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プロローグ
春眠暁を覚えず、渇きを覚え夢覚める。
霞を食し、下界を見下ろし、葉についた露で心の乾きを癒す。
あれからどれだけの歳月が経ったことか、と長くのびた白ひげをさすり、考えてもわからないと悟ると、ゆっくりと桃の木の近くに歩み寄っていく。実った果実をおもむろに取り、皮ごとかぶりつく。
この果実が、身を保ち、あの世とこの世を隔ててる役目をしているのだ。
食べ終え、種を埋める。またすぐに芽を出し、背が伸び、すぐに実を付けることだろう。近くに流れる小川を眺めたとき、桃が一つ流れていくのが見えた。何百年まえにも、ああして流れていくのを見たような、と昔の記憶を引っ張りかけて、やめた。ここでは、とくに意味のないことだ。さて、この時代のこの時の刻まれ方を感じるとするかと、下界を見渡せる所をさがして歩き出す。雲の下、お気に入りのところを見つけたのは何百年前だったか。いや、もう千年たつのかもしれない。その考えも、とりとめのない考えだと気がつき、やめる。さて、今日何がおこるのか、見下ろした下界はいつもとかわらずにぎやかだった。