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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第3章 運命を穿つ奇跡
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温泉に行こう!

「みんな! 温泉に行きましょう!」


――きっかけはシルヴィアのその一言だった。







あの日から数日後。


フィレンツェに帰還したエリーは、レベッカとマリーとキニジからのキッツいお説教を受け、そこからギルドへ赴き事態の顛末の報告及び謝罪をし、さらには"魔剣センチュリオン"の所有者と正式に認められ、なおかつ魔術研究所にてカナヒメとともに色々と説明をし終えた後、"オラクル"事変の戦没者たちへの追悼を済ませ、孤児院に帰宅するというあまりにも多忙な一日を過ごした。





「……つ、疲れた」


帰宅すると、脇目も振らず自室のベッドへと倒れこむ。ドアを閉める力ももうない。

原因は自分にあるのだから文句等は言えないが、疲れたと言うくらいは許されるべきだ。いや、許せ。



――どうしたエリーよ。この程度でへばるとはの。妾はなんともないが?


「それはカナヒメが体を動かしてないからでしょ……。そもそも僕と五感繋がってるのに疲れたりとかしないの?」


――五感と言えども今は視覚嗅覚聴覚しか繋いでおらぬ。それに疲労は別物じゃろう。


「まぁ……たしかに」


確かにそうだと思わず納得してしまう。

自分は体をカナヒメに渡しても五感の切り替えがうまくできない。そこは経験の差だろう。後々できるようになったとしても、あまり使いどころが浮かばないのが問題だが。



「でもまぁ、自由に切り替えられるのは便利だね」


――うむ。仮にそなたがシルヴィアと性行為に及んだとしても五感の繋がりを全て切るから安心して行為に及ぶがよい。


「なっ!? えっ、別にそんな」


――なんじゃ、まだシルヴィアとそこまで至ってはおらぬのか? 流石に奥手過ぎはしないかの?


「……そもそも僕の記憶見たんじゃないの?」


――なるべく"ぷらいべーと"な記憶は覗かないようにしておる。見られて愉快な記憶ではなかろ?


確かにそうだが、今更どうこう言えないのではないだろうか……。

シルヴィアとの肉体関係云々はひとまず置いておいて、これからはカナヒメの監視下にあるというのはあまり好ましくない。

別に見られて恥ずかしいものがあるわけではないが、年頃の男子としては女性の目が常にあるというのは少し困るのだ。




そんなことを俯せの体勢のまま考えていると、自分の部屋の外に誰かの気配を感じた。


「エリー。帰ってきてたのなら一言言ってもいいじゃないかしら?」

「……あ、シルヴィア」


開けっぱないのドアからエリーを覗いたのは、やはりシルヴィアだった。

今の今までシルヴィアのことを話していただけにちょっとだけ気まずい。


「ちょっと疲れちゃって」

「フィレンツェ中をあちらこちらしたものね。疲れるのも無理はないわ。……そうだ!」


シルヴィアはエリーに少し待つよつに言うと、孤児院の中をバタバタと走り回った。――途中でマリーに走らないように注意されていたのは、聞かなかったことにしよう。



数分後、再びエリーの部屋に戻ってきたシルヴィアは満面の笑みで


「エリー、それにカナヒメ。ちょっと来てくれるかしら?」

「わかったけど、なんで?」

「いいからいいから」


シルヴィアの後についていくと、孤児院の中庭に出た。

そこにはシルヴィアに集められたであろうマリーたちがいた。



「それで、どったのシルヴィア」


レベッカが何故か心配したようにシルヴィアを見つめる。

ギュンターやマキナに至っては明らかに機嫌が悪い。ギュンターは修練の邪魔を、マキナは……よくわからないが、何かの邪魔をされたのは違いない。


シルヴィアはそんな2人の殺意の籠った視線をどこ吹く風といった様子で堂々と告げた。



温泉に行こう、と。





◆◆◆





翌日、エリーたちはフィレンツェから徒歩で半日ほどのところにある温泉街へと訪れていた。



『しかし、よく温泉なんて思い付いたのぅシルヴィア』

「疲れをとるなら温泉って聞いたのよ。それにこの街の温泉、美肌効果があるとかないとか」


何でも世界を直接見たいらしく、今はカナヒメに体を渡している。

まだ人だったころは国中を視察していたとはいえ、国を出たことはなかったらしい。

最期の最期で他国に赴いていたが、カナヒメ曰くあれはノーカンとのことだ。




まぁ、そんなことよりも。


『そうじゃクローヴィス。傷は大丈夫かの?』

「……ん、あぁ大丈夫。マキナさんの治癒魔術のお陰で傷も完璧に塞がったし」

「……全く。アンタたちはあたしの治癒魔術があるからって無理ばっかしてんじゃない」

「マキナちゃんの治癒魔術は便利だよねぇ。わたしも研究でちょっと指先切った時とか治してもらってるもん」

「……前から言ってるけど、"マキナちゃん"はやめなさいっての」

『なるほど……これからは妾もマキナちゃんと呼ぼうかの。……のぅ、マキナちゃん』

「カナヒメも便乗しない!」


何だかんだでカナヒメが馴染めているようでよかった。

人のことを言える立場ではないが、あれだけのことをやっておいて仲間たちが素直に受け入れるかどうか危惧したものだ。

しかしそれも杞憂に済んだ。



「それにしても、大所帯もいいところですわね。10人も押し掛けて、そこの温泉は大丈夫なのですか?」

「それは大丈夫よ。既に予約してあるわ」

『随分と行動が迅速じゃな。それにしてもどうやって予約したのじゃ?』

「あぁ、そっか。カナヒメは知らないのね。じゃああたしが説明するわ」


何故かマキナがやたらと張り切って説明役を引き受けた。



――転移魔術、というものがある。

大方の人間が思い付くであろう人の転移は、大量の魔力と非常に長い詠唱が伴うため、はっきり言えば使い物にならない。


だがこれが手紙などの小さい物なら話は別だ。

手紙程度なら魔力の消費も比較的少なく詠唱も短時間で済むため実用的な魔術となり得る。

本部及びギルドの支部にはその転移魔術を扱える者が必ず存在し、支部と本部の情報交換から、個人の手紙の転移を"依頼"として承り転移させたりもしている。

シルヴィアが父親に手紙を送っているのもこれがあってこそだ。



『なるほどのぅ……。そんな使い道があったとは。マキナちゃんは賢いようじゃ』

「でしょ? わかったらマキナちゃんはやめなさい」


狙いはそれだったのかと呆れる一同。そんなに"マキナちゃん"は嫌なのだろうか。

エリーとしては普通にかわいい呼び名だと思っているのだが。


『わかったわかった。これからは気を付けよう、"マキナちゃん"』

「言ってんじゃない!」

「お前ら漫才やってんじゃねぇんだぞ」


カナヒメとマキナのやり取りに対するギュンターの的確なツッコミで全員が笑顔に包まれる。

本当に、よかった。そう思わずにはいられない。





そんな中、レベッカが気づいたように指を指した。


「ついたよみんな!」


その方向にはシルヴィアが予約したという、温泉宿があった。

宿の外観や大きさ、その他もろもろが"普通"の一言で片付きそうな宿だった。


「それじゃあ入りましょうか」


ウキウキが隠せない表情でシルヴィアがいの一番に宿へと入っていく。

エリー自身も、こんな大人数で行くのが楽しみでしかたなかったのだが。それをシルヴィアに言うと、確実に嬉々とした表情で色々とやらかしてしまうので、彼女に言うことはない。






◆◆◆






その後シルヴィアほどではないが、露天風呂と聴いてさらにウキウキした一同は早速温泉に直行した。





――男湯にて。



自分に予想の何倍もの気持ちよさにエリーは思わず声をあげた。


「はぁ~いいお風呂~」


思いっきり手足を伸ばしてもぶつからないというのはいいものだ。

なんでも予約どころかシルヴィアは温泉を数時間貸しきったらしく、今男湯にいるのはエリー、クローヴィス、ギュンター、ウェンの4人だけである。



「本当に癒されますね。日頃の疲れがとれていきますよ」

「傷にも効くらしいぜこれ……シルヴィアに感謝しとかねぇとなぁ」


ウェンもギュンターも今は戦いの日々を忘れ、寛いでいるようだ。


「ステュアートにはこんなのなかったからなぁ。……源泉から引っ張ってきてるんだっけ? フィレンツェの近くにこんなとこあるの知らなかったわ」

「僕も知らなかったよ。まさかこんなにいい所だったなんて。先生や師匠も来ればよかったのに」

「子ども同士で楽しんでこい、か。俺らはいつまでのあの2人の子どもなんだろうなぁ」


マリーとキニジはエリーたちの1泊2日温泉旅行に気を遣ったのだろうが、別にそんなことをしなくてもよかったのにと思う。




「そういやエリー」

「うん?」


ギュンターは何処から持ってきたのか、"トックリ"と"オチョコ"なる物に酒を入れて呑んでいた。


「カナヒメどうしたんだ? エリーの目、両方焦げ茶色だし、カナヒメがエリーの中にいないってことでいいんだよな?」

「……なんでも『淑女が男湯を覗くなんてあってはならぬし、ここはシルヴィアの体にでも移ろうかの』って言ってたよ。剣さえ握ってもらえば人の体が出入自由なんだって」

「便利だなぁおい」



……余談ではあるが。

エリーは今こそこうして男湯にいるが、そこに至るまでにシルヴィアの猛烈な反抗があったことを記しておく。

シルヴィア曰く、「見た目が女の子だから女湯入っても問題ない」らしいが、どう考えてもダメなのでシルヴィア以外の9人から反対された。


ただ、女性陣6名の反応が何故か3つに別れた。

シルヴィアは言わずもがな、以外にもメディアが肯定的だった。なんでも「エリーちゃんは妹みたいなものだから大丈夫」らしい。何が大丈夫なのかがわからない。

レベッカとアリシアはノーコメントの中立。

マキナとリディアは反対していた。むしろこの2人の反応が正しい。


さらには何を血迷ったか、エリーが来れないなら自分が男湯に入るとシルヴィアがこちらに来ようともしていたが、来たら追い出されることを瞬時に悟った男性陣と一部の女性陣がこれまた大反対。シルヴィアの野望は潰えた。





なんやかんやあったが、丸く収まったのでよしとしよう。


「そうだ、ウェンとクローヴィスも呑まねぇか?」


ギュンタークローヴィスとウェンの"オチョコ"も持ってきていたようだ。

しかし、2人はギュンターの誘いをあっさり断った。


「シルヴィアさんが何をしでかすかわかりませんし、いざって時に酔っぱらっているわけにはいかないので、僕はパスで」

「悪いけど、俺酒呑むときは1人でゆっくり呑みたいんだよね」

「そうか。じゃあ1人で呑むか」


エリーはあまりギュンターが飲酒する場面を見たことがない。

もしかしたら1人で呑みに行ったりしているのかもしれない。



残念ながら、エリーは実年齢も体年齢も飲酒できる年齢ではない。それどころか永遠に成長しないこの体では飲酒できる日が訪れることはない。


「ギュンター」

「ダメだ」

「だよね」


もしかしたら一口くらい許されるのかもしれないと考えたが、そんなことはなかった。



まぁ自分にはこれがある。少し背伸びしたくて酒を呑もうと考えたことは忘れよう。


「エリーさん、それは……」


案の定、ウェンがいち早く食いついた。

ギュンターがそうであったように、エリー自身も宿の売店であるものを購入していた。


「温泉卵だって。そろそろ茹で終わると思うけど、ウェンも食べる?」

「頂きます」


即座にウェンが応答した。

流石の反応速度だ……。


「エリー、俺も食べたい。…………ふむ、うまいな」

「殻を剥がすのが少々面倒ですが、非常においしいです」


温泉卵を食した2人の感想が良好で、内心ほっとするエリー。

エリーの感想もおいしいの一言なのだが、欲を言えば塩が欲しい。



男湯がまったりしたムードに包まれている。彼らの親睦はさらに深まったはずだ。



一方その頃。







――女湯。

シルヴィアたちにカナヒメを加えた6(7)人は、これまた全員で同じ所に浸かっていた。


「すっごく気持ちいい……」

「生き返るってこの事ね……」

「疲れが飛ぶわ……」


これは来て正解だったと確信するシルヴィア。

きっと今ごろは男湯でもエリーたちが寛いでいるだろう。混浴する野望は潰えたが、気持ちを切り替え次の手段を考えるだけだ。



「お姉様、背中を流しましょうか……?」

「いいよぉリディアちゃん。そんなことより一緒に入ろうよ」

「あぁ~んお姉様大好きぃ!」


――何をやっておるんじゃあの姉妹は。


心底呆れたようなカナヒメに思わず頷く。

それにしてもリディアはあんなこと言う性格ではなかったはずだ。

馬に乗ると性格が変わったりする人間はいる。しかし、温泉に来て性格が変わる人間なんて聞いたことがない。





「アリシア、どったの? のぼせた?」

「いやそうではない。気にするな……」


レベッカの気遣いにもあまり反応せず、鼻から下を沈め、どこか絶望した様子で湯船に浸かるアリシア。

どこか悲壮感が漂っているのは気のせいではあるまい。


「ねぇアリシア」

「……なんだクロムウェル」

「胸なんか気にしなくていいのよ」

「ッ!?」


地雷元に飛び込んだ瞬間だった。

事の重大さに気づいていないのはシルヴィアだけで、他の4人は顔面蒼白といった様子で2人から少しずつ距離をとる。



「……クロムウェル貴様ァ!」

「別にそっち方面にも需要があるじゃない、多分」

「あるかないかの話ではないッ!」


アリシアは怒りを込め、近くの岩を叩く。その拳はあまりの威力に岩にヒビが入るものだった。


「そんな怒ることでも」

「お前が何も言わなければなッ!」


バサァと音を立ててアリシアは立ち上がる。

そんな彼女の胸は決して大きなものではなく、非常に慎ましいものだった。

痛ましさに、レベッカは思わず目を逸らす。



「持つ者は持たざる者の気持ちを理解しないとはよく言ったものだな。クロムウェルに私の嘆きを理解できる日はこないだろう……!」

「……確かに私、自信あるし……」

「悪気なく自慢するなァ!」

「と、とりあえず2人ともやめよう、ね?」


巻き込まれたくないからと距離をとるマキナ、メディア、リディアとは対称的に、なんとか2人を止めようとするレベッカ。


「そんなはしたない話をしないで頂けますか? わたくしたちはゆっくりと入りたいんですの」

「……リディア、お前は私の味方だと思ったのだがな」

「なんですって!?」


易々とアリシアの口車に乗せられ、激昂してしまう。

そんな妹を止めようとするメディアの制止も聞かずに、リディアもまた喧嘩に加わる。



「……馬鹿じゃないの」

「マキナちゃんとレベッカちゃんは冷静でよかったよ……」

「そうだ、メディアさ……メディアも大きいよね」

「あまり自慢にはならないよこんなの……」


シルヴィア、アリシア、リディアの荒れっぷりから見るに、メディアに被害が及ばずによかったと安堵する2人。

メディアの性格からして、メディア自身が無事ではすまない。


「ほんっと下らないわ……」

「エリーたちはそういうこと気にしないと思うけどなぁ」

「むしろ切り出したのはシルヴィアちゃんだもんね……」


諸悪の根源シルヴィアを見て、ため息をつく。



「あたしたちだけでも温泉を楽しみましょ。これで周りが静かなら言うことはなしなんだけど」

「シルヴィアたちはさらに疲れが溜まりそうだけどね」

「リディアちゃん……」


暴れる3人を他所に、被害が及ばないところでくつろぐ。

しかし、こういう喧しい状況が自分達には合っているのかもしれない。


露天風呂から見える夜空を仰ぎ、レベッカは静かにそう思った。






◆◆◆






どうやら女湯の方からやけに声が聞こえるが、きっと楽しげに会話しているのだろう。


エリーはそう思うと、最後の1つとなった温泉卵を口の中へ放り込む。



「今回はさ、皆に感謝したいんだ」

「当然のことをしただけ。義理に思う必要もないって」


それでもしたいんだとクローヴィスの言葉を塗り替える。


「責任全てをエリーさんが背負う必要はありませんよ。"レジスタンス"の襲撃からアリシアさんを守るために"魔剣センチュリオン"を抜いたのですから」

「それでも僕は、償う義務がある。だからさ」


少し言い淀んでしまう。



「だからまずは皆に恩返しをしようかなって。なんか、なんでもいいからしてもらいたいとか、手伝って欲しいこととか、ないかな?」


今は無理でもいつか、少しずつ恩を返したい。

普段はシルヴィアがいるからこんなことは恥ずかしくて話せないが、男同士、腹を割って話したいのだ。


だからまずは、ウェンの研究の手伝いやギュンターの修練に付き合うなどなんでもいいから役に立ちたかった。



……なのだが。


「俺ぁ特にないな!」

「なんかあるでしょギュンター。修練を手伝って欲しいとか」

「じゃあそれで。……俺の修練は厳しいぞ~?」


酔いが回っているのか、いつもより陽気な様子のギュンター。

彼の手元にあるとっくりを持つと、かなり軽くなっている。これを1人で呑んだとすれば、確かに酔うだろう。



ウェンはどう? と目配せ送る。


「僕は……そうですね。エリーさんが僕とマキナさんの魔術授業の際にちょっと話が長くなると、寝てますよね? 次回からは寝ないでください」

「は、はい。気を付けます……」


今度は叱られてしまった。

これに関しては自分が悪いので、今度からは気を付けよう。



「クローヴィスはなんかある?」

「俺も浮かばないなぁ」

「僕のできる範囲ならなんでもやるよ? なんかないの?」

「全くもって浮かばないし保留だな。いつか、頼みたくなったら言うさ」


自棄になにか言わせようとするも、あえなく撃沈。



そんなエリーを見てどこか可笑しいのかクローヴィスはにたーっと笑った。


「ま、1人を守れないようじゃ何も守れないし。あんま抱え込むなよ? 『頼り、頼られる』。人はそうやって生きるもんなんだからさ」

「そうだね。それじゃあ、頼りにさせてもらうよ、"親友"」

「なっ!? お前俺がそんな言葉言ったって知ってんだよ!?」


いつだろうね? と口では誤魔化すも、エリーはクローヴィスが自分のことを"親友"なんて言っていたことは今の今まで知らなかった。

クローヴィスも自分と同じ事を想ってくれていたのを嬉しく想う。


やはり、クローヴィスは自分の一番の友達……いや、"親友"だ。




「そろそろ上がりましょうか。のぼせてしまいますよ」

「うん。温泉上がりの牛乳がおいしいって聞いたんだ」

「マジで? じゃあ俺も飲むかなー」


温泉から立ち上がり、顔にかかってしまった前髪を払う。

1度カナヒメが髪を切ったらしいが、今はもう腰までの長さまで伸びてしまっている。

また切ることも勧められたが、4年も同じ髪型だといざ変えたときにバランス感覚がおかしくなってしまう。

髪が長ければ長いほど、その傾向は強い……らしい。1度短くして後悔したというシルヴィアからの聞いたことだから、詳しくは知らないが。





「いやぁ、いいお湯だったね」

「だなぁ。フィレンツェから近いし、軽いお泊まり感覚で行けそうだな」


男湯、と書かれた暖簾から出てきたエリーたちはさっぱりした表情で宿の中を歩いていく。



「シルヴィアたち、まだ出て来てないみたいだね」

「そのうち上がってくるだろ。……なんだエリー、気になるのか?」

「え、ちっ、違うよ」

「今は男しかいないんだぜ? 素直に言っちゃいなよ、エリー」


まるで不良に絡まれたかのように、ギュンターとクローヴィスに肩を掴まれるエリー。

だが、これが自分の望んだ、ごくごく普通の人間の暮らし……なのかもしれない。




「きょ、興味は……ないわけじゃないけど……」

「だろ? まぁ、一端の男なら誰でもそう思うのが自然だな。だが、覗くなら俺は手伝わねぇよ」

「なんで……?」

「死にたくねぇからな……。よく考えてもみろ。あそこには最強クラスの魔術師から"魔剣"まで揃ってるんだぞ。バレたら命はない」

「確かにそうだね……」


覗かれて喜ぶようなド変態はシルヴィアくらいなもので、それもエリー限定だ。

君子危うきに近寄らず。触らぬ神に祟りなし。今はまだ死にたくない。



「くだらない話はそこまでにして、部屋に戻りましょう」

「そうだ、俺トランプ持ってきたんだよ。戻ったら4人でやろうぜ」

「ほんと!? 何しよっかクローヴィス!」


裸の付き合いをして、さらに結束が深まったはずだ。

女性陣も女性陣できっと仲良くなっているはず。

そう思いながら、エリーはクローヴィスたちと部屋に戻っていった。







――一方その頃。


メディアが珍しく年長者らしいしところを見せ、喧嘩していた3人を鉄拳制裁したのは、きっとエリーが知らない話。

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