第一章 前編
私は管理することが好きだ。
もし全てを管理できるのなら私にとってこのセカイはとてもすばらしいものだっただろう だが、神は私の唯一の望みを叶えてはくれない 周囲の人間はいい加減な奴等ばかりで見るに耐えない
あぁなんてかわいそうな私 あぁなんて嘆かわしいセカイなのだろうか もし私が神ならばこんなひどいセカイすぐに正してやりたい そう私が神ならば・・・
ならば私が神になればいい
無能の神ならば殺して私がなればいい
そう私こそが神にふさわしいのだ
理不尽で憎いこのセカイを私が管理し正しい道へ導けばいい
待ってねお兄ちゃん
* * *
長期に停滞していた寒波が去ったがここ二、三日その名残がある日 寒さに震えながら車に寄りかかっている青年が居た
「長い 妹よ 実に長いよ やっぱりついてくるんじゃなかった」
牧村修治は不満をつぶやきながらも妹を待ち続けていた 女性は準備が長いと言うがかれこれ一時間たっている
もし士官学校だったら寒空の下で校庭五十週の罰を受けていただろう
この世界いやこの第五区では平成21年以降に生まれてきた子は全員 軍に管理され育てられる
学校はエスカレーター式で十七歳以上になったら他の地区に卒業までの成績順で飛ばされる
この世界は全てが政府の力による秩序で統括されている その力とは政府が極秘 に進めていた「恐怖の子供たち計画」の事である つまり21年以降に生まれた子供の遺伝子に科学の結晶を組み込み サイキッカーにするという事だった
あとから聞いた話だが僕の父である 牧村草一郎 が関わっているらしい
さすがに手の感覚がなくなりつつある そろそろ車内に逃げこもろうとドアに手を掛けようとした寸前 先ほどまで人の姿が見えなかったのに背中に硬い物が押しつけられている感覚がある
「声を出すな そのままドアを開けて区境ゲートまで運転しろ でなければ下半身がなくなるぞ」
渋い男の声が聞こえた姿は確認できないがどうやら事件に巻き込まれたらしいというか確実に巻き込まれた ぎこちない動きでドアを開け車内に入り車を起動させた。 区境まではここから相当な距離がある もし相手が暗殺系の能力者の場合 対処方は下手に細工をせず人の注目を浴びればいい 暗殺系統は相手の認識をずらす力が多く 一見すごい能力だがあくまでも人工的に与えられた力 限界はある その場にいる人間は騙せても、いない人間は騙せないはず とは言ったもののあくまで経験上から導き出した結論にすぎないし実際にやってみなければわからない
試す機会があったが背後から殺気に近い視線に鳥肌をたてながら運転していた うっすらとだがゲートらしきものが見えてきた
教官から卒業祝いに送られた車をまさかテロリストらしき人物を乗せながら走行してるとしれたらきっと怒鳴りながら追いかけてくるのだろうか。いや内通者として軍法会議にかけられ処罰をくらうだろう今まで平凡だった日々がまさかテロリストらしき者とドライブとは屈辱的何かだ もういっその事犯罪者になって歴史に名を刻もうかな 考えれば考えるほど鬱になるが刻々と区境が近づいてくる
普段テレビなどで目にする区境付近は特に目立った物はないのに今日は装甲車や軍人それに報道記者などが居た。突然左肩に力がかかった
「チッ先回りされたか…おい青年 ゆっくり右折して進め」
男はいらついた口調で指示をしてきた どうやらあの騒ぎはやはりこいつを捕まえようとしてる軍の仕業だろう。だが、たかが一人を捕まえるために第五区軍がここまで動くだろうか
よっぽど軍に関わる極秘資料を盗んだか実験施設から逃げ出した驚異的力を持った能力者と推測できる 指示に従いながら右折すると喫茶店ナブリという店あるだげで左右はビル壁に挟まれていてバックするしかなかった
「あのこれ以上進めないんですが… 」
「区境が封鎖されているからしばらくこの店に隠れる」
「えっ あっじゃー自分はかえらせて…」
後頭部に明らかに銃らしきものがあっている
「あぁ? 帰れると思ってんのか」
「ジョウダンデススイマセンデシタ 」
もしやと思って言ったがやはり無理だった 車から降りると先ほどまで姿が見えなかったが子供が入りそうなジュラルミンケースを持った黒いジャケットの男と真っ白なゴスロリ服の少女が居た
声とは裏腹に自分と同じくらいか一つ上ぐらいの見た目だった しばらくと見てると男の隣に居る少女がこちらを見ていた
「おいナターシャ 車を見えなくしとけ」
「わかった……」
男がナターシャと呼んだ少女はどうやら暗殺系統の能力者 まさかこんな子が長時間力を維持できるとはすごいと関心せざる終えなかった
少女にあっけをとられてると突然、襟首を掴まれ喫茶店へと引っ張られた
中はレトロな雰囲気でとてもビル街にある店とは思えなかった
「おーいマスター!」
男は店内に響く声でマスターと呼ぶとカウンター奥からはーいと返事とともに小柄な女性が現れた
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃーん! とってもカワイイマスターちゃんだょ!」
その場の空気が凍り付いたがこの人がマスターというのがわかった
「連絡なしですまんがしばらくかくまってくれ」
「んー? それはいいけどまたやらかしたの?」
「まーそんなとこだ 後こいつ新入り ほらあいさつしろ青年」
「えーっと新入りの牧村修治ですよろしく…って! いつから仲間になったんですか自分」
「もうここまできたら共犯者だろ それか今死ぬかマキムラ君?」
ケースを置き内ポケットから黒光りしたベレッタ92FSを取り出しチラつかせた
ここで殺されても軍に捕まれば投獄よくても軟禁されるかもしれない どちらにしても第五区から出ないと話にならない
「まー何にしてもゲートが封鎖されてる今どう第五区を抜けるかだ青年」
「はぁ…第五区から抜けるのはいいんですがなんで軍におわれてるんですか」
「あぁここまできたんだから説明してやろう!」
甲高い声と共に置いてあったケースを見せつけてきた 子供一人が入ってそうな銀色のジェラルミンケース これが軍に追われる理由らしい
「このケースの中は何がはいってるんです?」
「さぁ?」
「え?」
「だーかーら知らないって」
「知らないのに軍から盗んでくるとか正気の沙汰じゃない…」
「よく言われるよ まーこれが戦争の火種でありうちらにとっての剣になるって事だけだ」
* * *