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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
終章 あなたと私の話
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陽だまりと旅

勢いのままエリーが入院している病院まで来たレベッカとシルヴィアだったが、エリーは未だ意識が戻っていなかった。


「……傷だらけだ」


エリーの頬にレベッカは優しく触れた。

よく見ると処置が必要ないくらい小さな傷があった。

それに自分の指を重ねてなぞる。こんなことしてもどうにもならないが、自分がエリーの傷を少しでも引き受けられたらと願わずにはいられない。


「こうやって傷だらけになりながら戦ってきたんだね」


エリーやシルヴィアたちが何をしているのかそれをまじまじと認識する。

いつ帰ってこない日がくるかわからない、命のやり取りを彼らはしているのだ。


「……私ね」

「……えぇ」

「エリーが戦いに行く日に、最後に何を話してたかなんて覚えてないんだ。多分『いってらっしゃい』だったと思う。それが最期になったかもしれないのに」


何事もなく、無事に帰ってくると根拠もないのに信じていた。

今回の戦いではグリードが死んだことを聞いた。

レベッカは彼とはあまり話したことはないが、その報告を受けてショックを受けた。

先ほどまで元気だった人間がふとしたことで死んでしまうのだ。

もしエリーがそうなってしまったら。


「だからもっと話すよ、私。後悔しないくらいエリーとたくさんお喋りする」

「旅や戦いをするのを辞めて、とは言わないのね」

「言わないよ。きっとそれはエリーのしたいことだもん。私はエリーが楽しそうにしてる笑顔が好きだから」


そう言うとレベッカは満開の花々のような笑顔を見せる。


「私もよ。好きな人には笑っていて欲しいものね」


シルヴィアもレベッカと全くの同意見だった。

エリーには笑顔がとても似合う。



「そういえば、レベッカは何故エリーのことをここまで好きになったのかしら?」

「どしたの急に」

「ごめんなさいね。少し気になったしまって」


レベッカが何故ここまでエリーを想うのか、シルヴィアは気になっていた。

マキナの用に一目惚れをした、とは違うような気がしたのだ。


「なんでだろうね」


目を閉じて深く考えるも、よく思い出せない。


「エリーが孤児院に来てからしばらく――エリーはずっと周囲と距離を置いてたんだよね。いや、もっと酷いかな。攻撃的だったよ。でも、それじゃかわいそうでしょ? 実の親が魔族に殺されて……転がり込んだところで孤立したら、本当にひとりぼっちになっちゃう」


エリーの周りからは徐々に人が離れ、最後まで近くにいたのはレベッカ、クローヴィス、マリーの3人だけだった。


「私も子どもだったからそんな深くは考えてなかったとは思うけど……でもひとりにしちゃいけないのはわかってた」


そして月日がたちエリーも孤児院の仲間たちと徐々に距離を縮めていった。

その仲間たちも成長し孤児院から発っていき、気づけばレベッカたちが最年長になっていた。


「正直いつからなのかはわからないよ。でも気づいたら、エリーがいつも心の中にいた」


エリーがどうしてるか、どこにいるのか、自分はエリーにどう思われているのか……気になって仕方なかった。

良く思われていて欲しかったし、ずっと隣にもいたかった。


「でも不思議だよね。エリーって普通の男の子の見た目じゃないじゃん?」

「まぁ、そうね」

「なのにエリーを好きになっちゃったんだよ。何故かクローヴィスじゃなかったんだよね。アイツ、結構かっこいいでしょ? 旅先で彼女作ったって聞いても納得しかなかったもん。まぁあの顔面だし、みたいな」


レベッカのいう通り、クローヴィスは美男子と言って差し支えない容姿をしている。

金髪碧眼で少しばかり癖っ毛な所がいいと、以前ステュアートに帰った時に王宮の女性陣が熱く語っていたのを覚えている。


「うーん……結局よく思い出せないや。ごめんね」

「こちらこそ悪かったわね。……でも、そんな感じよね」


人を好きになるのに深い理由はいらないのだろう。

シルヴィア自身も最初から好きだったわけではなく、仲を深める内にそうなっていった。

マキナのように一目惚れというパターンもあるし、千差万別、人の数だけ理由があるということか。


「……そうだ、私お花買ってくるわね」

「花瓶合ったんだね。私も行くよ」

「大丈夫よ。もしエリーが起きた時、近くに人がいないと寂しいでしょう? あなたは残っていて」

「ん、わかった。気をつけてね」


少しだけ、ひとりで物事を考えたくなった。

自分と、レベッカと、そしてエリーのことを。






◆◆◆






シルヴィアが買物に出て少し時間が経過した。

1時間だろうか?それとも10分だろうか?

生憎時計を持ち合わせていないのではっきりとしたことはわからない。


「エリー、起きるよね……?」


先ほどはシルヴィアに諭すようなことをしたが、不安なのは自分も同じだ。

ひとりになると余計に不安になってしまう。


「ん……」


ふと窓から外を見ていると自分のものではない声が耳に入った。

まさかと思いエリーに目を戻すと、先程まで閉じられていた瞳が薄っすらと開けられていく。


「……うん……?」

「エリー……!」


大声で叫びたくなる気持ちを抑える。

エリーの状態が状態だったために個室を与えられてはいたが、別に壁は厚くないため大声を出すと周りの患者の迷惑になるだろう。


「レベッカ……?」


まるで自分の状況が掴めていないかのようにエリーは視線を左右させている。


「おはようエリー。随分と寝坊助さんだね」

「僕は……」


エリーは未だよくわかっていないのか、身を起こしつつ周囲をキョロキョロと見回す。



「僕は……生きてたのか」

「すっごい大変だったって聞いたよ。みんながエリーを死なせまいと必死だったって」

「……そっか。あとでお礼しないとね」

「私も一緒に行くよ!」


包帯だらけの腕や胴を見て改めてエリーがどれほどの死闘を繰り広げたか再確認する。


「……レベッカがいるってことはここはフィレンツェなの?」

「実はね、私エリーに会いたくてイニーツィオまで旅して来ちゃった!」

「えっ……ひとりで?」

「まさか。お母さんも一緒だよ。今は一緒に動いてないけど、エリーが起きたって伝えたらすぐ来るよ!」


エリーが目覚めたとなり、自分でもわかるくらいはしゃいでいるのがわかる。

鏡が近くにないのでわからないが恐らく緩みきった顔をしているだろう。


「……先生も。心配かけちゃったね」

「みんな気が気でなかったよ。クローヴィスなんてまだ入院しっぱなしだけど、自分のことよりエリーのことばっか聞いてたもん……」

「……ごめん」

「うう……エリー……!」


感極まってついつい抱きついてしまった。

それと同時に瞳からは大量の涙が溢れた。


「心配、したんだからね……!」

「ごめん」

「死んじゃったらどうしようって……怖かったんだよ……!」

「ごめん……」

「ううん。生きてたから許してあげる……! おかえりなさい!」

「ただいま、レベッカ」


抱きついた状態から体を離してとりあえず椅子に座り直す。

少し恥ずかしくなり、戯けたようにシルヴィアの話題を切り出す。


「あっでも、目覚めて最初に会うのはシルヴィアのが良かったかな? ちょうど花瓶用の花を買いに出かけちゃってるんだよね」

「そんなことないよ」


お世辞のようなものだろうとわかってはいても嬉しくなってしまう。


「またまたぁ。だって私じゃシルヴィアみたいにドキドキしないんじゃないの?」

「それはまぁ、しないよ」


はっきりと言い切られて驚く。

エリーのことだから少しは誤魔化すと思っていた。


「そうだよね。ごめん……」

「あ、いや、そういうつもりじゃない…」


目に見えてショックを受けて沈むレベッカを見てエリーは慌てたように両手と首を振る。


「レベッカはレベッカだし、シルヴィアじゃないでしょ」

「うん……」

「だから、何て言うのかな……。ゆっくりできる……安心する……落ち着く? うん、落ち着くんだ。レベッカの側にいると」


落ち着く、という答えが返ってくるとは想定していなかった。

その言葉の意味はまだわからない。

だが自分がエリーにどう思われているか、その意味が詰まっているのはわかった。



「僕たち、一緒に育ってきたでしょ」

「うん」

「僕が孤児院にきた時、レベッカたちに強く当たっちゃったけど……それでもレベッカとクローヴィスと先生だけは離れなかった。ずっと感謝してるんだ。お陰で僕はひとりにならなかった」


懐かしむように窓の外を見る。

晴れの日も雨の日もレベッカたちは自分に構うことはやめなかった。


「いつからかな。気づいたらみんなといるのが嫌じゃなかった」


今この瞬間に窓から望む景色のように、まるで晴れやかな気持ちだった。


「みんなと一緒にいると落ち着いたよ。それは今もそう。いつからか、孤児院が、レベッカが僕の落ち着ける場所になったんだ」

「落ち着く場所、かぁ」

「うん。レベッカとシルヴィアは違う人なんだから同じようには思えない。レベッカはレベッカで、シルヴィアはシルヴィアだ。僕にとってレベッカは落ち着ける人。シルヴィアは……そうだね、レベッカの言葉を借りるならドキドキする人、かなぁ」


あえて同じ表現をするならば、勝負になっていなかった。

エリーの中ではレベッカとシルヴィアは違う存在だったのだ。比較対象ではなく、等しい存在として。


「……僕も口に出して、はじめてスッキリした気がする。この間から僕にとってレベッカがどんな人なのか、はっきりとはわかっていなかったから」

「そうなの?」

「うん。……ずっと家族と思ってたけどレベッカの気持ちを知って、自分の中でレベッカがわからなくなった。でも、ようやくわかったよ。レベッカは僕にとって落ち着ける人、陽だまりみたいな人だって」


陽だまりのような人。

その言葉がこの上なく嬉しかった。

欲しかった言葉がもらえたような気さえする。


「……えへへ。嬉しいな。なら私も側にいさせてね、エリー」





◆◆◆





『落ち着くんだ。レベッカの側にいると』


花束を買い足早に戻ってきたシルヴィアの耳に入ってきたのはエリーの言葉だった。

ドアノブにまで手を伸ばしていたが、つい反射的に手を離して壁に背を預ける。


「じゃあ、私は……?」


あなたにとって私は何なのか。

そうドアを開けて尋ねたかったが、できなかった。

手足に鉄球でもつけられたかのように重い。そんなことはないのはわかりきっているがまるでそうであるかのように体が動かない。


「…………っ」


エリーが目を覚ました。つまりはドアに手を伸ばせば愛する人の顔を見ることができる。

とても近い距離だ。あと半歩の距離にあるドアを開けたすぐ側にいる。

エリーが目を覚ましたら、すぐに顔を見よう、まるで大型犬のように抱きつきに行こう、そう考えていたのに。


「……っ、私は…………!」


シルヴィアの頭の中ではこれまでの生涯ではじめてと言えるほどグツグツと濁った感情が生まれようとしていた。

恐れ、哀しみ、嫉妬――だが、それをまとめて飲み込んだ。

一時の感情に呑まれてはならない。以前同じような失敗をしたのだ。次はしない。

それに――、


「私は……私は、"シルヴィア=クロムウェル"よ。いや……"私"は、靴音高く、声高に、気高くあれ」


負の感情で動くなど、"私"らしくない。

クロムウェルの名は大事だ。自己を構成するひとつであり、決して手放さない誇りのひとつだ。

だがそれ以前に、"シルヴィア"という人間であり、そして誇りがある。

その誇りも手放さない。私が私である証左なのだから。

故に常に前を向く、壁があったら打ち壊す。

それが私だ。そうであれと願うように。例え今はそうでなくとも。


『レベッカはレベッカで、シルヴィアはシルヴィアだ。僕にとってレベッカは落ち着ける人。シルヴィアは……そうだね、レベッカの言葉を借りるならドキドキする人、かなぁ』


決意改めドアノブに手をかけた瞬間、またもエリーの声が耳に入った。


「そう……よね」


自分もレベッカも違う人間だ。何故か比べようとしていたが……そもそも競うようなものではない。

自分には自分の、レベッカにはレベッカの良さがある。

不安に駆られ眼前が曇っていたが、最初からそうだったのだ。

ならばするべき行動はひとつだ。

ドアノブに力をこめ、盛大に音を立てながらシルヴィアはドアを開け放った。





◆◆◆





「僕


レベッカに声をかけようしとた矢先、エリーの病室のドアが勢いよく開けられた。


「話は聞かせてもらったわ!」


勢いよく開けたあまり、ドアが壁に当たって跳ね返ってきた。

エリーしか見ていなかったシルヴィアは頭部にそれをもろに食らう。


「いたっ!?」

「シルヴィア!」

「大丈夫!?」


直撃した額を抑えつつも、エリーとレベッカの側へとあえてズカズカ歩み寄っていく。 


「大丈夫よ。あなたほどじゃないわエリー」

「それは……そうだけど……」


そうは言いつつまずは花瓶に買ってきた花束を生ける。

せっかくエリーが好きそうな花を買ってきたのだから、これをまずは飾りたい。


「あなたが剣の名前にしてた花……アングレカムはなかったけれど、それに似た白い花は用意できたわ。今度花の勉強でもしようかしら」

「ありがとう。それと……ただいま」

「……ふふ、おかえりなさい」


笑顔で返してシルヴィアもまたエリーに抱きつく。


「生きてて本当に良かったわ。もう気が気でなくて……どうにかなりそうだったから、あまり心配させないでね」

「うん……気をつける」

「そこは『もう心配させない』って言ってくれた方がそこはかっこいいわね。でもいいの。またこうして話せて、笑顔が見えるのなら、それで私はいいの」


そこにあることを確認するかのように、強く抱きしめる。

こうでもしないとまた何処かへ行ってしまいそうで、その恐怖心を消すようにエリーの存在を全身に刻み込む。


「それでエリー」

「うん?」

「あなたにとって私は何なのかしら?」


あえてここは誤魔化すことなく問いかける。


「……ドキドキする、かな」

「うーん……具体性に欠けるわね。悪くないのだけれど。レベッカはあなたにとって陽だまりなのでしょう? じゃあ私は?」

「聞こえてたんだね。……ちょっと恥ずかしいな」


話は聞かせてもらったでしょう? と得意気な笑顔を見せる。

エリーはしばし熟考した後、ゆっくりと唇を開いた。



「…………靴と鞄かな」


思いもしなかった答えが帰ってきた。


「どういうことかしら……?」

「シルヴィアは……僕に新しい景色を何度も見せてくれた、僕だけじゃわからないことを教えてくれた、多分これは旅と同じなんだ。見たことのない場所、知らない事、それを体験できるのは旅だと僕は思う」


それは陽だまりとは違うことだ。

レベッカという陽だまりがエリーに安らぎを与えてくれるのならば、シルヴィアは安らぎではなく新たなことを知れる高揚感だ。


「旅するのに必要な靴と鞄。僕にとってシルヴィアはそれだ。新しい場所を行くのは、とても楽しい。だから僕にとってシルヴィアは旅……それに必要な靴と鞄、なんだと思う……」


自信がなくなってきたのか後半にかけて声量が徐々に落ちていったが、シルヴィアはその答えに大きく揺さぶられた。


「旅……靴と鞄……ね」

「ダメかな……?」

「いいえ。決してそんなことはないわ。とても、とても嬉しい言葉よ。あなたにそう特別に思われているのなら、私は嬉しいの」


"エリー・バウチャー"という生涯の旅に必要な靴と鞄。エリーにとって必要で大切な存在と思われているのならば、もうそれで良いのだ。


「私ね。あなたにどう思われているか気になって仕方なかったの。あなたは責任感が強い人だから今まで世界を繰り返してきたことに重責を感じて、私が枷になっているのかって怖かった」


自分に向ける感情が責任と罪悪感ならばそれは自分が望んだものではない。

だがそうではなかった。


「でもそうじゃないのなら、私も側にいるわ。いいでしょう?」


踊るような足取りでエリーの隣に座り、包帯が巻かれた手に手を重ねた。

レベッカが座りやすいように彼女とは反対側の位置を陣取る。

これなら彼女も自分と同じことができるだろう。


「私も座るね」


レベッカもまたエリーの隣に座ってくれた。

示し合わせたかのようにお互い悪い笑みを浮かべる。

ひどく心配させたのだ、少しばかり仕返しをしてやろう。



「それで? エリー? あなたはどちらを選ぶのかしら?」

「私とシルヴィア。どっち?」


お互い左右をとって逃げ場をなくした上で、ある意味究極の選択を投げ付ける。

当然こんなことをすると決めていた訳では無いが、阿吽の呼吸でレベッカと問い詰める。

やはり自分とレベッカは波長が合うとシルヴィアは密かに嬉しく感じていた。


「あ、いや、僕は……」


しどろもどろになるエリーをレベッカと2人で優しく笑う。

エリーの中でシルヴィアとレベッカが優劣をつけられるはずもない。2人とも自分にとって掛け替えのない存在だからだ。


「ふふ、まぁそんなことだろうと思ったわ」

「どっちつかずだけど優しいからね、エリーは」


レベッカがエリーの頬をつつきながらエリーの腕に自分の腕を絡みつかせる。

シルヴィアも負けじとエリーの腰に手を回して耳に吐息がかかるくらいまで自分の顔をエリーに近づける。


「そもそも、私たちが"選ばれる側"なのっておかしくないかしら? 優柔不断さんには選べなさそうだし、それに欲しいのなら自分から行くべきよね?」


マキナがそうしたように欲しいのなら貪欲に手に入れようと努力すべきだろう。

最後は向こうから来てほしいという乙女心で待っていた2人だったが、ここまで我慢したのならもうこちらから行くしかない。

レベッカも青天の霹靂といったように大きく頷いた。


「確かに……鈍感なクセに乙女の純情を弄んで勘違いさせるようなスケコマシ野郎に選ばれるってなんか癪だね」

「スケコマシ……」


レベッカの口から出たとんでもない言葉に絶句するエリー。

その間もレベッカは無言の抗議と言わんばかりにエリーの頬をつつき続ける。


「レベッカ、ひとつ提案があるのだけれど」

「……多分私も同じこと考えてた」


顔を見合わせ、それはもう恐ろしい満面の笑顔で告げた。


「エリーを私たちの共有財産にしましょう」

「やっぱりね。そう言うと思った」

「えっ」


エリーが言葉の意味を理解しきる前にさらに畳み掛ける。


「こうすれば私たちに差なんて生まれないわ。私としてもあなたと競い合うことなんてしたくないもの。だから私たち2人でエリーを好きにしましょう」

「賛成。いいよねエリー」

「えっ」


まるで許可をとるかのような口ぶりだが2人にエリーの意志を聞くつもりはない。

エリーもようやく事態を飲み込み、観念したように苦笑とともに両手を挙げた。


「……2人がいいなら僕はそれでいいよ」


散々心配させたのも事実で、今日に至るまで答えを出せなかったのも事実だ。

ならもう2人の望みを叶えるべきだろう。

それにどちらかを選んで傷つく様は見たくない。2人がエリーに笑顔を望むように、エリーも2人には笑顔でいて欲しい。


「やったね! シルヴィアいぇーい!」

「いぇーい!」


大喜びでハイタッチする2人を見てエリーもまた笑顔が溢れる。

2人が嬉しいのなら自分も嬉しく思う。




その時、コンコンとドアが控えめに叩かれた。


「面会中失礼いたします。そろそろエリー様への回復魔術を再開する時間となります」


と言いつつ"アスクレピオス"を持った魔術師含めて3人ほどの医者か看護師が入室してきた。

慌ててエリーから離れて如何にもな距離感を演出する2人に内心苦笑する。


「あっ……意識を取り戻されたのですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます。だいぶ迷惑をかけてしまったみたいで……すみません」

「いえ。スキピオ様からのご依頼でもありましたので。此度の"レジスタンス事変"の英雄たるあなたを死なせるなと」


よく見ると魔術師はスキピオの私兵のようだ。

"アスクレピオス"さえあれば回復魔術が扱える者もスキピオは用意しているようだ。


「シルヴィア様。レベッカ様。目を覚ましたと言えども、エリー様のお体はまだ油断ならない状況となります。なので治癒魔術含めた治療行為を行う必要がありますので……申し訳ございませんが一度退室されるようお願いいたします」


それならば仕方ないとシルヴィアとレベッカは頷く。


「なら今日は帰りましょうか。みんなにエリーが起きたことを伝えないといけないもの」

「何か欲しいものある? 明日持ってくるよ」


まだ目を覚ましたばかりということもあり、あまり自分たちが構いすぎるのも逆に良くないだろう。

それに仲間たちにもエリーが目を覚ましたことを伝えたい。


「病院って暇だから適当な本が欲しいかな。あとは、リンゴ食べたい」

「わかった! というかなんか慣れてるね」

「何度もベッド生活してたらそりゃあね」


何か大きな戦いがある度に病院送りになればこうもなろう。

だが誰が守るための結果なら、それに後悔はない。


「それじゃあエリー。また明日ね」

「リンゴ以外にも果物買ってくるね!」


そう言い残し2人は病室から出ていった。

それを見送った魔術師の目元が少しだけ緩んだ。


「素敵な方々ですね」

「はい。僕の……本当に大切な人です」


ようやくわかった、掛け替えのない大切なふたりだ。

ふたりに出会えて良かった。

彼女たちの幸せそうな笑顔のために、自分もこれから頑張って歩んでいくと誓った。

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