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彼と魔族とお嬢様  作者: 秋雨サメアキ
第3章 運命を穿つ奇跡
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白花の霊峰

白花の山――霊峰アリフィス。


現在は(古い呼び方ではあるが)死火山として扱われている。

標高はそこまで高くはないものの、山頂付近は雪に覆われている。……のだが、火口だった場所は何故か一年中晴れており、そのうえアングレカムの花がこれまた一年中咲き誇っているという何かあるのではないか? そう感じさせる山である。


その奇跡のような光景を見て、人々は神々が住む山として、霊峰としてこの山を祀ったという。

アリフィスという名もその地域に伝わる神の名からとられたという。


余談だが、アングレカムの花言葉のひとつは「祈り」。人間が信仰の場所とするにはこれほどあった場所もなかっただろう。





その霊峰の中腹にシルヴィアたちはいた。


「見えてきたわね、霊峰の頂上」


静かに、ただただ当たり前を言うが如く、シルヴィアは口を開いた。

ちょうど夏期のため山頂に見える雪は少ない。山登りのための装備はある程度整えてきたがあまり必要なさそうだ。少し損をしてしまったと心の中で毒づく。

しかし、新調した服が汚れずに済んで得をしたとポジティブに考えようと思考を切り替える。



「No.6とNo.13が来るまであと1時間ほどだ。私、クロムウェル、アークライトの3人はここから頂上を目指す。情報によると中腹ここから頂上に行くには目の前の洞窟を通るしかないらしい。防衛は待たせたぞ」


アリシアは中腹にある洞窟を指しながら、ギュンターたちを説明をする。


話に出てきた洞窟以外のルートで山を登るとなると、果てしない労力が必要となる。

逆にその洞窟を通れば魔物が出てくる以外の障害はない。時間にして1時間ほどで登りきれてしまう。

そのようなところもまた霊峰として崇められる所以なのだろう。



「後はアモーレたち5人の他に以前話した男、グリード・ガストがここに来るはずだ。フィレンツェにはギルドの本部があるから来ないと言っていたが、"魔剣センチュリオン"確保のために協力すると言っていた」



――グリード・ガスト。

今一シルヴィアにはその男が信用できない。"レジスタンス"側の傭兵だったと聞いているが、なぜ報酬もなしに"レジスタンス"を裏切りアリシアについたのか。

傭兵という存在である以上、裏切りは常であると考えるべきだ。


シルヴィアの個人的な意見としては、エリーを叩きのめしたと聞いた時点でグリードに対する好感度は0だ。

結果的には無事だったが、もしかしたらエリーが死んでいたのかもしれないのだ。少しくらい怒っても許されるはずだ。





「……噂をすればなんとやら、ですね。来ましたわよ、グリードさん」

「そのようだな」


リディアの指した方向には、無骨な顔立ちに無精髭を生やし、腰には刀を差した男、グリードの姿があった。



「よぉ、お前さんたち。今日は随分と賑やかだな。雇い主アリシアから話は聞いてるはずだ、よろしく頼むぜ」


まだ会っていない4人はそれぞれ挨拶を交わす。

それが済むと、グリードはアリシアにどこか達観した顔をしながら訪ねた。



「それでアリシアよ。俺ぁ何をすればいい」

「ここを守れ。秩序の守護者ギルド・ガーディアンのNo.6、No.13に加えて、No.6が率いる私兵も来るはずだ。アモーレたちで十分だとは思うが、念には念を入れておきたい」

「了解了解。どうせ俺じゃセンチュリオンには勝てないからな。お前さんたちのケツくらいは守ってやるよ」


一転、軽薄そうな笑みを浮かべると洞窟の近くの岩に座りこみ辺りを警戒し始めた。

なし崩し的にアリシアはグリードの雇い主になったらしいが、彼女はグリードを信用しているのだろうか。



そんな中、ずっと頂上を睨んでいたクローヴィスは焦る素振りすら見せていなかった。


「時間もないし、さっさと登っちまおう」

「ええ。それにしてもここでは武器を背負ってるのね」


センチュリオンとは素手で戦うと言っていたクローヴィスだが、今はいつもの両剣を背負っている。

いつ見ても奇異な武器だ。悪い言い方をすれば他人のことを考えていない武器、良く言えば一対他を前提として造られた武器、なのではないだろうか。

オルクスの護衛としてそのような状況に置かれることを想定して、こんな武器にしたのかもしれない。



「流石に魔物が出るのに素手はまずいっしょ、それで迷惑をかけたくないしね」

「そうだな。まぁ3人いれば魔物ならどうということもないだろう」


アリシアとクローヴィスの腕に不安はない。あるとすればシルヴィア自身が『影』を扱いきれるかどうかだ。

ちなみにアリシアは"魔剣センチュリオン"対策のため、いつも持っている"魔槍ブリューナク"ではなく普通の長槍を持ってきている。





「じゃあ私たちは行くわ。頼んだわよ」

「シルヴィアたちこそな。4人全員無事に帰ってこい、約束だ」


ギュンターの言葉に、「当然よ」と笑顔でかえす。

ここが大一番だ。ここで全てが決まる。


シルヴィア、アリシア、クローヴィスの3人は、ギュンター、ウェン、マキナ、メディア、リディア、グリードの6人に背を向け、洞窟内へと足を運んでいった。

互いに振り返って見ることはしない。今生の別れでないのなら、また互いの顔は見える。



「あ、そうだ。一言忘れていたわ、ギュンター」

「なんだよ」


背を向けたまま、シルヴィアはギュンターに声をかけた。

ここ最近悩んでいた幼馴染みに言うべきことがひとつあったのだ。


「最近悩んでいたようだけど、私は別にそんなこと・・・・・気にしていないわ。いつだってギュンターは私たちを守ってくれていたじゃない」

「……そうかよ。怖いね、幼馴染みってものは」


その"悩み"は言わずとも互いにはわかる、わかってしまう。

だから言う必要はない。最低限の言葉で最大限の励ましができる。



「さぁ、行くわよ!」


これ以上は語るまいとシルヴィアたち3人は洞窟内へと進んでいった。





◆◆◆





――1時間後。


ウェンの目の前では、4人が睨み合っていた。……1人は全身鎧のため本当かどうかはわからないが。



「アモーレ嬢、これはどういうことですかな?」

「どうもこうもないわ。悪いけど、アンタたちにはしばらくここで足止めを倉ってもらうってだけよ」


秩序の守護者ギルド・ガーディアンNo.6、スキピオ・バルカは唯一頂上へと繋がる洞窟の前に立ちふさがるマキナたちを見て、思わずため息をついた。


スキピオはマキナやキニジが話したとおり、かなり目立つ男だ。

なんと筋肉隆々の大男なのだ。軍師というよりは最前線で戦い続けた歴戦の兵士という肩書きが似合う。

だがそんな見た目でもマキナ曰く「めちゃくちゃ弱い」とのことで、人は見かけによらないという言葉を深く噛み締める。



「また、私の前に立つか……"オラクル"の姉妹よ。今回は容赦はしない、全力で殺させてもらう」

「それはさせねぇよナハト。生憎全員無事で帰るって約束しちまったからな。約束は立てた本人が守らねぇと。だから――まず俺を殺してみろ、ナハト・リヒトッ!」

「やはり君とはこうなるようだな。ギュンター・ハンプデンッ!」


方やギュンターとナハトは互いの意地と信念を懸けて、向き合っていた。

互いに正義があり、互いに引けないのなら、どちらが上を往くか試すだけ、といったところか。




「お前さんたち、周りを見てみろ」

「……囲まれましたか」


気がつけば周囲をスキピオの私兵が囲っていた。

こうなることは想定済みだ。


「相手は一応ギルドの人間よ。殺しはせずに峰打ちして」

「マキナちゃん、わかったよ。えっと、痛いけど、我慢してください!」

「お姉様。わたくしがお守りしますわ」


リディアに守られるように詠唱を開始するメディア。

それに反応するようにスキピオの私兵も戦闘体勢をとる。



「無力化することなら得意分野です。さて、せいぜい抗ってくださいッ!」


その言葉が合図となったかのように、ギュンターとナハトは互いに踏み出し、ウェンたちは私兵との戦闘を開始した。





◆◆◆





――時同じくして。

シルヴィアたちは魔物を難なく退け、頂上へとたどり着いていた。


そこで見たのは一面のアングレカムとそこに佇む1人の『人間』。



「……確かにすごいわね」

「あぁ。全くだ」


頂上とその周辺の温度差により風が吹き、アングレカムの花びらが舞っている。

幻想的な光景だ。上を見れば空は曇りひとつない青空が広がり、下を見ればアングレカムとその花びらが地面と空間を白く染め上げている。





『最近こそこそしておる輩がいると思えばこうなるとはの。……もう2度と会うなと言ったはずじゃが?』


シルヴィアたちに気づいたのか、背中を向けていたセンチュリオンはシルヴィアたちへと顔を向ける。



「そうね」

『言ってもわからぬのか? 世界をまた繰り返したいと本気で思っておるのか』

「どうでもいいわ。世界がどうなろうと私の知ったことではないのよ」

『何!?』


明らかな憤怒を込めてセンチュリオンはシルヴィアを睨み付けた。

――他の誰でもない、エリーの顔で。



「私はね、"エリー"。あなたがかつて私を救おうと世界を滅ぼしたように、私もあなたを取り戻すためなら世界くらい滅ぼす覚悟はしてきたの」

『身勝手な……!』


――そう言うと思った。シルヴィアは僅かに頬を緩める。


「ええ、身勝手よ、我が儘よ、自己中よ。だから何? 私が私のために生きて何が悪いの? 自分のために力を使うことこそ美しいと宣ったのは、センチュリオン、あなた自身よ」


自分がエリーを取り戻すのも、全ては自分自身のため。

エリーのことを一切考慮しない、自己満足のための行動。

それでいい、今はそれがいい。


『もう、よい。くだらぬ問答だ。妾もエリーを易々と渡すわけにはいかぬ。言葉でわかりあえぬと言うのなら』


その瞬間、風が吹き荒れた。

一瞬だけセンチュリオンの姿が舞った花びらによって隠れる。




『……力を以て排する。覚悟するがよい』


花びらの白い嵐から姿を現したセンチュリオンは背後に三対の剣を出しただけでなく、手足に防具のようなものを装着していた。

その防具からは魔力の粒子が出されており、恐らくは憑依術式・限定解放リチュア・リミットドライヴだと考えられる。



「はっ、本気ってことかよ! そらよっ!」


窮地を前に、クローヴィスは宣言通り武器を投げ捨てた。


『何の真似じゃ? 戦いを前にして武器を捨てるとは。戦いを放棄したということかの?』

「なわけないだろ"エリー"! グレた親友の面殴るのに武器なんか必要ねぇんだよッ!」


一切の迷いも後悔もなく言い切った。

クローヴィスは本気で拳ひとつで戦うつもりなのだ。



アリシアは意外にも冷静な眼差しでセンチュリオンを捉えると、槍を抜き放つ。


「私は、エリーとは共に過ごした時間は一月ひとつきにも満たない。だが、それでも私はエリーを友人だと、相棒だと思っていた。だから……返してもらうぞ、センチュリオンッ!」


センチュリオンを見据える眼光は、全てを貫く槍のようだった。





「覚悟しなさい、センチュリオン」


シルヴィアも白銀の愛剣を抜き、『影』を纏う。


『……シルヴィア=クロムウェルよ。貴様だけはエリーのために殺さずに済まそうと思っておったが……気が変わった。体さえ返さなければ貴様を殺しても問題はない。その純白の衣装を、赤く、血の色で染め上げようかの』


今のシルヴィアの服装は、全身純白のまるで花嫁のような色合いとなっている。

普段からシルヴィアは白を基調とした服を好んでいるが、全身白は着たことがない。

今この瞬間にそんな格好をしているというのは、シルヴィアなりの覚悟があった。




「この格好? だって久しぶりのエリーとのデートなのよ? 気合いが入るに決まってるじゃない」

『呆けたことをッ!』

「約束しましょうか、センチュリオン。この服は赤く染まることはないわよ」


剣に『影』を纏わせ、勝利宣言のように言うシルヴィア。


「この服は汚させないわ、私の血でも、あなたの血でも。"全員"無事に笑って帰る。それだけはこのシルヴィア=クロムウェルの名にかけて誓いましょう」

『全員、じゃと?』

「それはセンチュリオン、あなたもよ。私はあなたを消すつもりはないわ。それにあなたを恨んでもいない。なんたってエリーを守ってくれていたんだもの、感謝こそすれ恨むことはないわ。……でもエリーは返してもらうわよ? エリーもあなたも2人とも私が、いえ……私たちが救うッ!」


シルヴィアに迷いはなかった。

本気でエリーとセンチュリオンを救おうとしているのだ。





『……本気か。本当にそなたたちはエリーを……』


センチュリオンは突然俯く。


『じゃが、譲れん。折れるわけにはいかぬ』


センチュリオンは背中の三対の剣を翼のように広げ、そこから魔力の粒子を噴出させる。

それはまるで天使のようで――。



くぞ、人間よ。本当に、エリーを、世界を救いたいのなら。――――妾を臥させてみせよッ!」


翼を広げ魔力の粒子とともに飛翔したセンチュリオンに、シルヴィアたちはそれぞれの覚悟を胸に挑んだ。

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