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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第3章 運命を穿つ奇跡
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隠したもの

突然の仮面の乱入者はウェンたちの方にも現れた。


「いきなりなんなのよこいつら!」

「No.6の味方……いや、違う!」


スキピオの私兵かと思われたが、彼の私兵は仮面なんてつけておらず全員素顔である。

ナハトの線も一瞬考えたが、ナハトの性格からしてこんな手段はとらないだろう。

それに先程ギュンターとナハトが行ってしまった方角からは謎の爆発音がした後、戦闘音と思われる音はなくなってしまった。

決着がついたのだろう、ギュンターの心配はそこそこに今は自分たちの完全確保を優先しなければならない。




「マキナさん、彼らに見覚えは」

「ないわよ! 2人は何か知ってる!?」


仮面の攻撃をなんとか避け、術式陣から魔弾を撃ち込み動けなくさせる。


「あれは"レイヴン"!? しかも戦闘に長けた第2部隊の格好ですわ!」

「カルディアお姉ちゃんが第2部隊だったからよく覚えてる……。あれは"レイヴン"だよ!」


メディアとリディアは仮面たちをなんとか捌きながらも確信に至る。

よりにもよって"レイヴン"だ。

"レジスタンス"が何かしてくることは予想していたが、まさかこんな直接的な形で干渉してくるとは。


「"レジスタンス"か……? いや何かが違うな」


"レイヴン"相手に余裕ある立ち回りを見せるグリードは、刀の柄で仮面を1人倒すと何かを探るように周囲を見渡した。


「ちょっとスキピオ! これアンタの私兵じゃないんでしょ!」

「だとしたら何なのですかアモーレ嬢。貴女の魔術で凪ぎ払えばよろしい」


一方、マキナとスキピオは乱入者の対応に追われながらも未だ口論を続けていた。





「アモーレにスキピオだと……!」


不意に"レイヴン"の動きが止まる。

今更何を言うのかと呆れながらも、一応声をかける。


「ええ、No.6スキピオ・バルカにNo.8マキナ・アモーレ。どちらも本物です」

「馬鹿な……では我々の任務はいったい……!」


仮面の上からでもわかるほど狼狽していた。

"レジスタンス"が邪魔となる勢力を一掃してしまおうと"レイヴン"を送り込んだと考えられるが、一度冷静になって考えてみると"レイヴン"では秩序の守護者ギルド・ガーディアンの相手にはなり得ない。

ではなぜ送り込んだのか。わざわざ手駒を死地に送り出すほどの無能ではないだろう。



「説明してもらえますかな? なぜ"レイヴン"が我ら秩序の守護者を?」


スキピオが"レイヴン"の1人に近付きやさしい口調で問いかける。


「"レイヴン"の副長……シング副長に霊峰アリフィスにギルドに仇なす存在がいるから始末してこいと言われたんだ……。我ら第2部隊は副長の指揮の下動いている。今までの指示に間違いはなかった、だからこそ我らはこの作戦も迷うことなく挑んだ。しかし……」

「……"レイヴン"の人間でもない僕らに話してもいいんですか?」


余程ショックだったのか、話すべきではなさそうなことまで口走る"レイヴン"。



「……このくらいの情報なら調べればわかる。――ともあれ、No.6、No.8、そしてその仲間諸君、失礼した。我ら第2部隊はこれより帰還する」

「それは失礼しました。あちらの方向でもまだあなたたちと戦っている人がいるはずです。まずはそちらに向かえばよろしいかと」

「礼を言う」


なんとか調子を取り戻し、直ぐ様撤退する"レイヴン"一行。

流石は情報機関だろう、撤退に無駄がなく、彼らがいた形跡もほとんどなくなっている。



(副長、シングですか)


一言で表すなら怪しい。

しかし今まで完璧な指示を出してきた人物なのならば、あまりにもこの行動は露骨過ぎる。仮にもギルドの暗部を託された人物がこのようなおざなりな作戦を采配するのだろうか?





「……興が削がれてしまいました。紳士諸君、戦いは終わりです」

「意外ね。どんな風の吹き回し?」


私兵に武器を収めるように指示を出すスキピオに驚いたような顔をするマキナ。


「興が削がれた、と言っておるのですアモーレ嬢。たかだか1人殺すのに4人も秩序の守護者ギルド・ガーディアンを動員したと思えば、"レイヴン"の謎の行動……さしもの私でもギルドへの擁護ができません」


くだらないと手を振り、肩をすくめる筋肉男スキピオ。見た目だけは様になっている。


「まぁいいわ。あたしたちはアンタたちが押し通るってなら食い止めるだけだし、戦う気がないのならそれでいい。ウェンも文句はないでしょ」

「なんで僕に振るんですかね。……まぁ、僕もそれで構いません。マキナさんの言葉を復唱する形になりますが、僕らの目的は山頂で戦っている仲間たちを守ることですので」


戦わないで済むのならそれが一番だ。

血は無闇に流すべきものではない。

幸いにもウェンたちとの戦闘、"レイヴン"急襲があったものの、私兵たちは怪我人こそ出ているが死人は出ていない。

これならばあまり尾は引かないだろうと安心する。



「……そうですか。では私たちも引きましょう。紳士諸君、参りますよ」

「了解しました」


私兵を連れそそくさと撤退していく。

……が、思い出したかのようにこちらを向くと、


「ひとつ聞き忘れていましたよ」

「なんでしょうか?」

「そのお仲間は、エリー・バウチャーを救えるのですね?」


"殺す"ではなく"救う"。

その言葉にどんな想いが込められていたのか、ウェンにはわかった気がした。


「救えますよ。いえ、救えない方が難しいですね」


だからこそ、言ってやった。

確実に救えるから安心して帰れ、と。



それが彼のツボに入ったのか、唐突にスキピオは笑いだした。


「……ナハト殿が言っていた通り、随分と面白い面々だ。――変えるには貴方たちのような人間が必要なのかもしれませんね」

「……?」

「失礼。言葉が過ぎました。では我々はこれにて」


意味深な言葉だけを残して山を降りていく。



それを見送り、まず口を開いたのはマキナだった。


「何はともあれ、無事にすんでよかったわ。ギュンターとナハトが心配だけど」


簡単に死ぬような2人ではない。そのため2人には特に心配もしていないが、"レイヴン"に犠牲が出ているのではないかという心配はある。



とりあえず待とうと決めた矢先メディアとリディアが申し訳なさそうに、


「わたしとリディアちゃん、ナハトさんが帰るまでちょっと隠れててもいいかな……?」

「あの人がわたくしたち姉妹を恨んでいるのは十分承知しておりますし、それは自分たちの責任だとも理解しています。しかし明確な殺意がある方と会うのは……言ってしまえば怖いです」


その気持ちはもっともだ。

ウェン、マキナ、グリードの3人は誰も異を唱えず姉妹は洞窟内へと身を隠した。

ナハトの"オラクル"に対する怨みは並大抵のものではない。それこそ幾星霜をかけて癒していかねばならないものだろう。

だとしてもいつか和解せねばならない。できることなら、敵は作りたくないからだ。







「おっ、来たみたいだな。よかったなお前さんたち、2人とも無事みたいだぜ」


数分後、洞窟の入り口前にて待つ3人の前にギュンターとナハトが戻ってた。

遠くからでもわかるほど2人は傷ついていた。傷や汚れ、損傷した武具からどれほどの戦闘を繰り広げていたのかが容易に想像できる。


「お前らも無事か! よかったよかった、突然"レイヴン"に襲われてよ」

「僕らも"レイヴン"の急襲に合いました。結論から述べると"レイヴン"側の手違いだったらとのことですが」

「あぁ、それこっちでも同じ事を言われたわ。ナハトの姿見て気づいたらしくてな」


ナハトはギュンターの隣で静かに佇んでいた。

ナハトの武器でもある籠手は破壊され、生身の腕が見えてしまっている。

妙に細い気もするが気にするほどでもないと結論付け、ウェンはナハトに話しかける。



「ナハトさん。これからどうするおつもりですか?」


まだ戦う……ことはないだろうが、万が一ということもある。


「私も帰るさ。こうなってしまえば戦えないだろう?」

「だろうな。まぁ俺もそうなんだけどよ……」


ギュンターの剣もナハトと同様に損傷が激しくもう戦えはしないだろう。

まだウェンたちは余力を残しているが、それは然して脅威でもない人間との戦闘だったからだ。

秩序の守護者ギルド・ガーディアンとの一対一サシの戦闘を行ったギュンターとはわけが違う。



「……では私は行くよ。あの姉妹は私がいなくなるまで他のところにでもいるのだろう? まだ私はあの姉妹を許してはいない。――しかし、だ。今日のギュンター君の言葉が私に響いたのも確かだ」


いったいギュンターはナハトに何を言ったんだと、気になる素振りを見せるマキナ。グリードはどうでもよさそうな、ウェンは知っているかのような顔をしている。



「ギュンター君。君は怖いと言っていたが、それを乗り越え戦う君にあるのは間違いなく"勇気"だ。それを忘れないでくれ」

「そうか……」

「吐露した君の覚悟は私の胸に深く刻まれた。礼を言おうギュンター君。お陰で少し、前を向いて歩けるよ」


そう言ったナハトの声音は今までにないくらい、優しげなものだった。相変わらずくぐもって本当の声はよくわからないがそれは確かだ。





「ではさらばだ諸君、ここにいると姉妹が出てこられないからな。今度会うときは味方であることを祈るばかりだ。君たちが仲間を救えることを祈っているよ」


それだけ言うとナハトもまた去っていく。

残ったのは結局最初の5人だけだ。



「……さてと。お前らはどうするよ」


ウェンたちの役割は終わり、後はシルヴィアたちの成功を待つだけとなった。

とはいえシルヴィアたちの元へと行こうとは思わない。そもそもここにいるのは"魔剣センチュリオン"とは戦えないからだ。


「信じて待ちましょう。僕らにできるのはそれだけです」

「なんにもできないしね。今のあたしにできるのは怪我した仲間を癒すことくらいよ。ほら、アンタたちもどっか怪我してんなら言いなさい」


それじゃお言葉に甘えて、とマキナの治療を受けるギュンター。

他の4人は大した外傷もない。



「……ナハトさん、お帰りになられましたわね」

「最初見たときはすごく怖かったのに、さっきは優しそうだった」


ナハトが帰ったのを確認して出てくるロンバルディア姉妹。

彼女たちの確執がいつか無くなるこがあれば、それはきっと幸せなことだ。





「お前さんたちはここに残るのか。俺ぁエリーのところへ行ってくる。エリーが魔剣に魅入られたのは俺の責任でもある」

「グリードさん。あなたには聞きたいことがあります」


そんな中そそくさと姿を消そうとするグリードに鋭い目で問いかける。

全て見透かされているような目に見られてもなお、グリードは飄々とした態度を崩さない。


「ほぉ、言ってみろ」

「あなたは"魔剣"に詳しすぎる。センチュリオンだけの話ではなく、他の"レジスタンス"が保有する"魔剣"でさえ、あなたは完璧な知識がある」

「…………」

「実際に魔剣を扱うマキナさんやアリシアさんすら知り得ないことを、あなたはご存知ですね?」

「………………」


ウェンの質問にただただ黙るグリード。


「その沈黙は是と受けとりますよ。率直に言いましょう、あなたは何かを隠している。ですが僕らを、特にアリシアさんを裏切るようなものではない。恐らくは過去に何かあったのでしょう、違いますか」


なおもグリードは沈黙する。

長い、本当に長い沈黙を経て、グリードは笑いだした。



「フッ、最近の魔術師は頭も優れてるのか、大したもんだ。……ま、そうだ。俺がアリシアの味方をするのは俺の過去に起因する。あいつと何かあったわけではないがな。だがな、教えるつもりはないな」

「それで構いませんよ。少なくとも敵ではないとわかったのなら、それだけで十分です。ではエリーさんのところへ向かうといいでしょう」

「そうかい。お前さんたちのことは気に入ってるからな、よっぽどのことがない限りは裏切らんよ」


剣士と魔術師は互いに睨み合うと互いに別の方向を向いた。

グリードは洞窟へと足を進め、ウェンは洞窟の外を警戒するように辺りを眺め始める。



「ねぇ、ウェン。なんで急にあんなこと言ったのよ」

「気になっただけです」


ウェンはそれだけしか言わなかった。

マキナもそれ以上聴くことはやめ、ギュンターの治療をし始める。



「……日が沈んできたか」


ぽつりとギュンターが言った。

山に登り始めたのが昼過ぎだ。こんな時間になるのも当然か。


月も出てきている。


月光が山を照らし、辺りは闇へと沈んでいった。

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