鴉の狩り
フィレンツェに帰って数日。エリーはまた"レイヴン"に呼ばれることになった。
もはや慣れっこである。
エリーに届けられた手紙を見て、シルヴィアは深いため息をついた。
「エリー、また"レイヴン"に呼ばれたの? 今度は何をしたのかしら」
「何もやってないけど……。フィレンツェ帰ってきてからはおとなしくしてたし」
今度は何をしでかしたのかとシルヴィアに問い詰められるも、本当に思い当たる節がない。
「あ、ちょっと待ってくれ」
「どうしたのギュンター?」
嫌々ながらも"レイヴン"に行く準備を整える最中、ギュンターに呼び止められた。
「エリー。今回は俺も行くぜ。シングに話があるからな」
「ギュンターって、シングさんと知り合いだったっけ?」
「お前たちがアーカマ行ってる間に知り合いになったんだよ。まぁ邪魔はしねぇから」
邪険にするつもりもないのだが。
と口に出す前に手紙に書かれた一文がエリーの目に止まった。
「あ、待って。シルヴィアにも来てほしいって」
「私も? どうしてかしら」
「さぁ……?」
自分はともかくシルヴィアが呼ばれる理由がわからないとエリーは首を傾げる。
「仕方ないわね。呼ばれたのなら行かないと」
「まぁ何かあったら2人とも守ってやっから。杞憂に終わるといいけどな」
「そうだね……」
今日はキニジ、ウェン、マキナ、メディアの4人はついに義手が完成したと魔術研究所へと赴き、アリシアはギルドの任務でフィレンツェ周辺の魔物の掃討。レベッカ、クローヴィス、マリー、リディアは魔術学院へ向かっている。
つまり他の仲間に意見を訊こうにもできない状況だ。
「でも行ってみないとわからないよね。覚悟決めて行こうか」
直感だが、シングは自分たちに悪意はないと思っている。しかしどうにも裏がありそうで信用できそうにない。
もっとも彼は信用されたいわけではなさそうだが。
◆◆◆
また目を覆われ、どこかわからないまま"レイヴン"へと連れていかれる。
今回の案内役はなんと"レイヴン"第二部隊だった。
「来たっすね。お三方」
"レイヴン"の施設の前でシングはエリーたちを待ち構えていた。腰には剣が下げられている。
「シングさん、それは?」
「これっすか? あぁ、あんたらには手を出さないので安心してください。いや、信じられないか。まぁ、俺じゃあんたら1人相手でも勝てっこないっすけどね」
では何故剣なんか持っているのか。
少なくとも"レイヴン"は彼の巣だ。そんな所で武装する必要性がない。
「武装に関しちゃどうでもいい。俺はお前がわざわざ出迎えたことの方が疑問だ。部下とか使えばいいじゃねぇか」
「俺の部下たちは別の仕事があるんすよ」
どういうことだと首を傾げると、シングは低く笑った。
「"戦争"。"レジスタンス"を潰すための戦争を起こす。そのために、まずはこの鴉の巣にいる蛆虫を潰さないと」
「それはつまり"レイヴン"の中に裏切り者がいるということかしら?」
「そうっすね」
素っ気ない返事をすると、シングは施設の中へと入っていった。
「話していても仕方ないし、さっさと行きましょうか。これから面白いものを見せてあげるますよ」
あくまで軽い口調だが、その言葉は重苦しいものだった。
暗く無機質な道に、エリーたちの靴の音だけが響く。
……明らかに人がいない。以前訪れた際には数こそ少ないが人とすれ違ってはいた。なのに今はそれがない。
「不安っすか?」
不意にシングが口を開いた。
「そうね。もし裏切り者がいるのなら、ここは敵陣よ? たった4人で攻めいるなんて正気の沙汰じゃないわよ」
やたらと辛辣なシルヴィア。
シングを信用出来ないというのがよくわかる。
「もしもの場合は俺が囮になるっすよ、シルヴィア"お嬢様"」
「あら、嬉しいわね。でも、私にはエリーとギュンターっていう最強の護衛がいるもの。丁重にお断りするわ」
「フッ、そりゃ残念っすね」
2人のやりとりに唖然するばかりのエリー。腹の探りあいでは自分はまだまだだと痛感する。
「さてと、ここっすよ」
施設の中を進んだ先にはどうにも見覚えのある扉があった。
いや見覚えがあるどころではなく、自分は1度この中に入ったことがある。
「ここって、局長室……?」
裏切り者とはまさかルチアのことだろうか。
人が良さそうな彼女が?
「人は見かけによらないんすよ、エリー・バウチャー。俺も、局長の前では猫被ってましたから」
シングは『局長』の部分を小馬鹿にするように発音した。エリーでもそれに込められた感情は読み取れた。
「さぁ、祭りの始まりだ」
シングは勢いよく扉を開けた。
◆◆◆
局長室に入ると、目当ての人物は椅子に座り何かの書類を整理しているようだった。
「……ん? やぁシング君、珍しいね、君が私のところを訪れるなんて。おや、剣を持っているのかい?」
「ええ。黄昏の旅団のような連中がまた現れないとも限らないですしね。それに、"レジスタンス"もどこにいるかわからないっすから」
息を飲むエリーたち3人。頬を汗が走るのを感じる。
「それにエリー君たちも久しぶりだね! アーカマでの活躍、私には耳にも入っているよ! それにギュンター君、旅団のこと感謝している!」
「いえ、守りきれなかった命もありますから……」
「それでもいいじゃないか。……私もアーカマで友人を亡くしていてね。けれども、君たちがあそこで頑張ったからこそ被害は少なく終わった。彼女の犠牲も無駄ではなかったよ」
屈託のない笑顔で労う。やたら早口なのは気のせいか。
「さてと局長。お話中があります」
「なんだい、シング君」
シングはルチアの机に手をかけた。
「この町に隠れている"レジスタンス"のことです」
ルチアが少し動揺したのをエリーは見逃さなかった。やはり、彼女がギルドの内通者なのだろうか?
「今回はかなり手こずりましてね、時間がかかることかかること。……が、外部の協力者の手を借りて、突き止めたんすよ」
「………………」
「どうしたんすか局長。少しは喜んでくださいよ。……ま、無理だろうな。あんたが"レジスタンス"なんだから」
ルチアの目が鋭いものへと変わった。もしやの事態へと備え腰の剣へと手が伸ばす。その次に今まで傍観を決め込んでいたカナヒメに声をかけた。
(カナヒメ!)
――わかっておる。やはり、ルチアという女が裏切り者であったか。
(やはり?)
――うむ。一月前を思い出せ。そなたらがシングに名乗った際、シングはそなたとシルヴィアの判別がつかぬようじゃった。
確かにそうだ。
わからないからとエリーはシルヴィアは銀髪の人ですと答えたはずだ。
――では、なぜルチアは初めからそなたとシルヴィアの区別がついておったのじゃ?
(…………ッ!)
シルヴィアというのは良くも悪くも目立つ。彼女を1度見れば『銀髪の美人』と耳にするだけで彼女を思い出すほどの美貌だ。おまけに銀髪という存在そのものが珍しい。つまりはシルヴィアの特徴を知っていれば、『銀髪の美人』を見ただけでシルヴィアとわかる。
「俺は先月、ここに4人連れてきました。No.8にNo.18。それにエリーとシルヴィアもです。でも俺はエリーとシルヴィアの区別はついてなかった。そもそも、シルヴィアがここに来ること自体想定されてなかった」
あの時シルヴィアが"レイヴン"へと来たのは「私もエリーと一緒に行く!」という至極勝手なものだった。
まさかそれがこんなことを引き起こすとは。
「それがどうかしたのかい? シルヴィア君の容姿なんて霊峰に君の部隊を送った時に部下が見ているだろう?」
「……あら? 私はあの時頂上にいて"レイヴン"の人たちは見てないわよ? ギュンターに訊いたら頂上への洞窟の前で戦闘になってその結果撤退したって話じゃない? おかしいわよね?」
シルヴィアの言葉にルチアが大きく目を開いた。
「あれ伝えてませんでしたか『局長』? おっと、あえて言わなかったっすね。すみません」
笑いを堪えながらシングが続ける。
「じゃあなんで、俺が知らないし伝えてもいないシルヴィアの顔を知ってるんすか? おかしいっすねー。どこで誰から教えられたんすかね?」
「君は私を誰だと思っている? "レイヴン"の局長――」
なおも逃げ道を探そうとするルチアをシングは机を思いっきり叩くことで遮った。
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ蛆虫が。てめぇが内通者だってことはとっくに割れてんだ。大人しくここで死ね」
シングのその言葉とともに局長室の扉が開かれ、外から仮面を被った男たち5人が部屋に雪崩れ込んできた。
「な、何この人たち?」
「この仮面……第二部隊のか!?」
ギュンターの言葉が正しいのなら、第二部隊はルチアを囲むように剣を抜いた。
「……どうやら、私はここまでのようだね」
観念したように、ルチアは椅子に深々と座り込んだ。
以外にもあっさり諦めて拍子抜けだ。
――シングという男、食えないやつじゃの。少なくとも敵には回したくないわ。
(うん、そうだね……)
「たださぁ、シング君。勘違いしていないかい?」
「……さぁ? なんのことっすかね。少なくとも俺の部下は信用できるめんつしか集めてないっすよ」
こんな状況でも余裕を見せるルチアとまだまだ底が見えないシング。
「私にも切り札があるんだよね」
そう言うとルチアは机の下から剣をひとつ取り出した。
――あれは、"魔剣レーヴァテイン"か!?
(確かカナヒメが好き勝手やってる間にシルヴィアたちがとってきたやつだったっけ!?)
自分の意識がない間の出来事は伝聞で知るしかないが、"レーヴァテイン"確保任務の話はよく聴いている。――主にシルヴィアがギュンターの弱みを握ったと嬉々として喋っていた。
「なぜ"オラクル"事変以降に魔剣の確保任務が増えたか知っているかい?」
「まさかルチアさん、あなたが増やしたんですか?」
「せいかーい。つまり、確保してもしなくても魔剣は"レジスタンス"の手に渡る。魔剣の管理は"レイヴン"の管轄ではないけれど、拝借するくらいなら文句はないしね」
魔剣確保任務の原因は彼らにあったということか。
「だからあの時、ルーシーは簡単に引いたのね。でもアイムールはギルドで確保出来なかった。だから全力で奪いに来たということかしら」
「みてぇだな。……油断するなよ2人とも」
切り札が"レーヴァテイン"とは思えない。如何に強力な力を宿した武器だとしても、使われる前に潰せばいい話だ。それに、こちらにはカナヒメ――"魔剣センチュリオン"がある。
「さてと、中々に楽しかったよ。じゃあ、さようなら」
ルチアは立ち上がると、"レーヴァテイン"を抜き放った。エリーもすかさず"センチュリオン"を抜く。
念のため、憑依術式の用意も忘れない。
「人剣統合――Artificial D」
ルチアは何かを唱えその"レーヴァテイン"を自分の体に向け、刺し貫こうとした。自害かと一瞬気を緩めたエリーの隣を風が通りすぎる。
「させないっすよ。それだけはッ!」
シングだった。
彼は今まさに剣を突き刺そうとしたルチアの首を、持っていた剣で薙いだ。
――沈黙。
ゴトッという音が床に響いた。
何が起こったのかはっきりわかる。
「地獄に堕ちろ、蛆虫が」
シングがルチアの首を落としたのだ。
時間差で響く金属音と、さっきよりももっと重いドサッという体が倒れる音。
「……ふぅ、危なかったっすね」
返り血で服が真っ赤に染まったシングがこちらを見て笑った。
「これで、終わったの?」
信じられないといった様子でシルヴィアが訊ねた。
「終わったっすね。多分」
「そうだシングさん。ルチアさんが言っていた人剣統合? ってなんですか?」
人剣統合の後に何か続けるようだったが、その途中でシングが首を落としたために聞き取れなかった。
「人剣統合……Artificial Devaと称されるそれは人間と魔剣を融合させる魔術っすね」
「魔剣と人を?」
「……ん? 確かアーカマで"レジスタンス"の男が『合いそうだ』とか『耐えられなかった』とか言ってたわね」
「そうですそれです」
そんなことを言っていたのかとシルヴィアの顔を見る。
エリーが倒れた後に"レジスタンス"の幹部と会話したことは知っているが、詳しい内容までは聞いていなかった。
「シング、お前はなんでんなこと知ってんだ?」
「何故かって。そりゃあ"レイヴン"っすから。鴉は獲物を逃さない」
「説明になってねぇぞ」
「……これっすよ」
仕方ないとでも言うように、シングはルチアの机から書類を引っ張り出した。
「――『Artificial Deva計画』。ギルドの企画書?」
「秩序の守護者に魔剣を埋め込み、自我を奪って操る……20年ほど前の計画っす」
「自我を奪って操るってなんだよそれ」
――まるでかつての妾のようじゃの。
(でも自我がある魔剣ってカナヒメだけだよね? それに操るって……)
「この計画を進めていたのは第一研究室"アリーヤ"っす。……"オラクル"を消したわりには、あの老害どももひどいことするって思わないっすか?」
ギルドが綺麗な組織だとは今更思ってはいない。
「その計画も頓挫して無かったことにされたはずなんすけどね。それを何故か局長が持っていた。そしてその情報を"レジスタンス"に流し、"レジスタンス"はそれを完成させた」
「頓挫したんだ、良かった……」
「まぁそれが流出したんじゃ笑い話にもならないっすけどね。……よし、もう戻っていいぞ」
シングはため息をつくと、信頼する部下たちをルチアの部屋から引かせた。
「それのことが知りたいなら、そこにある資料を好きに持ってってもいいっすよ。俺は全て読み終えましたから」
「でも、持って行っても大丈夫なんですか?」
「さぁ? でもここにいるのは俺たちだけ。何があろうが誰もわからない。それに、対"レジスタンス"に役立つかもしれないですし?」
本当に、食えない男だ。
少なくとも頭脳戦では彼には勝てないだろうとエリーは悟った。
「んじゃあ、そろそろ引くとしますか」
「待ってください! ルチアさんの遺体は……?」
ルチアを無視して部屋から出ようとするシングを呼び止める。
「"レジスタンス"が片付けるっすよ。"レイヴン"の中の内通者が彼女だけなわけがないじゃないっすか」
「…………!」
急いで扉を開ける。嫌な予感がしたからだ。……案の定、その先から剣哉の桜音と悲鳴が聴こえてきた。
恐らくは"レジスタンス"だ。シングの言ってたことが本当になった。
「おいシング! これもお前の仕組んだことか!?」
「人聞きの悪いこと言うもんじゃないっすよ! なんでわざわざ部下を死地に送ることするんすか!」
「つまりこれは予想外ってことね……」
もうルチアの死体はどうでもよくなり、一刻もはやく"レジスタンス"を排することに意識が向いた。
◆◆◆
血生臭い床を駆け抜ける。来たときとは違い、荒々しい床を蹴る音だけでなく様々な音が響いていた。"レーヴァテイン"はシングが確保している。もう局長室に戻ることはないだろう。
「見えた! ……多い!」
「予想以上にいやがるなクソッ!」
ざっと数えただけでも10人は越えている。4人で破るには骨が折れそうだ。
「いや――ここは、僕が道を切り開くッ!」
見えているだけでも10人以上だ。そこにいる"レジスタンス"以外にもまだまだいる可能性は否めない。ならば、ここはシルヴィアたちを消耗させるわけにはいかない。
「カナヒメッ!」
――あいわかったッ!
体内に魔力を取り込んでいく。最初から全身全霊全力だ。
「僕が一気にあいつらを蹴散らす! シルヴィアたちはまだ温存しといて!」
わかったと頷くシルヴィアたち。
それを聞きつつ、自分の体が光を纏っていくのを確認する。
「行くぞッ! 完全解放ッ!」
一瞬のための後、光を払いエリーはその姿を見せた。
白銀の鎧を身に包み、背からは余剰魔力の翼を生やし、背後には三対の剣が浮かんでいる。
(よし、アーカマで出来たものと同じだ!)
――完全に使いこなせたようじゃな、見事じゃエリー。
「いたぞ! あいつらだ!」
エリーたちにようやく気づいた"レジスタンス"の1人が剣を掲げた。その剣には既に血が付着している。――第二部隊の生存は望めそうにない。
「遅いッ!」
その真横を高速で飛び抜ける。そして"レジスタンス"を自分とシルヴィアたちで挟み込むようにする。
「――超重力の檻、刃向かうものをねじ伏せろ! "グラビティ・ディストラクション"!」
そこにいた"レジスタンス"全員を地面に叩き伏せた。
「今だ!」
シルヴィアたちが自分の後ろまで走り抜けたのを確認すると、今度は剣を呼び出して射出し天井を破壊した。
つまり、"レジスタンス"を生き埋めにしたのである。
「以外とエグいことするんすね」
「シングさんの部下の仇です。それに、彼らを放っておいたら僕の大切な人たちを傷つけるかもしれない」
「そうっすか。……って話してる場合じゃないっすよね。すみません。さっさと行きましょうか」
エリーは別に殺さないと決めているわけではない。殺さなくて済むのならそれが一番だが、仲間を守るためならば躊躇いなく手を汚せる。
何よりも、仲間の命が先決なのだ。
「僕がこのまま先行するから、ギュンターは後ろをお願い!」
「あぁ任せとけ!」
完全解放を維持したまま、先へと進んでいく。
(いない……?)
もっと"レジスタンス"がいるかと危惧していたが、ただの杞憂に終わったのか。
「エリー後だッ!」
「くっ!?」
音もなく忍び寄ってきていた1人を斬り伏せる。
「どこから……?」
「隠し通路っす。まさかの事態に備えられて作られたらしいっすけど、仇になるとは」
「そういうのは先に行ってくれるかしら!」
シルヴィアの怒号が響き渡る。
結局先行するはずだったエリーは隠し通路から現れた"レジスタンス"に阻まれ、シルヴィアたちに追い付かれてしまった。
「おいおい囲まれたぞ」
前だけではなく後ろからもだ。その数は30を越えている。
「ちょっとヤバイね……」
「でも突破しねぇとなァ!」
「やるわよ!」
ここを凌げばそろそろ地上に出られるはずだ。正念場といつやつだ。
「――手こずっているようだな、手を貸そう」
そして"それ"は一迅の風のように現れた。
「なっ……!?」
一瞬。そう、一瞬で前方の"レジスタンス"が全員倒れていたのだ。
そしてその中央には、見慣れた人物が立っていた。
「し、師匠!」
「待たせたな、エリー」
そう、キニジである。仮面をつけているせいで表情は見えないが、その感情は見てとれる。
「ようやくこれが完成したのだな。助けに来た」
失ったはずの右腕がなぜかまたそこにあり、銀色に輝いている。話に聞いていた義手のはずだ。
それに右腕を覗いた手足には鎧のようなものがある。恐らくは限定解放だろう。
「ここは俺が相手をする。お前たちは先に地上に戻れ」
「わ、わかりました」
ここはキニジに任せ、地上へと走る。
キニジなら絶対に大丈夫だという安心感がエリーにはあった。
「よろしく頼むわね、キニジさん!」
「任せたぜキニジ!」
「No.9、まさかあんたが復帰するとはな」
シルヴィアたちもキニジなら大丈夫だと確信し、走り出した。
◆◆◆
「――さて、残るは半分か。試運転にもならんな」
"レジスタンス"を前に、キニジはタメ息をついた。限定解放も解除した。エリーたちを逃がした今、必要ないからだ。
「No.9……まさかここで相対するとは……ッ!」
勝てぬ相手と悟ったのか、"レジスタンス"の面々は徐々に下がっていく。
ただ、下がったとしてもエリーが天井を破壊し崩落させたせいでその先は行き止まりだ。
それを見て、仮面の下でキニジは憐れみの目を向けた。
だが、容赦はしない。かつて死神と呼ばれたように、今は"レジスタンス"に死をくれてやるだけだ。
「……では、往くとしようッ!」




