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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第2章 死神の真実
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閑話・シルヴィアお嬢様の華麗なる休日

目が覚めると、孤児院の天井が見えた。

……あたまがいたい。

昨日の記憶は酒場で遭難の話が盛り上がったところまで。

死神の話をしていたはずなのだけど、いつの間にか遭難の思ひ出話に変わっていってしまったわ。私たちらしいといえば私たちらしいわね。

それからどうやってここまで運ばれたか覚えてはいないけど、どうせギュンターやウェンが運んだのでしょう。別に嫌ではないけど本音はエリーに運んで貰いたい…。


「さて、と!」

水を魔法で結晶化させた魔水結晶を取りだし、少し髪を湿らせる。

フェレンツェは水が豊富で水だけなら全家庭に無料で供給されているとのこと。

もちろんそうではない土地もある。その場合は今使った魔水結晶が基本的な水の供給源になるそうよ。

お高いイメージはあるけれど、水の結晶化ならそこまで魔力は必要とせず、純粋な魔力の結晶体で動かす魔導機械での大量生産に成功したため普通に購入できるものになっているわ。


「~♪」

湿らせた髪にくしを通す。

生まれてから今日この日まて、髪の手入れを欠かしたことはない。

最近はエリーの髪を手入れすることもあるけど、あの子も髪がサラサラしていてとても男の子の髪とは思えない。

生まれてくる性別間違えたんじゃないかしら…。


トントン、と扉をノックする音。

「シルヴィアー?起きてるー?」

噂をすればなんとやら、エリーね。

「えぇ起きていてるわ。どうしたの?」

扉を開ける。

「そこまで二日酔いは酷くなさそうだね。でも念のために今日の死神調査は休みになったよ。今ギュンターがギルドに報告した後死神に話をしてくるって出てったところ」

どうやら昨日の私は相当飲んでいたらしい。…当然か、記憶がないもの。

「…というわけで今日は休日!ウェンは魔術研究所に用があるって誘えなかったけどレベッカは誘えたから3人で出掛けない?」

一瞬、何を言っているかわからなかった。

つまり…で、デート…?

え、えどうしよう心の準備とかその他諸々できてないのだけど。

「とりあえず準備するから先に待っててくれないかしら?」

平静を装い、とりあえずドアを閉める。

「別に急がなくていいからね?」

そうは言われても急いでしまう。

気付けば二日酔いの頭痛など吹っ飛んでいた。


服はいつものからカジュアルな服装に変え、さらに気合いをいれて髪を整えてきた。これでエリーを落とすわよ!

「あ、シルヴィアおはよー」

レベッカが声をかけてきた。

レベッカとはお互い歳が近いこともあり、すぐに仲良くなれたの。

今では"女子トーク"なるものをするほど。

そんな彼女も今日はお洒落をしてきている。

当のエリーは

「みんな準備はいいかな?じゃあ食べ歩きに行こっか」

ユニセックスな格好をしており、髪もいつものポニーテールをほどきストレートにしている。

ちなみにこのコーディネートはレベッカがしてくれたとのこと。

全く、良くわかってるじゃない。



孤児院を出て数分、近くのバザーに足を運んでいた。

「そういえば何で食べ歩きなの?趣味か何か?」

エリーと旅を始めて半年、エリーにそんな趣味があるとは知らなかった。

エリーは早速購入したフランクフルトをかじりつつ

「趣味かどうかはわからないけど、楽しいからつい行っちゃう感じかな。後はたまに『嬢ちゃん可愛いからおまけしちゃうよ!』って屋台のおじさんがもう1個くれたりするからね」

意外な理由を述べた。

「というか自分で男と見られてないこと認めちゃうんだ…」

レベッカが呆れたように呟く。

エリーの服装をコーディネートしたあなたも人のこと言えないと思うわ…。

「でもエリーが可愛いのは事実でしょう?私ならおまけしちゃうもの」

私も人のこと言えないわね。

「まーねー。私も昔からかわいいなーって思ってたけどまさかここまでとは思ってなかったよ」

エリーが「えっ!?」と驚いているがあえて無視した。

私は近くでクレープを購入し

「実を言えば私、エリーに女装とかさせてみたいのよ?」

常々思っていたことを暴露する。

エリーが「ちょっとシルヴィア!?」と言っているが無視。

焼き鳥を頬張りつつ

「ねぇシルヴィア、今ならできるんじゃないかな?」

レベッカが悪い顔をした。

よく考えたら今は2対1、絶好のチャンスかもしれない。

「えっ、えっ?」

すぐさまレベッカと共に両脇を固め、手を掴む。

「フフッ、エリー覚悟なさい」

「ちょっとお人形にするだけだから…」

エリーは目に涙を浮かべ抵抗する。が

「い、いや…っ」

「ウィヒヒ、抵抗しても無駄よエリー。いいからとっとと私たちのお人形となりなさい!」

強引にレベッカに抑え込まれる。そしてエリーは私とレベッカに連れられ雑踏へと姿を消した。



バザーの中をギュンターは歩いていた。

「そういやエリーが皆を誘ってバザーに食べ歩きしに行くって言ってたな。もしかしたらそこら辺にいるんじゃねぇの?」

ギルドに報告も死神と話をつけることも終えたギュンターは、少し栄養が欲しいと近くの店で焼き鳥を購入。

「しっかしまぁ人が多いな。シルヴィアが迷子になってなけりゃいいが…」

地元であるエリーとレベッカは恐らく問題はない。不安要素があるとすればシルヴィアだ。

例えばそう、やっかいなことに首を突っ込んでいたりとか。

(ってもエリーがついてるし、シルヴィアのことならなんとかなるだろ。…エリーに何も無ければの話だが)


その時である。

ギュンターの近くの群衆から歓声が沸いた。

「な、なんだなんだ!?」

野次馬根性をみせ現場に近付く。

シルヴィアを発見。だが

「あ、シルヴィアじゃねぇか。ってなんだその格好」

彼女はなぜかメイド服を着ていた。

「あらギュンター、いいもの見せてあげるわ」

シルヴィアが指差した方向を見ると

「………!」

ギュンターの想像を遥かに越えたものがあった。



エリーをなんとか近くの店に引っ張りこむ。

「おかえりなさいませ!お嬢様!」

メイド服を着こんだ女性に突然あいさつされた。

私が唐突の事態に驚いていると、レベッカが

「えっとね、ここはメイド喫茶っていってメイド服をきた店員が接待してくれるんだけど…知らなかった?」

別に本物のメイドなら実家(クロムウェル家)に…。

「そうだ確かこの店ってメイド服の貸し出しをしていましたよね!」

「えぇしていますよ、お嬢様」

店員のにこやかな返事と共にレベッカは勝ちを確信した表情を浮かべる。

そして声を高らかに

「このエリーにメイド服お願いします!」

死刑宣告をした。

「ひいっ」

エリーは涙目どころかもう半分泣いている。

「あのすみませんやるなら全員というルールなのですが…」

若干店員が引いている気がするが気にしない。

レベッカは既に着るつもりのようね。

「シルヴィア大丈夫?」

そのくらいなら問題ないわ。

「そういうことなら、わかりました」

メイド服、1度着てみたかったのよね。


数分後。

既に着替えた私とレベッカはエリーを待ちかねていた。

「………」

更衣室のカーテンからエリーがこちらを覗くのを確認。

「遅かったじゃないか…」

レベッカも目を光らせている。

さてさてどんな姿をしているのかしら…。

エリーがカーテンを開け姿を表す…!


「ど、どうかな?」

「………」

正直、負けたと思った。

メイド服の合間から見える四肢は眩しく輝き、彼女エリーの恥ずかしそうな表情とその輝きが化学反応を起こし、可憐な少女といった風貌を醸し出している。

というか「どうかな?」って結局エリーもノリノリじゃない…。

「何か反応はないの…?」

エリーがまた目に涙を浮かべている。涙腺大丈夫かしら。

「いやー、うん。あっとねエリー」

レベッカが口を開く。

「予想の遥か上をいかれてちょっと脳の整理が追い付かないというか」

ふぅ、全くいいもの見せてもらったわ。

「とりあえず外に出て見ましょうか?」

さて、次の一手を打たせてもらういましょうか。

「えっこの格好で!?」

「この格好で外の出歩きOKなんだって!じゃあ行くしかないよね」

レベッカが強引にエリーを引っ張る。

私たちの戦いはこれからよ!


それからというもの。

流石にメイド服3人で出歩くと嫌でも目立つ。そのため至る所で声をかけられるハメになってしまった。

となると騒ぎが大きくなってきてしまう。

ギュンターやウェンに見つからないかとヒヤヒヤしていた私は正直はやく帰りたかった。

でもエリーのメイド服なんて今後見れないだろうし目に焼き付けておきたい…!


そしてその瞬間はやってくる。

「あ、シルヴィアじゃねぇか。ってなんだその格好」

ついに見つかってしまった。だがまだギュンターなら救いはあるわ。

ここはあえて開き直り、あわよくばギュンターもこちらの陣営に引きずり込む。

そうすればウェン側にエリーがいっても2対3!私の勝ちは揺るがないわ!

「あら、ギュンター、いいもの見せてあげるわ」

「………!」

ギュンターは暫し黙りこむと。

「なぁ、シルヴィア、エリー、レベッカ。少しウェンも交えて話がしたい」

…敗北を確信した。



「まぁシルヴィアとレベッカがメイド服を着るのは100歩譲っていいとしよう」

魔術研究所にいたウェンを呼び寄せ、2人がかりの説教が始まってしまった。

ウェンもウェンで用事を中断されたのか機嫌が悪い。

ちなみにメイド服はちゃんと返してある。

「だがなエリー!なんだあのハレンチな格好は!俺はそんな風に育てた覚えはないぞ!」

親じゃないんだから…。

「かれもこれも全部シルヴィアとレベッカにやらされたんです…」

まさかのエリーの裏切りである。これには私もレベッカも反論する。

「エリーだって途中からノリノリでウィンクとかしてたじゃない!」

「そうよ!むしろ一番声をかけられてたのエリーじゃん!」

エリーも負けじと言い返す。

「それは断れない雰囲気だったからでしょ!僕だって『ご主人様』とか言いたくなかったよ…」

こうしてエリー対私とレベッカの口論が始まり30分後。


「わかりました…。もう3人とも悪いです、連帯責任です」

この孤児院の院長であるマリーさんが襲来。

「でも先生」

「でもも何もありません。3人とも外に立ってなさい」

「「「はいぃ!」」」

というわけで私たち3人はしばらく外に立たされ、休日はそのまま終わりを告げた。


今回のことで学んだことがある。

"何事も限度がある"

当たり前だけどその意味を本当に理解した気がするわ。


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