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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第4章 夢を誓う者、変革を導く者
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鴉の巣

「……ですから、ただの義手ではなく何かしらの機能をつけようと思うんです」

「機能ってもなぁ。そうだな、変形するとかいいんじゃねぇの?」

「変形だけじゃなくて、さらに合体させるのはどうかな?」

「変形合体させるなら馬鹿でかい武器とかにしたいよな」


ある日の昼下がり、ウェンに義手の発想がほしいとエリー、クローヴィス、ギュンターが集められた。

何でも女性陣たちではダメで、ロマンがわかる男性陣に聞きたいという。


5人用のテーブルに座り真剣な顔で話し合う姿は端から見ればとても重要なことなのだろうと思わせる。

……いや、本人たちには重要に違いない。それを他人が見てどう思うかは知らないが。



「変形合体かぁ。すごく大きい剣を予め背負っておいて、ここぞというときに義手の一部を分離して合体! 一撃必殺の超すっごい強い武器になる! はどうかな?」


ドヤ顔で提案するエリー。

巨大な武器を背負ったまま戦えるのか、合体したところで実用性はあるのか、というか義手を分離したらその後使えなくなる、そもそも許可が降りるのかどうか、ということを失念している。




――だが、ロマンを知る男どもは違った。


「いいですね! しかし剣だけでは不安なので、大砲も用意しておきましょう!」

「巨大な剣と同じように背負わせておくか。となるとひとつしか持ってけねぇが、一撃必殺の超すっごい強い武器なら問題ねぇ!」

「師匠の戦闘能力なら問題ない。むしろ苦手な遠距離戦に対応できるように、俺は大砲を推すぜ!」


脳内でとんでも兵器を造り上げていくエリーたち。

キニジ本人の承諾はもはや頭から消え去り、いかに「一撃必殺の超すっごい強い武器」を生み出すことに全知識をフル動員させていた。



「……人の義手で随分と好き勝手話しているようだな」

「あっ」


そのせいだろう。

真後ろに立っているキニジに誰一人として気づかなかった。

サーっと血の気が引いていくエリーとクローヴィス。


「えっあっいや違うんですよ師匠。僕たちは」

「別に責めているわけではない。ただ……」

「ただ?」


怒っていないわかり一先ず安心する。

本気で怒った時のキニジはものすごく怖いのだ。何度も憑依術式リチュアで無茶し続け、その度に雷を落とされたために若干トラウマ化している。


「……俺も、参加させてはくれないだろうか。何せ自分の義手だ、知る権利くらいあるだろう」

「師匠ぉ…!」


思わず涙が出た。

いい大人が恥ずかしいとでも思っているのか引いたような口ぶりだが、その目に宿した感情までは隠せない。

――どう見ても楽しみにしている。



「まず大砲についてだが、ただの大砲ではなく多薬室砲したらどうだろう」

「なるほど。しかしそれではさらに重みと大きさが増しますが?」

「任せろ」


自信をもって言い切るキニジ。


「じゃあ大きい剣もただの剣じゃなくて、"シュッツァー"みたいに魔力結晶で一気に加速する剣とか」

「あれ、俺の剣のサイズで扱えるかどうかギリギリだったんだぞ。でかすぎたら使い物にならないんじゃねぇか?」


いっそのこと振り回されることを利用してなんとかできないものか。


「難しいね……。クローヴィスはどう思う?」

「俺? まぁ色々考えたけどさ……」


隣に座るクローヴィスに意見を求める。

顎に手をあて真剣に悩んでいるからか、テーブルを見るように下を向いていた。そこを下から覗くように声をかける。



「まずさ、名前決めないか?」

「名前っていうと?」

「武器につける名前だよ。せっかくの超兵器なんだから大それた名前にしようぜ」


考えたのはエリーなんだからお前が決めろと言われた。

突然そんなこと言われてもアイディアが浮かばないが、なんとか捻り出す。


「言っちゃうと規格外の武器でしょ……。そうだなぁ、オーバード





その時、悩む男5人の所へ新たな人物が現れた。


「なにやってんのよアンタら……」


マキナだ。



「師匠の義手に追加する素敵武装を考えてたんだよね。マキナさんもなんなアイディアある?」

「……ないわよ。考えたところで予算降りないし。てか言い出したのウェンでしょ。まだ諦めてなかったの?」


珍しくむっとした表情をするウェン。

確かにロマン溢れる装備を作りたいのはわかるが、そんな必死になることだろうか。……と自分のことを棚にあげて心の中で呟く。


「研修者として、ロマンを追わずにはいられなかっただけです」

「はぁ…………まぁいいわ。それよりエリー」

「僕に用事なの?」


てっきり"タスク"繋がりでウェンへの用事だと思ったのだが。

そしてマキナの口から、思ってもいなかった単語が飛び出した。



「あたしじゃなくて、"レイヴン"がね」






◆◆◆






"レイヴン"もまた、ギルド内の組織であるためその本拠地もギルド本部の敷地の中にある。



――"レイヴン"の本拠地、通称ネスト。

情報や機密を扱う彼らは、彼ら自身も謎が多い。

そのひとつがこの本拠地だろう。

何せ"本拠地"の外観がただの廃屋なのだ。鳩の巣の方がまだ立派だ。


謎なのは外観だけではない。

エリーたちは機密保持とのことで今この鴉の巣まで目隠しをされて来た。

それはつまり、いざとなった場合に逃げ出せないことになる。

カナヒメの力を借りて限定解放リミットドライヴで飛んで逃げるにしても、せいせい1人運ぶのが限界だ。




「……大丈夫? 顔が堅いわよ?」

「ま、"レイヴン"の本拠地だもんね。緊張するのも無理ないわ」

「……どうも落ち着かないな。誰かに見られているみたいだ」


自分だけが呼ばれたのかと思ったが、マキナとアリシアにも召集がかかっていた。

シルヴィアは特に呼ばれたわけでもないが、私も行くとついてきた。



……なるようにしかならない。


「とりあえず、行こうか」


気分は鴉の巣に連れてこられた芋虫だ。





◆◆◆





無論"レイヴン"の本拠地は廃屋などではなく、入ってすぐのところに地下へと続く階段があった。


そのやたら長い階段を下ると今度は長い通路に出る。

飾りなどなく、一面ただの石の壁を歩き続ける。


案内に連れられ歩いて行くと、そこには大きめの扉があった。



「シング副局長室となります。シング副局長が直接話をしたいとのことです」

「わかりました……」


正直、気が進まない。



「……失礼します」


意を決して副局長室に足を踏み入れる。その後にシルヴィアたちも続く。





「……待ってたっすよ。魔剣の担い手さん」


そこには、20代後半と思われる男性がいた。

質素でも豪華でもない机に、大量の書類が積まれてある。

一見仕事ができなさそうだが、そこに座る男からはそうは思わせない謎の迫力があった。



「あなたが、副局長のシングさん?」

「そうっすね。No.8とNo.18はわかるんすけど、どっちがエリー・バウチャーっすかね。名前までは知ってても顔までは知らないもんで」


随分と軽いノリだ。

ただ、刃を交えかけた相手だということを忘れてはならない。



「僕がエリー・バウチャーです。こっちの銀髪の彼女がシルヴィア=クロムウェル」

「あんたがエリーか、なるほどなるほど。おっと、一応俺も名乗っておこうかな。俺はシング=ハルフェルト、"レイヴン"の副局長なんかやってる……ってもう知ってて当然か」


たははと笑うシング。

だが目までは笑っていない。そう、まるで獲物を前した時の鴉のような目だ。



「前置きはめんどくさいんでさっさと話します。エリー・バウチャー。今のあんたはギルドからの信頼はゼロ……いや、ゼロならまだマシ。はっきり言って警戒されてるよ、あんた」

「そりゃあ、そうですよね……」


あれだけのことをやっておいて警戒しない方がおかしい。


「正確にはエリー・バウチャー個人ではなく、あんたら全員がそうっすけど。"レイヴン"でも最優先監視対象になってるし」

「私たち何かしたかしら?」


すっとぼけたように首を傾げるシルヴィア。シルヴィア個人の心当たりがあるなしに関わらす十分やらかしているのは事実だ。


「あんたらは秩序の守護者ギルド・ガーディアン4名に、それに並ぶ実力者揃い。警戒しない理由がないんすよ」


ま、俺には関係ないんすけどねと深く座り込むシング。あの椅子は座り心地がよさそうだと一瞬考えてしまう。




「まぁ無駄話もここまでにしますか。用事があるのは俺じゃなくて局長なんでね」

「じゃあなんで僕らと話そうと」

「決まってるじゃないっすか。ケジメっすよ」


深く座り込んでいたシングは、椅子から立ち上がるとエリーたちに頭を下げた。

どんな意図があるんだと戸惑っていると



「先の霊峰の件、部下たちに責任はない。指示を出した俺の責任だ。非は俺にある、どうか部下たちは責めないでやってほしい」



「えっ……。あっと僕はそもそもあなたたちを見てないので……」


まさか謝られるとは思ってもいなかったので、あたふたしてしまう。

そもそも"レイヴン"襲撃にあったのはマキナたちの方なのだ。謝るならマキナにしてほしい。

その意味を込めてマキナを見ると、以外にもマキナは慌てていなかった。



「気にしてないわ。あたしたちは誰も傷ついてないし、それはアンタらもそうでしょ? だから水に流す。ミスのひとつやふたつくらい誰にだってあるでしょ」


素っ気ない返事。

マキナなりに気をつかわせないようにした返事なのだが少し不器用に思える。


「……感謝する」


先程までの軽い口調は失せ、真剣な大人といった方が今は正しい。

マキナから彼の部下はシングを慕ったいるらしいと聞いたが、その意味がわかった気がする。





「此度の恩は忘れはしない。……さて、俺からはこれくらいっすよ。さっさと局長のとこに案内するんでついてきてくれ」

「あ、はい……」


元の軽い口調に戻ったシングは副局長室の扉を開け、部屋から出る

それにエリーが続く。


「……"鴉"は、恩を忘れない。そして、仇も」


シングがぼそっと呟いた一言は、エリーの耳にしか入らなかった。




◆◆◆




「ここが局長室っすね」

「"レイヴン"って本当に飾りっ気ないのね」


シルヴィアがため息とともに言った。

シルヴィアの言葉通り、"レイヴン"の本拠地は装飾など存在せず一面の石の壁となっている。

そこは魔術研究所と似かよっているが、あそこはまだ地上であり、壁の一部がガラス張りだったこともあって明るかった。また壁そのものが白く塗装されていたため、ガラスから差してきた光と合わさって綺麗ではあった。


だが、ここは地下であるが故に太陽の光は差さず壁も塗装はされていない。

なんというか、寂しい場所だ。



「俺たちにはそんなもの必要ないんでね。局長、入りますよ」


シングは木製の扉につけられたドアノブに手をかけるとそれを押した。

"レイヴン"のトップ。いったいどんな人物なのかと緊張していると





「やぁ、よく来たね!」


そこには細目の美しい女性がいた。黒髪に白い肌が映える。

年齢は20代後半から30代前半といったところか。

シングもそうだが、ギルドは比較的若い人たちを上に据えたいらしい。



「私はルチア・トラディメント。そちらがエリー・バウチャー君。そちらの銀髪の彼女がシルヴィア=クロムウェル君だね。話は聞いてるよ!」


場所とは似合わないハキハキとした明るい女性だ。

本当に彼女がギルドの闇を扱う"レイヴン"の局長なのだろうか。まだシングと言われた方が納得する。


(それにしても……もう僕とシルヴィアの顔を知ってるみたいだ)


前言撤回。流石は"レイヴン"のトップだ。






「さて、キミたちをここに呼んだのは他でもない私だ」

「どうしてですか?」

「……単刀直入に言うよ。エリーバウチャー、キミの"魔剣センチュリオン"の情報を教えてほしい」


――エリー、断れ。

(わ、わかった)


「ごめんなさい。それは教えられません」


今までにないほどカナヒメが警戒している様子だったので、ここは素直に従った。




「そっかー、それは残念だね。まあ、タダで教えてくれるとは思ってなかったし。じゃあこうしようじゃないか」


ルチアはそう言うと1枚の紙を取り出した。

そこには戦槌が描かれていた。


「"魔槌アイムール"……?」

「そう。所謂"界造魔剣"と呼ばれるものだ。先日のNo.8が発表した論文が正しければ、だけどね」


マキナは先日のカナヒメの話から、僅か2日で論文を仕上げた。

だがカナヒメの話を丸写ししているだけのため、自分の功績にはしたくないとマキナは言っていたが。


ちなみにその論文ではカナヒメの存在には触れていない。学会からすれば、マキナが1人で見つけたことになる。




「この"魔剣"をキミたちには確保してもらいたい。出来た暁にはキミたちを所有者としようじゃないか」


ルチアは今度は地図を取り出す。


「在処はここ、宗教都市アーカマ。ここはアークナ教の一大拠点で……。えっと、あまり宗教は詳しくないのかな?」

「全然そっちの話は詳しくなくて」


あまり宗教には興味がない。むしろ、神という存在に頼ることが好きではない。

もちろんそれはエリーの話だ。何かしらの宗教に入信していることが世間一般での普通ではある。



「そうだね、聖主アークナを信仰する一神教だと知っておけばいいかな。ちなみにアーカマと言うのはアークナ教の言葉で『神に仕える人』という意味だね」

「そんな宗教都市に僕らが入ってもいいんですか?」


余談だが、その地域によってはギルドの介入が拒否されている場所もある。

神殿があったり、聖域とされる場所はその地域もしくは宗教から立ち入りを禁止されている。

その傾向は宗教要素が強ければ強いほど高まるので、宗教都市とまで言われる都市がギルドの介入を許すとは意外だった。



「アークナ教は意外にも寛容でね。ギルド支部を都市に置くことを許可してくれたんだ。ギルドは別に宗教団体ではないからいいとのことらしいよ」

「そうなんですか……。なら問題はないですね」


しかし、等価交換に値するものだろうか。

"魔剣"を得られるのはいいことだが、カナヒメのことを教えたくはない。



「それでNo.8とNo.18を呼んだことなんだけどね、キミらは"魔槌アイムール"の確保任務を言い渡すよ」

「……は?」


明らかな怒気を含めて問い返すマキナ。これでは確保を強制しているのと同じででないか。


「これは私の意志ではないよ? ギルドの意志さ」

「覚えときなさいよ……」

「アモーレ、任務ならば為し遂げなければならない。ここは従おう」


冷静にアリシアが返す。

そのアリシアを見て、ルチアは口角を吊り上げた。



「キミには期待していないがね、No.18。キミの任務達成率の低さ、自覚しているんだろう?」

「む……ッ!」

「おさえて、おさえてアリシア!」


正論ではあるが、アリシアの場合は不足の事態が重なっている。決して、アリシアの能力が低いわけではない。

むしろ不足の事態さえなければちゃんとアリシアは任務を完遂できるはずだ。



「今回はNo.8とNo.18が組んで任務に挑む形になるんすよ。そこにエリー・バウチャーが加わるかどうかは自由っすね」

「……"鴉"は随分と卑怯なんですね」

「卑怯でもなんでも、守らなきゃいけないもんが俺にはあるんすよ。それ以上でもそれ以下でもない」


これ以上の会話はする気がないと知らしめるように口を紡ぐシング。





「……さて、キミはどうするのかな?」


試すように、ルチアが問う。

アリシアとマキナを信用して、自分は待つという選択肢はある。しかし、今の自分はやるべきことが見つからない。


――今はそなたの好きにやるがよい。結果は後からついてくるじゃろう。本当にヤバい時は妾が止めるから安心しろ。

(いいの?)

――そなたは男じゃろう。くよくよしていないでビシッと決めるのじゃ!


そうか。ならそうしよう。

やる前からウダウダ言ってても仕方ない。





「――"魔槌アイムール"の確保、僕も協力します」

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