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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第4章 夢を誓う者、変革を導く者
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騒乱の後

忙しかったのとPSplusで来たソフィーのアトリエにどっぷりハマってたお陰で遅れました…。

はっと目が覚めた。

どうやら自分はまた倒れてしまったらしい。もはや慣れっこだ。このベッドに横たわる自分も、毎度毎度目に入る自分の髪も、そして空腹感も、いつものことだ。

ただ、それらが自分が生きているという実感を与えてくれる。……別に無理してでも生きたいわけではないが。


「……はぁ」


何か夢を見ていたようだが覚えていない。ただ良い夢ではなかったのか、背中が汗でぐっしょりと濡れている。




「……む、おはようバウチャー。……いや、こんにちはか?」


体を起こすと、自分のベッドの横でアリシアが椅子に座って本を読んでいた。

本の名前は『世界武人百選』。……実に彼女らしい。


「あぁ、アリシア」

「……クロムウェルではなくて残念か?」

「いや、そういうわけじゃ」


冗談だ、と唇を揺らすアリシア。


「クロムウェルなら大丈夫だ、大した傷はない。むしろバウチャーこそ危険な状況だったらしい」

「そうだったの?」


確かにあれだけのことをすればそうなるのかもしれない。ともかく、シルヴィアが無事でなによりだ。



「どうせ散々叱られるだろうから私はあまり言わないが……無理をしないでくれ。大切な人を守りたいという気持ちはわかる、でも、その前には自分を守らないと意味がないんだぞ」

「……そう、だよね」


どうもシルヴィアのことになると周りが見えなくなってしまう。

今回の件に関しては治癒魔術をしなければシルヴィアが死んでいたため、他に選択肢はなかったはず、あまり怒られないことを祈ろう。



「バウチャーが起きたことだし、みなを呼んでくるついでに軽食も持ってこよう。何か食べたいものはあるか?」

「特にはないかな。強いていうならお腹に優しいもので」

「あぁわかった」


どうやら意外にもアリシアは料理を作れるらしい。……よくよく考えれば、シルヴィア以外の女性陣は程度の差はあるものの全員料理ができる。

……何故か悲しくなってきてしまったので、ここは話題を変えよう。



「そうだ、僕って何日寝てた?」

「1ヶ月だ」

「……え」

「正確には1ヶ月と2日」


そういうことではない。


「い、1ヶ月って、その間にみんなは何してたの!?」

「アークライトは1度ステュアートに戻ったが帰ってきた。他はここに残っていた。あと、手紙でフィレンツェの仲間とは連絡をとっていたが、あちらはあちらで事件があったようだ」

「だ、大丈夫なの?」

「あぁ、解決してきたらしい」


ならよかったと胸を撫で下ろす。


「それで、その事件のこと教えて欲しいんだけど……」


既に解決したとはいえ、情報は頭に入れておきたい。"レジスタンス"と無関係かもしれないが、そうでない可能性だってある。



「詳しい話をすると、"黄昏の旅団"と呼ばれる商人の同業組合ギルドによる襲撃だ」

「商人ギルドが? なんでまた……」

「それはわからない。黄昏の旅団はかつてはギルドと良好な関係を築いていたはずなのだがな。……残念だ」


今この大陸せかいではエリーたちが属する"ギルド"の知名度が高過ぎるため、ギルドというとそれを浮かべる人がほとんどだ。

――しかし、本来の意味のギルドとは『商工業者』の同業組合のことを指す。『傭兵』の同業組合とした"ネスト"――現ギルドは厳密に言えば言葉の意味を間違えているのである。





「流石に商人だけでは勝ち目はないと考えて傭兵を雇ったようだが……」

「撃退されちゃったと」


「そういうことだ」と言うとアリシアは読んでいた本を近くの机に置く。

両手を太ももに置き、少し俯いた。


「"黄昏の旅団"が何を考えてギルドを襲撃したのかはまだわからない。……けど、少し悲しいものだな」

「……そうだね」


重い空気になってしまったので、それを払うかのようにパン!っと手を叩く。



「そうだアリシア、昨日……じゃないや1ヶ月前に言ったご飯奢るってやつ、明日か明後日にでも行こうよ」

「いいのか?」


流石アリシア、食いつきが速い。……食事だけに。


「良いも悪いも、約束したからにはちゃんと奢るよ。皆で食べに行こう」


アリシアは「やった!」と嬉しそうに笑った。

普段は厳しい顔と態度を崩さない彼女だが、こういう年相応な面は可愛らしいものだ。



「じゃあ私はみなに伝えてくる。つちでに食事も用意しよう」

「よろしくね。ところで、汗かいちゃったからシャワー浴びたいんだけど、どこで出来るかな」

「それならこの部屋を出て、左に行って突き当たりを右だ。ちなみに着替えはそのベッドの下にある」


ありがとうと言い、アリシアと共に部屋を出る。自分は左、アリシアは右だ。

そういえばなぜベッドの下に着替えがあるのかと気付いたが、深くは考えないことにした。それに今の自分が着ている服は、1ヶ月前のものとは異なっている。……もうやめよう。





◆◆◆





「ふぅ」


1ヶ月も放置したお陰で膝裏あたりまで伸びてしまった髪を邪魔に思いながら、エリーは頭にタオルを被せて自分が寝ていた部屋まで戻ってきた。


「あーさっぱりした……」


扉を開けると、そこにはシルヴィアたちの姿があった。





「おはようエリー。お寝坊さんね」

「あはは……寝過ぎだよね……」

「………………」

「………………」


沈黙。

エリー自身はそのつもりはなかったのだが、シルヴィアの気まずそうな顔を見るとどうしても表情が曇る。



「エリー、これ」


シルヴィアはエリーの顔を見ずに、"魔剣センチュリオン"を手渡した。


「1ヶ月、預からせてもらったわ。カナヒメとも色々話した。……本当に、色々と……」

「……あ、うん。ありがとう」


またも沈黙。

シルヴィアの隣にいるクローヴィスとマキナに助けを求むような視線を送るも、2人は知らん顔をしている。今は手を貸さないということだろう。



「エリー。えっとね……その、ありがとう。それと、ごめんなさい」

「……え?」


なぜ謝るのかと疑問に思う。


「私、ずっとエリーに守られているだけじゃない。今回もそう」

「僕は」


ダメと言わんばかりに、シルヴィアはエリーの唇を自分の人差し指で抑えた。


「だから私、もっと強くなる。『影』に頼りすぎていた部分もあったわ。今まで通りに剣を振るっていたら、あの一撃だって避けられたかもしれないのに」


力を得たらそれを使いたくなってしまうのは人間の性だ。

自分だってそうだ。カナヒメの力についつい頼ってしまいそうになる。



「もっともっと、もーっと強くなって、エリーを、みんなを守れるようにならないと。守られてばかりじゃいけないもの」

「……うん」


出来れば、シルヴィアがそう思わないように自分が強くなれれば良かったのだが。


「僕も手伝うよ」


シルヴィアだけでなく自分も強くなる意味合いをもってそう告げた。



「是非お願いするわ。朝昼晩剣の腕じゃなくてベッドの上でも練習を……」

「前言撤回」


体をくねらせたシルヴィアにこれ以上ないくらいの冷たい視線を浴びせると、シルヴィアは慌てて頭を下げた。


「ごめんなさい真面目にやります」

「……それで?」


あれは重くなってしまった場の空気を払うために、シルヴィア渾身のジョークで和ませようとしたと思いたい。

本気で思っている部分も間違いなくあるだろうが。





「だから、私にエリーの剣術を教えて欲しいのよ。そしてギュンターに勝ってギャフンと言わせたい」

「そう言われてもなぁ。僕やクローヴィスの剣術は師匠に習った基礎から発展して我流みたいなものになってるし……」


基礎的な部分はキニジと酷似しているものの、それ以外はかなり異なる。

エリーとキニジは互いに二刀流だが、二刀流と言っても全く似ていない。


「基礎は出来上がってるんだから、変な動きは覚えずに今ある動きをさらに煮詰めた方がいいと思うけど」


シルヴィアとギュンターはクロムウェル家率いる鉄騎隊にて剣術を修得している。

それならば無駄に変な剣術を身につける必要はないと思うのだが……。



「私もギュンターに負けないように努力はしているのよ……多分。でもそれ以上にギュンターは剣を振るっているから追い越せないのよね」


1年以上の付き合いになってやっとわかってきたことだが、シルヴィアは負けず嫌いらしい。


「別に無理して追い越す必要はないのではないか?」

「そうだよ」


アリシアの言葉に便乗する。



「もう足手まといは嫌なのッ!」


シルヴィアが声を荒げた。


「もう、一歩下がったところで仲間たちが傷ついていくのは見たいくないの! 私も一緒に同じところで戦いたい!」

「…………!」


正直、驚いた。



「私は……私は、皆と違って目標とかそんなもの無くて、ただただ貴族という自分から逃げたくて……」


エリーのように復讐のためでもなく、ギュンターやウェンのように主人を守るためでもなく、マキナのように子どもたちを救うためでもなく、アリシアのように人々の盾となるためでもなく、クローヴィスのように自分を見つめ直すためでもなく…………………。


「でも、エリーの逃げるなって言葉で気付いて、エリーが倒れて、そして私には出来たわ。私だけの、剣を握る理由」


シルヴィアは自分の左手の手首を右手で掴んだ。



「私のつるぎは、大好きな人たちを守るために……。大好き人たちと笑って生きていけるように……。私に出来た、ちっぽけな夢。"明日も笑って過ごす"。そのために、剣を握るわ」


――だから、私に剣を教えて。

真に覚悟を決めたシルヴィアの頼みを断れるはずがなかった。


「わかった。上手く教えられるかわからないけど、僕なりに頑張るから」

「ありがとう……よろしくね」


こうなるとは思っていなかったが、やるからには責任をもってその責務を果たそう。







……では特訓の内容から考えねばならない。まずは彼女の悪い癖から直していこう。幸いなことに1年くらい彼女の戦い方を見てきている。

今までは何処其処を直した方がいいと言わなかったが、教えることになったからには別だ。遠慮していた分、徹底的にやらせてもらおう。



「おう、エリー。ニヤニヤしてんぞ」

「えっ僕そんな顔してた?」


クローヴィスに指摘されるまで気がつかなかった。


「エリー、特訓って名目で遠回りに来なくてといいのよ? ド直球でいいのよ?」

「そうだ、マキナさん」


シルヴィアは無視して、部屋の隅で欠伸をしているマキナに声をかける。



「何よ」

「多分、僕の体を治してくれたよね。それのお礼が言いたくて。ありがとうマキナさん」

「ほんと、勘弁してくれると助かるわ。ちょっとは楽できるかなって思ってたのに逆戻りよ」


治癒魔術を使える彼女には世話になりっぱなしだ。だからこそマキナの負担を少しでも和らげようと強引に治癒魔術を扱えるようにしたのだが……逆効果だったようだ。


「シルヴィアを治した直後のアンタ、死にかけたいたわ」


マキナは呆れたように「あそこから助かったのは奇跡よ」と呟くと、さっきまでエリーが寝ていたベッドに腰をかけた。



「あたしとカナヒメで色々話して決めたけど、エリー、アンタやっばり治癒魔術使ったらダメよ」

「えぇ、そんな」

「後先考えずに寿命を流し込むとか馬鹿には使えさせないわよ」

「むぐぐ……」


悔しいが反論できない。

助けるためとはいえ、後先考えなかったのもまた事実だからだ。



「でも治癒魔術が扱えるってのは惜しいのよね……。魔術の火水天地の属性が魔術師個人に得意不得意があるように、治癒魔術にも得意な人や不得意な人がいるのよ。身近なとこだとウェンとかそうね。あいつは治癒魔術も使えなければメディアのような支援魔術も使えないし」

「攻撃一辺倒なのね。ウェンらしいわ。ウェンって落ち着いているように見えてかなり感情豊かなのよ。しかも激情家」

「そうなんだ……。と、ともかくあたしとしてはこのままにしておくのも惜しいのよ」


惜しいと言われても、自分の治癒魔術をどうすればマトモなものに出来るのか。


「研究追求検証ってね。ぶっちゃけ、そっちは畑違いってか専門外だしウェンの方が詳しいのよ。後で頼むか」

「マキナさんの専門はなんなの?」

「あたしは魔術を転じた兵器の専門。ウェンは攻撃魔術の専門。同じ研究室でも個人個人では別のもの研究してたりするもんなの」


だからキニジの義手はマキナが主導して研究しているのだろう。ただの義手ならばともかく、キニジのは彼の動きに対応出来るようにかなり特別なものになるらしい。兵器転用することも視野に入れられる代物だ。



「ま、急いでやることでもないから。じゃああたしはちょっと寝るわ。おやすみ」


そう言うとマキナは座っていたベッドに寝転んだ。そしてそのまま就寝。

――速い。僅か12秒で寝息をたてている。


「マキナさんはなこの1ヶ月この町の復興とか事後処理とかで忙しそうにしてたからな。最初の数日はエリーが油断を許さない状況だったのもあるし、疲れが溜まってんだろ。寝させてやれ」

「そうだねクローヴィス。……それししても、そのベッド僕が寝てたものなんだけどマキナさんいいのかな……」


躊躇いもなく就寝したが、1ヶ月他人が寝ていたベッドに抵抗はないのだろうか。


「シーツとかなら3日に1回洗ってたから大丈夫だ」

「そうなの?。ならいいや」


この話題はここまでにして、クローヴィスに訊きたいことがあったのを思い出した。




「そういえばクローヴィスはステュアートに1回戻ったって聞いたけど」

「あぁ。流石にそろそろ戻るべきだと思ってな。んで戻ったまではいいんだが」


国王オルクスの身に何かあったのかと危惧するも、それはないと否定する。彼に何かあったらまずクローヴィスは戻ってきていないしシルヴィアだってステュアートに戻らねばならない。


「噂って早いもんだよな。もうあっちまでここでの話が広まってるぜ」

「そうなんだ」

「それにちゃっかり俺らの名前まで広まってる」

「……は?」


名が広まった?


「5人の若者が宗教都市アーカマを救ったってな。この町じゃすっかり英雄扱いだ」

「……英雄、か」


人々に求められた英雄は、役目を終えて疎まれる。かつてデイヴァがそうだったように。



「そうそう、クローヴィスったら女の子から告白されてたのよ!しかも複数人に。守ってくれてた時の背中に惚れたって子がほとんどだったわね」

「えぇ!?」


シルヴィアの言葉が信じられず、思わず声が裏返る。

確かにクローヴィスは美人のシャルルを姉にもつだけかって、美形であることは間違いない。

とはいえ、少し面白くない。


「それで、クローヴィスはどうしたの?」

「断った」

「なんで?」


恐らくは男冥利に尽きることだろう。それを断っていくには理由があるはずだ。



「継承戦争の後にさ、1回彼女出来たんだわ」

「クローヴィスが!?」

「失礼だな! ……ともかく、仕事に関しちゃ流石に国王の護衛ですとは言えなかったから、国に関わる大事な仕事だってことだけ言っといたんだわ」


まぁそうだろう。

護衛として当たり前の行動だ。


「そんでその仕事が忙しいからあまり構ってやれないって言ったんですよ俺は! 彼女も構わないって言ったです!」

「どうしたのクローヴィス……」


なぜいきなり口調が丁寧になるのか。


「そしたらさある日『仕事と私どっちが大事なの!?』って訊かれてさ。『そりゃ仕事だろ』って言ったら叩かれて別れを告げられました……。この一件でちょっとトラウマが出来てさ。しばらくは交際とかいいかなって……」

「かわいそうに……」


心の底から同情する。

互いに同意の上で交際を始めたのだ。それに文句を言うの百歩譲って理解できる。しかしそれにキレて叩くのは理解できない。クローヴィスは悪くない!



「待ちなさい。それはあなたが悪いわクローヴィス」


傷心のクローヴィスの肩を優しく叩こうとしたエリーを、シルヴィアの声が遮った。


「「は?」」


思わずクローヴィスと声が被る。


「女心がわかってないわ。……確かに彼女は承諾したかもしれない。でも、やっぱり自分が一番がいい、構ってほしい、そういうのがあるの」

「「めんどくさい……」」

「めんどくさくないわよ! 女の子とウサギは寂しいと死んじゃうのよ!? わかる!?」


わかりたくない。


「アリシア、あなたならわかるわよね?」

「わ、私か!?」


手持ち無沙汰になったのか椅子に座って『世界武人百選』を読んでいたアリシアに、シルヴィアは不意打ちが如く同意を求める。



「私は色恋沙汰とは縁遠いからな……。まだ幼かったころ、『私大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる~』と言ったことくらいしかない」


何か嫌なことでもあったのか、表情が暗くなるアリシア。


「いいじゃない!」

「いや良くないんだ。……その時、父が偶然居合わせてな。兄と父の親子喧嘩まで発展したんだ」



アリシアの話を聞くと、彼女はだいぶ大事に……特に兄と父からは過保護にされていたらしい。そんな彼女がそんなこと言ってしまったとあらば……。


「……『悪いな親父。アリシアは俺のお嫁さんになりたいそうだ』 『お前ごときにアリシアは任せられん!』 『情けないおっさんより、かっこいいお兄さん方がいいに決まってんだろ!てめぇは黙って若いねーちゃん相手に鼻の下伸ばしてろ!』 『ほざいたな小僧!』 『かかってこいやクソ親父ィ!』……………。10年以上も経つのに、未だに記憶にはっきりと残っている……」


うわぁ……という言葉しか出てこなかった。

アリシアは兄を『馬鹿』だと言っていたが、その意味がわかった気がする。



「そ、それで、その親子喧嘩はどうなったの……?」

「母が2人を一撃で沈めて終わった」

「お母さん、強いんだね……」


母は強しとはまさにこのことである。


「それ以降、そういうことは言わなくてな。……というか禁止された。だから寂しいと死んじゃうとかはよくわからない」

「だよね。シルヴィアが適当言ってるだけだよね」


それ見たことかとシルヴィアを睨み付けるエリー。




「むぅ……。そもそもクローヴィスはちょっとトラウマがあるくらいでビビるからダメなのよ」

「俺に矛先向けるかよ!? まぁ、ビビったのもあるけど、今はそれどころじゃないしな」


他に大事なことでもあるのだろうか。


「ステュアートに戻ってさ、陛下の護衛やろうと思ったら『今は友の側にいてやれ』って言われたんよ。……あの人も安全って訳じゃないし何考えてんだか」

「その友の側にいるのがやるべきことってこと?」


少し意外そうにシルヴィアが尋ねた。



「まぁよっぽどエリーが大切なのはわかるわ。私もそうだもの」

「クローヴィスとオルクスさんがいいなら僕はいいけどさ」


しかし、オルクスの考えていることは読めない。悪い人ではないが、食えない男だ。





話が反れすぎてどこまで戻すか決めあぐねているエリーの口が、勝手に開いた。

カナヒメだ。剣を返されカナヒメが自分の中に入ることは感じたものの、反応がないことに疑問を感じていた。


『……あぁ、おはようエリー。妾も寝ておったわ。うむ、体ももう大丈夫そうじゃな』

「あぁおはようカナヒメ。反応ないと思ってたら寝てたんだね」


最近カナヒメの様子がおかしい気がする。しかし、カナヒメに尋ねても『気のせいじゃ』の一点張りで取り付く島もない。

今はどうも出来ないが、頭の片隅に置いておこう。



「カナヒメ、無理してごめんね……」

『治癒魔術のことはもうよい。それよりも、憑依術式リチュアをあそこまで使えるようになったか。めでたいことじゃ』

「カナヒメのお陰だよ。僕1人じゃあんな大魔術使えなかったし、カナヒメが魔力を送り続けてくれたからああして町中の魔物一掃できた」

『礼には及ばぬ……と言いたいが、ここは妾を称えよ。そなたがルーシーの魔術で寝ている時は妾が戦っておったのだたからな?』

「うん、ありがとう」


憑依術式の起動と維持はエリーがやっていることだが、その起動と維持に必要な魔力はカナヒメから受け取っている。

エリー1人ではせいぜい40秒ほどしか保てないだろう。それでも師匠キニジよりも長く保つが、だからといってこっちが優秀とは限らない。


「師匠にはカナヒメの力込みでも負けちゃうかなぁ」

「あの人はほんと規格外だからな。つっても完璧超人ってわけでもないけど」


腕の差もあるが、経験の差もあるだろう。しかし今は追い付けなくとも、最終的には追い抜けばいい。





「それよりも!」

「どうしたのエリー」


ここまできて、ひとつ重要なことを忘れていた。


「お腹減った」


しばらく何も食べていない。

3人はまさかの言葉にきょとんとしていたが、いっせいに笑いだした。



「腹減ったってお前なぁ。まあいいや、飯にしようぜ」

「そうね。時間もいい頃合いだし、お昼にしましょうか」


昼食はどうすると訊かれ、迷わずこう返した。


「アリシアが作ってくれるって」

「ああそうだ。約束してしまったからには仕方ない。腕によりをかけて作ろう」


アリシアはどんな料理を作るのか、かなり楽しみである。


「私も手伝う?」

「シルヴィアは僕にとどめを刺したいの?」


「酷い!」と涙目になるシルヴィアを見て罪悪感がわいてきてしまうが、こちらも自分の命がかかっている。

そのうちシルヴィアの料理も特訓をつけてあげたいものだ。



「マキナさん起きて」


可愛らしい寝息をたてているマキナに声をかける。


「んぁ……何よ」

「皆でお昼食べるんだけど、マキナさんもどう?」

「そう……わかった。あたしも行く」


シルヴィアと違って寝起きが良くて助かる。


「じゃあ行こう」


後で髪も切らないとなと思いつつ、エリーは部屋の扉を開けた。

次の更新は来年になると思います

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