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広い室内で一人になり、このなんともおかしな状況を整理すべく、ズキズキと痛む頭を酷使して今までの出来事や考えられることを導き出した結果、どうやらユキは日本ではなく異世界(?)にやってきたようだった。
亡くなった父が生きているのが元の世界ではないという確かな証拠なのである。父亡き後意地悪になった義母も、父の前では猫を被っているので比較的楽なのでそこは助かっている。
大好きな父が生きているのは嬉しいが、あくまでここは仮の世界。本当の父は三ヶ月前に儚くなっていることを忘れてはいけない。どれだけユキに甘くて優しい夢のようなものを見せていても、現実ではトラックに撥ねられて死んだのだ。
だが、第二の人生が始まったと思うしかない。なぜなら、ユキはシラユキとして生まれ変わってしまったのだから。たとえ見た目や性格が父と義母に似ていたとしても、全く同じ人ではないからそこだけが気がかりだった。かといって全く知らない人の顔をしていたら、それこそ生きていくのは辛かっただろう。
「あっちの世界ではもう死んじゃったし、こうなったら白井ユキでもシラユキでもなんでも生きてやるんだから!」
この不可思議な世界へ順応すると決めたユキは、大変逞しい性格をしていたのだった。
大事を取って一日休むよう医者と父に言われたので、ユキは言いつけを守りだだっ広いベッドで丸くなりながら深い眠りについた。今はとりあえず身体も頭を休めたい。難しいことは明日になってから考えよう。
翌朝、窓をコツンと叩く音が聞こえてユキは目が覚めた。コツコツと優しく何かがノックするよう音に導かれるように窓辺に寄ると、窓越しには数羽の色とりどりの小鳥が嘴に花を携えていたのだ。小鳥達は窓を開けてと言うようにピヨピヨと鳴く。
ユキは鍵を開けて窓を開けると小鳥達は勢いよく部屋へと入ってきた。テーブルの上に飾ってある花瓶の花を器用に嘴で入れ替えて、新しい花を添えてくれたのだ。カラフルな小鳥達は見て見てと言わんばかりにユキの寝巻きを啄んで花瓶の方へと引っ張る。その様子から、シラユキなる人物は小鳥達と仲がよかったのだと理解した。
「分かった、分かったから! 綺麗な花を摘んできてくれたんだね、ありがとう。今までの私と違うけど、これからも仲良くしてくれる?」
小鳥達は首を傾げるような仕草をしたが、それも一瞬のことで元気よくピヨピヨと鳴き出した。中身が変わっても受け入れてくれたことが存外嬉しくて、ユキは小鳥達に微笑んだ。
「ありがとう。私はユキだよ、改めてよろしくね」
小鳥達はピイと軽やかに鳴き、ユキを囲うようにして飛び回った。
小鳥達と戯れていると、遠くから私室をノックする音が聞こえた。
「はーい、どなた?」
「おはようございます、シラユキ姫様。お着替えのお時間でございます」
忘れていたが、ユキは王女シラユキ姫としてこの世界で成り代わって(?)いたのだった。ユキは「どうぞ」と侍女の入室を促して朝の着替えをしてもらい、ぎゅうぎゅうと締め付けられるコルセットに息苦しさを感じるが、これもシラユキとして生きていくためには必要なことだと受け入れた。ユキは逞しいだけではなく、順応性も高いのだ。
食事は大広間で父達と摂ることが決まっているらしく、しずしずとした侍女を見よう見まねでそれに倣いお姫様としての振る舞いをしなければならないと心に決めた。
ドレスはワンピースと違って堅苦しいが、幼い頃に憧れていたお姫様になれたことがユキをその気にさせたのだった。
大広間に着くと両親は既に席に着いていたようで、どうやら待たせてしまったらしい。詫びの言葉を告げると父は「よいよい、昨日の今日だし無理せずゆっくりすればよいのだ」とお咎めなしだったのたが、義母は「あまり甘やかしてはいけませんよ、シラユキのためになりません」と父を諌めていた。
余計なこと言いやがってこのクソババアと内心舌を出したユキは、小さく頭を垂れて「申し訳ありませんでした」と謝罪をした。
それに満足した義母は「分かればよいのです」と言って、食事が始まった。
プリンセスのスケジュールは分刻みで決まっており、勉強や音楽、ダンスなど学ぶことが多く初っ端から出鼻をくじかれたユキは、秘策を取ることにした。
それは、『頭を強く打ちつけたことによる一部の記憶障害』設定を貫くことにしたのだ。
こういう異世界転生(?)ものは大体がチートを持っているのだが、ユキにはそれらがなかったためゼロからこの世界を学ばなければならなかった。
昨日はのんびりとしていたがよくよく考えるとこの世界のことを何も知らないユキはこのままではまずいとようやく気づいたのである。
一日のハードスケジュールをこなしたユキはそれはもう頭がパンクしそうになり、ぷしゅうと力が抜けてだらしなくベッドに横たわった。
生きていくには勉強あるのみ!
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