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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第2章 死神の真実
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覚悟

迷っていた。

本当にガルドを斬るべきかと。


この半年間、他のGMギルドメンバーと戦うことは何度かあった。

ただ今回は話が別だ。知り合いガルドがいる。


本当は嫌々やらせれているのではないか?何か裏があるのではないか?そう思わずにはいられない。

知り合いというだけで躊躇ってしまう。自分を恨みながら死ぬ知り合いを見るのは辛い。





そんなエリーの迷いを打ち消したのも、ガルドだった。


「どうした?動きが鈍いぞ!」


ガルドの剣が目前に迫っていた。


咄嗟に受け流し距離をとる。


「知り合いを殺すのが怖いか?」


ガルドはエリーに猛攻を加えつつ話しかける。




「俺は違う。目的のためならば、成し遂げるためならば、俺はなんだってやる!たとえそれが恩人を殺すことであってもだ!」

「くっ!」


ガルドは本気だった。本気でエリーたちを殺そうとしている。

見逃すだけでなく、情報提供までしてくれると約束した恩人を殺す。彼も並々ならぬ覚悟をもってのことだろう。

その覚悟に、自分は応えられるだろうか?





一瞬、エリーの動きが止まる。


「背中ががら空きだぜ小娘!」


ダガーを持ったGMがエリーに斬りかかる。


「やらせるか…!」


ギュンターはダガーを弾き返すとそのまま魔力強化して斬り伏せる。


「てめえ…」


そのGMはギュンターを呪うような声を上げ血の海に沈む。


「ちぃ!」


ギュンターは舌打ちをしながらも次の相手の剣を受け止める。

その横をウェンに吹き飛ばされた2人が転がっていく。



ウェンと相対した敵2人は、明らかな恐怖を抱いているのかわかる。


「どういうことだ…魔術は術式を唱えなければ」

「考えが甘いんですよ。この様な事態想定済みです。それに魔術は詠唱が必要というわけではないんですよ?」


そう。魔術とは体内の魔力を『効率よく』『破壊力を高めて放つ』ためのものであって、術式を唱えなければ魔力を解放できないわけではない。


この土壇場にこの2人は失念していた。


「なめやがって、魔術師こどき…!」

それでもなおウェンに近付く。

「またですか…"バースト"!」


さっきよりも高く2人を打ち上げる。


「全てを止める、封魔の鎖"チェーン・バインド"」


すぐさま詠唱を済ませ、魔力を帯びた鎖を召喚し2人をそのまま縛り付ける。



「殺しはしません、少し質問をしますから」


一瞬で2人を無力化し、シルヴィアとエリー気にする。


(ギュンターは放っていても大丈夫です。それよりシルヴィアさんとエリーさんは)





エリーは俄然ガルドと戦い、シルヴィアはリーダーと思われる人物と斬り結んでいる。


「中々やるようだな、たが!」


リーダー格の男はシルヴィアの剣の合間を縫うように刺突を繰り返す。


シルヴィアはギリギリで避けているが時間の問題だろう。


「舐めて貰っては困るわッ!」


いつもより斬るタイミングを僅かに遅らせ、相手のタイミングをずらす。


思った通り相手の剣が自分の前を横切る。

(貰った!)

その体に届くと思われたその瞬間。


「なっ…!」


リーダー格の男はシルヴィアの剣を自分の左腕で止めていた。


「死神を殺せるのならば、腕の1本ごとき!惜しくはないんだよッ!」


左腕手に剣を深く食い込ませているためすぐには引き抜けない。


シルヴィアの動きが止まる。

刹那にも満たない時間だが勝敗を決するには十分だ。


「恨みはないが…!俺の勝ちだ」


シルヴィア目掛け剣を振り降ろす。


男は勝利を確信した表情を浮かべる。


「馬鹿ね、奥の手というのは最後まで取っておくものよ」



肉を斬る鈍い音が響く。



「なに…っ」


男の脇腹にはナイフが突き立てられていた。


「私の勝ちよ、見事な腕前ね。感傷だけど別の形で会いたかったわ」


「あの一瞬の…俺が止めを指すその隙を狙うとはな…見事だ」


リーダー格の男はそう言い残し、地に伏せる。





「ガルドさん!もう諦めたらどうですか!?」


何度も打ち合いながらガルドを説得する。

見ればもう残っているのはガルドのみだ。

シルヴィアに1人、ギュンターに2人、ウェンに2人、死神には4人倒されている。


「だからなんだ!俺は…奴に殺された親友の仇をとるためにここにいるッ!たとえ1人になったとしても俺は戦ってやるッ!」」

「あの人は…別に依頼で同行者を殺めていたわけじゃない!」


ガルドが死神のことを勘違いしているのなら、もしかしたらこれ以上戦う必要はない。


だがそんなエリーの希望は脆くも崩れ去った。


「だからなんだ。そんなことはどうでもいい!」

「えっ…」


「お前は死神に殺された人数を知っているか?今ここにいるのも含めたら34人だ。死神に殺されただけでこれだぞッ!?」


ガルドはなおも続ける。


「それに同行して死んだ人数を含めたら何人だと思う?魔族になった人間を含めたらどうだ?それほどの人を殺しているんだぞこいつは!」


ガルドの剣に力がこもる。その迫力に負け押し込まれる。

だがエリーも負けられない。


「同行して亡くなったのならその人の実力不足だ。それに…魔族を殺さなかったら罪もない普通の人が殺されるんだッ!」


もう自分のような子どもはいて欲しくない。




だから魔族を殺さねばならない。その気持ちだけは変わらない。


「そんなことは…わかっているんだ。だけどなもう理論でどうこうなる問題じゃねぇんだよ…」


(泣いている…?)


「どちらかが死ぬまで!この戦いは終わらない!邪魔をするなら…お前も殺す!」


本気なのだガルドは。自分の命を捨てても死神を倒す覚悟ができている。


(どうして…でも…)

エリーも覚悟を決める。


「わかったよガルドさん。どうしてもというのなら…あなたを殺してでも止めます」


その戦いをシルヴィアたちは眺めることしかできなかった。

この戦いに介入するのは無粋にも程がある。

だから最後まで見届けようと心に決めていた。


「うおおおおお!」

「はあああああ!」


ぶつかり合う2人の剣。


(既にナイフのことも読まれている。いったいどう攻めれば…!)


このままでは埒があかない、勝負をしたいがまだ決定的なチャンスが廻ってこない。



(もう小細工はなしだ。真正面からガルドさんに挑む!)


最後のナイフを逆手に持ち、右手の剣を中段に構える。

これで最後だ。


ガルドも同じことを思ったのか、構え直す。


(次の10合が勝負だ。それまでに決着を付ける!)


「終わりにさせて貰いますガルドさん…!」

「こちらの台詞だエリー!」


「「うおおおおおぉぉぉぉ!」」


2人は同時に踏み込み、同時に右から袈裟斬りを放つ。

お互いの剣が火花を散らし、ぶつかる。


「ぐっうううぅ!」


右手のみで支えるエリーと両手で支えるガルド。

体格の差もあわさり押し込まれる。


(ならば左手のナイフで…!)


「ナイフか、その程度!」

ガルドは一旦鍔迫り合いをやめると左手のナイフを叩き落とす。

(しまった…!)

再び鍔迫り合いに戻る。


「いつまで耐えられるかなエリー!」

「耐えはしない…でも!」


両手でも不利と感じたエリーはあえてガルドの力に流される。そのまま剣を滑らすとガルドの剣を上から押さえつける。


「これなら…」

「勝った気になるなよ」

ガルドは強引にエリーの剣ごと振り上げる。

剣はエリーの手を離れ、10メートルほど離れた位置に突き刺さる。


「これで終わりだぜエリー」

ガルドが丸腰のエリーに剣を振りかぶる。

「エリー!」



シルヴィアの悲鳴が木々にこだまする。

だがこの展開もエリーは読んでいた。

エリーはガルドの後ろに滑りこむと同時に叩き落とされたナイフを回収する。


「なにっ…」

「ナイフを同じように飛ばさなかったこと…それがあなたの敗因だ」


ガルドの背中を斬りつける。だがこれだけではなく返す刃でもう1度斬る。


「ぐああぁ!」


まだこれでは倒れないとガルドの肩を踏み台に飛び上がり、そのまま空中で体の向きをかえ、ガルドの肩から脇腹を斬りつける。

ガルドは声にならない悲鳴を上げ、倒れた。




「僕の…勝ちです…」

「あぁ、お前の勝ちだ。俺もここまでということだろう…」


ガルドは見たことのないような爽やかな表情をしていた。


「頑張れよ、エリー」


ガルドはそう言うと息を引き取った。




「頑張るよガルドさん…」


エリーは覚悟を決める。

ガルドのためにも…死神の潔白を証明してみせると。


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