表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
04:「桃太郎」  作者: 郡山リオ
第二章「仲間」
8/19

4.石

 その日も陽は高く昇っていた。

 木の影に座っていた太郎に、チンが楽しそうに話しかけてくる。

「まだ夏はこないって言うのに、暑いっすね」

 チンは、太郎の隣に座り、額の汗を手で拭った。

「兄貴は、船で海に出たことはあるんですか?」

 隣に座るチンが顔を向けてきたので、太郎は頭を横に振り、無いと答えた。

 お互いに何も話さず、小鳥の鳴き声が聞こえる。たまに吹く風に草木の葉のこすれる音が、辺りを満たしていた。


 太郎は、カンも一緒に畑仕事を手伝ってくれるのかと思っていた。だから、カンの手伝う、と言ってくれた後、一緒に畑にくるのかと思っていた太郎に、カンは「準備があるから」と、後ろ姿を向けて立ち去ってしまった。

 準備。一体何の準備だろうか、と太郎はそれからチンが話しかけてくるまで考え続けていた。それも、チンの話を聞き、クワを持って畑を耕し始めるうちに忘れていった。

 夕暮れに染まる帰り道、いつもの分かれ道に差し掛かり、別れの挨拶でもしようと太郎が振り返ると、チンがどこかを見ながら立ち止まっていた。太郎もその方へ顔を向ける。木々の間にかすかに見えたのは海だった。

「兄貴は、船で海に出たことはないんですよね」

「ああ」

「この海の向こうにはどんな世界があるんでしょうかね」

 風が優しく通り過ぎる。遠くに見える海に向かって、太郎とチンはしばらくたたずんでいた。

 その日の夜、太郎は寝る前に、とうちゃんに聞いていた。

「俺は、いつになったら船に乗れるんだ」

 とうちゃんは、そう言った太郎を一目見て、頬をかきながら布団に向かった。

「まだだ」


 その日の夜は、満月だった。いつもだったら夢の中に居るはずなのに、太郎は眠りにつけず、布団の中で目をあけていた。


 太郎は眠れず、起き上がる。窓に降りた板の隙間から、月明かりがこぼれていた。

 風に揺れる草の音に混じって、足音が聞こえた気がした。

 起き上がって、月明かりのこぼれる隙間から、外を見た。寝ぼけただけ、と、太郎は軽い気持ちで見た月明かりに照らされた、そよ風になびく草の葉の中に、カンが立っていた。太郎は驚き、音を出さないよう、家族を起こさないよう、静かに家から飛び出た。


 そんな太郎に、カンはきょとんとしてから、口を開いた。

「起きていたのか」

 太郎は、カンには返事をせずに聞いた。

「何しにきたんだよ」

 家まで届かないよう小声で話す太郎に、カンは返事をする。

「準備ができたんだ、それを伝えに」

「こんな時間じゃなくても言いだろ」

「こんな時間じゃないと見せられないんだ」

 いつになく胸を張り、自信ありげなカンに、太郎は強く言い返せず、そうか、としか答えられなかった。


「じゃあ、畑までいくぞ」と背を向けたカンが、手に握っていたのか道ばたに石を捨てた。

 太郎は嫌な予感がして、カンに聞いた。

「この石、何に使おうとしていたんだ」

「太郎を起こすために」

「起こすために?」

「家に投げようと」

「なんてことをしようとしているんだよ」

 太郎は、眠れなかったのは、もしかしたら本能的に危険を感じたのかもしれないと、ため息をついてから、カンに言った。

「次、夜にもし来るなら、音を出さないように起こしてくれ。とうちゃん、かあちゃんがびっくりするから。」

「わかった」


 沈黙。カンのそっけない返事に、本当に分かっているのか、と思いながらも、太郎は畑に向かって先を歩くカンの後ろについていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ