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04:「桃太郎」  作者: 郡山リオ
第二章「仲間」
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5.におい

 月は沈み、陽が昇った。昼を過ぎて、畑に来た太郎は眠そうに何度もあくびをしていた。

「兄貴! 昨日は眠れなかったんですか?」と、訪ねるチンに、太郎はまあな、と曖昧に答えた。

「なにかあったんですか」と訪ねるチンに、太郎はなにも、としか答えられなかった。

 強い日差しのなか、クワを土に立て、太郎は汗を拭った。チンは、土の中に見つけた石を外に投げている。

 それにしても、とチンが手を休め、太郎に聞いてきた。

「どうして、いきなり畑を広げ始めたんっすか」

 まあな、と返事する太郎。チンは太郎の方に向き、次の言葉を待っている。なにか他の話をして、はぐらかそうとしたが、何も思い浮かばず、太郎は頭を掻いた。さすがに、このまま何も言わないままには出来ないな。

 ため息をついてから、太郎は口を開く。

「前々から、畑を広げようとは話していただろう? この前、灰を撒いたし、耕した畑は、種をまくまでしばらく何もしないのだから、手が空くくらいなら、少しでも収穫をあげるために畑を広くしようと思ったんだよ」

 太郎は、確かにそう考えていた。言ったことに嘘はない。ただ、畑を広げることを急いだのには、他にも理由があった。

 太郎の話に納得したのか、チンは、そうっすね、と足下に転がる石に目を戻した。ほっと息を吐いた太郎が作業に戻ろうとすると、チンが声を上げた。

「あ、兄貴! カンが来たっす」

 カンに向かって手を振るチン。カンは立ち止まり、じっとこちらを見ている。

「あれ? 兄貴。カンの様子が……」と、太郎に振り向くチン。太郎も、同じく無言でカンを見ていた。チンは、二人を交互に見る。と、二人ほとんど同時に顔を横に背けた。チンには、太郎がふんっと言っている音すら聞こえた。

 目をぱちくりとしたチンが「兄貴、カンと何かあったんですか」と、おそるおそる聞いてみると、太郎は「なにも」としか答えなかった。

 太郎は地面に立てていたクワを手に取り、カンに背を向け、土を掘り起こし始めた。がつがつと石が当たる音がする。無言で作業を続ける太郎の背中と、近くの木陰に移動して腕を組んだままそっぽを向いて座るカン、二人を交互に見たチンは、首を傾げた。風の吹かない中、湧き出る汗は土に落ちては、どこかへと消えていく。カンの向こう側では、青々と茂った草の一帯が風を心待ちにしているようだった。


 無言で作業をしながら、太郎は昨日のことを思い返していた。

 月明かりに照らされた道を歩き太郎とカンが畑へと向かう途中、いつもと違うことに気がついた。

 そよ風が顔に当たる。

「カン、なんか臭わないか?」

「臭うな」

 異臭と言うか、悪臭と言うか。

「臭い……」

「臭いな」

 カンがやけに堂々としている。そう思うのは気のせいなのか、と太郎はカンの後ろ姿をじっと見る。冷や汗が頬を伝ったのに、太郎は気がつかなかった。

 太郎とカンは、月明かりに照らされた畑についた。見た感じでは、いつもと変わらない。ただ一つを除いて。

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