に…?」

「…はい」


こんな状況で嘘をつけるほど、自分は頭の回る『人間』でもない。

彼女の真っ直ぐな言葉に、エリー自身ができる真っ直ぐな言葉で返しただけだ。


シルヴィアはそれを聞くと、しばらく俯いたまま顔を上げなかった。

体感では数時間に思えたが本当は数分しかたってないだろう。――それほど長く感じる無言の時間が続いた。


エリーがもしかしたら変なことを言ってしまったのではないかと、自問自答を繰り返していた時である。

シルヴィアが顔を上げゆっくりと口を開いた。




「…嬉しい、ありがとうエリー。本当に…。ただの私の我儘なのに…」

「………」


言葉を返すことができなかった、




「私は、恵まれてるわね…」


シルヴィアは再び俯く。しかし先程とは違い、すぐに顔を上げると


「あなたと話せてよかったわ。今日のことは一生忘れられない。明日からよろしくね、エリー」


屈託のない笑み見せてくれた。



「それじゃあ私は宿屋に戻るわね。あまりに遅いと2人に気付かれるもの」

「あ、うん…。ッ!?」


彼女の笑みに見とれてしまっていた。その間に彼女はエリーの手をとり、手のひらへ軽くキスをして、去ってしまっていた。





「え…あっ…」


残されたのは茫然自失となったエリーのみ。

シルヴィアが何の意味を包んで手のひらへとキスをしたのか、何となくだがわかる。しかしそれは…。




とりあえず寝ることが最優先だとベッドに潜り込む。だが手のひらの感覚がずっと残っているような気がしてならない。



結局そのことに頭をとられて、一睡できずに朝を迎えてしまった。


「寝坊しなかったと考えよう…」


重い瞼を擦り支度を済ませるとエリーは一抹の不安を覚えながらも、町へと出ていった。


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