感情渦巻く広場にて
「まさかリズ姉さんだったなんて……」
式典が終了し、人も少なくなった広場にてマキナは肩を落とした。
彼女の『姉』がまさかこの町の頂点に立つとは思いもしていなかっただろう。
「色々と合点がいったわ。本屋の親父があっさりと引いた理由、あたしのいた場所を探し当てた理由、自分の姓を明かさなかった理由。この町を治めてきた家系のひとつのスフォルツァ家なら、そりゃそうよ……」
スフォルツァ家は元はこの地方を治める貴族だったらしいが、今はアークナ教の信徒として宗教都市アーカマを支える家系となったという。
アーカマは王国ではないため直接比較はできないが、その力は貴族社会での公爵家に匹敵すると言われいる。
「"知らなかった"か……。そうよね、貴族の子女ならスラム街のことなんか知る由もないわ」
「マキナさん……」
マキナは「遠いとこ行っちゃったな」と空を見上げた。
同じ町にいるのに住んでいる世界が違う。
いや――最初から違っていたのだ。いくら『姉』だと慕っても、いくら『妹』だと慈しんでも、2人の間には埋められない溝がある。
「"魔剣"の回収、アンタたちに頼んでいい? 正直、今のあたしはリズ姉さんと顔を会わせられる自信がないわ。我が儘だってわかってる。リズ姉さんは気にしないってことも。でもあたしは、やっぱり無理なのよ」
だとしても。溝がなんだと言うのだ。
「逃げるの、マキナさん」
溝があるというなら、自分たちが溝に架ける橋となればいい。
「僕は何度も逃げてきた。嫌なことから、事実から、未来から。だから言えることだけど、逃げたところでいいことはないよ」
逃げ出した自分を追ってきたのは、いつだって、仲間たちだ。
「アンタに何がわかるのよ!だって」
「貴族だから? そんなの関係ないよ。シルヴィアを見なよ。貴族市民関係なく接してるでしょ」
シルヴィアをちらりと見る。
彼女はいつだって分け隔てなく人に接してきた。お人好しの彼女らしいところだ。
リズという人物もエリーが思うにお人好しに違いない。少なくとも悪い人ではないだろう。
「マキナさんの慕うお姉さんは地位が高くなったからっていきなり態度を変える人なの?」
「リズ姉さんは……違う……」
「じゃあ会いにいけばいい。逃げたくなったら僕らが支える。仲間ってそういうものじゃないの?」
「仲間……!」
それをエリーはシルヴィアに、仲間たちに教わった。支えられてきた。
今度は自分が仲間を支える番だ。
「…………アンタにここまで言われるとはね。うん……あたしも行くわ」
「マキナさん……!」
「みんな、ごめん。やっぱりあたしもやるわ。姉さんに、また会いたい」
そう言って、マキナはいつも通りの笑顔を見せた。
優しいけど不器用な彼女そのものだ。
「よし、行こう!」
「ええ」
「あぁ!」
「了解だ」
マキナは大聖殿へと向かう仲間たちを見つめ、静かに笑った。
「お人好しだらけね、ほんと。でもあたしはそんな仲間たちが……」
自分の中に疼いていた感情。それがはっきりとはわからなかったが、今ならわかる。
それはきっと――――――。
◆◆◆
大聖殿前の広場にて、静かに嗤う者が1人。
「くっだらないですねぇ。反吐か出る」
その人物は、大聖殿を見上げた。
「あの人から渡された情報通り、町はお祭り状態。多少不審な動きをしても咎められないのは助かりますねぇ。あいつらの戦力は予想と少し異なっていましたけど、所詮は虫けら。ルーシーの敵ではありませんね」
"レジスタンス"の一員、ルーシーは大聖殿へと向かったエリーたちを嘲笑う。
そしていつの間にか現れた1人の男へと声をかける。
「用意はできていますよねぇ? ルーシーは無能は嫌いですよ?」
「既に大聖殿を落とす準備は整えております。あとは、あなたの指示を待つだけです」
ルーシーはそれを聞くと瞳を震わせ、頬を紅潮させた。
「そうですかぁ。ではぼちぼち始めましょうかねぇ。作戦を開始してくださぁい」
「はっ! 人類の真なる自由のために!」
男は颯爽と駆け出していった。
それを見送るとルーシーはぽつりと呟いた。
「正直な話、私は人類の自由とかどうでもいいんですよねぇ。リーダーの思想は立派なものでしょうけど、理解はしましたが共感はしていませんしぃ」
ではなぜあの男の下についたのか。
答えは単純明快である。
「リーダーの下でなら、いくらでも壊せる、誰でも殺せる。気に入らないヒトをみんな、みーんな、血に染めてあげられる。ある意味では理想の上司ですねぇ」
もっとも場所を問わずではなく、彼が指定した場所限定なのだが。
それでもルーシーの気に入らない人間は存分にいたぶれる。
「では、ルーシーも行きますかねぇ」
いったい何人が血の海に沈んでくれるのだろう。
ルーシーはそれだけを考えて歩きだした。
短いですが今回はここまでです




