躍動
情けない投稿間隔恥ずかしくないの?(自戒)
「なぁ、アッシュ。お前たちはなんでフィレンツェを襲ったんだ? というか、誰の差し金だ」
「誰の差し金ぇ? そんなものはねぇ。俺たちはギルドの所業に堪えきれなくなって、潰そうと思っただけだ」
黄昏の旅団の影に"レジスタンス"がいないことを確認すると、ギュンターは安っぽい椅子に深く座り込んだ。
(どうしたもんか……。頭を使うのは俺の役割じゃねぇんだけどな)
◆◆◆
襲撃の翌日。
黄昏の旅団のことで頼みがあると"レイヴン"のシングが直接孤児院へやってきた。
突然の訪問にギュンターたちは慌てた。キニジに至っては左腕に憑依術式で造られた剣を握るほどだった。
――黄昏の旅団の生き残り、アッシュの尋問を頼みたい
あの場で失神していたアッシュ以外の旅団は秩序の守護者及び"レイヴン"の第二部隊によって殲滅され――と言っても8割は秩序の守護者の戦果なのだが――運が良いのか悪いのか、唯一無事なアッシュに白羽の矢が立った。
その尋問役にはギュンター自ら名乗り出た。ウェンは魔術研究所の仕事、ディア姉妹にはやらせたくない、キニジやマリーにレベッカはギルドに関わらせたくなかったからだ。
戦争の際の捕虜の扱いは心得ているものの、こういう状況に何をすればいいかはわからないため今現在ギュンターは頭を抱えている。
「はぁー……わっかんねぇなぁ」
アッシュへの尋問を終え、ギュンターは孤児院へと戻ってきていた。
「随分と手こずっているようですね、ギュンター」
「ウェンか。手こずっていると言うか、わかんねぇんだわ。なんでこのタイミングでフィレンツェを襲ったんだ……?」
謎だ。
それこそフィレンツェを滅ぼしたいのなら、"オラクル"事変の直後に襲撃すれば良かったのではないか。
「もしかして……ギルドの信頼を落とすつもりだったり?」
「うぉ……なんだレベッカか」
ひょっこり顔を出したレベッカの一言がギュンターには光明に思えた。
「"オラクル"事変に"黄昏の旅団"襲撃……。続けざまにこんなことが起きれば人々もギルドに不信感を抱くかもしれないな」
「もしかして、私いい線いってた?」
「いってますね。ありがとうございます」
やったね! とはしゃぐレベッカを横目に、ギュンターは更なる考察を進める。
「ギルドの信用を落とすのか目的ならもっと別のやり方があると思うんだよな。だから目的は別な気がする」
「案外、そうかもしれませんよ」
「ウェンもそう思うのか?」
意外だった。
ウェンならもっと深く考えていると思ったからだ。
「"レジスタンス"の目的がギルドを潰すことならこの2件はギルドの信用の失墜に繋がります。それに……」
「それに?」
「いえ、なんでもないです。ギルドの信用を失墜させるならあとひとつ動きが必要だと思いますね」
「と言うと?」
「そうですね……例えば、ギルド内部での争いとかどうでしょう」
「内部での争いか。次期ギルドマスターも決まっていないし、"オラクル"事変の責任問題や"レジスタンス"という爆弾……。争いの火種となるモンは多いな」
かつてこの大陸には『大陸の火薬庫』と称される地域があった。人種、宗教、国……様々な要因が絡み合いいつそこが原因で戦争が始まってもおかしくない地域だった。
事実、そこに訪れたとある王国の王子が暗殺されかける事件が発生した。その時は護衛を自ら提案したギルド側により防がれたものの、その事件により戦争まであと一歩まで行ってしまったことがある。その戦争もギルドによって防がれたのは事実だが。
「……『大陸の火薬庫』同然だな」
「ここにきて山積みの問題が出てきたって感じですね。ギルドはどう対処するつもりなのか、僕個人としては少し楽しみにしています」
「……お前、そんなこと言うタイプだったか?」
「どうでしたっけ」
ギュンターの知るウェンなら、「不安ですね……大事にならなければいいのですが」と言いそうなものだが、「楽しみにしています」と言うとは思ってもいなかった。
ウェンも変わってきているのだと結論付け、ギュンターは今まで座っていた椅子から立ち上がった。
「さてと、飯にでもするか」
◆◆◆
「――旅団の残党に訊いても大した証拠は得られなかった……か」
"レイヴン"の本部、自分に宛がわれた部屋――つまりは副局長室にて、シングはギュンターが提出した報告書に目を通してため息をついた。
その報告書を机の中にしまうと、自分で淹れたコーヒーを口に含む。
「"レジスタンス"に一歩でも近づければと思ったんすけど、中々上手くはいかないっすね」
仕方ないかと呟くとシングは立ち上がった。
「大きい戦になる。その戦にただのギルドメンバーである彼らを巻き込むのは忍びないっすけど……彼らの力は大きすぎる。"レジスタンス"を確実に潰すためには、どんなものでも使う必要がある」
シングはとある方向を睨んだ。そう、局長であるルチアがいる局長室だ。
「そろそろ尻尾を出すと思ってたんすけど、中々出さないもんだから割と手こずっているんすよ、局長」
もう冷めてしまったコーヒーを飲み干し、机に優しく置く。
「革命家気取りのウジ虫どもに、名誉ある裏切り者。アンタたちを喰い殺すのが鴉の役割だ。あと一手、それで、お前たちは終わりだ」
シングは低い声で嗤い始めた。
勝ちを確信したわけではなく、お互いに首に刃を突きつけた状態に堪らないほど高揚している。
「そのためにも利用させてもらうっすよ、エリー・バウチャー」
◆◆◆
「アーカマで"レジスタンス"と戦闘!?」
「エリーが昏睡状態!? なにそれエリーは大丈夫なの!?」
数日後、ギュンターたちの耳に入ったのは宗教都市アーカマでの惨劇だった。
「一気に言わないでください!」
「あぁ……悪い」
「ごめんなさい」
ギュンターとレベッカの剣幕に圧されずれてしまった眼鏡を戻しながら、ウェンはアーカマの現状について話始める。
「まずアーカマでの"レジスタンス"との衝突ですが、町に4体の魔族及び大量の魔物が入り込んだそうです。……幸いにも魔族4体は全てシルヴィアさんたちによって討ち取られ、大量の魔物も衛兵とエリーさんが主だって排したと報告されています。また、"レジスタンス"の幹部1人が死亡。これはシルヴィアさんたちがやったわけではなく、"レジスタンス"側が魔族化した幹部を処理した……とされています。この"レジスタンス"が処理した魔族とさっき言った魔族4体は別物です」
どうやら、最悪の事態は避けられたらしい。
そのことにほっとしながらも、ギュンターは次なる疑問を口にする。
「エリーが昏睡状態ってどういうことだ? あいつまた無茶したのか?」
「はい。報告によれば、完全解放を発動させ、町の上空まで舞い上がった後に雷属性の魔術で魔物を焼き払ったとのことです」
「完全解放だと……!?」
真っ先に食いついたのはキニジだ。それも当然だろう、まだ完全解放には至れないとエリー本人共々考えていた人物だ。
弟子の成長を喜ぶよりも、今は疑問の方が尽きないはずだ。
「魔剣センチュリオン……カナヒメ曰く、発動はエリー自身の力で自分がやったことは魔力の提供のみ、だそうです」
「自力で完全解放を発動できたのか。フッ、流石は俺の弟子……と言いたいところだが、倒れては話にならんな」
倒れた原因は憑依術式ではないと、ウェンは首を横に振った。
「憑依術式ではないのか?」
「エリーさんが倒れた原因は憑依術式ではなく、治癒魔術です。これに関しては教えた僕の失態です。"レジスタンス"との戦闘で致命傷を負ったシルヴィアさんに治癒魔術を施し、本来ならばシルヴィアさんにいくはずの負荷全てをエリーさんは背負いました。その結果が昏睡状態……マキナさん曰くエリーさんのような特殊な体で無ければ寿命を使い果たして死んでもおかしくなかったそうです」
代償の結果、体の時が止まったエリーだからこそ出来た芸当だろう。
「まぁ言わなくてもわかるだろうけど、今後はあいつに治癒魔術は使わせないようにしないとな」
「エリー……大丈夫かな……」
不安は尽きない。
しかし、今はやれることをするしかない。
「……ギルドからの報告は以上です。アーカマの魔剣も"レジスタンス"に奪われたとのことで、ますます油断は出来ませんね」
「そうだな……。絶対に、"レジスタンス"の自由にはさせねぇ」
◆◆◆
詳しい話はシルヴィアたちが帰ってきてからとなったが、まさか1ヶ月もかかるとは誰も想像していなかった。
ただその1ヶ月、無為に過ごしていたわけではない。
シングと連絡を取り合い"レジスタンス"の情報を集め、来るべき日に備えた。もっとも、"レジスタンス"の情報はほとんど集まらなかったが……。
しかし、シング曰く収穫はあったそうなので良しとしようとギュンターは前向きに考えていた。
そしてシルヴィアたちがフィレンツェに戻り、さらにそれから数日。
事態は急変した。




