何か
恐ろしい何かに襲われる夢を見た。
迫りくる何かから必死に逃げる僕と追いかけてくる何か。
何かに追いつかれ、捕まってしまうと、何かは僕の体を殴打してくる。
僕は悲鳴をあげ、止めてくれ、助けてくれと懇願するが、何かは僕の言葉を無視して殴り続ける。
そして、もう叫ぶ気力もなくなったところで目が覚めた。
目を覚ますと、今度は鮮明に頭の中に浮かんでくる過去の記憶。
冷凍されていた一種のトラウマのようなものが、解凍され、頭の中によみがえってくる。
深夜にもかかわらず、うめき声をあげ、叫び始める僕。
頭の中は忌々しい記憶に支配され、自制が効かない。
部屋の中を転がりまわる、枕を叩きつける、完全にパニック状態に陥ってしまう。
そして、そのまま十分近くはパニック状態が続いた。
ある程度理性が保てるようになると、頭まで布団を被り、何とか落ちつこうとする。
すると、今度は涙が出てくる。
叫ぶようにして泣く、涙が止まらない。
自分の中に溜まったどうしようもない感情を、泣くことで必死に吐き出しそうとしているのかもしれない。
実際には違うのかもしれないが、とにかく涙は止まりそうになかった。
泣き止むと、今度は乾いた笑いが止まらなくなってきた。
楽しいことがあったわけでも、嬉しいことがあったわけでもない。
とにかく、笑いが止まらなかった。
まるで、自分で自分の事笑っているような気がした。
『うるさいぞ、何をやっているんだ』
さすがにうるさくなってきたのか、何かが僕の部屋のドアを開けて、声をかけてくる。
『すみません、もうやりません。ご迷惑をおかけしました』
僕はそういって、無理やりドアを閉めた。
そして布団を頭から被り、声を殺しながら震え、涙を流した。