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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第4章 夢を誓う者、変革を導く者
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魔剣語りし世の理①

間違えてデータ削除したので書き直してたら時間かかました…

エリー帰還の喜びは過ぎ、良くも悪くも落ち着いた日々に戻っていた。

これが待ち望んでいたものだと、エリー自身はそれを傍受している。


だが、心の何処かで、剣を持つことを望んでいることも、わかっていた。




「……カナヒメとの体の共有も随分と慣れた。……でも慣れないなぁ、平和だけは」


この4年間、戦いの中に身を置いてきた。

だからこそ、戦いのない日々が落ち着かない。もう戦う理由も必要もないというのに。

"レジスタンス"の件はあるが、わざわざ自分から関わる必要もない。


――いっそのこと、旅にでも出ようか。

鞄ひとつの荷物を持って、行き先を決めない気楽な旅。

何が起こるかわからない。でも、いつかその旅路を振り返ったとき、素敵な旅だったと言えるようなものであれば、それはきっと宝物になる。





エリーの想いを知ってか知らずか、いつもとは異なる様子でカナヒメがエリーの心を響かせた。


――エリー。


「カナヒメ?」


――みなを集めてはくれぬか。話さねばならぬことがあるのじゃ。


「わかった。大事なことなの?」


――そうじゃ。何れ話そうと思っておったこと。エリーだけでなく、この世界にとって重要なことだの。


「わかった。夜までには集めるよ」


――頼むぞ。


いつになく真剣なカナヒメに、エリーも真剣に対応する。

夢で見たかつての彼女もこんな落ち着いた様子を見せていた。しかし今のカナヒメは、心の底から楽しんでいるようなこころを見せる。そちらが本来の彼女なのかもしれない。


何はともあれ、今はシルヴィアたちを集めなくては。





◆◆◆





みな揃ったようじゃな』


その日の夜、孤児院に集合したシルヴィアたちを見てカナヒメは呟いた。

フィレンツェ中を走り回り、なんとか全員集めたためエリーは途方もなく疲れているが、今は疲労よりも好奇心の方が強い。


『レベッカ、あれはできておるか?』

「チビヒメちゃん、だよね。できてるよ」


エリーの体を借りて喋るカナヒメに、レベッカはぬいぐるみを渡した。

どことなく心の中で見たカナヒメの姿に似ている。



『いつもなら、エリーの体を借りて喋るが、今だけは直接全員に伝えたくての』

「エリーの体なしにどうやって喋るんだ?」

『よくぞ聞いたギュンター。そなたらの心に直接話しかければ、別に人の体を使う必要はないのじゃ』

「じゃあなんでエリーの体を使うんだよ」

『単にめんどくさいからじゃ。そもそも直接話しかけるのに魔力を消費するらかの。そんなことするくらいならエリーの体を借りた方がはやかろ?』


理にはかなっているのかもしれないが、もう少しマトモな理由が欲しかった。





『さて、おふざけはお仕舞いじゃ』


カナヒメはレベッカから受け取ったチビヒメに触れると、エリーの体から離れた。

何度かカナヒメが自分の体から離れたことはあるが、その度に心から何か抜け落ちたような感覚を覚える。



『さて、これでいいじゃろ』

「――。うん、大丈夫だと思う」


カナヒメはエリーからチビヒメへと精神を移し、今は直接心に伝えている。





「それで、話したいことって何かしら?」

『"全て"じゃ』

「えっ」

『妾が知りうること全て。そなたらに伝えよう。それがこの繰り返される世界を穿つ剣と信じての』


繰り返される世界の真実。

エリー・バウチャーがシルヴィアを殺し、それが起因となる世界の流転。

それが知れるのなら、越したことはない。



『さて、まず魔術とはなんじゃ?』

「魔術、ですか。術者の体内に宿る魔力を詠唱によって調律、効率よく魔力を打ち出す術式のこ

『えぇい! そんなことを聴いておるのではないわ! ついでに不正解じゃ! 話はもっと根本的なことじゃよ』


となるとあれだろうか?


「世界に己の意志を反映させる。つまり、"世界の書き換え"。例えば……マキナさんからの受け売りだけど、魔術で火を出したら、それは魔力で火を出したわけじゃなくて"そこに火があったという事実を造りだした"ことになる……ってことかな?」


エリーの考察に、カナヒメは一転嬉しそうな動作をした。

あくまで体はぬいぐるみなので表情は変えられないが、動きでだいたいの感情は察することができる。



『正解じゃ。魔術研究所なるものはまだこれを仮説として認めておらぬようじゃが、これこそ真実よ』

「つまり、この世界は……!」


魔術師として、研究者として、2つの意味でマキナは驚いていた。

それが真実ならば、世界は変わってしまう。


『そう、数えきれぬほど書き換えられてきた。と言っても、せいぜい火や氷を造り出す程度じゃがな』

「そうなのね。なら大した影響はないのかしら?」


安堵するシルヴィアにカナヒメは違うと冷たく突きつける。


『程度の差ではあらぬ。過ぎた力じゃとは思わぬか? 『人間』には……の』

「どういうこと?」


まるで『人間』を馬鹿にしたような言い方に少しムッとする。




『魔術とは祈りの力。そなたらの言葉を借りれば、術者が唱えた――祈ったことを現実に現すのが魔術』

「祈り? ……時と場合で変化する人の感情を力にするのなら、随分と不安定な力ですね」


ウェンの言葉に少し納得する。

ウェンが強力な魔術師なのも、彼が常に感情を乱さず冷静だからこそなのかもしれない。



『不安定な力じゃ。だからこそ、魔術は人の想いが強ければ強いほど、ほの力を増す。エリー・バウチャーが良い例じゃ。たった1人の想いが、世界を巻き戻したのだからな』

「ですがそれは魔族だからこそ。人間の魔力量の限界は魔族と比べて遥かに低い。それこそ魔術を操る魔族がいるならば、『人間』に勝ち目がないと断言できるほどの差です」


確かにデイヴァは、あの時にエリー以外の全員を一瞬で行動不能にさせた。

行動不能で済んだのはエリー以外を殺さないとしたからであって、その気になればエリーの周囲ごと魔術で焼き払えたはずだ。

いや、その気になればフィレンツェをデイヴァ1人で落とすことも可能なはずだ。





『ふむ。では魔族について説明しようかの。と言っても妾の時代でさえ限りなく確証に近いだけ、であったがの』


カナヒメが人だった時代は現代よりも遥かに魔術に関する学門や技術が進んでいたらしい。

だからこそ、人を剣に作り替える忌々しい技術があったのだろう。



『そもそも現代の魔族化の定義は、"人が体内の魔力が制御できなくなった場合、もしくは体外の魔力の影響を過大に受けた場合に発生する身体の変化"。じゃったかの』

「そうよ。もっともそれは人間以外でも同じで、その事象は基本的に魔物化って呼ばれてる。ただ、人間は特に身体の変化が著しくて、種族すら変わってしまったように見えることから"魔族"、延いては魔族化って呼ばれてるんだけど」


キニジのように緩やかに魔族化していく場合もあれば、僅か数十秒で魔族化してしまうこともある。

キニジは少し例外的ではあるが、通常の魔族化も人によってそれにかかる時間が異なるという。

ある仮説では『人間』の感情が魔族化に作用するらしい。……感情が関わるというのはまるでカナヒメが話したような魔術と同じだ。



『心して聴くがよい。魔族とは、人の進化の可能性じゃ』

「進化の可能性……? どういうことなのカナヒメ!」


進化したその先があんな異形だとは冗談にもならない。


『最後まで話を聴け。化物となったのは失敗したようなもの。……デイヴァのような魔族こそが、正しき進化、『人間』の新たなる一歩。らしいの』


確かにデイヴァ自身が魔族であり、エリーやマリーの親もどちらかが魔族である。

ヒトの形を残した魔族は見た目は人間と変わらない感情持ち、『人間』と何ら変わりはない。子まで成せるほどである。

それは元が人間であるから、なのだろうが。




「僕や先生のような半魔半人ネフィリムは……?」

『文字通り混血じゃよ。魔族では扱えぬ憑依術式リチュアを、人のように魔族化の危険性なく扱える。その点では、両者の上位互換じゃな』

「魔族化の危険性なく、というのはどういうことだ」


ここまで沈黙を貫いてきたキニジが声を上げた。

緩やかに魔族化をし続ける彼にとってはかなり重要なことだ。

もしかしたら、という淡い希望を抱くのも無理はない。



『んー……魔族化する時に人は魔力を吸収するじゃろう? 生物には吸収できる魔力量に限度があっての。魔族はその限度まで吸い込んでおる』

「憑依術式は周囲の魔力を取り込む……吸収する。つまり魔族は限界まで取り込んだ結果、新たに魔力を取り込むことができないということか」

『その考えでよい。とは言っても、そなたの魔族化を止める方法は知らぬ。申し訳ない』

「気にするな。覚悟の上だ。それに俺が魔族化しようとも、俺の弟子は殺してくれるだけの実力を持っているからな。そうだろう、エリー、クローヴィス」


頷く。

魔族化した人間を討つことは、その人に対しての弔いの意も兼ねている。

だからこそ、魔族化した人間を討つのはその人間の仲間が多い。ヒトならざるモノになってしまった仲間を|殺す(救う)ため、剣を振るのだ。


しかし、そうならないことが一番なのは言うまでもない。

魔族化した仲間を殺しても得るものはなく、心身ともに傷つくだけなのだから。





カナヒメはチビヒメぬいぐるみでテーブルの上をてとてとと歩くと、何かに気づいたようにあまり動かない首を上げる。


『話がそれてしもうたの、戻そうかの。兎も角、魔術とは世界を書き換えるすべじゃ。これを前提として、これからの話をしていくぞ』


魔術が本当に世界を書き換える力と言うのは驚いた。

しかし時間の巻き戻し、転移魔術など火を出す魔術とは明らかに違うものだ。

大味な話だが、それら全てが世界を書き換えた結果に起こった事実ならまだ納得もできる。




『先程も言うたが、魔術というのは人間には過ぎた力じゃ』

「でもそれが人類に発展をもたらしたのは事実よ」

『そうとも。過ぎた力もちゃんと使えば糧となる。今のところ、この時代の人類は間違えておらぬようじゃしな』


(今のところ……?)


引っ掛かる。

しかしエリーがその事をカナヒメに訊ねる前に、マキナが彼女に問い詰めた。



「随分と上から目線ね」

『人類の滅亡を何度も見てきたからの。ばらつきはあるが、エリーがシルヴィアを殺してから長くて300年後には人類が滅んでおったわ……』


言葉すら出なかった。

人類が滅んだことだけではない、以前のエリー・バウチャーは何百年もシルヴィアを救うために……。



「……カナヒメ。"僕"が世界を巻き戻すまでに費やした年月ってどれくらいなの……?」

『600年から700年くらいじゃの。剣の感覚では正確な時間はわからんわ』


デイヴァは長ければあの時点で齢1000を越えていたのだ。

1000年もの間、絶望に身を焦がして生き永らえてきた。その感情は言葉では言い表せない。

最後の最期でデイヴァは救われたのかもしれないが、それでも報われなさすぎる。



「……僕は…………」

「エリー……」


今の自分が同じ事をやれるのかと聞かれたならば、「やってしまう」が答えだろう。

寿命やシルヴィア本人と自分が満足できる最期ならばエリーもそんな凶行には走らない。

それが望まぬ死ならば、ましてやそれが自分の責任ならば――。


(きっと、僕は同じ道を往く)


そんな考えに至るあたり、やはり自分は"エリー・バウチャー"なのだろう。





「大丈夫だよシルヴィア。シルヴィアのことは僕が守るから」

「…ありがとう。でも、無理をしてはダメよ?」


同じ歴史は繰り返させない。

絶対にシルヴィアを守らなければと気合いを入れる。



『こらそこの2人。いちゃつくでないわ。ともあれ、まだまだ話すことはある。夜は長いからの』


カナヒメはぬいぐるみながらも、どこか楽しそうに微笑んだように見えた。

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