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アリスがいうには王宮に上がったのはユキとシラユキの中身が入れ替わる一ヶ月ほど前のことだそうで、シラユキには本当のことは言わなかったそうだ。


しかし、ある日突然シラユキの見た目が少しだけ変わっていたことに気づき、それは中身も同じであることを察したのはアリスだけだったので、何かがあったのだろうが誰にも相談できずにいたらしい。


お仕えしていたシラユキが亡くなっていたと知った時は、憎悪に燃えていた。

そして、ユキとアリスは共に王妃を排する仲間として協力することになったのだ。


「そうだ、二人でいる時はユキって呼んでほしいな。私はシラユキとして生きていくことに決めたけど、本当の名前はユキだから」


誰にも言えなかった本音をこぼすと、アリスは美しい笑みを見せて頷いた。


「それならば、私も本当のことを言わなければなりませんね。いいですか、ユキ、このことは他言無用でお願いします」


他言無用とは一体なんのことか。瞬きをすると目の前にいたのは美しい娘ではなく、端正な顔をした青年が立っていた。


「……どちら様?」

「アリスだよ、ユキ。俺は本来の姿が見える魔法を使えるだけじゃなくて、認識齟齬の魔法も使えるんだ。ユキがユキでいるのなら、俺はただのエリスでいるよ」


ユキは何が起きたのか分からなかった。本当のアリスは男(?)で、名前はエリスというそうだ。認識齟齬の魔法を使って侍女として潜入して、シラユキ付きの侍女になった。

そう、侍女になったので着替えも手伝ってもらったのだ。つまり、際どい姿まで見られていたのだと気づき、ユキは枕を投げた。


「アンタ男だったのね!? 私の着替えを手伝ったりして、このスケベ男! スケベエリス!」

「仕方ないだろ!? 俺だって望んで着替えをしたわけじゃねえよ! ……あー、なんだ、その、男だと黙ってて悪かったよ」


猫を被っていたのはユキだけではなかったらしい。あんなにしずしずとした美しい少女だと思っていたのに、中身は口の悪い青年だったのだ。この猫被りっぷりは大したものである。全く褒めてないが。


「……まあ、エリスにも事情があるし、許すよ。これからは自分で着替えるから、ドレスの着方を教えて。ところでエリスっていくつなの? 私は十五歳だよ」


年頃の娘が着替えを手伝わされてあわやセクハラと弾級されてもおかしくないのに、ユキはエリスの事情を汲み取って許してくれたのが意外に思ったエリスは、この女とならうまくやれるかもしれないと密かに思った。


「俺は十七歳。この認識齟齬のおかげで両親と兄上と双子の妹しか本当のことを知らないんだ。アリスは妹の名前で、俺はアリスとして過ごしている。エリスは病に伏せって領地で静養しているということになっている」


エリスは侯爵家の次男で、家を継ぐ兄がいるためある程度自由が利くエリスが家族を代表して、復讐の舞台に立ったのだという。

艶のある黒髪に青い瞳は一際目を引く美しい青年だった。黒髪黒眼のユキも美しい娘であるので、二人が並べば可愛らしい恋人に見えたことだろう。

だが、あくまでエリスは共闘仲間である。余計な感情は持たない方が身のためだ。


「頑張ろうね、エリス」

「ああ、絶対に勝とう」


こうして同盟を組んだ二人は静かに闘志を燃やし、来たる日に備えて戦いの準備をすることにした。



「ここは白雪姫なる物語と似た世界で、狩人と七人の小人がシラユキ姫様を助けてくれるけど、王妃が老婆に扮し姫を殺しに来て、息絶えた姫に王子がキスをして蘇る。これで合ってる?」


白雪姫の物語を覚えている限りでエリスに説明したユキは、理解の早い彼にこくんと頷いてみせた。

エリスは納得いっていない顔をしていたが、そういう話なのだから仕方ないだろう。


「嘘をついているようには見えないし、本当のことだと信じる。そうなると、ユキは死ぬことになるのか? でも、シラユキ姫様はお亡くなりになられたらしいし、どうなるんだ……?」

「未来のことは分からないの。でも、シラユキ姫は私に生きてほしいと願ったから、きっと何とかなると思う」

「そんな他力本願でどうにかなるか?」

「シラユキ姫は願いが叶う魔法を使えるんだよ? だからここの世界に私がやってきたんだし、姫様の力はきっと無駄じゃないって信じてる」


ユキが熱く語るとエリスは考えるような仕草を見せた。

そして、軽く笑って見せると「確かにユキの言う通りだな、シラユキ姫様を信じよう」と明るく言ってくれたのが嬉しかった。


「その手鏡で狩人と小人を見たんだろう? どうやって協力してもらうんだ?」

「それを考えてたら王妃がやってきたの。私は姫だから自由に出かけられないし、エリスがどうにかできない?」

「……まあ、確かに俺の方が動く時間はあるが、俺が離れるとユキの命が狙われるリスクが高くなるだろう? そうなると、迂闊に動けない」


エリスの言うことは尤もだ。体裁を気にする王妃は己の手を汚すことを嫌うだろう。だからこそ、一人の時間の時にシラユキは狙われたのだ。


「うーん、お父さんも守らなきゃいけないし、どうしよう……」


二人でうんうん唸っていると、突然大きな音が部屋の外から聞こえた。ドンドン激しくノックをされ、エリスはアリスへと魔法で姿を変え、「無礼ですよ! 一体何事ですか!」と訴えながら対応した。


ユキはなんだか嫌な予感がした。残念なことに、そういう時に限って勘というものは当たってしまうのだ。


「シラユキ姫様、大変です! 陛下が倒れたとの連絡がありました!」


血相を変えてユキに伝えにきたエリスは泣きそうな顔をしていた。



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