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国王陛下毒殺未遂事件から一ヶ月、城内はてんやわんやしていた。慌ただしい日々からようやく解放され、一人きりになれる寝室でごろりと横になる。


狩人は手鏡で見た者以外にもいるとは思わなかったので、ジオンは要注意人物として気をつけるようアリスから言われていたユキは、王妃だけではなく他のところにも注意しなければならないので、毎日気が張り詰めていた。


王妃は用意周到で殺しにかかってくるのだと嫌でも分からされたユキとアリスは、お互いの身を守るため常に行動するようになった。

王女とその侍女なのだから不審に思われることもなく過ごせたのが救いだった。なにより絶対味方でいてくれるアリスという存在に、ユキは安心して身を任せることができ彼女(彼)のそばにいることが落ち着くようになっていたのだ。


父はというと薬草のおかげでみるみるうちに身体がよくなり、先週から執務室に缶詰になって溜まってしまった仕事をこなしている。

父のそばには近衛兵が付きっきりで着くようなったため、以前よりかはマシになったと信じたい。


肌触りのいいシーツに包まり横になって今後のことを考えていると、どうしても不安になる。アリスがいてくれるとはいえ、自分だけではなく父のことも守らなければならないのだ。


勉強を続けて分かったことがある。この世界には人間と妖精、そしてエルフにドワーフがいるのだそうだ。その昔、人間は妖精とエルフが使う不思議な魔法の恩恵を受けていたが、欲深い人間達は彼らの力を奪おうとして戦になったらしい。

それが理由で完全に世界が別たれたようで、人間が住む区域には妖精とエルフが一切いないのだ。

ドワーフは小柄ながらも力持ちで優しく温厚な性格をしているので、今でも人間と交流が続いていると本に書いてあった。ちなみに魔法は使えないらしい。

ユキが見た七人の小人はきっとドワーフなのだろう。優しい性格をしている者が多いと聞いて安心した。


それからユキはアリスとともに剣術を習い始めた。プリンセスには必要ないと王や王妃に咎められたが、いざという時に戦えないとシラユキの無念を晴らせないし、何より殺されてしまうのが嫌だった。

王の毒殺未遂が怖くていざという時のために、という理由を言えば両親はそれ以上何も言わなかった。王妃は納得していなかったようだが、ここで必要以上に言えば体裁を気にする彼女のメンツに関わってくるので、大人しくなったのが愉快であった。


勉強にダンス、剣術と頭と身体を使うので、夜になるとくたくたになってしまう。それはアリスも同じだろうに、ゆっくり身体が休まるよう眠る前に必ずハーブティーを淹れてくれるのだ。

そして、今日も美味しいハーブティーを淹れて寝室へとやってきた。


「姫様、体調はどうですか? 強くなるためとはいえ、まだ十五歳の身体では体力が持たないでしょう」


最近のアリスは最初の頃に比べて雰囲気が穏やかになった。以前は『シラユキ姫様』と呼んでいたのに、今ではただの『姫様』になり、親近感が湧いてそうなったのかなと思う。

アリスの正体を教えてもらった時以来エリスの姿を見ていないが、中身が男の人だと思うとどうにも緊張する。

アリスはアリスなのだと思い直し、ユキは「大丈夫だよ、ありがとう」とだけ返した。


「私は一通り剣術を学んできましたが、それは貴族のお飾りのようなものなので、実戦となれば戦うのは難しいでしょう。私に全て任せてくださいと言えたらよいのですが、それほどの技量はないので、姫様が自衛できるくらいには力をつけてもらわなけれればならないのが悔しいのです」


アリスにしては珍しく弱音を吐いている。ユキはただ味方でいてくれるだけで心強いのに、そこまで重荷になっていたとは露にも思わなかったので申し訳なくなった。


「ごめんね、私がアリスに頼り過ぎていたから気負ってしまったんだよね。大丈夫だよ、私はアリスがいてくれるだけで安心するの。絶対強くなるから、一緒に頑張ろう?」


にこりと微笑んでみせれば、アリスは泣きそうな顔をして小さな声で「ありがとうございます」と呟いた。


「また明日も頑張ろうね、エリス」


彼の本当の名を呼べば、エリスはハッとしたような顔をして、先ほどの泣きそうな顔はどこへやら、強気な顔を見せて「もちろんです、ユキ」と笑って答えてくれたのが嬉しかった。


ハーブティーのおかげか、うとうとしてきたユキは「そろそろ眠るね」と言って布団に包まった。


「おやすみなさい、アリス」

「おやすみなさいませ、姫様」


こんな穏やかな時間が続けばいいのにと願うわがままくらい、今は許されてもいいだろう。そっと寝室から出ていくアリスの後ろ姿を見て、そんなことを思いながら眠りについた。



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